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石蕗学園物語  作者: 透華
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思い出話と現状と 1

 あのリーダー格の自主退学云々で少し張り詰めた雰囲気になったが、私はとりあえず蒼依あおいがくれた写真の入った封筒を鞄から取り出して開けてみた。一番上の写真は水瀬みずせの絵だったが、蒼依はこの写真を気に入っているんだろうか? まぁ。それは、ともかくとして、この写真はかなりインパクトがあるだろう。


瑠璃るりちゃん。最初の写真はっ……ふふっ。駄目だわ。やっぱり、笑える」


「ゆ、雪城ゆきしろさんっ! ちょっと、その写真は待とうよ!」


 なぎちゃんの笑い声と水瀬の焦りように、生徒会室の張り詰めた雰囲気が消えていく。蒼依と水瀬のおかげだな。今は2人に感謝するとしよう。そういえば、会長達も水瀬も生粋の内部生のはずだが、水瀬の絵の下手さは知っているんだろうか? 会長とあかね先輩は知っていそうだが、後輩2人は知らなそうだな。


「何だ? お前達3人で隠し事か?」


「いえ。ただ、これは最後のお楽しみにしようと思います」 


「雪城さんっ!?」


「流石、瑠璃ちゃん! いいアイデアね」


「凪!?」


そう君がそんなに焦るなんて気になるわね……」 


 会長と茜先輩がノってくれたおかげで生徒会室はいつも通りの穏やかな雰囲気に変わった。チョロいなと思いつつ封筒から写真を取り出して並べていく。封筒はそれなりに厚かったが並べてはじめて、かなりの枚数があったことに気がついた。あと、やたらと食事中の写真が多い気もする。


「あらぁ。素敵な浴衣姿ね。3人ともよく似合ってるわ」


「そうでしょう? 私が瑠璃ちゃんの色を着こなせないわけがないわ!」


「ちょっと待て。何だその「瑠璃ちゃんの色」って?」


「この浴衣が瑠璃色だったので、凪は雪城さんの名前から「瑠璃ちゃんの色」と言ってるんですよ……」


 会長のごもっとも過ぎるツッコミに水瀬は疲れたような声で応じていた。何かあったんだろうか? まぁ。私は凪ちゃんに、ああ言ってもらえて嬉しかったけどな。


「そういえば、凪先輩の新しいペンケースも瑠璃色入ってたよね?」


「そうですよ。私は色違いのお揃いを持ってます。ちなみに、私の浴衣は凪ちゃんが選んでくれました!」


「じゃ、じゃあ。水瀬先輩の浴衣は雪城先輩が選んだんすか?」


「いや。凪は最初から瑠璃色の浴衣を狙って自分で選んでたね。帯は僕。あとの小物は雪城さんが選んだけど」


「あら。そうだったのね。颯君達はどうやって選んだのかしら?」


「僕と蒼依はパパッと決めましたね。あんまり、似てないモノなら良いかって」


「私は帯は蒼依に選んでもらいましたけど、他は凪ちゃんと一緒に考えました」


「アイツに瑠璃ちゃんの帯を選ぶ権利を奪われたのは腹が立ったけど似合ってたから、文句言えなかったのよね……」


 凪ちゃん。そんなに悔しかったんだ。かなり力を入れて手を握りしめてる上、屈辱に顔を歪めるって、よっぽどだよね。いや。気持ちは凄く分かるけど、私も凪ちゃんの帯を水瀬に選ばれたのは悔しかったし。しかし、意外と浴衣姿は好評のようだな。此処にいる人間はあんまり浴衣を着ないんだろうか?


「うわぁ。美味しそう。浅葱あさぎー。今度、一緒に京都行かない?」


「夏休みになって、宿題終わってからだったら、いいぞ」


「やったぁ! それじゃ早めに終わらせよー」


「あら。いいわねぇ。けい。アタシ達も卒業旅行で京都に行かない? 着物も着たいし染め物体験もしてみたいわ」


「そうだな。普段行くのは海外ばかりだし、たまには国内もいいかもしれないな」


 おお。物凄く局地的な京都ブームが起きた。やっぱり、蒼依の写真の効果だろうか? 何か活き活きして見えるし。私の写真とはえらい違いだ。一応、私が撮った蒼依と水瀬のツーショット写真なども置いているが、皆、蒼依の撮った写真に釘付けだしな。


「先程、隠した写真は、そろそろ見せてもいいのではないかね?」


「あっ。忘れてました」


「烏羽先生!?」


「そうね。もういいんじゃない?」


「うん。はい。どーぞ」


「待って雪城さん!」


 水瀬の静止を無視して、写真をテーブルに置くと皆、体を乗り出して写真を見たが、反応は様々だった。水瀬の絵に関する写真は今まで一枚も出していないせいかもしれないが、なかなかいい反応だと思う。いやぁ。最後にのこしといてよかったなぁ。


