来る“女主人公” 3
今回も“女主人公”が出せませんでした。一応情報?だけは出ております。
思っていた以上に情報が早く入ってきてくれた。これは、かなり嬉しい誤算だ。若竹先生の言葉に言われた本人である若竹先生のみならず、蒼依と水瀬も桃園姫花への警戒を強めたらしい。凪ちゃんは完全にドン引き状態だ。そんな、顔も可愛らしいな。美少女はやっぱりどんな顔でも可愛いものだな。
「可笑しいですね。友人も親戚も学園に居ないのに、先生の名前を把握してるなんて……桃園さんが上流階級の方なら先生の名前をご存知なのも分かりますけど。そうじゃないんですよね?」
「ああ。桃園は学費こそ家計から出しているが、上流階級というわけではないな。それに友人や親戚だけじゃなく「学園には知り合いが誰もいなくて心細い」とか言っていたし、学園の誰かに聞いたということもないだろう」
「何か怖いですね。そういうの……先生の情報がどこからか漏れてるってことですし……」
「大丈夫よ。瑠璃ちゃん! そいつがどんなヤツかは知らないけど、瑠璃ちゃんに何かしようとしたら、ただじゃおかないわ!」
「あ、ありがとう。凪ちゃん。でも、凪ちゃんに何かあったら心配だよ」
「瑠璃ちゃん優しい! 大好きよ!」
「私も凪ちゃんのこと大好きだよ」
ガバリと抱きついてくる凪ちゃんの背をポンポンと軽く叩く。若竹先生達に更に警戒心を抱かせるためにした発言だったが、どうやら凪ちゃんに火をつけてしまったらしい。心配してくれるのは嬉しいけど、どうしようか? 他の誰かなら、ともかく、凪ちゃんを危険な目にあわせる気はないんだけどな。
当の若竹先生達は私達を生暖かい目で見ている。言いたいことはよく分かる。どうせ、私だったら返り討ちにするとでも思っているんだろう。私に対して過保護なのは凪ちゃんと烏羽先生と後数人いるかいないかだし。
だが、凪ちゃんの肩越しに3人を鋭く見つめながら私は凪ちゃんにバレないように、声も出さず、ゆっくりと口を動かした。
――二度はない
そして、わざと意地悪く、そう、まるで異名である魔女のようにニヤリと笑うと、3人は一気に表情を真剣なものへと変えた。
「とりあえず、情報が漏れているとしたら問題があるね。生徒会としても要注意人物としておこうか」
「俺も桃園姫花について調べてみる。分かったら瑠璃さん達にも教えるよ」
「そうだな。俺も担任としても生徒指導部所属としても気をつけておく」
水瀬達はちゃんと警戒心を強めてくれたらしい。まぁ。彼らの警戒心が桃園姫花に対してか私に対してかは分からないが別にどちらでも構わないのだ。どちらにしても桃園姫花は凪ちゃんに近づきにくくなるだろう。私が危険だということくらい、多分桃園姫花には直ぐにバレるし、在学している人間は皆同じように認識しているはずだ。
例えどれだけ周りに恐れられても避けられることになっても凪ちゃんさえ側にいてくれるなら構わない。他の人間なんて、私には、どうでもいいのだから。
* * * * * *
そのまま何事もなく四限まで終わり、正直に言って、少しだけ拍子抜けした。蒼依や水瀬に会いに来るだろうと思って居たのだが、桃園姫花は一度も三組に来ることはなかった。転校初日だから流石に控えたんだろうか? それとも若竹先生狙いで一途なのか?
