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石蕗学園物語  作者: 透華
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はじまり 3

拝読いただきありがとうございます!少しでも楽しんで下さったら幸いです。

 結局私の呼び方はなぎちゃんとあかね先輩とたちばな君が名前にちゃん付けないし先輩。生徒会長と烏羽からすば先生と水瀬みずせ龍崎りゅうざき君が名字呼び捨てかさん付けか先輩になった。さっきの会話の意味を問いたい。まぁ。会長が魔女呼びを続ける気がないと分かって少し安心したが。


「さて、今期の生徒会役員が全員集まったところで会議をはじめるとしよう」


 烏羽先生がそう言うと一気に生徒会室の空気が張りつめた。皆一様に厳しい顔になったが資料もなく会議をするのかと疑問に思っていると。茜先輩が立ち上がり、木で出来た高級そうな棚のガラス戸を開いて紙の束を持ってきた。


「コレが資料よ。一応、生徒会役員以外には見せないで頂戴ね」


 ホッチキスでまとめられた十枚前後の紙を配りながら多分私のためにしてくれた注意に頷くと凪ちゃんが2人分もらっていることに気付く。書記として出た案を書き留めるためのものと自分用のものだろうが大変そうだ。


「今回は時間もあまりないからな。取りあえず、新入生への注意事項に関してだ」


 生徒会長の声にプリントへ目を落とすと確かに『新入生への注意事項』と書かれている。恐らく、コレが草案で今から出た分を足していき後日配るのだろう。一年の時に冊子として貰った覚えがあるが、まさか冊子まで生徒会が作ることになるんだろうか?


「外部生は去年よりも40人以上増えています。うち奨学生が20人です。そこで同じ外部生で奨学生でもある雪城さんから何か意見はないかな?」


 声をかけてきた水瀬を一瞥してから私はゆっくりと口を開いた。


「そうですね。まず、内部生の中には外部生や奨学生に対して家柄を笠に着て嫌がらせや誹謗中傷をする者も少なくないので、家柄関係なく実力主義だとキッチリ書いた方がいいと思います。あと、家柄云々で何かやらかした場合、罰則を作るのも手かと。生徒会は生徒を守るのが仕事ですから、権力者より立場の弱い者につくという立場を明確にしなければならないでしょうね。そうしなければ、奨学生なんて安心して生活出来ませんし実力だって発揮できません。下手したら自主退学ですよ」


 ついつい出てくる愚痴に近い発言でも皆真剣に耳を傾けてくれているから、ありがたい。落ち着くために茜先輩が淹れてくれたミルクティーを飲む。仄かに甘くて美味しい。

 内部生が外部生――特に奨学生を攻撃するのには理由がある。外部生でも家柄がいいのなら余程目立たない限りかまわない。だが、奨学生は一般家庭出身でありながら学年三十位以内に入ることで様々な特権を得ることになる主に金銭面での援助が、それだけでなく学園から奨学生だけが使えるサロンなんかも与えられる。

 彼らはソレが気に入らないのだ。自分達よりも劣るはずの人間が学力で上に立ち尚且つ学園に特別扱いされる。プライドが高く一般庶民を見下してきた連中は自分達が一般庶民より劣る部分があると認められない。だから嫌がらせをして追い出そうとする。

 だが、奨学生の世界はシビアだ。小テストでクラスの上位5位には入っていないと警告をされるし、実力テスト含むテストで学力学年三十位以下を連続じゃなくても年に二回取った時点で退学だしな。内部生や他の外部生だって頭がいい人間はいる訳だし、実際に学力不足を理由に退学させられる奨学生は毎年いる。サロンを与えるのはそんな状況の中で内部生からの逃げ場をつくるためだ。学校側としても偏差値をより良く保つために優秀な奨学生を必要としているのだから特別扱いだってする。

