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石蕗学園物語  作者: 透華
20/107

初対面 1

 憂鬱だが生きている限り必ず朝は来るものだ。今日は早朝会議があるせいで、いつもよりかなり早く家を出なければならない。これも全て桃園姫花ももぞの ひめかのせいだ。なんせ、早朝会議の議題は「要注意人物だと多くの人間に認識された転校生対策」だ。昨日の夜にわざわざ生徒会長からメールで連絡が来た。

 しかも、今回の会議には生徒会だけでなく特別委員会も参加するというのだから面倒くさい。転校2日目でこんな会議を開かれるなんて一体桃園姫花は何をしたのやら? 噂も噂だったが、特別委員会も来ると言うことは桃園が蒼依あおいに接触したのかとも思ったが蒼依に聞く限り見かけはしたが遭遇はしていないらしい。

 何とも蒼依らしい答えだ。蒼依は写真に対する情熱が変な方向に向かうときがあり「自然な表情を撮るためなら盗撮もOK」というぶっ飛んだ思考をしている。そのせいで学園の(盗撮用)穴場スポットや気配を消すなどの無駄スキルがあったりする。

 まぁ。ひとまず蒼依の話はおいておくとして、恐らく桃園は担任の若竹わかたけ先生の次は同学年の水瀬みずせや必修科目担当の烏羽からすば先生あたりと接触しようとするだろう。蒼依は隠しキャラだったので攻略キャラだと知っているか分からないが、水瀬と接触しようとした場合、現状高確率で水瀬だけじゃなく私、なぎちゃん、蒼依も桃園と遭遇することになる。

 その時の桃園の反応で転生者かどうかは完全に分かるだろう。凪ちゃんはゲームの時と外見は殆ど変わっていない。その凪ちゃんと水瀬が一緒に行動していることに驚いたら桃園は転生者だ。ゲーム内の“悪役令嬢”は“取り巻き”以外とは行動を共にすることを良しとしなかったらしいし。

 そう考えると今の凪ちゃんと水瀬の関係はゲーム内よりは良いということだろうか? 凪ちゃんは水瀬に冷めた態度をとってはいるけど嫌悪しているわけではないし。もしゲーム内より関係が改善されているのなら少しだけ嬉しい。凪ちゃんが過ごしやすい日常を送れるならば、ソレが一番なのだ。今日は凪ちゃんがわざわざ家まで車で迎えに来てくれるらしいし、車内の様子も少しだけ観察してみようかな?


* * * * * *


「何ですの! あの桃園姫花という女は!」


 会議用のテーブルをドンっと叩いたのは金髪縦ロールにつり上がった藍色の瞳という中世の貴族か凪ちゃんよりも悪役令嬢という見た目をした文化委員長の藍川菜実あいかわ なみだ。私達と同じく二年で“男主人公”の攻略キャラ。言うまでもなく蒼依のハーレム要員だ。


「あんな品位の欠片もない話し方に媚びを売るような態度! 同じ石蕗つわぶきの生徒として恥ずかしいですわ!」


 意外なことに見た目に反してわりと常識人だし、石蕗学園の生徒ということに誇りを持っている。まぁ。生粋の内部生だしな。物言いはキツいが優しいところもあるというギャルゲーには1人はいる俗に言うツンデレキャラだ。残念なことに蒼依はそのツンもデレもスルーしているらしいが。


「うるさいですよ~。菜実ちゃん。そんなに叫ばなくても聞こえます~」


 のんびりとした声で煽るようなことを口にしたのは、ボブカットの黒髪に藤色のたれ目をした夢宮藤乃ゆめみや ふじのだ。彼女も私達と同じく二年で図書委員長を努めている“男主人公”攻略キャラで蒼依のハーレム要員だ。ちなみに、藍川がツンデレならコッチは癒し系――ではなく電波だ。というか、空気が読めない人間という方が正しいかもしれない。

 夢宮には悪いが話し方といい性格といい少し桃園とかぶっているかもしれない。これでも一応有能だし蒼依以外には媚びを売らないから、そこら辺は違うだろうが。良くも悪くもハッキリした藍川とマイペースな夢宮はかなり相性が悪いらしい。


「とりあえず、桃園姫花は要注意ですね。現にファンクラブには警戒されていますし。過激な行動は慎むようにと通達してありますが、目に余る場合は実力行使に移る危険はあるでしょうね」


 水瀬は内部生で同学年ということもあり、このまま黙っていると喧嘩がはじまると思ったのか口早にそう告げた。なかなかいい判断だったと思う。なんせ、同じく特別委員会の柚木ゆずき先輩は煽るないし参戦するタイプだし胡桃くるみ先輩は大熊おおぐま先輩が関わらない限り放置する。そうなると止めるのは深尋みひろ先輩か大熊先輩のどちらかとなるが、それでは2人が気の毒だしな。


「もうファンクラブは動き出してるのね。随分早いじゃない」


瑠璃るりちゃんが、転校生ちゃんが来る前から警戒してたみたいだから……」


「まぁ。何かあっても困りますし。警戒するように頼んではいましたよ? あとは転校生と同じクラスのウチの会員に情報提供を呼びかけ、ソレを伝達しただけですけどね。他のファンクラブは管轄外ですから何で動いてるかは知りません」


