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石蕗学園物語  作者: 透華
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はじまり 4

 始業式は滞りなく終わった。生徒会長が出た瞬間女生徒の歓声が響いたが、生徒会長が注意すると直ぐ静まったし。校長も聞いていて退屈する前に話を切り上げてくれるのが、ありがたい。中学の時は長々と実のない話をする校長だったから始業式や終業式が憂鬱で仕方なかったのだ。

 私は始業式の間、ずっと舞台裏に居たが、居る意味があったのかは謎だ。特にする事が合ったわけでもないし。これなら、普通にクラスのところに居ても、よかったんじゃないだろうか?


「それでは、自己紹介をしましょうかね?」


 ニコニコと目の前の教卓の向こうで話すのはお爺ちゃん先生こと担任の守山もりやま先生だ。声も穏やかで見るからに優しげなお爺さんで一緒にいて和むのだが、彼の国語の授業では、その和やかさが伝染するのか居眠りする人間が大勢出てしまうため生徒には人柄は好きだが、授業は受けたくない先生という印象をもたれている。


「誰からしてもらおうかねぇ」


 ほのぼのするのはかまわないが、早く決めてくれないだろうか? というかHRで他にすることはないのか、教卓にプリントが乗っている気がするのだが。


「それじゃ。俺からしまーす! 柊蒼依ひいらぎ あおい。写真部部長やってるので、写真に興味がある人は今からでも入って下さい!」


 立ち上がり蒼依が自己紹介をしてからは早かった。丁度蒼依の席が窓際の一番後ろだったお陰で最後尾から順に前に行く形で進んでいく。


水瀬颯みずせ そうです。今年から生徒会副会長になりました。よろしくお願いします」


 蒼依の時と同じく女子の歓声が響く。きっと微笑みでもしたんだろうが、正直に言って五月蝿いことこの上ない。令嬢なら、もう少し淑やかにしろよ。つうか水瀬も騒ぐって分かってんなら加減しろ。

 やさぐれているうちに私の番がまわって来てしまった。面倒くさいが立ち上がり後ろを向く。


雪城瑠璃ゆきしろ るりです。一年間よろしくお願いします」


 無表情のまま定型文のような挨拶だけして座ると同時に隣に座っていたなぎちゃんが立ち上がり後ろを向いた。


「水瀬凪。今年度からは生徒会書記よ。一年間よろしく」


 素っ気ない挨拶だが仕方ない。なんせ凪ちゃんは昔色々あったせいで人見知りなのだ。少し慣れてきたらクラスでも笑顔を見せることになるだろう。そうなったら男どもが騒ぎそうだが。

 自己紹介が終わった後、やっと配られたプリントには時間割についての説明が書かれていた。決まっている教科もあるが、選択教科がかなり多いので、得手不得手で教科を選ばなければならない。あとで凪ちゃんと何を選ぶか相談しようと思っていると気付いた時にはHRは終わっていた。


「瑠璃さーん! これから暇?」


 蒼依に声をかけられた瞬間、教室がざわめいた。それも、そうだろう。学年の人気者が学園中から腫れ物扱いされてる人間を名前で呼んだのだ。しかも、さん付けで。近づきたくないと言ったのにこのアホは! と思いつつも無視するわけにも行かず返事をする。


「暇じゃない」


「えっ。マジ」


「何で、そんな顔で見るわけ?」


 聞いてきた蒼依は有り得ないとでもいいたげな表情で私を見てきた。確かに今までの私なら、このままスーパーによって買い物をして家で家事か勉強をするだけだったが。


「瑠璃ちゃんは私と一緒にすることがあるのよ! 邪魔しないでちょうだい!」


「うわ。水瀬」


「ごめん。蒼依。今日は雪城さん借りていくね」


「颯が言うなら分かったよ」


 蒼依と凪ちゃんは中学時代から犬猿の仲だったが、その従兄弟の水瀬とは名前を呼び合う程度には仲がいいらしい。もしかして、凪ちゃんが水瀬嫌いなのって蒼依の友達だからなんじゃ? でも、もし、そうなら色々な意味で水瀬が哀れだ。


「そんじゃ。俺は帰ろうかなー。お仕事頑張れよ」


 蒼依はそう言うと教室から出て行ったが、それを追って大勢の女子が居なくなったため教室は一気に静まり返った。何とも言えない微妙な空気が漂っている。


「僕達もそろそろ行こうか」


 暫し唖然としていたが水瀬の声に我に返り私達は生徒会室に行くために蒼依に続いて教室を出た。

 廊下に出てからも至る所から視線を感じたがいちいち気にしていたらキリがない為、話しかけられないように無難な会話を繰り広げた末に辿り着いた生徒会室にはすでに私達以外の人が集まっていた。

