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石蕗学園物語  作者: 透華
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舞い戻る嵐 2

 それとなく蒼依あおい朽葉くちはのコトを聞いてみると想像以上にあっさりと「知り合いだ」と答えてくれた。どうやら朽葉は私と同じ奨学生らしい。フルネームは朽葉百合子ゆりこと言うんだそうだ。何でも夢を叶えるために石蕗つわぶき学園に入ったとか。同じ奨学生でもなぎちゃんを守ることだけを目的にして入学した私とは凄い違いだな。

 ワタシ”の時も今も夢なんてもったことがないから少しだけそんな生き方に憧れる気持ちはある。そもそも、“ワタシ”の時は未来のことなんて考えてなかったし、私は凪ちゃんの心配しかしてこなかったもんな。そんな人生に対して後悔なんてしてないけど。


「あの子がいても一々付け回される心配をしなくていいって凄く快適だよね」


「確かにな。みどり先輩に色々お願いしといてよかったって心底思う。アイツ、ウザかったし」


 なるほど、柚木ゆずき先輩だけじゃなく特別委員会総出でクソ女を監視してるのは蒼依が焚き付けたからか。柚木先輩は特別委員会のトップだし、蒼依からの頼みだと口にしたら恋する乙女達は従うだろう。そうじゃない胡桃くるみ先輩と大熊おおぐま先輩は割を食っているわけか。気の毒だな。

 水瀬みずせや蒼依、ついでに会長達が快適な日々を過ごす中で犠牲になっているカップルは哀れだ。それにしても蒼依は勇気があるな。胡桃先輩には怨まれるような行動だろうに。あとで痛い目を見るだろうが私には関係ない話だし別にいいか。


「あの2人に同意するのは正直言って癪だけど、やっと元の学園戻ったって感じよね。先週はヤケにだらけた雰囲気だったし」


「あー。確かにね」


 凪ちゃんの言う通り先週はクソ女が確実に居ないと分かっていたからか、割とだらけた感じにはなってたんだよな。私達だけじゃなく学園自体が。そう考えるとクソ女は学園全体に影響を与えているんだよな。腐っても“女主人公”ってことか。

 そんなことを考えていると前方にクソ女が見えた。噂をすれば影ってヤツか。クソ女は周りを数人の女生徒に囲まれている。こちらを見た瞬間にパッと表情を明るくして走り寄ろうとしたが、女生徒達に止められたようだ。ふてくされ八つ当たり気味に凪ちゃんを睨みつけてくる目が気に入らない。

 一度こちらから仕掛けてみようか。だが、変に敵視されても困るよな。ああ。世間話ついでに前に聞いた話を流せばいいかな。クソ女が気づくかは微妙だけど、周りの女生徒達は私達の言葉を不審に思ってくれるはずだ。すれ違い様に聞こえるようにすればいいか。


「あれは、桃園ももぞのさんのようですね。一緒にいる方々は監視役でしょうか?」


「多分そうだと思うよ。それにしても廊下でバッタリ出くわすなんて、もしかして僕達は運が悪いのかな?」


「どうでしょうね? そう言えば桃園さんって“悪役令嬢”である凪ちゃんが水瀬君達を騙していると思いこんでいるんでしたっけ?」


「……本当に迷惑な勘違いだよ。人の従姉妹に妙な言い掛かりをつけるのはやめてもらいたいよね。変な噂が立ったら、どう責任を取ってくれるのかな」


「その発言はきょう先輩から聞いてはいたけど正直ひくよな。なんだよ悪役令嬢って劇の配役かなんか?」


「演劇部でもないのにそんなことあるわけないでしょ!? はっ倒すわよ?」


「しかし、コイツを悪役令嬢にするなら自分は主人公ってか? 平凡な主人公ってのは割と好きだけど、桃園の性格じゃ確実に主人公は無理だろ。翠先輩に暴言吐いたりもしてたらしいしな」


