穏やかな日々 2
今回はいつも以上に読みにくいと思います。
クソ女が居ないからか学園の空気が非常に穏やかな気がする。クソ女が来てからは何かピリピリしていたしな。私と凪ちゃんは、これ幸いとクソ女の経歴について調べてみることにした。前にいた高校等を調べて行動に不審な点がなければ、転生したのは恐らく石蕗学園に入ってから、ないし入る直前ということになるからな。この場合は転生といっていいのか分からないが。転生システムは本当にどういう仕組みなんだろうか?
私のように転生自体は幼い頃に理解し“石蕗学園物語”の世界だと登場人物と出会って認識するというケースもあるわけだしな。クソ女はどうだったんだろう? 私はゲームの世界だと認識してからも性格はさして変わらなかったが、クソ女が認識と同時に豹変してくれたなら調べるのは楽になる。元の人格がどんなものかは知らないけど。
私は殆どモブに近い役だったが、クソ女は“女主人公”だ。自分が世界の中心だと認識すれば少なからず人は天狗になるだろうしな。クソ女の話を聞く限り本当に天狗になっているようだし。まぁ。自分が世界の中心なんて私にしてみれば、恐ろしいことだが。
とりあえず、調べてみるしかないので経歴を見てみると、クソ女が通ってきた幼稚園から石蕗学園に転校してくるまで居た高校の名前も載っている。まず、調べるのは高校からでいいかな。
「凪ちゃんは書類見てもらっていい? 私はちょっと別に調べたいことがあるから」
「いいわよ」
凪ちゃんの了承を得てからインターネットで「桐生高校 裏サイト」と検索してみると、どうやらクソ女の通っていた学校がピンポイントで引っかかってくれたらしい。住所も同じだし、いい出だしだな。
サイトを開くと陰口のオンパレードだ。匿名制だからこそ書き込めるんだろうが、凄いな。主に教師への愚痴かも知れないが、画面をスクロールすると《HMマジウザかったよね》《転校してくれてラッキー》《転校先でもウザがられてるらしいよ?》《うわ。マジで?》《まっ。あの性格じゃ仕方ないんじゃない?》《でも、HMって急に性格変わらなかった?》などの書き込みがある。「HM」は桃園姫花のイニシャルだし転校したというのも一致する。
更に読み進んでいくと《あー。確かに、一年の時は普通に可愛かったよね》《うん。姫ってあだ名でも違和感なかったし》《あれって、姫花って名前だったからだよね?》《そうそう。だから姫だったんでしょ》という記述がある。姫花か。クソ女が言っていたのは「可愛いから姫って呼ばれてた」だったが、名前からとって、あだ名がつく方が自然だな。それに可愛いとも言われているし本人的には嘘ではないんだろう。
気になる記述を見つけた《二年で転校決まってからじゃない? 性格変わったの?》《えー? それって猫かぶってたってこと?》《え? 性格変わったのって、軽い事故にあって頭打ったからって聞いたけど》《それ、聞いたことある。だから、両親もびっくりしてたとか》《アタシ近所だったから知ってるけど、お母さんちょっと窶れてたよ》《うわぁ。かわいそう》《でも、ちょっと事故で頭打ったからって性格って変わるもんかな?》《ってことは、やっぱり猫かぶり?》か。なるほど、桐生高校でも、不思議に思われてたわけか。
だが、頭を打ったというか何らかの衝撃をうけたのがキッカケで……ということが小説とかでは、あった気がする。猫かぶりより可能性は高そうだよな。なんせクソ女には猫をかぶる必要がないだろうし。母親までクソ女の性格が変わって窶れていたということは、家でも猫をかぶっていたことになるからな。
もっと遡れば有力な情報が得られそうだな。まぁ。こんなところに書き込まれている以上、情報全てを鵜呑みには出来ないけど。しかし、見ないよりはマシだろう。一番いいのは母親に聞くことなんだろうが、下手に警戒心もたれても困るし。
さて、新しい情報を探そうか。多分クソ女の性格が変わったあたりの愚痴はかなりあるだろうしな。ページを変えるためにクリックをする。部屋には凪ちゃんが書類を捲る音と私がパソコンを操作する音だけが響いている。心地いい沈黙だ。この部屋は生徒会室と繋がっているのでドアを開ければ生徒会役員と顔を合わせることになる。