遅れたかと一瞬思ったが皆思い思いの行動をしている。生徒会顧問の烏羽からすば先生は優雅に読書。生徒会長はコーヒーを飲みながら資料をめくり、あかね先輩はその隣でお菓子を食べている。一年2人組は仲良く携帯ゲーム機で対戦中のようだった。


「何か統一感ないんだね。生徒会って」


「まぁ。皆、割とマイペースだからね。ちなみに、こういう状況だと僕の場合、勉強で凪は茜先輩と女子トークとやらをしてるかな」


「へぇ。そうなの。凪ちゃん?」


「うん。茜先輩とは結構話が合うから、退屈しないのよね。あっ。でも、茜先輩となら瑠璃ちゃんも話が合うと思うわよ。お互い一人暮らしだし」


「そうなんだ」


 生徒会副会長の矢霧やぎり茜先輩は一人暮らし。ゲーム通りの設定かぁ。私の周辺じゃなければ、そんなに設定に変わりはないのかな?


「あら。3人ともいらっしゃい。随分と時間がかかったのね」


「担任が守山先生だったので……」


「あぁ。あの守山か。それなら、仕方ないな」


 水瀬の答えに生徒会長は納得したとでも言うように頷いている。守山先生のほのぼのっぷりは三年にも知られるくらい有名らしい。


「自己紹介にいくまでに、あんなに躓くとは思わなかったわ。これから、大丈夫なのかしら」


「まぁ。はじまってからは、スムーズだったけど。クラス委員決めるのが大変そうだよね。下手な人選べないし。いっそ、蒼依に押しつけようかな」


「それは、いいかもしれないね。蒼依なら上手く進行してくれそうだし」


「押しつけるのは賛成だけど威張られるのは腹立つわね。それにアイツにしたら女子を決めるのが面倒くさいんじゃない?」


 凪ちゃんの発言に水瀬と顔を見合わせる。確かにそうかもしれない。蒼依がクラス委員になったら女子による壮絶な争いが繰り広げられそうだ。全員が納得するであろう凪ちゃんは、いろんな意味で無理だしな。


「でも、うちのクラスの場合、男子は水瀬君か蒼依のどちらかがならなきゃいけない気はするよ。生徒会役員やってる水瀬君は出来ないって考えると蒼依くらいしか居なくない?」


 委員会と生徒会役員は仕事の都合上カケモチ出来ないが部長会の人間でもクラス委員等の普通の委員にはなれるのだ。周りへの影響力を考えると、うちのクラスだと男子は、ほぼ二択になる。


「おい。ちょっと待てお前達のクラスにはあのハーレム男も居るのか? 生徒会役員に石蕗の魔女にハーレム男って一体お前達のクラスはどうなってるんだ?」


 会長の発言に凪ちゃんと水瀬と顔を見合わせる。全くもって会長の言うとおりだが、ぶっちゃけ、私達が一番知りたいです。


「簡単な話だ。書記の水瀬も柊も雪城の前では大人しい。雪城も書記の水瀬に何かしない限りは品行方正な生徒。副会長の水瀬は一応まとめ役といった感じだ」


 そう言った烏羽先生は相変わらず本に視線を落としている。要するに問題児っぽいのを集めて、ほのぼの爺ちゃんに押しつけたってことだろうか? そして、水瀬は巻き添えくらったと。


「大変だねー。颯先輩」


「だな」


「一年間大丈夫かなぁ?」


「だ、大丈夫だろ……多分」


 こそこそと話しをする一年2人組に何とも言えない気分になる。私達はそんなに危険人物か。というか、水瀬はなかなか、いい性格をしているから大丈夫だろう。


「そろそろ、会議をはじめたまえ。君達はそのために来たのだろう?」


 烏羽先生の鶴の一声で私達はやっと席につきプリントを取り出した。


「朝に出た案は内部生に対する警告及び生徒会の立場を明確に示すこと。そして、ファンクラブに対する注意です。ファンクラブに対しては便宜上部長会を通す必要がありますので、早急に行動すべきかと」


 凪ちゃんはプリントを見ながらそう言った。どうやら私が今朝言った愚痴を一字一句書き逃さずメモをしていたらしい。流石凪ちゃん有能だ。


「あ、あの。雪城先輩に聞きたいんすけどいいですか?」


 少しどもりながら、挙手した龍崎りゅうざき君は緊張しているのか若干震えながら私を見ている。見た目は一見不良なのに本当に気が弱いらしい。答えていいのか分からずチラリと会長に視線を向けると軽く頷かれる。


