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石蕗学園物語  作者: 透華
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穏やかな日々 3

 篠原しのはら先輩と一緒にいたのは彼のお目付役とも言われている木賊晶とくさ あきら先輩だ。木賊先輩も部長会の一員で女子バスケ部の部長を務めている。木賊色のショートカットに切れ長の瞳をした中性的な木賊先輩は正に同性にモテる女性で騎士様と言う異名がついていたりする。

 篠原先輩も杏色のさらさらとした長髪に同色の瞳をした中性的な男性だが、木賊先輩と比べると男らしさというか格好良さで負けている。小柄で一見女性に見えるので、演劇では周りに違和感を感じさせず女役を務めたりしているのだ。

 2人の関係は幼なじみ兼恋人同士というモノだが、どこぞの美女と野獣――胡桃くるみ先輩と大熊おおぐま先輩とは違い周りを辟易とさせるような雰囲気は出さないので、ありがたい。多分、木賊先輩がしっかりしているからなんだろうな。


「それで、きょう。わざわざ、お前が来るなんて、どうしたんだ?」


「ん? あのシンデレラぶってる転校生のことでちょっとね~。全くシンデレラは1人でいいって言うのに……」


「杏。もう少し分かりやすい言い方をしたらどうだ?」


「っていうか、私をシンデレラって呼ぶのやめてもらえません?」


「えー? 君はシンデレラだよ。境遇もそうだけど、君の直ぐそばにはシンデレラを助ける魔女が常にいるじゃないか!」


 木賊先輩の諫める声もなぎちゃんの抗議も気にせずに芝居がかった仕草で篠原先輩は私と凪ちゃんを見た。この人の言う「魔女」の意味合いは他の人とは少し違うらしい。嬉しいようなそうでもないような。まぁ。一応喜んでおくか。


「ありがとうございます。篠原先輩。でも、私はシンデレラの魔女のようにカボチャの馬車もガラスの靴も綺麗なドレスも出せませんよ?」


「でも、君は見事シンデレラを救ってみせただろう? 君がいなければ、シンデレラはきっとここにいないさ! 自信を持ちなよ。健気な魔女さん!」


「ありがとうございます?」


「杏。いい加減本題に入れ。水瀬みずせさん。雪城ゆきしろさん。杏が鬱陶しくてすまないな。ほら、杏早く言え」


「駄目だよ。あーちゃん。もっと遊び心を大切にしようじゃないか……でも、そうだね。いい加減本題に入るよ」


 木賊先輩の苛立ったような笑顔に気圧されたのか篠原先輩はやっと真面目な顔をした。しかし、健気なんて、はじめて言われた気がするな。篠原先輩はやっぱり人と感性がズレているんだろうか? そこら辺を木賊先輩がフォローしていると考えるとお似合いなカップルだな。


「もう聞いているかもしれないけどね。転校生の桃園姫花ももぞの ひめかさんは酷いものだよ。僕はポエム添削者だったからね。彼女のために、わざわざ予定をあけてあげてたのに一度も提出に来なかったんだから。しかも理由を聞いてみたら「何で自分がこんなことをしなくちゃならないのか分からない」って言うんだから驚きだよね」


「杏。愚痴を言いに来たんじゃないだろう?」


「分かってるよ。それで、まぁ。彼女は何でか分からないけど、君達が庇ってくれると思ってたみたいだよ? 君達、彼女を特別扱いなんてしてないよね?」


「誰がするかっ! 寧ろ避け続けてることくらい、お前も知っているだろうが!」


「すまないな。紫堂しどう。ちょっと確認をしておきたかっただけなんだ。悪く思わないでくれ」


 会長の怒鳴り声に木賊先輩が申しわけなさそうな表情を浮かべた。なんだか気の毒だな。それにしても、やっぱりクソ女は電波というかゲーム脳ってヤツなんだろうか? 親しくしているどころか面識すらないのに庇ってもらえるなんて普通は思えないだろうに。


「まぁ。話を戻そうか。彼女は君達が助けてくれないのは「悪役令嬢であるシンデレラに騙されているからだ」と言ったんだよね。でも、シンデレラは彼女と殆ど面識がないだろう? しかも、悪役令嬢なんて呼び方はおかしいとは思わないかい?」


「まるで、劇の中の役柄を本気で信じているかのような発言ですね。まぁ。凪ちゃんはそんな役をしたことはありませんが」


「おや? 魔女さんもそう思うかい? 実は僕もなんだよ! 彼女の思考回路は不可思議極まりないよね!」


 クソ女よ。学園内でも一、二を争う変人に「不可思議」と言われてるぞ。だが、まぁ。何も知らない人間からしてみれば、やっぱり変な発言だとしか思えないんだろうな。“悪役令嬢”なんて言葉は。普通なら“悪役令嬢”じゃなく性悪女とか言うはずだし。


「それで、篠原先輩は結局、何を言いに来たんですか?」


「副会長たる君にも分からないのかい?」


「ええ。明確に言葉にしていただきたいですね」

「そうかい……魔女さんはどうかな?」


「警告ですか? 桃園さんが凪ちゃんを敵視しているから気をつけろという」


「半分正解かな」


「じゃあ、もう半分は好かれていると思いこまれているから気をつけろって私と瑠璃るりちゃん以外への警告かしら?」


「正解だよ。シンデレラ! というわけで、僕の用件はこれで終わりさ!」


 言うが早いか篠原先輩は相変わらず芝居がかった仕草で立ち上がり何故か「アディオス!」と叫びながら生徒会室を出て行った。今やっている劇の影響か何かなんだろうか? 木賊先輩は篠原先輩に呆れた顔をしながらも私達に頭を下げてから後を追って出て行った。本当にお疲れ様です。


「なんか、凄い人だったっすね……」


「あれでも有能ではあるんだがな……」


「部長会のトップだものね。それにしても、転校生ちゃんは大変なことをしでかしたようね」


「そうですね。今の状況で篠原先輩まで敵に回すなんて普通はしませんよ」


「篠原先輩って凄いんだね!」


「あの通りの変人だがな」


「あら。アタシは結構好きよ? 一緒にいて面白いし」


「でも、もう1人の先輩は疲れてるように見えましたけど……」


「晶ちゃんはあれでいて杏君ラブだから問題ないわよ。あの2人なんだかんだで、ラブラブだもの」


 生徒会役員達の会話を聞きながら、私はチラリと凪ちゃんの顔を見た。彼らは警告の意味を理解しているんだろうか? このまま避け続けるだけで凪ちゃんの安全が確保されるとは私は思えないんだが。一体どうするつもりなんだろう?


「とりあえず、凪に対する偏見はなんとかしたいですね。あと僕達への妙な期待も」


「同感だな。一週間のうちに対策を練る必要がある」


「うーん。凪ちゃんがいい子だって、見せつけるとか?」


「でも、騙されてるって思われてるなら逆効果なんじゃ……」


「ていうか、何で凪先輩を悪役令嬢だと思いこんでるのかな?」


 たちばなの発言に若竹わかたけ先生がクソ女に追及してくれたのか気になった。どうなっているんだろうか? まさか、忘れていないだろうな? まぁ。聞いたところで、いくらクソ女でも、はぐらかすとは思うがな。ゲームの設定だったとは流石に言えないだろうし。

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