「若竹先生の名前を一発で言い当てたなんて可笑しな転校生ねぇ」
「やっぱり、茜先輩もそう思いますか?」
「だって、一発で読めるような名前じゃないもの。ホームページにも読みとか載せてないはずだし、普通は「かずき」よね。知り合いに「いつき」って人がいても確認くらいするのが礼儀だと思うわよ」
「そうですよね」
茜先輩の言う通り、例え知り合いに同じ漢字で「いつき」と読む人間が居たとしても確認くらいするはずだ。それもなく若竹先生の名前を「いつき」だと呼び当てるのは可笑しい。それこそ、私のように前情報があるなら話は別だが、私は疑われたくなくて若竹先生が自分からフルネームを名乗った時にも確認する振りを一応したし。
最初からボロを出しすぎている気がするのは、私だけだろうか? 親しくなりたくて名前を呼ぶのはかまわないが、初対面で相手の許可なく名前を呼ぶなんて失礼以外のなにものでもない。
ブーッブーッブーッと携帯が震えた。見てみると、どうやら一組の「万寿菊の会」の子がメールをくれたらしい。
「誰からのメールなの?」
可愛らしく首を傾げて問いかけてくる凪ちゃんに、ニッコリ笑って答える。ああ。もう! 一々仕草が可愛いんだよな。馬鹿な男に何かされないか心配になる。
「一組にいる「万寿菊の会」の子に朝の一連の出来事を教えてほしいって頼んでたの。多分それだと思うよ。凪ちゃんも見る?」
「うん」
興味があったのか凪ちゃんは直ぐに頷いたメール画面を開こうとすると声がかかる。
「雪城。俺も興味があるから読み上げろ」
生徒会長の命令口調にイラッとしながらも注意を促すなら丁度いいかと思い、画面に目を落とすと想像通りのことが書かれていた。つくづく残念だな。桃園姫花。
「では、読みますよ『桃園姫花は一組に入ってくる時には既に若竹先生の腕に引っ付いており、教室に入った際に先生によって引きはがされましたが、自己紹介中も殆ど私達を見ることはなく若竹先生の方ばかり見つめていました。尚、自己紹介の際に桃園姫花が言っていたことは「私ぃ。桃園姫花っていいますぅ。可愛いからぁ。姫って呼ばれてましたぁ。中学も花の名前が付く学校だったのでぇ。何だか運命感じちゃいましたぁ! 一樹先生ぇ。あっ、ついでにぃ同じクラスの皆さんもぉ。これから、よろしくおねがいしますぅ!」なんて意味不明の発言でした。確かに美少女には入りますが凪様の足元にも及びません。そして、私は彼女と親しくなれる気はしません』だそうです。想像以上に凄い子みたいですね」
「えーと。コレが俗に言う電波って子?」
「何か気持ち悪いな」
「媚びを売るだけの能無しか。近づかれるのも嫌だな」
「私も苦手なタイプの子だわ」
「僕も同学年ですが、なるべく近づかないように気をつけます」
「ていうか、何なのあの喋り方。何か苛々するわ。でも、ファンクラブの子にはお礼言っとかないとね」
上から順に橘、龍崎、生徒会長、茜先輩、水瀬、凪ちゃんだ。皆、嫌そうな顔や苦笑を浮かべている。少なくとも好意的な表情を浮かべている人間はいない。というか、顔に出していないだけでドン引きしているような空気が流れている。まぁ。このメール内容で好意的に感じる人間がいたら、どうかと思うが。
実はメールには続きがあったのだが、それは言わないでおこう。内容は『一組の女子の殆どは既に桃園姫花を敵と認識しています』だった。それは、そうだろう。何といっても感じが悪すぎる。完全に自分達はオマケな上、大好きな担任教師に引っ付き、あまつさえ名前まで呼んでいるのだ。
とりあえず、ファンクラブの子に不快に感じながらもメールをくれたお礼と凪ちゃんからの言葉を伝える返信をしておく。小さなことかも知れないが、こういうやりとりが大切なのだ。ついでに、副会長や「万寿菊の会」の人間にもメールをしておく。すると一組の子から直ぐに返信が来た。
『優しいお言葉ありがとうございます。どうやら会長の危惧なさっていた通りの方だったようですね。凪様や会長をあの女が不快にさせないよう「万寿菊の会」の一員として誠心誠意努力いたします。凪様のお言葉も伝えてくださりありがとうございました。』
本当に丁寧な言葉だ。ありがたいと思いながらも心のどこかで、それでも、いつか裏切られるかもしれないと思ってしまった自分が少しだけ嫌になった。
* * * * * *
昼休みの体育委員達との最終会議でも、少しだけ桃園姫花の話が出ていたが、どうやら「少し可愛いけれど、非常識な子」という噂が既に出回っているようだった。誰が流したのかは知らないが、恐らく一組にいる若竹先生のファンクラブの誰かだろうと想像がついた。もしくは、会長達に近づかれないように会長達のファンクラブが噂を流しているかのどちらかだろうか?
どちらにしても、凪ちゃんにとって悪い方には向かわないので良しとする。メールを送った副会長達からも返信がきていたが、まとめると「要注意人物として警戒しておく」とのことだった。蒼依も少しは情報を手に入れてくれたんだろうか?
恐らく若竹先生狙いではなく、他の攻略キャラも狙っているのなら明日にでも誰がしらに接触してくるだろう。だが、接触しようとしてもファンクラブが邪魔してくれるはずだ。誰だって自分の好きな人間に不快な人間が近づくのはいい気はしない。
桃園姫花への苛立ちを感じてもソレを隠し彼等のために盾となってくれるはずだと思いたい。少なくとも「万寿菊の会」の人間は付かず離れずの関係を表面上は築くことにしてくれたらしいし。若竹先生のファンクラブの子達も先生に近づかれるくらいなら近づく暇もないくらいにワザと積極的に接触することにしたようだ。
悪い影響を受けないか不安はあるが「万寿菊の会」の人間には定期的に会いチェックすることにする。桃園姫花よりになっていたならば、ソレを理由に切り捨てればいいし。「万寿菊の会」に所属していながら凪ちゃんを第一に考えない人間は不要だ。
家に帰ってきたはずなのに、桃園姫花について、何でこんなに悩まなければならないんだろうか? 初日からやたらと疲れた気がする。まぁ。本格的に警戒するのは明日からだ。今日はゆっくりと休んで英気を養うとしよう。凪ちゃんは私が守らなければならないのだから。