ページを変えてはスクロールするという動作を繰り返し、やっと目的の部分を見つけた。《そうそう姫が怪我したらしいよ?》《桃園さん人気あるし嫉妬とか?》《うわ。怖ーい》《で? 怪我ってどれくらいの?》《何か、頭打ったらしい》《えー。何それ、やばくなーい》
この中に本当に“桃園姫花”を心配している人間はどれくらい居たんだろうな。なんて考えながら、とりあえず、画面を眺めていくと、心配から苛立ちの声に変わっていった。
《なんか、桃園ウザくない?》《分かるー! 何か事故にあってから性格変わってない?》《まぁ。でも、もうちょいしたら転校するらしいよ》《マジで?》《アイツの声聞くだけでイラつくからラッキーだわ》《あぁ。確かに、話し方とかも「ですぅ」とか「私はぁ」とか何かウザイよね》《そういえば、病院の先生は後遺症とかじゃないって言ってるらしいよね》《えー。何? それって、あたし達騙されてたってこと?》《マジ、腹立つんですけどー》
何というか、徐々にというより一気に別人になった感じだな。掲示板に書かれている通り医者にも何も言われなかったとしても転生者なら違和感はないか。だが、記憶喪失になっているらしい記述がないあたり、クソ女になる前の現世の記憶もちゃんとあるってことなんだろうか? そこら辺が微妙なんだよな。
桐生高校の生徒の書き込みを読む限り、前の“桃園姫花”は周りに好かれるお姫様のような少女だったようだが、その記憶を持っていながら、あの行動をしていると思うと、本当に馬鹿なんじゃないかとしか言いようがない。前の“桃園姫花”のように振る舞っていれば余計な反感は買わなくてすんだだろうに。
しかし、転校が決まったから転生したと認識したのか、頭打ったから認識したのかは正直言って分からないな。このサイトを見る限り確かだと言えるのはクソ女が周りに嫌悪をもたれるほどに豹変したという事実くらいだろう。
だが、特別問題行動を起こしたかどうか、までは定かではないし追い出すという観点で考えると有力な情報とはいえないだろうな。やっぱり、石蕗学園内でもっと問題を起こさせるべきか。まぁ。このままのペースで行けば勝手に自滅してくれそうだけどな。
そういえば、頭を打ったプラス石蕗学園への転校が決まったことによりゲームと認識した可能性もあるか。うーん。他の転生者がいたら、そこら辺の考察もしやすくなるんだがな。でも、クソ女の転生や認識のキッカケなんて知ったところで、意味ないか。邪魔なら消えてもらうだけだし。
周りにしてみれば元の“桃園姫花”に戻ってくれたら一番いいんだろうけどな。元に戻るキッカケがあるかどうかで変わるんだろうが、それは私の管轄外だよな。ぶっちゃけ、元が善人だろうが凪ちゃんに害があるなら排除するってことは変わらない。
「瑠璃ちゃん。調べもの終わった?」
「うん。凪ちゃんは?」
「私も終わったかな。あの子高校一年の終わりくらいに事故にあってから素行が悪くなったみたいね」
「そうなの? 事故にあって素行が変わるって何か荒れるような怪我でもしたのかな」
「いいえ。怪我自体は軽傷で運動部でもなかったから、周りからは軽く頭を打った程度で、こんなに性格が変わるのは可笑しいんじゃないかって話が出てたらしいわよ? それくらい、異常な変わり方をしたみたいね」
「変な話しだね。しかし、素行が悪くなったなら、こちらとしては前の学校のことを含めて糾弾出来るってことかな?」
「うーん。素行が悪くなったとは言っても、そんなに大きなことをやらかしたワケじゃないみたいだから難しいわね」
「そっか。とりあえず、一旦休もう。目が疲れてきたしね」
「そうね」
2人連れ立って生徒会室に戻ると同時に生徒会室のインターフォンが鳴った。周りを見回さなくても一番近い距離に私達がいる。チラッと凪ちゃんを見ると凪ちゃんは即座にインターフォンに向かっていた。
「はい。生徒会役員です」
『あっ! その声はシンデレラだね! 久しぶりって、痛っ! 分かってるから! 本題に入るから! 悪いんだけど、ちょっと話があるから中に入れてくれるかな?』
インターフォン越しに立っていたのは、ポエム添削者の役割を与えられていた部長会会長兼演劇部部長の篠原杏先輩と姿の見えない人間だった。