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11.歌詞に隠された秘密

挿絵(By みてみん)

 開いたページには、動画のタイトルやタグと呼ばれるもの、他にもいろんなものが表示されている。

 実際に動画が再生される黒い画面の下には、「動画説明」という投稿者のコメントも記されている。

 そしてそこには、


  01行目から23行目まで

  歌詞をすべて書き出してみてはいかがカナ?


 とだけ書かれていた。

「なんか、いかにも謎解きのヒントっぽいよね、これ」

 あたしが言うと、ユリさんが別の作品ページをいくつか開いて、

「そうね。普通は作品に込めた思いとか、文字どおり作品の説明とか、自作の作品リストとかSNSのリンクとか……。でもこれは、明らかに違和感があるわね」

 と教えてくれた。

「とにかくいっぺん、作品を見てみようぜ」

「ええ、そうしましょう」

 ナナと野田先生に促されて、ユリさんが再生画面をクリックする。

 動画はすぐに始まった。

 とはいっても、メインは楽曲。画面の右端の方で、1人の棒人間がその場で歩き続けているだけのアニメーションと、あとは歌に合わせて歌詞が表示されるだけの簡単な動画だ。

 楽曲は、えも言われぬ不思議な感じの曲に、ちょっと文学的で難しい部分もあるけど、力強い歌詞。暗いけど応援歌、って感じかな。それが、初音ミクさんの声で歌われている。

「へぇ、もっと今どきの音楽を作るのかと思ったら、リョウちゃんは意外と渋い曲を作るんだな」

 アッキーが言うと、ユリさんは迷わず首を横に振って、

「普段は違うわ。もっとあっけらかんとした明るい曲で、こんなメッセージ性を前面に押し出した感じの歌詞は書かないもん、あの人……」

 と言ってから、乱れた前髪を指先で直した。

 すると、それまでずっと黙っていた社長が「あのぅ~」と口を開く。

「そこに書いてあるとおり、歌詞を書き出してみたら何か解るんじゃないでしょうかね」

 あたしも、そう思う。この動画説明は、間違いなく謎解きのヒントだもんね。

「そうしよ。ナナ、パソコン出せる?」

「おう、ちょっと待て。いま用意すっから」

 ナナがショルダーバッグから、自前のノートパソコンを取り出す。もちろん、ナナの七つ道具のひとつだ。

 パソコンを起動させて歌詞を書き出すには、少し時間がかかるかもしれない。

 それを見越してか、社長が急に立ち上がって、

「ああ、じゃあ僕はお茶でも買ってきますから、続けててください」

 と気を利かせてくれた。

「あ、僕も行きますよ!」

「いえいえ、1人で十分ですから……」

 社長は仕事中に抜け出して来てるんだろうから、本当は忙しいに違いない。

「紅林先生、お仕事の邪魔しちゃダメじゃないですか」

 さすが野田先生。社長に着いていこうとするアッキーのYシャツの袖を引っ張って、それを制した。社長が野田先生の方を見て、小さく会釈する。

「じゃ、行ってきます」

 そう言って社長が部屋を出ていった後、

「いったん外に出て、ついでに会社や取引先に電話でもしたいんですよ」

 と、アッキーをさとす。

「ああ、そうか、なるほど」

 そんなこんなしてるうちにパソコンが立ち上がって、ナナは「メモ帳」というアイコンをダブルクリックした。

 真っ白なウインドウが開かれる。ナナは着ていたパーカーを脱いで、ユリさんに目で合図を送った。

「じゃあ、もういちど再生するわよ?」

 ユリさんはユリさんのパソコンを操作して、リョウちゃんの動画を再び再生させる。画面に歌詞が表示されると、一時停止させて、それをナナのパソコンに書き取る。

 書いたらまた再生させて、次の行が表示されたらまた一時停止。ナナが書き取る。それを繰り返すこと23回、ようやくすべての歌詞を書き終えた。

「あ、あと一応、タイトルも書いといてね」

 あたしが言うと、ナナは無言でページの頭に曲名を書き加える。

 本当はユリさんのパソコンなり、紙とペンなりを使ってもよかったんだけど、もしかしたら後々になってナナのパソコンが役に立つかもしれないからね。

 ちなみにだけど、リョウちゃんはネットで「リョウちゃんP」と名乗っているらしい。曲のイントロ部分で、動画に「作詞・作曲/リョウちゃんP」と表示されていた。

 PというのはプロデューサーのPで、ボーカロイドを使った音楽の創作をする人を全般に「ボカロP」と言うんだって。

