表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
石蕗学園物語  作者: 透華
29/107

交流会 1

 なんでも、生徒会がゴールデンウイーク中に交流会という名の合宿を行うのは代々の生徒会役員だけが知る伝統行事のようなものだったらしい。去年私となぎちゃんが遊べたのは、凪ちゃんが生徒会の紅一点だったから今回のような合宿を行わなかったのが理由だそうだ。

 凪ちゃんにも、そのことは告げていなかったらしい。流石、金持ち学園の内部生の集まり妙なところで紳士だな。一応去年も凪ちゃん以外の生徒会役員は前生徒会長の別荘に一泊二日して交流会のようなものはしていたそうだ。ちなみに合宿場所が生徒会長の家の別荘というのも生徒会の伝統というものらしい。滞在中の費用は学園持ちだというなら、わざわざ別荘に行かずに学園が管理する合宿所を使えばいいのに。

まぁ。実際に合宿所なんて使おうものなら他の利用者に多大なる迷惑をかけることになるから出来ないんだろうけど。生徒会役員目当ての生徒が合宿所に押し寄せかねないし。だから、こんなコソコソしたやり方をしてるんだろう。

 3泊4日なので、荷物はあまり多くはいらないかな? というか、何をやるのか本当に見当もつかないんだが、どんな服を持って行くべきなんだろう? 一応聞いてみた方がいいかもしれないな。聞きやすいのは、かなめさんかあかね先輩だが、これはプライベートな質問になるんだろうか?

 とりあえず、要さんに聞いてみよう。確か二年前から生徒会に関係する役職についてるって言ってたし、在学中も生徒会役員(もっと言うなら生徒会長経験者)だったらしいから丁度いいだろう。全くもって面倒くさいが、ガラケーでメールを作成する。『交流会って具体的にどんなことするんですか? 服とか悩むんですけど……』っと、忙しくなければ直ぐに返信が来るだろう。要さんは私の私服も知ってるし、それなりにアドバイスをしてくれるといいんだが。

 別荘がどんなところにあるかは知らないけど、アウトドアとかはしたくないな。そもそも交流会なんて今更する必要もない気がするんだが、伝統に則ってやらなきゃいけないのかね? 凪ちゃんとのお泊まり会はいいけど正直邪魔が多いし、さして親しくなりたくもないから気が重い。

 サイレントにしていたガラケーが光り出したのを見て再び開くと要さんからの返信が着ていた。メールには『交流会の内容は三年の副会長が決めることになっている。私も当日まで教えてもらえんのだよ。力になれなくて、すまないな。だが、矢霧やぎりなら、あまり外で何かするということはないだろうから、いつも通りの服を持って行くといい。ただし、日焼け止めは一応持っていきたまえ』と書かれていた。

 茜先輩が決めるなら確かに外で騒ぐということはしないだろうな。いつも通りの服ってことは、スカートでもいいわけか。私は基本的にスカートを履いてるし。まぁ。アウトドアとかにならない限りは大丈夫だろう。日焼け止めは最近紫外線対策が叫ばれているから毎日学園にも塗って行っているので最初から持って行く気だったが、一応お礼は言っておくか。あと、常備薬とかもいるな。それに酔い止めもいれておこう。

 あっ返信するの忘れてた。ちゃんとしないと『分かりました。ありがとうございます。適当に見繕うことにしますね。日焼け止めは要さんも持って行った方がいいですよ。』って余計なお世話かな。まぁ。別にいいか。要さんなら軽く流すだけで終わるだろうし。


* * * * * *


 会長の家のリムジンで、やって来ました合宿所――のはずなのに、なんて合宿所という言葉が似合わないところなんだろうか。これ別荘というより城だろ城。西洋のお城が日本の森の中にある。こんなところ平気で貸すとか生徒会長の御両親も何を考えているんだろうか? 本当にこんなところ使っていいのか? やっぱり金持ちの考えることは分からない。


「ねぇ。瑠璃るりちゃん。私ね。水瀬みずせの持ち物で大分慣れた気がしてたんだけど、やっぱり、金持ちって分からない」


「うん。私も今、全く同じことを思ってたよ。ここで3泊4日とかやっていける気がしない」


「アイツ曰わく、これでもっ、これでも! 一番小さい別荘らしいのよ! ……瑠璃ちゃんは慣れてないだろうからって、一応会長なりに気を遣ったんですって」


「そうなんだ……凪ちゃん。今から私と一緒に帰らない?」


「そうできたら、とても素敵よね」


「あら。2人ともどうしたの? 早く行きましょう」


 茜先輩の呼び掛けに私と凪ちゃんは顔を見合わせ肩を落とし、別荘へ歩き出した。荷物はリムジンから降りた時点で玄関前に並んで待機していた別荘の使用人さん達に持って行かれてしまっているから、どうせ帰ることなんて現実問題出来やしないのだ。


