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石蕗学園物語  作者: 透華
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思い出話と現状と 2

「3人とも酷いわ! アタシ達を除け者にするなんて!」


「僕もー! 仲間外れハンターイ!」


「そう言われましても……」


 7人中3人がお揃いの物を持っているということは、果たして仲間外れに入るんだろうか? 持ってない人間の方が多いのだから仲間外れにはならないと思うんだが、よく分からない感覚だな。それに、金持ち中の金持ちにお土産屋さんで売っている普通のグラスを買ってくる勇気はない。


「ふむ。まぁ。落ち着きたまえ。そう言われると思って生徒会室用のモノを私が買っておいた」


「えっ? 何時の間に!?」


「君達と別れたあとだな。仮眠室に置いておいたので取ってこよう」


 言うが早いか烏羽からすば先生は表情も変えずにスタスタと仮眠室に歩いていった。もしかして、私が名指しで呼ばれた理由ってリーダー格が自主退学すること教えるためじゃなくてコッチが本命だったんじゃないか? 烏羽先生は本当に分からない人だな。


「あのグラスって、かなり色の種類があったはずだけど……」


「どういう基準で選んだんだろうね……」


 まさか全色買って来たりはしていないと思いたいが、あの人も確実に上流階級者だからな。今は教職――しかも、金持ち私立校の教師だから給料もそれなりにあるだろうし、学生時代にも色々していたらしいから自由に出来る金は有り余るほど持っているらしいんだよね。普段の生活ではあんまり無駄遣いをしているイメージはないけど、こういう時に限って大人買いをする可能性はあるよな。いや。こういう場合は、大人買いとは当てはまらないんだっけ?


「そんなに色の数が多かったの?」


「はい。確か20色以上はあったかと……」


「それなら、流石に全色は買わないんじゃないかしら?」


「うーん。でも、烏羽先生の感覚って分かんないよね!」


「お、俺も烏羽先生は何考えてるか分からないかも……」


 龍崎りゅうざきの言葉を最後にしんと静まり返る。皆、烏羽先生の考えは分からないんだな。そんな中で会長が水瀬みずせを励ます声がヤケに大きく聞こえる。まだ、慰めてたのか。ゲームでは俺様キャラで今でも、その片鱗は見えなくもないが会長って、結構苦労人かもしれないな。


「で、でも、流石にグラスを大人買いすることはないと思うわ」


「大人買いって何?」


「あー。例えば漫画を一巻から最終巻まで一気に買うような俗語です。食玩とかを一気買いする大人に対して大人気ないという意味の皮肉でも使われているそうですね。基本的に言葉として使われる時は趣味の分野が多いようですが、私も詳しくは知りません」


「へぇ。知らなかった」


「俺も」


「アタシもよ。世の中、色々な言葉があるのねぇ」


 頼むから、本当にあっているか分からないような話で、キラキラした瞳を私に向けるのはやめてくれ。特に凪ちゃん。凪ちゃんの視線が本当に痛い。精神的にくる。お願いだから「流石、瑠璃ちゃん。物知りだわ」とでも言いたげな純粋すぎる尊敬の眼差しで私を見ないで。

 ていうか茜先輩達も食玩知ってたのか。全然馴染みなんてなさそうなのに。私はそっちに驚いたぞ。


「持って来たぞ。好きなものを選びたまえ」


 その声に恐る恐る烏羽先生を見ると思っていたよりも小ぶりな箱を持っていた。何で出て来るのに、あんなに時間がかかったんだろうか? と疑問が浮かぶのと同時にまとめ買いをしていなかったことに安堵する。何ともいえない複雑な気分だ。


「新聞紙は外しておいた。八色しかないが、好きなモノを選びたまえ」


「うーん。どういう順番で選びましょうか?」


「まず、購入なさった烏羽先生。次に会長と茜先輩。その後に龍崎君とたちばな君。最後に私達二年組でいいんじゃないでしょうか?」


「いや。私は最後で構わない。先に君達が選びたまえ」


「え? わざわざ買ってきて下さったのに余り物なんて……」


「構わない。私が好きでやったことだ。気にすることはない」


「そうですか……」


 納得できないが、烏羽先生は、すっかりその気でいるようだし説得するのは無理だな。ちなみに、私があの順番を提示したのは烏羽先生は購入してくれた功労者、会長と茜先輩は年功序列式に二番、私達二年は、すでに好きな色のモノを持っているから一年である龍崎と橘に選択権を与えるためだった。