 ちなみに学年一位を取り続けた私は学費全額免除。制服代と教科書代の返還及び二年以降の教科書代免除。貸出禁止図書の貸出許可。ノート類や筆記具、参考書等の付与(無料)。学食無料など他にも幾つかの特権を与えられたが、奨学生で居続ける条件は変わっていない。

 他に厄介なのはなんだろうかと考えるとうざったい集団が頭の中に思い浮かんだ。あれは本当に迷惑だ。


「あと、ファンクラブについての説明も必要でしょうね。あれは一応同好会扱いなので、部長会に話を通す必要がありますが、穏健派は兎も角過激派は厄介です。わけの分からない理屈で突っかかってきますから」


 この学園には、なんとファンクラブが存在する。生徒会役員のファンクラブや特別委員会のファンクラブ、他にも有名な人間にはファンクラブが割とあるのだ。此処にいる人間だと私以外の全員に個別のファンクラブがある。部活と違い同好会扱いなのでカケモチOKだが基本的に良くも悪くも一途な人が多いのでカケモチしている人は殆どいない。


「皆、雪城さんみたいに、会長がしっかりしてくれていたらいいんだけどね」


 苦笑しながら見てくる水瀬に愛想笑いを返しながら、言葉を続けることにした。よく見ると凪ちゃん以外の生徒会役員はどこか遠い眼をしている。


「私がしっかりしているわけではなく、他の会員の方が礼儀をわきまえた現実主義者が多いんですよ。他のファンクラブが熱狂的すぎるというか、夢見がちというか。まぁ。箱入りのお嬢様方が多いので仕方ないんじゃないですか?」


 私が会長をしているのは勿論、凪ちゃんのファンクラブ「万寿菊の会」だ。万寿菊はマリーゴールドのことで、この名前にしたのは凪ちゃんが好きな花だからと「友情」と「悪をくじく」という花言葉が気に入ったからである。不穏な花言葉も多かったけど、創設の理由がアレなので、それはそれでよしとした。

 「万寿菊の会」の人達は凪ちゃんの見た目だけでなく中身も好きな人ばかりが集まっているのだ。人数は現在の二、三年合わせて60人前後でファンクラブの中では小規模だが外部生と内部生が半々といった感じで内部生は割と権力者が多いので色々助かっている。男性も居るが凪ちゃんへの恋愛感情は無く、外部生として頑張って来た凪ちゃんを応援したいという人ばかり。一年生を勧誘するかは考え中である。

 ちなみに過激派は一人もおらずファンクラブ会員の中でも品行方正なので、先生方からの受けもいいのだ。だって、ファンクラブの行動で凪ちゃんに迷惑かかったら困るし。凪ちゃんを補佐するためにあるファンクラブが凪ちゃんに迷惑をかけるなんて本末転倒もいいところだろう。他のファンクラブを見ていると節度ある行動は大切だと心底思う。


「はーい! 質問です! 瑠璃先輩は誰のファンクラブの会長さんなの?」


 橘君が挙手して質問してきたが、コレは彼の癖なのだろうか? 二、三年では私が凪ちゃんのファンクラブの会長だというのは常識だが一年は知らないらしく、龍崎君も気になるのかチラチラと私を見てくる。


「凪ちゃんだよ。というか、凪ちゃん以外のファンクラブの会長とかやる気ないよ。面倒だし」


「もう、瑠璃ちゃんたら!」


 私の発言に恥ずかしそうに顔を赤らめる凪ちゃんはとても可愛らしい。うん。やっぱり凪ちゃんが一番可愛い。他の男のモノにはもう暫くはならないで欲しいな。


* * * * * *


 実りがあったのかなかったのか微妙な会議を終え、私達が荷物を置くために一度教室に戻ると教室内には結構人が集まっていた。水瀬を見つけた女子達の目が輝いているのが分かる。モテる男は大変だ。

 これから始業式があるので、また直ぐ講堂へ移動することになり、始業式が終わったら、教室でHRを受け再び生徒会室に戻って会議を再開することになっている。

 入学式は明日なので本来なら休みのはずなのに、わざわざ生徒会会議のためだけに来ている橘君と龍崎君は一度帰るのも面倒ということで生徒会室で時間をつぶすらしい。下手に外に出るとファンにもみくちゃにされるだろうから、賢明な判断だと思う。