「なんでしょう?」


「えっと、雪城先輩って奨学生なんすよね。何で内部生に注意する案を出したんすか?」


 コイツは何を言っているんだ? どういう意味か全く分からないんだが。何て答えるべきか戸惑っていると龍崎君の隣に座っているたちばな君が声をだした。


「えっとね。浅葱あさぎは、同じ奨学生なら、奨学生の新入生に対して、気を付けることを出したらいいんじゃないかなって言いたかったの!」


 隣でこくこく頷いている龍崎君を見るとあたっているらしい。分かり難いにも程がある。


「正直に言って奨学生に対して注意を促してもあまり意味がないんですよ。まさか、金持ち名門校として有名な石蕗つわぶき学園の生徒が奨学生として入ってきた一般庶民を虐げるなんて思わないでしょう? だから、やる前にやるなよって内部生に注意した方が手っ取り早いんです」


 内部生とは言ったが本当に上流階級の人間はイジメなんて下らない真似は、よっぽど性格に問題がある人間じゃなければしない。寧ろ奨学生や外部生に友好的に接してくれるのが大多数をしめる。そういうことをやるのは大概この学校内では中流から下流の人間だ。要するに上見て暮らすな下見て暮らせ精神の持ち主達である。

 だが、残念なことに中流から下流の人間は結構多いのだ。企業だって大企業より中小企業が多いのだから、当然といえば当然か。まぁ。そこに位置するからといって皆が皆差別的な意識を持った人間ではないのだが。

 ちなみに生徒会は顧問である烏羽先生も含めて上流階級の集まりである。特別委員会の役員も確か上流階級の集まりだったはずだ。家柄重視が根強く残る人間には上の人間が抑えつけるしかないため必然的にそういう人選にならざるを得ない。


「瑠璃先輩も虐められたの?」


「いや、全く」


「えっ? でも、学年一位とかとったら目立つんじゃ?」


「確かに名前は目立つでしょうが、誰が雪城瑠璃かなんて分からないでしょう? 順位表はありますが、クラスが載るわけでもないですし、私は特に目立つ容姿もしていませんから探すのも面倒だったはずですよ。何よりテストの順位を気にする生徒なんて奨学生くらいで、ただ学年一位を取り続けたからといって攻撃対象にするには動機として弱い。奨学生が気に入らないのであって、その中の順位なんて彼らには些事なんです。それに一年の時は外部生をなるべく集めてクラスをつくるなどの学校側の配慮も一応ありますからね」


「じ、じゃあ、別に注意しなくていいんじゃ?」


 そう言う龍崎の隣でうんうんと橘も激しく頷いている。その姿に思わず嘲笑がこぼれた。


「備えあれば憂いなしですよ。何かあったとき、どうするんですか?」


 そう実際去年あってしまったのだ外部生に対する酷いイジメが。だから生徒会の連中は私を引き込みたがったし、意見を求めた。


「まぁ。この話しはコレくらいにしておきましょうよ。アタシも内部生のおバカちゃん達への警告は必要だと思うしね。次はファンクラブの話をしましょう」


 私の不穏な空気を感じ取ったのか、茜先輩は明るく笑った。話題を変えてくれるのは、非常にありがたい。


「そうですね。あの私に提案があるんですけどいいですか?」


 一応ファンクラブの会長を務める身としての意見として一つ言いたいことがあった。


「何だ?」


「一度皆さん直々にファンクラブの方々に注意してください。過激な行動禁止と。新入生には冊子を渡しますけど、ファンクラブとして過激な行動をするのは、在校生が圧倒的に多いでしょうし」


 私の言葉に会長は聞かなきゃよかったとでもいいたげな表情を浮かべ、茜先輩は苦笑し、水瀬も苦虫を噛んだような顔をしている。龍崎は青ざめているが、橘は平然としているあたりファンクラブとの関わり方やどんな人間が多く居るのか何となく分かる。


「なによ。ファンクラブ何てたまにお茶する友達の集まりみたいなものじゃない? あっ。瑠璃ちゃんは違うけど」


「凪のところは本当に平和だね。うちでは考えられないよ」


「俺もそんな印象を持ったことは一度もないぞ。ファンクラブと関われば、もれなく女の凄まじい一面を見る羽目になるな」


「うちは比較的穏健派だけど、人数多いから大変なのよねぇ」


「お、俺。怖くて近づけねぇ」


「えっ? 浅葱をよく慰めてくれる女の子達は皆ファンクラブの子だよー。うちはねぇ。皆お菓子くれるよ!」


「マ、マジか?」


 反応を見る限り、ファンクラブと積極的に関わっているのは茜先輩と橘くらいだなぁ。それにしても、龍崎は天然なのか、はたまた知っている橘がおかしいのか、どっちなんだろう?

 何にしてもコレを機会に少しは手綱を握ってもらいたいものだ。彼らは振り向くことをしなさすぎる。だから、変な妄想をして女達が暴走するのだ。飴と鞭をうまく使い分ければ、ファンクラブだって使い物になるだろうに。

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