「それじゃ、お言葉に甘えてアタシ達から選ばせてもらっていいかしら?」


「いいよー」


「お、俺もいいっす。けど、俺達も雪城ゆきしろ先輩達より先に選んでいいんすか?」


「別にいいわよ。私達は、もう好きな色のモノを買ってるもの。ねー? 瑠璃ちゃん」


「うん。凪ちゃんの言うとおり! まぁ。そういうことだから気にしなくていいよ」


 龍崎はかなり年功序列を重んじているみたいだな。まぁ。無理もないか。逆に橘は、ほとんど、そこら辺に頓着しない。型にはまり過ぎる人間と気にしない人間という組み合わせは結構いいのかもしれないな。多少、柔軟性がないと、この先困るだろうし。


「螢。グラス選びましょう!」


「分かった。ほら、颯もいい加減に元気だせ」


「はい……」


 いや。本当に何であんなに水瀬は落ち込んでるんだろうか? さっぱり、理解出来ないんだけど。


「俺はこの紫色にするか。「紫」堂だしな」


「じゃあ。アタシは茜色ね」


「僕は浅葱色にしよっかなー。凪先輩の真似ー!」


「それなら俺は萌黄色だな」


 予想以上にスムーズに決まったな。もうちょっと悩めよ。えーと、あと残っているのは、桜色と乳白色と灰青と群青か。色の名前が書いてあってよかったな。


「瑠璃ちゃんは可愛いから桜色ね。私は……乳白色にしようかしら。桜色と相性いいし。いいかしら? 瑠璃ちゃん」


「凪ちゃんがそれでいいならいいよ」


「……僕は灰青にしようかな」


 水瀬のヤツ。何かヤケになってないか? というか、凪ちゃんの中の私はピンクっぽい色が似合う女の子何だろうか? 私は凪ちゃんの方が似合うと思うんだけどな。


「では、決まったな」


「それじゃ、今から早速、このグラスでサイダーでも飲みましょうよ!」


「わーい!」


「あっ。片づけ手伝います」


「雪城。お前は先に写真を片せ」


「あっ。忘れてた」


「酷いよ。雪城さん……」


「あーっ。もうっ! 鬱陶しいわね! 自分の絵の下手さがバレたくらいで、そんなに落ち込むんじゃないわよ! 瑠璃ちゃんが気にするでしょう!」


「私は別に気にしないから大丈夫だよ」


「いや。待て。凪。颯が落ち込んでたのは――」


「ストップ。螢先輩! その先は言わないで下さい!」


 あー。もしかして、水瀬が落ち込んでたのって自分を尊敬してくれてる後輩にバレたあげく凪ちゃん(好きな子)に前以上に爆笑されたからなのか? 複雑な男心ってヤツだな。


「うふふ。颯君も元気になったみたいでよかったわぁ」


「そうだねー」


「ああ。元気になってよかった」


 声がしないと思ったら茜先輩と龍崎と橘が飲み物をお盆に載せて持って来てくれていた。何だか申し訳ないな。面倒事を押しつけた気分だ。


「うわぁ。やっぱり綺麗ですね」


「確かに、綺麗ねぇ」


「これから、本格的な夏になるから、丁度よかったわね」


「ありがとうございます。烏羽先生。いい思い出が一つ増えました」


「それは、よいことだ」


「お揃いって何か楽しいね」


「そうだな」


 確かに、いい思い出になったかもしれない。美味しいソーダ、綺麗なグラスに談笑する時間。このメンバーで過ごすことは来年には不可能になるのだ。


「夏と言えば、明日から夏服期間でしたっけ?」


「あっ。そう言えば、そうだったっけ」


「うわぁ。用意しとかなきゃいけないなぁ」


「こういう時、一人暮らしだと面倒よねぇ」


「同感です。一応クリーニングには出してから片づけてるんですけど、クローゼットの奥に入ってるんで出すのが憂鬱ですよ」


「分かるわぁ。制服って一度片づけるとなかなか着ないから、気付いたらどんどん奥に追いやられてるのよね」


 夏服は嫌いではないんだが出すのが面倒くさい。昔、母が居たときは任せっきりだったから余計にそう感じるのかもしれないけど。現金だがこういう時には母が恋しくなるな。本当に最悪な恋しがり方だと思うのだが。こんな時くらいしか恋しいと思えないのだ。

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