「瑠璃ちゃん。そろそろ講堂に行く?」


「そうしようか。茜先輩達も、もう行ってるかもしれないし」


「先輩達を待たせるのは悪いしね」


「アンタは離れて歩いてよね。ファンがウザイから」


 凪ちゃんは水瀬にそう言うと私の手を引いて歩き出した。私も同意見なので、フォローはしない。さっきは人が少なかったから生徒会室まで、一緒に行っても別に、よかったが今はかなりの人数が登校しているし面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。

 廊下を歩いていると一見ホストにも見える男性が向かいからやってきた。水瀬は案の定私達が教室から出た瞬間ファンに囲まれたようだったが、要領のいい水瀬なら時間内には講堂に来るだろう。


「水瀬、雪城。おはよう」


「「おはようございます」」


 明るい茶髪に若竹色の瞳。スーツ姿だがシャツの第一ボタンを開けているため烏羽先生と比べるとチャラく見える“女主人公”の攻略キャラ若竹一樹わかたけ いつき先生だ。


「そういえば、雪城は今日から生徒会補佐だったな。大変だろうが頑張れよ。水瀬も雪城も何かあったら相談にのるからな。気軽に生徒指導部に来るんだぞ」


 若竹先生は一見ホストだが、これでいて結構生徒思いの熱血教師だ。お節介と言われるほど生徒に歩み寄った姿勢をとる。烏羽先生も生徒思いだが基本的に放任主義で、いざという時に手を貸すタイプなので、ある意味真逆な2人だが同級生だったこともあり仲がいいらしい。


「ありがとうございます。若竹先生。そういえば、先生は何組の担任になったんですか?」


 お礼を言いつつ朝見忘れた情報を知るために質問を投げかけた。隣にいる凪ちゃんはお節介というか些か過干渉気味になりがちな若竹先生が苦手なので、ちょっと憮然としているが、今はそっとしておくことにする。


「俺は一組だぞ。水瀬と雪城のクラスは三組だったな。確か、副会長の方の水瀬と、あとひいらぎもいるんだったか」


「一組だったんですね。……うちは何だか騒がしいクラスになりそうですよね」


「本当何考えてあんなクラスにしたんだか」


 凪ちゃんがぽつりと零した言葉に心の中で同意する。本当にクラス替えを行った連中は何を考えて、あんなクラス編成にしたんだか全くもって理解できない。


「まぁ。確かに、二年の有名どころを4人も集めているのは俺もどうかと思ったけどな。しかも、担任は生徒会顧問の烏羽や生徒指導部の俺じゃないし」


 若竹先生の言う通り有名どころを4人も集めておきながら担任はほんわかしたお爺ちゃん先生だ。確かに私達は問題児ではないだろうが、水瀬達のファンは厄介だろう。それを、お爺ちゃん先生が何とか出来るとは思えないのだが。


「あれ? 瑠璃さんに水瀬に若竹先生じゃん。こんなところで何やってんの?」


 後ろから聞こえた声にげんなりしながら振り返ると予想通りの人物が立っていた。


蒼依あおいこそ、何やってんの。さっさと講堂行ったら?」


「瑠璃さん。俺の扱い酷くない?」


 軽口をたたくのは柊蒼依。選択したらギャルゲーになる“男主人公”だ。私と凪ちゃんとはこの学校に入る前から関係があり、それ以外にも私とは、ちょっとした縁がある。少しくせのある焦げ茶色の髪に青色の瞳をした明るい雰囲気の美少年は首にカメラを引っさげている。どうやら、今日はデジカメの気分らしい。蒼依は写真部部長で部長会の一員だ。

