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18.大中小

挿絵(By みてみん)

 モモが指差したのは、動画説明の部分だった。


  01行目から23行目まで

  歌詞をすべて書き出してみてはいかがカナ?


 最後が「カナ」ってカタカナで書かれてることがヒントになってたんだよね。

「これって、どうして『1行目』じゃなくて、『01行目』なのかしら?」

 モモが言った。

 そう言われてみれば、確かに。うすうす疑問に思ってたことだけど、深く考えずに、なんとなく受け入れてたわ。

 するとナナが、

「ファイルとかフォルダってのがあるだろ?」

 と、マトモに説明し始めた。

「これって、パソコンで管理するとき、いろんな並べ方があるんだけどさ……まあ普通に使う分には、初期設定で、ファイル名の辞書順に並ぶようにしてあるんだ。数字、アルファベット、カナ、音読みの順で、自動的に並ぶ設定な」

 パソコンにうといあたしには、もはや理解できるぎりぎりの説明(汗)

「たとえば、この3人の名前で言うと、五十音順で……え~と、加賀谷るる、川口萌百、兵藤菜々の順に、自動的に並べられるわけさ。でも、何かの事情で、本当はモモを先頭にしたいとするだろ? そういう時はどーするかってーと、ファイル名の頭に数字を付けるんだよ。1川口萌百、2加賀谷るる、3兵藤奈々、てな具合だな」

 うん、まあ、わかる。なんとか。

「まぁ、3人ぐらいならそれでいいけど、クラス全員のファイルを任意の順番で管理しようと思ったら、数字が2桁になるよな」

「ええ、もちろんね」

「そうやって数字を使う場合、最近のパソコンは数字を『値』として認識するんだけど、昔のパソコンは『文字列』だったんだ。たとえば『10』だったら、今のパソコンは『十』だけど、昔は『一・零』だった。その結果、たとえば『3』と『10』では、辞書順で『三』よりも『一・零』の方が先になっちまう、ってゆう現象が起こったんだな」

 ああ、なるほど!

「だから、それを避けるために『03』にする必要が、昔はあったってわけね」

「そーゆーことだ」

「ふうん、ナナ、パソコンに詳しいのね」

「いや、それほどでもねーよ。ひひひ……」

 言いながら、ガチで照れてるナナ。久々に、ちょっと可愛い。

「今でもその名残で、ファイル名に数字を使う時は『01』とか『001』とかにする人も多いんだ。まあ、字づら的に桁をそろえた方が見やすいってのもあるしな」

「3桁なんて、私たちにはなかなか縁がない気がするわ」

 確かに……。

「まあ、ものによってだろな。ファイルを書き出す時に、何桁ぐらい必要か予想して……」

 ん? ファイルを……? 書き出す……?

「ちょっと待った、ナナ。ファイルを書き出すって、何?」

 あたしが待ったをかけると、ナナは「ああ、わりぃわりぃ」と頭を掻いて、

「データをファイルとして保存することを、書き出すって言うんだ」

 ああ、なんだ、そういうこと。

「じゃあ、この『書き出す』とは意味が違うのね」

 そう言ってモモが指差した、動画説明の文章。


  01行目から23行目まで

  歌詞をすべて書き出してみてはいかがカナ?


「この書き出しは、紙か何かに書き起こせって意味だからな」

 ナナは言うけど、あたしにはふと、何か引っかかった。

 リョウちゃんは「聞け」ではなく、「聞きに行け」と言った。

 つまり、この再生ページにアクセスすることが大事なのかもしれない。

 そしてよく見ると、「01行目」などと書かれている

 ……きっと何か、意味がある。

「ナナ、これってさ、べつにファイル名じゃないじゃん。なのに何で、『01行目』なのよ」

 あたしが聞くと、ナナは少し困った表情で、

「そんなん、しらねーよ」

 と口を尖らせた。そりゃまあ、知らないわよね。

するとモモが、

「知っててよ!」

「ムチャゆーなよ!」

まるであたしとナナのかけ合いみたいに、自然に絡んだ。


 そんなモモのアプローチは、放課後も続いた。

 ナナがケータイをいじっている。

 そこへあたしが近づくのと同時に、モモも近づいてきた。

 モモひょっとして、あたしたちに混じって、3人組にでもなりたいのかな……?

