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石蕗学園物語  作者: 透華
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学園 4

 気づかれてしまった以上、無反応というわけにはいかない。それでは、あまりにも礼儀知らずな人間になる。なんと言っても柚木ゆずき先輩と深尋みひろ先輩には一年の時お世話になったしな。挨拶ぐらいはしないと今後の関係にも響くだろう。


「実は一年間筆記試験で学年一位を取り続けた功績で今年から生徒会補佐に任命されたんです。一年間よろしくお願いします」


瑠璃るりちゃんが生徒会補佐に就任した子だったんだ。話は聞いていたけど、誰かは知らなかったから……でも、瑠璃ちゃんでよかった。こちらこそ、よろしくね」


 立ち上がって挨拶すると、優しい東雲色の瞳を細めて深尋先輩は微笑んでくれた。本当に何でこんないい人が蒼依あおいのハーレム要員なんだろう? 深尋先輩には蒼依なんかじゃ相手にもならないような素敵な人が似合うと思うんだけど。そりゃ生徒会長も蒼依に苛つくよな。


「本当にスマフォに連絡先が登録されてるわ。でも、一年間の功績により生徒会入りってのは気に入らないわね。特別委員会に入らない?」


 にっこり笑って言ってくれたのは柚木ゆずき先輩だ。何かスマフォいじってると思ってたら私の名前が載ってるか確認してたらしい。深尋先輩も柚木先輩も去年私がやらかした事件の際に知り合った人達で、深尋先輩とは読書や手芸が趣味という共通点があるのでたまに会ったら話しをするような関係を築いている。

 柚木先輩は事件以来私のことを高く買ってくれている上、親友を第一に考えているところを自分と重ね尚且つ私が品行方正な生徒(に見える)なところを気に入ってくれているらしい。ちなみに「万寿菊の会」の副会長は柚木先輩率いる風紀委員に在籍している三年生だ。当時、自分と同じクラスだった彼女を私に紹介してくれたのが柚木先輩だったりするので、かなり感謝している。

 2人のことは蒼依のハーレム要員ということや凪ちゃんよりも“女主人公”に好意的に接する可能性があることさえ除けば親しくしたいと思うくらいには私も気に入っているのだ。まぁ。その二つが私にとっては死活問題なわけだが。


「深尋先輩。ありがとうございます。柚木先輩。御言葉は嬉しいんですが、私はなぎちゃんの側にいたいので、お気持ちだけ頂戴しておきますね」


「まぁ。貴女なら、そう言うと思ったわ。あたし貴女のそういうところ好きよ。仲良くしましょう」


 柚木先輩は相変わらず にっこり笑っている。深尋先輩も少し安心したのか胸をなで下ろしていた。柚木先輩は良くも悪くも好き嫌いがわかりやすい人だ。生徒会補佐についた人間が気に入らない、もしくは好ましくない人間だった場合また一悶着起きていたかもしれない。気に入られててよかった。


雪城ゆきしろ。お前。みどり達と親しいのか?」


「たまに会うと話をするくらいの関係よ。雪城さんは真面目だし、努力家だし。いい後輩だもの」


「瑠璃ちゃんとは趣味があうから、たまにお話するかな」


 生徒会長の疑問に私の変わりに先輩方が答えてくれた。2人とも出会ったキッカケなどを除いてくれたあたり過去のことを此処で蒸し返すのはよくないと考えてくれたらしい。非常に助かる。


「そういえば。雪城さん! 貴女って蒼依君と同じクラスらしいわね!」


 話を変えようとしてくれたのか、はたまた会ったら言おうと思っていたのかは定かではないが柚木先輩は目を輝かせて私に問いかけてきた。こういうところを見ると本当にただの恋する乙女といった感じだ。ギャップの激しい人だな。


「はい。私だけじゃなく凪ちゃんと水瀬みずせも同じクラスですよ。……そうそう。私、彼をクラス委員に推薦しようと思うんですけど、先輩方はどう思います?」


「スッゴくいいと思うわ! 是非そうして頂戴!」


「わ、私もいいと思うな」


 柚木先輩は満面の笑みで深尋先輩は少し恥じらいながらも嬉しそうな反応を見せてくれた。コレは完全に蒼依に落ちてるな。といことは主軸は“男主人公”のハーレムエンドに進むルートか? いや、でも“女主人公”が出ていない時点で結論づけるのは危険だ。“女主人公”が出てくるのは確定しているはずだし、“男主人公”と“女主人公”の物語が平行して進む可能性もあるんだし。

 私には権力がないから、今“女主人公”がどこで何をしているか調べることは出来ない。誰かに言って調べてもらっても、何と言って調べてもらうかで問題が出てくるし。イレギュラーだらけの世界なら“女主人公”が出てこないまま物語が終わることもあるかもしれないが、どうなんだろうか?