 ファンクラブの話の時に出てきた部長会は学園の二大統治組織である生徒会と特別委員会の中立の立場にある組織で、それぞれの部活の部長が所属することが義務付けられている。部長会は、部活に入る入らない自由なわりに入る人間が多かったから中立として成り立つと考えられ作られた組織らしい。

 “男主人公”の物語も高二の始業式からだ。“男主人公”は写真部部長になり学園の中枢にいる存在と距離が近くなったことで物語がはじまる。ヒロイン達は皆、コンプレックスを持っているが、写真を撮るために磨かれた巧みな話術を持った“男主人公”の言葉や写真に対する彼の情熱に惹かれていくわけだが、蒼依は既にハーレムルートを突っ走っている。

 あと落ちていないのは出て来ていない後輩2人と“女主人公”ぐらいじゃないだろうか? というのも、本来物語がはじまるのは二年からのはずなのだが、蒼依は写真部部長になった時点で攻略をはじめている。まぁ。文化部の代替わりは文化祭が終わってからなのだし、部長会にその頃から顔を出して特別委員会に所属する攻略キャラ達との接点を持てば、蒼依なら落とせないこともないだろう。


「ていうか、蒼依が1人なんて珍しいね」


「俺だって、たまには1人になりたくなるよ。あっ。そういや同じクラスだったね。一年間よろしく!」


「えっ。やだ。私あんまり近づきたくない」


「何で!?」


 大袈裟にショックを受ける蒼依を冷めた目で見ていると凪ちゃんが横から口を出してくれた。


「アンタの取り巻きがウザイからに決まってるじゃない」


「まぁ。柊の周りは賑やかだからなぁ」


 蒼依の周囲は本当に騒がしい。コイツは女子に囲まれることが多いが、男子にも好かれている人気者なのだ。出来るだけ静かに過ごしたい私としては必要事項以外は学園で話しかけられたくない相手だった。


* * * * * *


 蒼依と若竹先生とは入り口で別れて、私と凪ちゃんは講堂の舞台の裏側にまわった。凪ちゃんは書記として舞台に立つが私は今日はまだ表には出ない。私が表に出るのは明後日の全校集会だと決まっている。


「あら、そう君は一緒じゃないのねぇ」


「ファンに囲まれて鬱陶しかったからおいてきました」


 茜先輩の質問に淡々と答える凪ちゃんに苦笑しつつ肩を竦める。茜先輩は何とも言えない顔で私達を見てきたが集団になった女子ほど面倒なモノはないのだ。


「凪も雪城さんも置いていくなんて酷いね」


 振り返ると、走ってきたのか、少し乱れている服や髪を整える水瀬が居た。ちゃんと間に合ったのだから、問題ないだろう。


「アンタが勝手に残ったんでしょ?」


「ごめんね。水瀬君。でも、ほら助ける義理もないし」


「うん。凪以上に雪城さんの発言が痛いな」


 痛いと言われても事実なのだから仕方がない。私が好き好んで守るのは自分自身と凪ちゃんだけだ。あとは自分で何とかしてくれなければ困る。烏羽先生のように信用のおける人間をファンクラブの会長にするとか自分で対策してほしい。


「何をしてるんだ。お前達は。雪城以外は早くこっちに来い。もうじき始業式がはじまるぞ」


 奥から声をかけてきた生徒会長も少し疲れた声をしていた。この人も囲まれて来たんだろうか? チラリと茜先輩を見ると考えが伝わったのか苦笑を浮かべ頷いた。何とも前途多難な生徒会生活になりそうだと頭を抱えそうになる。

 いずれ企業のトップに立つ人間達なのだからファンの1人や2人、いや、10人や20人自分で何とかするくらいの甲斐性を持ってほしいものだ。勿論、私や凪ちゃんに迷惑をかけたら、その時はキッチリ責任はとってもらうつもりだが。

 舞台に立つ彼らをカーテンの近くから眺めると、とても立派で手の届かない雲の上の人間に見えたが、そんな人間達が女の子達に追いかけ回されて困っているのだと考えると少し面白くなった。

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