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石蕗学園物語  作者: 透華
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舞い戻る嵐 1

 私となぎちゃんはとりあえずクソ女について調べて、分かったコトを生徒会役員に伝えておいた。その時凪ちゃんに「記憶障害は一切なく、ストレス等で二重人格になったということもない」と言われて、正直に言って少しだけ驚いた。

 クソ女はキッチリ“桃園姫花ももぞの ひめか”の記憶を持っている上で、あの行動と発言をしているのだと思うと頭が痛くなる。元の“桃園姫花”はマトモなんじゃなかったのか? それとも、クソ女は感情を伴わない記録としてだけ“桃園姫花”の記憶を持っているんだろうか?

 平和な時間というのは、あっという間に過ぎるのか、今日からクソ女が復学することになっている。まぁ。たまたま会った柚木ゆずき先輩によると「復学しても暫くは学園奉仕活動をしてもらうし、問題行動は自粛しないと即退学ってことになってるわ」とのことだったので、少しだけ気が楽になった。

 問題はクソ女と学園がドコまでを「問題行動」と捉えているかだ。とりあえず、凪ちゃんに近づいてきたらマシンガントークで撃退しよう。クソ女は頭の回転があまり良くないようだし、割と効果的だと思う。この際気を付けなければいけないのは、あくまで「クソ女を非難しない」ことだろうな。

 いくつかパターンを考えておかなければならない。水瀬みずせ蒼依あおいや凪ちゃんが表立って何か言えば、状況が悪化しかねないしな。全く、凪ちゃんのためなら構わないが、何で男共にまで気を遣わなければならないのか。

 付きまといは「問題行動」と定義されたらしくクソ女は水瀬達に付きまとうことはなかった。噂に聞いた限りだと三年や一年のところにも顔を出してはいないらしい。学園としてはいい判断だ。だが、そのせいで若竹わかたけ先生と烏羽からすば先生にしわ寄せがいっているようだが、可愛い生徒のために犠牲になって欲しい。

 この2人に関してはクソ女とある程度関わっていながら一切影響を受けていないと分かっているので、少しだけ安心できるのだ。それに、もし魅了されても教師が1人の生徒を贔屓し出したとして学園に文句を言えるしな。教師と生徒という枠組みで分かれていて助かった。

 そうそう、クソ女は教室で文句を言いながら課題をし、休み時間などは学園奉仕活動をしていて忙しいようだ。こちらとしては遭遇するリスクが減ってかなり助かる。お陰でウチのクラスではお祭り騒ぎだ。皆、鬱憤がたまってたんだな。

 クソ女が問題行動をしないからかファンクラブも大人しくしてくれている。彼女達としても今回の処置で多少は溜飲が下がったらしい。穏やかな顔で学園生活を送っているようだ。まぁ。まだ1日目だし今後どうなるかは分からないが。クソ女の性格的にあまり長期間は保たない気がするな。その場合はどんな対処をするんだろうか? 本当に退学にまでなるなら助かるんだがな。


* * * * * *


 私は今1人で図書室に来ている。規模としては「図書室」というより「図書館」が正しい気がするほどの広大な部屋と蔵書の数だ。下手な書店よりも遥かに本の数は多いだろう。凪ちゃんには生徒会室で待ってもらっているので、早く目的のモノを借りて帰らなければならない。

 生徒会室に残ってもらった理由は単純に生徒会室の方が安全だからだ。図書室に行く途中でクソ女と遭遇して文句を言われても問題行動だと思われる可能性は低そうだし、危険は出来るだけ除いておきたいんだよね。私が撃退するにしても凪ちゃんにクソ女の言葉はあまり聞かせたくないし。凪ちゃんが汚れる。

 私はそんなことを考えながら貸し出し禁止図書の前に立った。私が借りたいのは、この貸し出し禁止図書の一冊だ。前から気になっていた本が貸し出し禁止図書でも入ってきたと司書さんに教えられたのだ。

 本を手に取りカウンターに向かうと見覚えのある少女が座っていた。誰だったっけと首を傾げたくなるのを何とかとめる。顔立ちの整い方からして“男主人公”の攻略キャラだろうか?


