21.その後の話
あの事件から2カ月ちょっとの時が流れた、7月のとある夕方。
あたしたち自称美少女3人組は、約束どおり浴衣姿で集まった。
盆踊りは、夏休みに入って最初のイベントらしいイベントね。金魚すくいやヨーヨー釣りなどの定番ゲームに、わた菓子、りんご飴、かき氷……。夢実野商店街は、いつにもまして活気に満ちている。
すれ違う、人、人、人。同年代の男子たちはみんな、あたしたち、大中小の美少女に目を奪われる(思い込み)。
クラスメートにも、当然のように出会う。
「あっ、探偵団だ。やっほ~」
恥ずかしいから、その呼び方はやめてほしいんだけど……。
2か月前のあの事件は結局、ガチなプライバシーが多すぎて許可が下りず、ナナたち新聞委員会の新聞記事にはならなかった。それなのに、どこからともなくあたしたちのウワサが広がり、今では時々だけど、こうして「探偵団」呼ばわりされている。
もちろん、実際に調査依頼を受けたりしたことはない。
しいて言うなら、この日が探偵団としての初仕事だった。
あたしたちの夢実野小学校が、毎年恒例の盆踊りの会場。
校庭では地元の自治会や有志団体などがお店を開いている。
特に変わったお店があるわけじゃないけど、テキ屋さんに比べてお値段は平均的に安く、それほど質が悪いわけでもない。
だからあたしたちは、商店街での買い食いをガマンして、校庭の片隅で売ってる300円のたこ焼きを、100円ずつ出し合って買った、ってわけ。
予想では、流行りの大玉で6個入りだと思ってたのよね。でも実際に買ってみると、普通の小玉で8個入りだった。
「3人で分けられないわね」
「いや、モモ。ルルはチビだから2個でいいってさ」
「言ってないわよッ!」
「仕方ないわ、ジャンケンで決めましょ」
「うう、おれ(運を)持ってねーからなぁ……」
「つべこべ言ってないで、恨みっこなしの1回勝負よ!」
そうして仁義なき戦いが繰り広げられようとした、そのとき――
「よう、探偵団!」
またしても、その名で呼ばれてしまった。
それは、我らが6年生クラスの困ったちゃん。
「健太!」
健太は運動以外はからきしダメってゆう典型的な困ったちゃんなんだけど、いつもテンションが高くて、なにげに面白い男の子だ。
「あら、弟くん?」
モモが聞くと、健太の後ろからあと二人の男の子がひょっこりと顔を出した。
「ああ、二男の健二と末っ子の健介だ。よろしくな!」
二人とも、健太と違ってカワイイ(笑)
すると不意に、健太が言い出した。
「そうだ、おまえら探偵なんだから、俺の相談に乗ってくれよ」
正直、どーせくだらないコトでしょ、と思ったんだけど、お人よしのモモとええかっこしいのナナが、
「いいわよ? どんな相談?」
「うちの名犬ルルがどんな悩みもパッと解決するぜ」
と、あっさり引き受けてしまった。
あたしたちの真剣勝負は、一旦おあずけだ。
「わりぃな。実は……」
健太の家は上下関係がハッキリしていて、何をするにも長男の健太が最初、次が二男の健二くん、最後が三男の健介くんと、順番が決まっているという。また、おやつの量もお小遣いの額も――
「健二は俺の半分、健介は健二の半部って決まってるんだ」
ちなみに健太のお父さんは大工さんだから、頑固で厳しいみたい。
「でさ、今日はお祭りだからって、父ちゃんが珍しく特別に小遣いくれたんだ。でもそれが、3人で千円なんだよな」
そう言って、健太はズボンのポケットからヨレヨレの千円札を取り出して、見せてくれた。
「せっかくもらったんだから、いいじゃん、安くても」
あたしが言うと、健太はぶるぶると首を横に振って、
「違うんだよ」
と否定した。
「千円じゃ、どうやっても3人で分けられないんだ。つーか今言ったとおり、うちは兄弟で分け方が決まってるから、計算がややこしくてわかんねーんだよ」
なるほど。つまり……
健介くんと健二くんと健太のお小遣いの比は、1:2:4にならなきゃいけないってことね。これは確かに、ちょっとややこしいわ。
するとそのとき、モモがサッと手を上げて、