 柚木先輩とあかね先輩の会話のせいで、私に視線が集まったけど、それは流すことにした。他のファンクラブがウチのファンクラブに触発されて動き出した部分はあるだろうが、ソレで桃園姫花が苦労しようが私には関係ないし興味もない。まぁ。勝手にファンクラブに潰されてくれたら、ソレはソレで良しとしよう。だが、桃園姫花を排斥するファンクラブの中に「万寿菊の会」は入れないけど。そんなことしたら評判下がるしね。


「議題が「要注意人物だと多くの人間に認識された転校生対策」のわりに全然進まないじゃない? 結局どうしたいわけ?」


 凪ちゃんは呆れたように会議室にいる私を除く面々を眺めた。まぁ。確かに対策らしい対策は出てない上に、ほぼファンクラブ任せの他力本願だしな。というか、そもそも、こんな会議を開いた理由は何だろうか? まさか、私が暴走しないように予防策としてとかじゃないよな?


「凪ちゃんの言う通りですね。それで、あの。会長? この会議を開いた意図は何なんですか?」


「あぁ。それはな、桃園姫花がおかしいのは分かるんだが、俺達が直接注意すると色々面倒だしな。どうしたものかと思って会議で対策を考えようかと思ったわけだ」


 確かに生徒会役員や部長会役員が直接注意をすれば、ただでさえ要注意人物だと思われている桃園の立場は更に悪くなるだろうな。そこら辺はちゃんと考えているわけか。しかし、現状だけなら桃園はただ周りを苛つかせているだけで、特に問題は起こしていないし、対策とか立てるのは難しいだろう。


「とりあえず、桃園姫花の過去の経歴に問題がないか徹底的に調べるわ。それで石蕗に相応しくないと考えたら追い出せばいいじゃない!」


 少しウキウキした様子の柚木先輩に呆れるが、今とれる対策――ではないが行動としては無難だろうな。家庭の事情で引っ越した上で転校してきたのなら学園もあまり経歴については調べなかっただろうし。私としては桃園の情報が手に入るので、ねがったりかなったりだ。


「それでは、生徒会役員では、私と凪ちゃんが桃園姫花の経歴に関して調べますよ。彼女、花の名前の付く都内の公立中学出身だそうですし。同じ外部生として、どんな中学校生活を送っていたのか興味がありますから。あっ、勝手に決めちゃったけど、凪ちゃんもそれでいいかな?」


「もちろん良いわよ! 友情の協同作業ね! 私頑張るわ!」


 他の人間が手を挙げる前に自分から立候補した。理由としては、そんなに可笑しくないし、お目付役として凪ちゃんをあげておけば生徒会役員からは文句はでないだろうと踏んでいたが間違っていなかったらしい。凪ちゃんも乗り気だしいいよね?


「それじゃ、特別委員会からは風紀委員長の私と……胡桃ちゃんで調べることにするわ」


 こちらも妥当な人選だ。深尋先輩は優しすぎるし、藍川は熱くなりすぎるし、夢宮は意志疎通が面倒だし、大熊先輩は調べものには向かないだろうしな。その点柚木先輩は不正を見逃すタイプじゃないし胡桃先輩は冷静に見極めるだろう。


「じゃあ、とりあえず、今回はこれで終わりにしておく? 何かあったら、その都度報告しあえばいいわよね」


 結構な人数が空気になった早朝会議は茜先輩のその言葉で幕を閉じた。絶対これ全員呼び出す必要なかっただろう。龍崎りゅうざきなんて藍川と夢宮の険悪な空気に怯えてただけだし、たちばなは橘でその龍崎に引っ付かれてただけだしな。何というか、頑張れよ。一年2人組。


* * * * * *


 実りのないわりに長くかかった早朝会議を終えて教室に入ると既に、かなりの人が居た。HRまでは10分をきっているし当然といえば当然か。その中に混じっていた蒼依が私達に気づき近づいてきた。


「早朝会議お疲れ様。議題は例の転校生についてだったんだろ?」


 ニンマリとした顔にイラッとしながらも、頷いて肯定を示す。


「ちょっと、廊下で話さない? いいネタ持ってきたからさ」


「それなら、携帯に連絡入れたらいいんじゃないのかい?」


「いや、携帯に送るような内容じゃねぇんだよな」


 私と凪ちゃんは顔を見合わせ水瀬はため息をこぼしながら廊下に出て行く蒼依に続く、窓際までつき蒼依はニヤリと笑って口を開いた。


「実は昨日、若竹先生と烏羽先生が飲みに行ったらしい」


「なるほどね。内容は桃園さんについてかな?」


「らしいぞ。俺も詳しくは知らないけどな」


 蒼依と水瀬の会話に凪ちゃんと再び顔を見合わせ溜め息を吐く。わざわざ廊下で話す必要性はないと思うんだが、2人は学生時代からの友人なんだし飲みにくらい行くだろう。いや、でも、コレって私がかなめさんに聞いただけだから蒼依達は知らないのかな?


「きゃあぁ。そう君とぉ蒼依君だぁ。朝から会えるなんてぇ、幸せぇ!」


 蒼依達の背後から聞こえてきたのは、思わずイラッと来るような口調に媚びを売るようなやたらと甘ったるい神経を逆なでする声だった。



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