修学旅行までの道のり 1
今の季節は間服期間だ。間服は男女差がかなりあり、女生徒の場合、冬服の下に着る白いシャツと違い、色と長袖ということは同じだが襟に繊細なレースがあしらわれ、袖にはフリルがついている間服用のシャツがある。冬服時と同じネクタイか夏服用の赤いリボンか日によって好きな方をつけることが許されてもいるし。灰色のプリーツスカートなのは同じだが、生地は冬用の厚地のものと夏用の薄地のものどちらかを着用すればいい。シャツの上に校章と胸ポケットのついた紺色のベストを着用すれば防寒も出来る。ちなみに、生徒の中ではこの間服が一番人気があったりする。
自由に着こなせる上、シャツが可愛らしく上品なのが理由らしいが、私自身も間服用のシャツにベストを着て、ネクタイかリボンか選ぶのが楽しみだったりする。冬服時のシャツにレースやフリルがないのは、礼服として着ることを考えてあるかららしい。確かに、入学式も卒業式も冬服を着用する時期と丁度重なるし。
まぁ。間服の話は少し置いておくとして、問題は修学旅行だ。やっと、体育祭が終わったと思ったら、また直ぐに修学旅行がある。しかも、修学旅行が終わったら今度は期末テストが待っている。そうそう、中間テストはつい最近終わったばかりだが、私は今回も学年トップだったらしい。相変わらずクソ女はそのことに何の疑問も抱いていないのか、私に接触してくることもなければ、私に対して何かを言ったりもしていないそうだ。
今は借り物競争でペナルティーが追加されたためソレを何とかすることに必死で私のことが目に入っていないだけかもしれないが。ペナルティーと言っても借り物競争で追加されたモノは大して多くはない。ただ、クソ女の場合、ゴールデンウイークから残り続けているペナルティーが多すぎるというだけで。ちなみに、借り物競争でペナルティーが追加されたのは、夢宮と口論したからではなく、体育祭の進行役である体育委員にくってかかり、進行を妨げたからだ。
夢宮との口論はただの口喧嘩程度で処理したらしい。凪ちゃんや柚木先輩へは濡れ衣を着せた記録があるが、今回の件にはソレがないからな。あと、夢宮本人と直接言い合いになったので、どっちもどっちと判断されたんだろう。
夢宮とクソ女の口論の内容を胡桃先輩(何故か知らないが、その場にいたらしい)にこと細かく教えてもらったが、完全にクソ女は負けていた。「弱い犬ほどよく吠える」とは言うが、正にそんな感じだったようだ。ちなみにクソ女の発言をマイク越しとはいえ聞いた生徒達は一様にクソ女に近づかないようにしているらしい。今更といった感じだよな。元々、友人も居なかったんだし。
少しというか、かなり意外だったのだが、学園一の女たらし(蒼依は会長とかに「ハーレム男」なんて呼ばれているが、誰とも付き合ったりはしていないので、女たらしとは言われていない)と名高い三年の先輩までクソ女を避けているということだ。もしかしたら、柚木先輩あたりに「ややこしくなるから近づくな」とでも言われたのかもしれないが。一年の時に、凪ちゃんが女たらし先輩に目を付けられたことがあったので、実は私は女たらし先輩があまり好きではない。しかし、ウチの学園の生徒は人に異名つけるの好きだよな。
乙ゲー攻略キャラにありがちな女たらし系の男が攻略キャラの中に居ないと思ったら、まさかモブキャラに見えないモブキャラとして存在していたとは思わなかった。それくらい女たらし先輩は攻略キャラじゃないのが不思議なくらいの美形なのだ。そんな、かなりの美形だというのに、クソ女は女たらし先輩には興味がないらしく、近づこうとはしていないんだそうだ。いい加減攻略キャラは脈なしと考えて、他の男に走ればいいのに。女たらし先輩相手なら私も陰ながら応援してやってもいいんだがな。
そうそう楠木さんからの定期連絡によると、クソ女は非常に機嫌が悪いらしい。修学旅行の話が出ると少し浮上するというあたり、やはり修学旅行はイベントの宝庫なんだろうな。修学旅行中に会える攻略キャラは同学年の水瀬と蒼依。引率教師の若竹先生と烏羽先生の4人で普通に考えるなら攻略キャラの内半数と行動出来ることになる。
正直に言って生徒会顧問の烏羽先生まで引率するとは思っていなかったが、恐らくクソ女と――私達対策なんだろうな。あとは、蒼依の取り巻きである藍川や夢宮や私も除く関係者のファンクラブ対策か。烏羽先生の言うことなら基本的に皆大人しく聞くからな。あの妙な威圧感は「触るな危険」ではなく「逆らうな危険」みたいな感じがするだろうし。
問題児対策の為なのか、今年の修学旅行先は金持ち学園にしては異例なことに国内だ。外部生は海外に行けずガッカリしている人間が多かったが、パスポートを持って居ない私としては、かなり助かった。手続きとか面倒だからなるべくしたくないし。会話が通じるか不安な海外に行くのは、ちょっと怖いんだよね。テストでは点が取れても実際にその場に行って外人と会話できる気はしない。
ちなみに、今年の修学旅行先は京都だ。行ったことがある人間は多分、多いと思うけど、私は一度も行ったことがないので、少し楽しみだったりする。しがない一般庶民。しかも、学生という身分である私は「そうだ。京都行こう」なんてノリで京都には行けないのだ。そのため、修学旅行先については全く不満はない。
不満があるとすれば、クソ女も修学旅行に参加することと、一緒にまわることになる人間達に対してだ。特に一緒にまわる人間達へは文句を言いたい。男女4人組なんてふざけた組み分けしやがって。凪ちゃんは別にいいのだ。いや、凪ちゃんとは一緒がいいのだ。問題は男共なのだ。言わなくても分かるだろうが、案の定、日常生活でも共に行動させられている蒼依と水瀬の2人だ。
それというのも、水瀬と蒼依が最初に男子2人で組を作ってしまったせいで、女生徒達の中で2人をめぐる争いが勃発した。その結果、争いに一切参加せず、2人と組ませても何事も無さそうな私と凪ちゃんに2人を押しつけられたというわけだ。全くもって迷惑な話だ。折角、少人数でまわるのだから、凪ちゃんの意見が通るように大人しそうな男子生徒達と組みたかったのに。
まぁ。そんなことしたら、そいつ等の家のSPに文句を言われるかもしれないが。金持ち学園の修学旅行なのに少人数で行動出来る理由がこのSP達の存在だ。何も至近距離で仕事をし続けるわけではないが、修学旅行中は4人に対して8人のSPがつくことになっている。家庭お抱えのSPがいない外部生には、学園が懇意にしているボディーガード派遣会社のSPがつくことになっているのだ。
そういえば、SPって「セキュリティーポリス」の略称だから、民間人のボディーガードに使うのは間違いらしいな。まぁ。最近では普通にSP=ボディーガードで通じるから問題ないと言うことにしよう。口に出すときは、ボディーガードってちゃんと言えば多分問題ないはずだよな。私は凪ちゃんの親友として、また「万寿菊の会」の会長として、あまり間違った言葉を使うわけにはいかないのだ。私の評価が下がるだけなら良いが、私の評価が凪ちゃんの評価に繋がってしまうこともあるんだから。