「そうでもないんじゃないかい? 性格の悪い主人公としてなら役として成り立つだろう。あぁ。でも、凪を悪役令嬢扱いしている時点でソレも無理になるのかな。自分の性格の悪さを自覚していないみたいだし」


 水瀬と蒼依は意識的に凪ちゃんは無意識で私の話に乗ってくれた。世間話をするような声の大きさと態度だったし私達が不審に思われることはないだろう。人の顔を見てその人間に関わる事柄を思い出すことは日常ではよくあることだしな。すれ違う寸前に横目で見たクソ女の顔は驚愕で彩られていた。知らないとでも思ったかバカが。

 しかし、蒼依と水瀬は想像以上に私の言いたいコトを口にしてくれた。それにしても蒼依はともかく生徒会役員として水瀬家を継ぐものとしての意識が強く周りへの影響力をそれなりに考えられる水瀬が人通りが少ないとはいえクソ女を明確に非難するとは思わなかった。それほど腹が立っていたってことか。お陰で私の溜飲は下がったが。

 ああ。クソ女の驚愕した表情は自分を好いているハズの人間の発言に驚いたからだったのかもしれないな。だが、この一件で凪ちゃんを余計に敵視するようになる可能性もあるから気を付けなければならない。気分は非常にスッキリしたが油断は禁物だ。

 ちなみに先日の篠原しのはら先輩との会話もその後の生徒会役員の会話も今の会話も全てボイスレコーダーに記録してある。生徒会役員のみならず部長会トップの苦言まで入っているのだから、いざという時に使えるだろう。本当にいい言質が取れた。ボイスレコーダー万歳だな。今日の分は家に帰ってからシッカリ、バックアップしておこう。


* * * * * *


「転校生と廊下で、すれ違っただと!?」


「ちょっと、大丈夫だったの? 睨まれたりしたんじゃ?」


「な、何か言われたりしなかったんすか?」


「そうだよ! あの噂の電波先輩でしょ! また電波なこと言われなかった?」


「教師でもクラスメイトでもないというのに復学二日目から遭遇するとは全く運がないな」


 何というか凄い言われようだなクソ女。いや、これくらいの反応はされそうだと思ってはいたけど。何気にたちばな烏羽からすば先生の発言が酷いと思う。橘なんて会ったこともないのにクソ女のことを完全に「電波な発言をする女」だと認識しているらしい。まぁ。間違ってはいないけど。

 烏羽先生は烏羽先生で暗に「教師でなければ会いたくない」と言っているようなものだ。しかも、クソ女との遭遇に対して「運がない」とまでハッキリ言ってるし。口にも顔にも出していなかっただけで、やっぱり鬱陶しくは思ってたんだろうな。かなめさんは、バカでしつこい女は嫌いらしいし。クソ女はその嫌いに見事当てはまっているわけだ。


「大丈夫よ。本当にすれ違っただけだし。何も言われなかったわ」


「近づこうとはしてましたけど、監視役の女生徒達に止められてましたしね」


「まぁ。すれ違い様に蒼依と一緒に、ちょっと嫌味は言ってしまったけど仕方ないですよね」


 当事者3人で説明すると納得したのか何も言わなくなった。水瀬はちゃんと嫌味を言っているという認識はあったんだな。何というか一年前と比べると成長している気がする。別の人が見たら退化したようにも感じるかもしれないが、凪ちゃんを悪く言われても、やんわりとした対応しかしていなかった頃を思うと、やっぱり成長したように感じるな。水瀬を継ぐものとしては駄目なのかもしれないけど。今の水瀬の方が好感はもてる。


「大丈夫ならいいのだけれどアナタ達はアタシ達と比べて転校生ちゃんと遭遇するリスクが高いんだから気を付けなきゃダメよ?」


「「「はい」」」


 あかね先輩の言葉に会長や龍崎りゅうざき達も揃って頷いたので私達もお行儀よく返事をした。よかったな。喜べクソ女。ちゃんと生徒会役員達に意識してもらえているぞ。印象にだって残ってる。その他大勢という枠組みからは確実に外れているよ。まぁ。悪い意味でだけどね。

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