「ユリさんから返事、来た?」

「ああ、来た」

「何て書いてあるの?」

モモが、普通に会話に混ざってくる。けなげで、けっこうかわいいかも。

「もう1つの悩み事に付き合ってくれるおともだち募集中、だってよ」

 ナナがメールを読み上げると、あたしが返事するよりも素早く、モモが手を上げる。

「2人とも、ユリさんに力貸してあげるでしょう? 私にも手伝わせてくれない?」

 なんか、モモのペースに引きずられそう……。

 でもまぁ、モモに言われなくたってユリさんには力を貸したいし、一人でも多い方が心強いわ。

「まあ、おれもアレだ。こんなこともあろうかと、朝のうちに後輩どもの原稿チェックは済ませておいたから、いけるぞ」

 なにげにナナもやる気満々だし。

「けど、さすがにアッキーたちは3日も連続で引っ張り回すわけにいかないよね」

「だな~。同じ生徒と3日連続で行動を共にしてるってのもヤバイしな」

「なら、今日は自転車で行くしかなさそうね」

 そんな成り行きで、あたしたちはお喋りしながら3人で一緒に帰った。

「じゃ、モモん家に集合な」

「おっけ~」

「待ってるわ」

 特に時間は決めてなかったけど、モモの家に自転車で集合したのは、3時45分頃。そこから、大通り沿いに走ること20分少々で、山太郎池公園に差しかかる。

 月川辺駅の手前のドラッグストアを曲がって、しばらく道なりに行くと、ユリさんのアパートが見えてきた。

 アパートの敷地内に自転車を止め、あたしたちは3人そろって階段を上がる。そしてユリさん家のインターホンを、ナナが鳴らす。すると……

「は~い、いらっしゃい。待ってたわ」

 言いながら玄関のドアを開けたユリさんが、あたしたちを見てふいに吹き出した。

「って、おい、何がおかしいのさ、ユリさん」

「だって、3人並ぶと大中小って綺麗にそろってて、なんかケータイのアンテナみたい。あははははは……」

 そんなに笑わなくても……。確かに、ちょうど20センチぐらいずつ身長差あるけど。

「バリ3トリオね、あははははは……」

「古いし、ダセェ……」

 ユリさんは今、自分の立場をわかっているんだろうか?

「あはは、ごめん、ごめん。どうぞ、入って」

 いざなわれるまま中に入ると、すでに麦茶とお菓子が用意されていた。

 座れと言われる前に座っちゃうあたしやナナと違って、さすがモモは社長令嬢。ちゃんと「おじゃまします」とか「失礼します」とか、言える子だった。

「それでユリさん、もう1つの悩み事って……?」

 あたしが切り出すと、ユリさんは一口だけ麦茶を飲んで、さっそく話し始めた。

「今回はみんなに関係ない、いたって個人的な事で申し訳ないんだけど……」

 言いながら、窓際のCDラックの上からリョウちゃんの合い鍵を取って、ちゃぶ台の上に置いた。

「このキーホルダー、最近ちょっとだけ人気が出てきたキャラなんだけどね。じつはこのメーカーの社長さん、うちのお客さんなの」

「えっ?」

「まじか」

「すごい!」

 そのキャラクターは、何って聞かれると困るけど何かの動物で、キモ可愛い。後で聞いたんだけど、名前は「ランディくん」っていうらしい。

「でね、もともとヒトミさんのお客さんだったんだけど、あたしが趣味でイラスト描いてるっていうことを、他の子が言っちゃったみたいで……1か月ぐらい前からあたしを指名してくれるようになったの」