「颯。……お前。……相変わらずの画力だな……」


「颯君。貴方って子は……」


「えっ? あれ? えっ!?」


「嘘でしょ!?」


「ふむ。意外な弱点と言うやつかね」


 頭を抱えうつむく会長に口元に手を当て震える茜先輩。やっぱり、この2人は水瀬の画力を知ってたんだな。龍崎はひたすら写真と水瀬を見比べ、橘は「嘘だー」なんて叫び続けている。残念ながら現実だ。烏羽からすば先生は何故か感心したかのように頷き、凪ちゃんは可愛らしく、クスクス笑っている。ちなみに水瀬は魂が抜けたかのように、がっくりとうなだれていた。ちょっと可哀想なことをしたかもしれないな。


「まぁ。そんなに、落ち込むことはない。人間誰しも苦手なことはあるのだからね」


「烏羽先生にも苦手なことがあるんですか?」


「ふむ……」


 かなめさん。そこで考え込むのは、やめてあげて。フォローどころか追い討ちかけてるから。ほら。水瀬がまた、うなだれちゃったじゃないか。でも、確かに要さんの苦手なことってコレといって思いつかないんだよな。


「颯。また。絵の練習をするか? 俺でよければ、付き合うぞ?」


「ア、アタシも手を貸すわよ?」


「螢先輩と茜先輩に教えられたら、実力の差に傷つきます……」


 なるほど、会長と茜先輩は絵が上手いんだな。ていうか、絵の練習をしたことがあったのか。一体どうして、そんなことになったのか気になるが、今は聞かない方がよさそうだな。


「だ、大丈夫っすよ。水瀬先輩! 俺も絵苦手だし!」


「浅葱は別に下手じゃないと思うけど?」


「そんなことない。……兄さんと比べたら俺なんて……」


 あっ。変なところに飛び火した。意外と龍崎は見てて面白いなぁ。それにしても、“龍崎浅葱”が兄にコンプレックスを抱いているというのはゲーム通りみたいだな。そのせいで内向的な性格になったか、どうかまでは分からないが。全く関係がないってことは考えにくいかな。


「そういえば、あいつ。あの和ろうそくを母親と父親と祖父に見せたらしいのよね。そしたら母親に呆れられて、父親に苦笑されて、祖父に微妙な顔をされたんですって。家政婦さんが話してくれたわ」


「えっ。そうなの?」


 凪ちゃんがこっそり教えてくれたが水瀬のヤツ。チャレンジャーだな。家族の反応は予想できただろうに。私だったら絶対に見せないぞ。しかし、凪ちゃんは未だに「おばさん」とか「おじさん」とか「おじいちゃん」とか呼んでないんだな。少しだけ複雑な気分だ。馴染めないのか馴染もうとしていないのか、どちらかと言えば、恐らく後者なんだろうな。


「凪ちゃんの和ろうそくは見せたの?」


「頼まれたから見せたわよ。アレと比べられたのかスッゴく感動されたわ」


「そうなんだ。それで、今は部屋に置いてるの?」


「ええ。何だか使うのは勿体なくてね。瑠璃ちゃんは、どうしてるの?」


 アレ? 和ろうそく体験って、凪ちゃんの作ったモノをお祖父様にプレゼントさせたくて、計画にいれたんじゃなかったのか? もしかして、そこまで話がいかなかったんだろうか? 確かに、今の関係じゃ難しそうではあるけどな。


「……私も使ってないかなー。グラスも未使用だよ。折角だから誰かが来たときに使いたくて」


「そうなの? それは勿体ないわね。今週末にでも泊まりに行くわ!」


「うん。楽しみにしてる。何か食べたいモノとかある?」


「そうねぇ。何がいいかしら? 瑠璃ちゃんのご飯は何でも美味しいから悩んじゃうわ」


「そんなことないよぉ」


「あるったら」


 本当に凪ちゃんは人を喜ばせる天才だな。あー。何でも美味しいって言われても、やっぱり悩んじゃう。どうせなら凪ちゃんに喜んでほしいし。いや。凪ちゃんは何を出しても喜んでくれるんだけどさ。


「何だか、前以上にラブラブになってる気がする」


「そうねぇ。ところでグラスって何なのかしら?」


「雪城と書記の水瀬と副会長の水瀬とひいらぎの4人で揃いのモノを買っていたようだが」


「「お揃い!?」」


 何だか、グラスの話に食いつかれたな。茜先輩と橘はそういうの好きそうだし、無理もないか。龍崎は落ち着きを取り戻したのか目を見開いて驚いているが、水瀬は相変わらずで会長に慰められている。一体何がそんなにショックだったのか微妙に分からないんだが。それにしても会長って面倒見がいいんだなぁ。


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