「これ、お願いします」


「この本は貸し出し禁止図書ですので貸し出しは出来ません」


 予想通りの答えが返ってくる。まぁ。普通はこう言うよな。胸の下までの黒髪に朽葉色の瞳と見るからに真面目そうな顔立ちをしている。真面目なのはいいのだが、もう少し愛想をよくした方がいい気がするな。特に先輩に対しては。


「あら? 雪城ゆきしろさんじゃない! 朽葉くちはさん。早くて続きをしてあげて」


「でも、これは貸し出し禁止図書で……」


「雪城さんには貸し出し禁止図書なんてないのよ」


 司書さんの言葉に朽葉さんは「訳が分からない」という表情を浮かべながらも私が差し出した本と学生証を手に取り手続きをはじめた。この学園には図書カードなどはなく学生証の情報と本の情報をパソコンに記録するシステムなのだ。


「ありがとう」


「いえ……」


「また、面白い本が入ったら教えるわね」


「楽しみにしておきます。それでは、失礼いたしますね」


 司書さんに礼をし朽葉をチラリと見てから私は図書室を後にした。朽葉はもう蒼依あおいと接触しているんだろうか? 一応蒼依に聞いてみるコトにしよう。もしかしたら“女主人公”に攻略キャラが魅了されないのは“男主人公”の行動も何か関係があるかもしれないしな。

 まぁ。朽葉と会ったかどうか聞いたところで何が分かるわけでもないが。蒼依は何か知っている上で攻略していたりしないよな? 聞いてみたいが実際に聞くのは、かなりリスクが高い。もしも、聞いて何もなく無意識で攻略していたとしたら困るしな。

 本当に面倒くさい世界だ。登場人物の性格にはあまり違いがないというのに、ストーリーには違いがありすぎる。そもそも、ゲーム開始前から殆どの人間を攻略するとか明らかにおかしすぎるだろう。蒼依は何を考えて何を知って行動しているのか。

 私自身隠し事だらけなのだから蒼依を非難することは出来ない。なんせ、私は必要であれば蒼依を切り捨てる気でいるのだ。蒼依はきっと何があっても私を切り捨てたりはしないだろうけど。


* * * * * *


 生徒会室に戻るまでの間にクソ女を見かけた。どうやら学園奉仕活動の一環として美化委員の仕事を手伝わされているらしく、監視されながら中庭の雑草を抜いていた。胡桃くるみ先輩の嫌にいい笑顔が頭から消えない。アレは絶対にキレているだろう。理由は十中八九、大熊おおぐま先輩との時間を邪魔されたからだな。今は放課後でいつもなら大熊先輩の部活を見学しているはずだから。


「ただいま戻りました」


「おかえり。瑠璃るりちゃん! 本は借りられた?」


「ただいま。凪ちゃん。無事に借りれたよ。貸し出し禁止図書だったから図書委員さんを困らせちゃったけどね」


「あら? 瑠璃ちゃんを知らないなんて一年生かしら?」


「そうだと思いますよ」


「瑠璃先輩は何借りてきたの?」


「かなり、前に出版された宮沢賢治の本ですよ。銀河鉄道の夜の第一稿から三稿まで載っているんです。四稿は読んだことがあったんですが、他はなかったんですよね」


「瑠璃ちゃん童話とか好きだもんね。グリム童話とか、あとマザーグースも好きなんだっけ? でも、一番好きなのは金子みすずの詩集なんだよね?」


「そうだよ。さすが凪ちゃん!」


 ああ。私の読書の趣味まで記憶してくれてるなんて思ってなかった。「オペラ座の怪人とかジーキル博士とハイド氏とかも好きだよね」って、もう、凪ちゃんたら素敵すぎる。そうだよ。好きだよ。でも、まさか、そこまで記憶されてるとか思ってなかったよ。凪ちゃん大好き。



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