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石蕗学園物語  作者: 透華
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学園 2

「スッゴく美味しいわぁ。ドライフルーツって歯にくっつくのが、ちょっと嫌だったんだけど、コレは気にならないわね」


「ホットケーキとかに混ぜて焼いてもくっつかなくなりますよ」


「あら。そうなの? 今度作って見ようかしら。瑠璃(るり)ちゃんって本当お菓子づくり得意なのね」


「誕生日とかバレンタインとかにくれる手作りお菓子はもっとスゴいのよ! それに料理も上手いんだから!」


「あら。そうなの?」


「まぁ。普段より気合い入れて作りますね。ガトーショコラとかフォンダンショコラとかタルトとか色々。料理は毎日作ってるから慣れただけですよ」


 なぎちゃんとあかね先輩の3人でソファーに座り女子トーク? をする。生徒会長と水瀬みずせは端っこの方で草案を真ん中に置きファンクラブについて語り合っていた。


「俺は人に傅かれるのが好きだから生徒会長にもなった。だが、ファンクラブの奴らは熱狂的すぎてな。些か鬱陶しいんだ」


「僕のところは大人しい子も多いんですが、過激な子は本当に過激なんですよね」


 何となく哀愁が漂っている気がするけど気にしない。今まで放置してきたつけが回ってきただけだ。同情する余地はないし。まぁ。話し合いをする気はあるようだし多少は評価出来るかもしれないが、話し合いが上手くいかなければ意味はないので、今はまだ評価する時期ではないだろう。

 ただ、彼らが私の手作りクッキーを食べているのは少し意外だった。何だかんだで、話の合間合間にちまちま、つまんでいる。高級菓子ばかり食べている彼らには逆に安っぽい私の手作りクッキーが物珍しく見えたのかもしれない。

 そんな私達にも彼らにも我関せずという態度でいるのは烏羽からすば先生だ。ソファーに腰掛け相変わらず難しそうな本を読みながらも優雅な一時を過ごしている。

 烏羽先生にもファンクラブはあるが、ちゃんと掌握しているので今更話し合いをする必要はないからこそ余裕があるのだろう。いや、もし掌握していなかったとしても、弱味を見せたりはしなかったと思う。コレが大人と子供の差なのかもしれない。


「ねぇ。瑠璃ちゃん。瑠璃ちゃんはどうやってファンクラブを統率したのかしら?」


「別に統率したわけじゃないですよ。勝手に統率されてくれただけですから」


 茜先輩に曖昧な笑みを返して答えるしかない。ソレは事実でもあるし、嘘でもある。私はただ役に立ちそうな駒を集めて結果的にファンクラブを作っただけだ。彼らのように勝手に作られていたわけではない。

 作った人間か作られた人間かで立場も考えも変わる。ただ一つだけ分かるのは、ファンクラブを作るような人間は生徒会役員に対して相当思い入れがあるということくらいだ。そして、面倒なこともあるにも関わらずファンクラブの会長になるような人間にも、同じことが言えるだろう。


「まぁ。ファンクラブの会長さんは皆さんのことが大好きだから会長やってるんでしょうし。命令じゃなくお願いしたら聞いてくれると思いますよ」


「命令じゃなくて、お願いってどういう意味だ?」


 ファンクラブの話をし出したからか、こちらの話を聞いていたらしい会長が独り言のように呟いたが一応答えてやることにする。掌握してもらった方が楽だし。


「簡単な話。受け取る側の立場に立ってみればいいんです。さっきも言ったでしょうが、ファンクラブの会長や上層部に居る人間はそれだけ皆さんへの思い入れが強いんですよ。だから、暴走もするんです。振り向いてほしいから。そういう人間なら上から目線で命令だけされたら、辛いでしょうね。でも「いつも、ありがとう」とか労ってもらって、それとなく警告されたら、ちゃんと自分を見てくれてると思って警告を守る気になります。まぁ。そこら辺は加減や性格にもよりますけどね。やりすぎたら、更に暴走する人もいるし。要はちゃんと見てますアピールが大切だと思いますよ皆さんの場合は。茜先輩はちょっと違うと思いますけど」


 何故か生徒会室に居る人間全員から真剣な眼差しを送られる。何となく気まずい気分になるが、好きな人に振り向いてほしい好きな人を支えたいという乙女心を理解すべきだ。

 ファンクラブは一種の後援会だ。それはうまく使えば矛にも盾にもなるが、使い方を誤れば自らを奈落に突き落とす諸刃の剣なのだ。自分に好意を抱く人間すら掌握出来ない人間がどうやって自分に興味がない者や敵意を持つ者を掌握出来るだろう。


「まぁ。頑張って下さい。ファンクラブの行動=皆さんの管理能力や統率力を計ることにも繋がりかねませんからね。ファンクラブに入っていない人間からみたら、自分のファンクラブすら統率出来ない無能と見られるでしょうし」