「いいこと思いついたわ。でも、実は私たちもたこ焼きが3人で分けられなくて、ちょうど困ってたところなの。……もし私からの提案で納得してくれたら、報酬としてたこ焼き1個、もらってもいいかしら?」
と逆に話を持ちかけた。交換条件ってやつね。
「たこ焼きって……げっ、300円もすんじゃんかよ」
「違うわ。1パックじゃなくて、その中の1個だけよ?」
「でも……1個だけなんて売ってくれっかな……」
さすが、困ったちゃんの発想(笑)
「まあ、話だけでも聞いてくれる?」
モモが、なかば強引に話し始めた。
「まず、お小遣いを100円単位で分けるの。健介くんが100円、健二くんが200円、健太くんが400円……。これで合計700円だから、残りは300円でしょう?」
おお、なるほど。
「その300円でたこ焼きを買うのよ。そして、買ったたこ焼きも3人で分けるとすると……健介くんが1個、健二くんが2個、健太君が4個。3人の合計は7個よね。……このお店のたこ焼きは8個入りだから、1個余るでしょう? だから、その余った1個を、相談料として私たちにくれれば……私たちも、8個に1個を足して、合計9個。これで仲良く3個ずつ分けられる、っていうわけ。……どうかな?」
モモのすばらしい発想と、仕上げの色仕掛け(笑)
「お、おお、いいなそれ。そうしよう、そうしよう」
こうして、健太兄弟のお小遣い分配問題と、あたしたちのたこ焼き争奪問題は同時に解決した。今回は、完全にモモのお手柄ね。
「さっすが探偵団、マジ助かったぜ」
暗がりの中、提灯や裸電球の光に照らされて、健太の顔が赤らんで見えた。
保健室の前の花壇に腰を下ろして、ラムネとたこ焼きで乾杯。
「モモ、やるじゃねーか」
算数が苦手で、健太の相談内容を聞いてから一度も口を開かなかったナナ。珍しく、モモを褒めた。
「ありがと。今日は探偵団員として役に立てて、嬉しいわ」
「ねえねえ、せっかくだから、探偵団の名前とか、考えない?」
あたしからの提案に、ナナが小さく「だせっ」と言ったのが聞こえたけど、せっかくのお祭りだから、聞こえなかったことにしといてあげる。
「じゃあさ、大中小探偵団でよくね?」
「ナナ、あたしのことバカにしてるでしょ?」
「私、バリ3探偵団でもいいと思うわ」
「ちょっ、モモまで……」
そんなこんなでふざけ合いながら、結局――
「おれら3人並ぶとさ、ちょうどオリオン座の三つ星みたいじゃね? んで三つ星はオリオンの腰のベルトんとこだから、オリオンベルトでどーよ?」
というナナの案で、話はまとまった。
「いいね、『オリオンベルト探偵団』。カッコイイよ」
「私もいいと思うわ。さすが編集長ね」
「いや、ひひひ、それほどでもねーよ」
オリオンベルト探偵団、誕生の瞬間。あたしたち3つの星は、改めてラムネの瓶をぶつけ合って、乾杯した。
ちなみにだけど……
リョウちゃんはこの7月から、めでたく就職が決まって、トラックの運転手をしている。コンビニのルート配送、とか言ってた気がするけど、あんまり興味がなかったから、ちょっとうろ覚えでごめんなさい(笑)
ユリさんは、例のトラ柄動物3人衆の採用が決まったのをきっかけに、社長さんに引き抜かれ、お店を辞めた。今は社長さんの会社で商品開発の仕事をしている。
そんなわけで、二人は再びあのアパートで同棲を始め、秋ごろを目安に結婚するらしい。
――おめでとう。
「なあ、『虎いあんぐる』のグッズの販売が決まったら、買うだろ?」
「当たり前じゃん、そんなの!」
「じゃあ、ルルが『リストラくん』、ナナが『トラウマくん』、私が『トラブルさん』で、おそろいのグッズそろえない?」
そのキャスティングはやっぱ、体の大きさで決まっちゃうのかな。べつにいいけど……。
「おれも同じこと考えてたぜ。ひひ……」
「あたしの意見が入ってないけど、まあいいわ」
「約束よ!」
情報収集と雑学のナナ。
計算と怪力のモモ。
花柄の脳細胞のルル。
大中小、3人の美少女が、あなたのお悩み解決します。
事件が起きたら夢実野小学校6年、
「オリオンベルト探偵団」にご相談ください。
ご愛読、ありがとうございました。