「ラッキーじゃんか」

 ナナは単純だからそう言うけど、ヒトミさんの性格を考えると……

「前にも言ったけど、ヒトミさんってあたしのことライバル視してて、何かと嫌がらせとかしてくる人なのよ。それで、今回も何かしらしてくると思ってたら……」

 お客さんを取られたなんて、相当な屈辱だろうからね。さぞかしヒドイことされたんじゃないのかと思いきや……。

「特に、何もされなくて。なんか、かえって不気味でしょ、そういうの」

 わかる。わかるわぁ~。

 たまにナナがあたしのこと「ル~ルちゃん」って呼んだりすると、絶対何か企んでるって思って悪寒が走るもんね。

「で……その社長さんはあたしを女の子として見てるってより、イラストレーターとして興味を持ってくれたわけじゃない? ある日、急にお店中の女の子を相手に――って言っても、全部で8人しかいないんだけど――、新キャラクターのデザインを募集するって言い出したのよ。要はコンテストみたいなもので、商品化する価値があれば採用してくれるっていうの」

「すごいじゃないですか」

 モモも意外と単純ね。このコンテスト、ヒトミさんから見たらユリさんのためのイベントにしか見えないでしょ。やっぱり、不愉快だと思うわ。

「実際は、デザインなんてなかなかみんな出来なくて、まぁまぁのアイデアを出してくる子はいるけど、これっていう作品はなくて……そんな中で、社長さんはあたしの作品をいいって言ってくれて……嬉しいんだけど、ますますヒトミさんの仕返しが怖いと思うようになって……」

 ユリさんはコンテスト用に「リストラくん」と「トラウマくん」という、2種類のトラ柄の動物キャラの下絵を描いて、社長さんに見せた。社長さんはそれをとてもいい作品だと褒めてくれたものの、商品化するにはもう1種類、トラ柄の動物が欲しい、と条件を出してきた。

 そんなことがあっても、ヒトミさんはイヤミのひとつも言ってこないという。

「じゃあ結局、まだ何もされてないの?」

 あたしが聞くと、ユリさんは首を横に振って、

「されたのよ、たぶん。つい先週のことなんだけど……」

 ユリさんは2枚のキャラの下絵をクリアファイルに挟んで、お店のロッカーにしまっておいた。お店のみんなはそれぞれ高価なものも持っているので、ロッカーには鍵が付いていて、ちゃんとカギを閉めて使っている。

 ところが先週のある夜。ユリさんが出勤すると、その下絵がクリアファイルごと、忽然と姿を消していたのだという。

「たぶんヒトミさんが犯人だと思ってるんだけど、正直、何の証拠もないし、どうやって取ったかもわからないし、決めつけるわけにいかないのよね」

「ちゃんとカギをかけてたんでしょう?」

 モモの質問に、ユリさんは大きくうなずいた。

「それに、予備の鍵はその引き出しにしまってるのよ?」

 ユリさんが指差したのは、イラストの道具が散らかった作業机の引き出し。

「リョウちゃんの合い鍵みたいに、すり替えられてねーの?」

「そんなの、この部屋に入らなきゃ無理じゃ……あ……」

 ユリさんは、自分で気づいて、言葉を途中で切った。あれは今週に入ってからだけど、ヒトミさんはいちど、この部屋に入ってる。

 例の、リョウちゃんの浮気発覚事件の時だ。

「まさか、リョウちゃんが共犯? そんなの嫌よ、私!」

「違うよ、モモ。それはないってば。リョウちゃんがグルなら、鍵はリョウちゃんがすり替えればいいんだから、わざわざヒトミさんを部屋に入れる必要ないでしょ」

 妙な違和感を覚える。リョウちゃんは敵なの? 味方なの?

 花柄の脳細胞が、うずいた。

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