「ねぇ。瑠璃ちゃん。その場合、私ってどうなの? 私はファンクラブの人達とはお茶飲み友達みたいになってるけど」


 私の制服の裾をひいて聞いてくる凪ちゃんが可愛くて、笑みがこぼれる。


「凪ちゃんは、そういう穏やかな関係をファンクラブと築けてるってだけでいいんだよ。皆、凪ちゃんとお茶してる時楽しそうでしょ。凪ちゃんも楽しそうだし。それだけで、十分だよ」


 だって私達「万寿菊の会」は凪ちゃんを幸せにするために存在するのだから。だから、凪ちゃんが少しでも受け入れてくれているなら、それだけでいいのだ。


* * * * * *


 生徒会室に一年2人組がやってきたのは、結局私が来てから一時間ほど後だった。会長達は私の言葉に何か思うことがあったのか今日中にはファンクラブと話をすることにしたらしい。


「ふむ。全員揃ったところで渡さねばならないモノがある。取ってくるので少し待っていたまえ」


 烏羽先生はそう言うと、以前茜先輩が、資料を取り出した棚ではなく生徒会顧問用の机に向かった。一応この部屋には、生徒会長用から生徒会庶務までの机がある。私は例外的に補佐になったので基本的に会議用のテーブルを使うことになるらしい。大切な資料は棚の鍵付きの引出に収納できるようになっている。


「コレを皆に渡しておこう。生徒会役員用のバッチとスマートフォンだ」


「烏羽先生。スマートフォンは兎も角、俺達は既に生徒会役員用のバッチを持っていますが?」


 もっともな疑問を投げかけたのは会長だが水瀬も凪ちゃんも茜先輩も、それに龍崎りゅうざきたちばなも怪訝そうな顔をしている。


「まぁ。待ちたまえ。配布してから、説明をする」


 烏羽先生はスマートフォンとバッチをセットにして配りはじめた。配り方を見る限り誰に何を渡すか決まっているらしい。


「さて、説明をはじめるとしよう。まず、全員バッチをつけてくれたまえ。つけ終わったら、スマートフォンにアプリが入って居るのでね。それを開いてくれ」


 言われた通りにバッチをつけ、スマートフォンのアプリを開く。私は普段ガラケーを使っているし“ワタシ”も死ぬまでガラケーだったのでスマートフォンに触るのは、前世と現世あわせて、はじめての体験だ。

 アプリの保管場所を開くと『石蕗つわぶき学園総括役員用』と書かれているアプリが一つだけ入っていた。開くと学園の見取り図と共に幾つも重なった石蕗の花と葉っぱが映っている。花の部分を拡大すると九色に分かれており、どれも生徒会室に集まっているのが分かった。


「先生。コレはGPSですか?」


「正解だ。雪城。石蕗の花は生徒会。葉は特別委員会を示している。色については、今から説明するが、まず生徒会顧問の私は黒。会長の紫堂しどうは紫。副会長の矢霧やぎりは青、水瀬は水色。書記の水瀬は赤。会計の龍崎は緑、庶務の橘は黄、補佐の雪城は白だ」


 説明通りの色が表示されている場所にそれぞれいる。見取り図は白に黒で線がひかれる形でかかれているので私の花は若干見辛いがコレは些か面倒なことになった。


「葉は、顧問が黒、風紀が紫、保健が青、文化が水色、図書が赤、美化が緑、体育が黄色となっている。それぞれの色には特に意味がないので気にするな」


 生徒会役員及び特別委員会役員の居場所を特定出来るのは有り難いが、私も特定されるのは、かなりのリスクがある。


「スマートフォンには他にも、役員用スマートフォンのメールアドレスと電話番号が入力されているため。生徒会に関することは、そのスマートフォンでやりとりをしてくれたまえ」


 こうなったのは、十中八九、去年の件があるからだ。生徒会役員の居場所を常に互いに把握しあうことで、学園内で探す手間がかなり省けるし、おかしな所に入れば介入出来る。

 私としても便利な部分はあるが、彼らが“女主人公”に攻略された場合、居場所を把握されることになるため下手な行動がとれなくなった。

 特別委員会役員に関しては基本的に警戒しなくていいが蒼依あおいが“女主人公”に攻略される可能性を考えると厄介な部分はある。

 思わず舌打ちしたくなるが、何とか耐えた。凪ちゃんの居場所も常に把握出来るなら凪ちゃんの安全を確保する上で助かる面もあるのだ。それに、特別委員会役員には2人攻略キャラではない人間がいる。

 生徒会役員や蒼依が攻略されたら、彼らをうまく利用させてもらおうか。そんな事を考えながら私はスマートフォンの画面を睨みつけていた。



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