「凪ちゃん。やっぱり私帰っていいかな?」


「待って瑠璃ちゃん! こんなところに私を1人残して行かないで!」


「いや。凪ちゃんを残していく気はないから安心して」


「瑠璃ちゃん! 大好き!」


「私も!」


 凪ちゃんに抱きしめられて、少しだけ落ち着いた。玄関から入ると、中には大理石? が敷き詰められていたのだ。キッチリ掃除しているからか埃一つない。キラキラとまるで鏡のように輝いている。見るだけなら美しいと感じるだけでいいんだが、スリッパを借りられたとはいえ上を歩くのが恐ろしい。こんなところを踏むなんて罪悪感が半端ない。周りにもなんかやたらと高そうな花瓶やら絵やらが並んでいるし、上にはシャンデリアがあるし。


「2人ともどうしたんだい?」


「何だ? 内装が気に入らなかったのなら別のところに行くか?」


「いえ、気に入るとか気に入らないとかの問題じゃないですよ。単純に色々なモノが滅茶苦茶高そうで、怖いだけです」


「え? 瑠璃先輩なら分かるけど、なんで凪先輩も吃驚してるの?」


「私は中二の途中までは児童養護施設育ちなのよ! 確かに水瀬に引き取られてから、もうすぐ四年になるけど、未だに慣れちゃいないわよ! そもそも、高そうなモノは周りに置くなって言ってたし!」


「確かに、凪は1人だけ質素な別邸で暮らしているからね」


 凪ちゃんは本人が言うように、児童養護施設育ちの女の子だ。水瀬本家の血をひいてはいるが、色々あって児童養護施設で育った。児童養護施設は石蕗つわぶき学園の系列だったから劣悪な環境ではなかったし、寧ろ下手な家庭より恵まれた環境だったかもしれないが、こんな贅の限りを尽くしたような場所ではなかったしな。

 まぁ。凪ちゃんが児童養護施設育ちのお陰で本来なら雲の上の人間だった凪ちゃんと私は親友になれたわけだ。ちなみに凪ちゃんが別邸で暮らしているのは水瀬家から弾かれたとかではなく、本邸で暮らしはじめて直ぐに凪ちゃんが気を張り過ぎて倒れたからだったりする。

 周りに見たこともないような高級品を並べられ使用人に傅かれる生活。そんな環境の変化に喜ぶ人間もいるだろうが凪ちゃんは慣れなかったのだ。その結果、倒れてしまい水瀬家当主――凪ちゃんの祖父が児童養護施設に似せた別邸を急遽建て食事などは水瀬達と共にとっているが現在もそこで暮らしているらしい。

 あっ、そうそう凪ちゃんは中二の時に水瀬に引き取られはしたが、中学は変わることなく卒業まで一緒に過ごせた。水瀬家当主は直ぐに石蕗の中等部に凪ちゃんを入れたかったらしいが色々な問題というか事情があって断念したからだ。


「ここでアウトなら他はどこもないんだが……どうすればいいんだ? いや、今からでもここより狭い所を買い取ればいいのか?

とりあえず新築の物件を探してみるべきか 」


「まっ、まぁ。けいったら、話が飛躍しすぎよ。とりあえず一旦中に入りましょうよ。あっ、そうだわ。凪ちゃんと瑠璃ちゃんを同じ部屋にしてあげたら少しは落ち着くんじゃないかしら」


「確かに少し飛躍したか。物件を探すより二人部屋を用意した方が早くすむが、凪。雪城。どうする?」


「「それで、お願いします」」


 流石茜先輩素晴らしい提案だ。凪ちゃんと同室とか素晴らし過ぎる。これで少しは安心できるな。というか会長の話の飛躍っぷりに驚いた。確かにビビりはしたが新築の購入を考えるほど真剣に悩まないでくれ。そして、龍崎りゅうざきたちばなよ。私達の同室話に羨ましそうな顔をするなら会長に頼め。きっと、2人同じ部屋に泊まらせてもらえるぞ。


「もう。よいかね? いつまでも玄関に居るわけにもいかないだろう? 移動するぞ」


「分かりました。全員ついてこい」


 烏羽からすば先生の声に会長が私達を先導して歩き出す。会長の別荘なのに烏羽先生の方が偉そうなのは何故かは問うまい。理由なんて烏羽先生だからですむのだ。

しかし、私と凪ちゃんは大理石の床をおそるおそる歩いているが他の人間は平然としている。全く、この金持ち共め。大理石で転べばいいのに。実際に転んだら色々大変なことになりそうではあるけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