 ナナが書き取った歌詞のデータファイルはいったん保存して、あとでユリさんのパソコンにも送ることにした。

 歌詞の全容は、次のとおり。



【初音ミク】空想の翼で僕だけの青空へ飛び立て【オリジナル曲】


  唇とがらせたまま

  嘘つきだねと呟き

  想像の未来さえも

  疑うの 信じないの

  残された可能性を

  作られた日差しの中

  薔薇のように美しく

  咲かせたいだけの話

  でたらめに紡ぎ出した

  僕だけの道を歩く

  悔いを残すぐらいなら


  蛇行し続けても その

  経験を無駄にするな

  のろまな者もいつしか

  明日へ辿り着くように

  恐れは心のナイフ

  俗な輩のまやかし

  雷鳴は夏の御伽

  平気だよ 諦めるな

  止まらず行けば必ず

  ビクトリィへの光が

  確かめろその目で さあ

  手のひらで輝いてる



 ネガティブでもあり、ポジティブでもある、不思議な歌詞。けど、この際その歌詞の内容はどうでもいいんじゃないか、って気がする。

 宝のありかを記した巻物か何かなら、文の意味を紐解いていくと何か解るのかもしれないけど……これは、そんな宝の地図とは違う。リョウちゃんからユリさんへのメッセージ……つまり、ユリさんなら解けるはずの謎であるはずなのよ。

「ユリさん、何かこの歌詞で気がついたこと、ない?」

 あたしが聞くと、彼女はちょっと首をかしげて、

「さっきも言ったけど、いつものリョウちゃんの作風とは違うのよね。普段の作品にはもっと遊び心があって、可愛らしい歌詞なんだけど……これはなんか文学的っていうか、堅苦しい感じがするわ」

 と答えながら、やや眉をひそめた。

「堅苦しいのはきっと、定型詩だからね」

「俺もそう思う」

 急に言い出したのは、二人の小学校教師。

「え、これ定型詩?」

 ユリさんがナナのパソコン画面に顔を近づける。

「一般的な七五調とかの定型じゃないから気づきにくいけど、よく見るとこの歌詞は最初から最後まで、どの行も全部11文字で出来てるのよ」

 言われてみれば、その通り。正確には、カナで表すと11文字ね。

 そして気づいた。動画説明の文に、違和感があったことに。

 あたしはユリさんのパソコンを指差して、「動画説明を見せて」とお願いした。

 すぐにユリさんが画面をスクロールして、それを表示させる。


  01行目から23行目まで

  歌詞をすべて書き出してみてはいかがカナ?


「この最後のところ、『カナ』ってカタカナで書いてるのが、心のどっかで気になってたのよ。ナナ、これ全部、カナに直せる?」

「ちょっとまてよ。……1行ずついけるな。ホイ、ホイ……」

 そうして、カナに書き直したものが、こちら。



  クチビルトガラセタママ

  ウソツキダネトツブヤキ

  ソウゾウノミライサエモ

  ウタガウノシンジナイノ

  ノコサレタカノウセイヲ

  ツクラレタヒザシノナカ

  バラノヨウニウツクシク

  サカセタイダケノハナシ

  デタラメニツムギダシタ

  ボクダケノミチヲアルク

  クイヲノコスグライナラ


  ダコウシツヅケテモソノ

  ケイケンヲムダニスルナ

  ノロマナモノモイツシカ

  アスヘタドリツクヨウニ

  オソレハココロノナイフ

  ゾクナヤカラノマヤカシ

  ライメイハナツノオトギ

  ヘイキダヨアキラメルナ

  トマラズイケバカナラズ

  ビクトリィヘノヒカリガ

  タシカメロソノメデサア

  テノヒラデカガヤイテル



「やっぱり、そうだわ」

 するどい読者の方なら、とっくに気づいてたかもしれないけど。

「何がやっぱりなのさ」

「これ、タテ読みなのよ。それぞれの行の1文字目を縦に読むと、曲のタイトルになってるでしょ?」

 あたしが言うと、

「クウソウノツバサデ……まじだ。すげえな」

 ナナはそう言って、カタカナバージョンのファイルを、名前をを変えて保存した。

「……で?」

 うん……。だから何だって聞かれると、痛い。

 と、そのとき。

「あ、あたしわかった!」

 と、ユリさんが高く手を上げた。その手が蛍光灯の紐に当たり、紐が揺れる。

 そう。この謎はそもそも、ユリさんが解くものなんだから。

 みんなの視線が、ユリさんに集まる。

 ユリさんが、話し始めた。

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