「ちょっと、待て。あのハーレム男をクラス委員にするなんて本気で言っていたのか?」


 生徒会長は以前私達がしていた会話を思い出したのか顔をしかめている。何も言ってこないとは思っていたが、どうやらただの冗談だと思っていたらしい。


「僕は賛成ですけどね。雪城さん。蒼依をクラス委員にするなら僕が推薦するよ。そっちの方が波風立たないだろうしね」


 爽やかな笑顔で言った水瀬みずせに柚木先輩と深尋先輩の顔が輝いた。確かに生徒会補佐に就任したばかりの私がするより、生徒会副会長の水瀬がしてくれた方がすんなり決まりそうだしね。本来なら蒼依はクラス委員にならないから、これもイレギュラーだが写真部一番の蒼依は断るだろうから問題ない。

 蒼依をクラス委員にすると言った時の柚木先輩達の反応が見たかっただけだし、必要なのは副会長である水瀬に推薦されながら断ったという事実だ。そうすれば、誰も蒼依がクラス委員にならなかったことについて喚いたりしないだろうし。蒼依自身も推薦を断った負い目から、進んでクラスのまとめ役をしてくれるだろう。

 もし、蒼依が推薦されクラス委員になったとしても、あまり問題はないしな。蒼依は元々部長会に所属しているから生徒会とも特別委員会とも関わる回数が少し増えるだけで、ほぼ現状維持が出来るというわけだ。

 “女主人公”が転校生として学園に来たとしても、厄介な生徒が揃っているうちのクラスに配属されることはないからクラス委員として世話をやかなければならなくなったりはしないし。彼女がクラス委員になれる確率は非常に低いから関わりが深くなる心配もない。


「水瀬君に頼もうかな。ただ、断られそうではあるけどね。自己紹介ですら、写真部推してたし」


「確かにね。それに、アイツ賞も色々貰ってるみたいだし」


 いつの間にか隣に来ていた凪ちゃんが顔をしかめている。蒼依が賞を貰ってるということを凪ちゃんが知っているなんて意外だった。凪ちゃんは蒼依のことを話すとき大体不機嫌そうな顔になるから、蒼依のことなんて知りたくもないだろうに。


「何だ? 凪も雪城もハーレム男と親しいのか?」


 もう生徒会長の中では蒼依の呼び名は「ハーレム男」で固定されているらしい。嫌そうな顔をしている辺り私達も蒼依のハーレムの一員だと思われているんだろうか? それは非常に癪な話だ。あまりにも不名誉すぎる。


「私達は3人とも同じ公立中学出身なんです。私達の中学から石蕗つわぶき学園に入学したのは私達だけだったので、それなりに話はするんですよ。一年の時クラスも隣でしたしね」


 半分嘘で半分本当だ。私達の中学から石蕗学園に入った生徒は新入生については流石に知らないが少なくとも二年と三年にはいないし、クラスも隣同士だったのは本当の話だ。嘘は「それなりに話す」という点だな。

 私は蒼依とは、それなりに縁が深いせいで学園外では結構話をするし、逆に凪ちゃんは蒼依が嫌いなので殆ど話をしない。蒼依は交友関係の広さから情報を聞くにはもってこいの相手だ。利用価値は十二分にある。ただ、妙に鋭く勘もいいので聞き方には気をつけないといけないが。


「なる程な。それなら、話をしても当然か」


 案の定、生徒会長はそれで納得してくれたらしい。このことで騒ぎそうな柚木先輩と深尋先輩には一年の頃に話してあるので問題はなかった。


* * * * * *


 結局会議の時間はとてつもなく減ってしまったが、一応生徒会長やあかね先輩、水瀬以外の新入生2人組も今日ファンクラブと話をするらしい。龍崎りゅうざきはがたがた震えていたため、たちばなが共に話をすると言うことで落ち着いたそうだ。

 橘が「僕達のファンクラブは仲良しなの!」と言っていたので、恐らく大丈夫だろう。しかし、龍崎と橘は見た目は龍崎の方がしっかりしているように見えるが実際は真逆のようだな。一応、龍崎自身は家柄だけじゃなく実力でも会計として求められていたのだから、もう少し自信を持つべきだと思うが。

 原本自体は内部生に差別をするなとか外部生と仲良くしろとかイジメ駄目絶対とか後、奨学生のシビアな世界についても書かれることになった。私は意外だったが、内部生はそもそも奨学生というモノがどんな存在か分かっていない者が多いらしい。

 だから、贔屓されてるだけのがり勉だと勘違いされがちなのだそうだ。ただ、まぁ。お金の心配なんて一切したことのない内部生なら奨学金制度自体しらなくても無理はないのかもしれないなと少しだけ思った。




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