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石蕗学園物語  作者: 透華
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来る“女主人公” 1

 今回はまだ、女主人公は出てきていません。多分次回には出せると思います。

 “女主人公”である桃園姫花ももぞの ひめかが学園に転校してくると聞いたとき私の胸に浮かんだのは、やはり来たかということと共に彼女が転生者かどうか何か思惑があるのか早急に確かめなければならないという思いだった。

 そして、案の定若竹わかたけ先生は“女主人公”の担任になるらしい。一番落ちる確率が高いのはここかもしれないな。ただでさえ面倒見のいい若竹先生なら転校生という立場の生徒には色々世話をやくだろうし、何より接触する時間が長いほど落ちやすいだろう。

 しかし、そう考えると選択教科によっては水瀬みずせ蒼依あおい、あと、烏羽からすば先生も危ないかもしれないな。まぁ。4人共女子に人気なので、いくら転校生という一種特殊な存在であっても、そう簡単には近づけないだろうが。水瀬は面倒見がいいようだけど、女子は女子と交流した方がいいと考えるタイプのようだし、蒼依は多分周りを巻き込む。烏羽先生は若竹先生と違って基本的に放任だから、よっぽどの内容じゃない限り生徒間でやり取りさせる。

 今のところ打てる手は全て打ってある。生徒会役員とファンクラブの距離を近づけること、生徒会の信用を落とさないこと、特別委員会とのパイプを持つこと、私への評価を下げないこととかね。恐れられるのはかまわないが、評価が下がったり舐められると困るからな。

 生徒会役員とファンクラブを近づけたのは単純に愛情が憎しみに変わることを期待したからだ。もし、生徒会役員が桃園姫花に魅了されファンクラブに見向きもしなくなったら彼女達は失望するだろう。今までは振り向かれないのが当たり前だったが、一度振り向いてもらえたら希望が生まれるし、期待してしまうのだ。

 それなのに、生徒会役員がポッと出の桃園姫花に好意的に接したら、特別扱いをし出したら、どうなるだろう? 桃園姫花がこの学園のトップに立てる程のレベルの家柄の娘なら話は変わるが、そうではないようだし。

 人間にとって辛いのは信じていた者に裏切られることだ。裏切りによって人は相手を憎むだろう。いや、女の場合は相手要するに裏切った男ではなく裏切らせる原因となった女を憎み責めることが多い。私はそれを期待している。中にはそれでも生徒会役員を愛する者もいるだろうが、それも時間の問題だろう。

 どれだけ尽くしても別の女を見続ける男を愛し続けられるだろうか? 私はそれが不可能だと嫌と言うほど知っている。だから、もし生徒会役員が桃園姫花に魅了されなぎちゃんを害するなら彼らのファンクラブを存分に利用させてもらおう。一時の夢を見せてやったお礼代わりに。まぁ。生徒会役員が魅了されなければいい話ではあるのだが。

 ちなみに、私は特別委員会の蒼依のハーレム要員にも同じことを期待しているのだ。特に彼女達は蒼依に本気で惚れているようだし、多少過激なこともしてくれるだろう。桃園姫花が彼女達に認められれば変わってしまうが、そう簡単には人を認めない人間が集まっているし。そうとう努力しなければ無理だろうな。

 一般生徒にしても信用している生徒会や特別委員会が1人の女生徒を巡って諍いなんて起こそうものなら、どちらに対しても失望してくれるはずだ。そうなった場合、学園が滅茶苦茶になるだろうが。それは、まぁ。仕方ないだろう。一般生徒にはいい迷惑だろうが、諦めてほしい。

 いや、寧ろ滅茶苦茶になった学園を凪ちゃんが立て直したら、どうだろうか? 周りからの信頼は間違いなく厚くなる。あぁ。でも凪ちゃんの負担になっちゃいけないか。元々生徒会役員にだってなりたくてなった訳じゃないんだし。凪ちゃんが可哀想だな。

 ただ、他の人間は兎も角蒼依と烏羽先生もといかなめさんに落ちられると少し困るな。私のことを色々知っている2人だし、桃園姫花に下手な情報を流されたら厄介なことになる。ただでさえ、GPSのせいで学園では少し動きにくくなっているというのに。

 まぁ。でも、2人がもし桃園姫花に落ちたなら、その時は――


「情報が流される前に切り捨てればいいだけの話か……」


 ポツリと呟いた独り言は私以外誰も居なくなった無機質な部屋にヤケに大きく響いた気がした。


* * * * * *


 桃園姫花が転校してくるという話は今はまだ内密らしく、話題にのぼることもない。そして、私は今日も今日とて体育祭についての話し合いに参加している。とは言っても、種目は殆ど決まり、後は競技の順番程度なので、今日話し合いを行う相手に平の体育委員はいない。

 今回の話し合いの参加者は生徒会役員プラス体育委員長と保健委員長と風紀委員長の3人だ。要するに大熊おおぐま先輩と深尋みひろ先輩と柚木ゆずき先輩なわけだが、会議がはじまるなり生徒会長VS柚木先輩の従兄弟同士の口喧嘩もはじまった。


「だから、体育祭に乗じて風紀を乱す奴らがいるだろうから、成敗しても問題ないでしょう!」


「お前のやり方は過激すぎんだよ! 周りの迷惑考えろ! この猪女! だいたい、体育祭中に風紀チェックなんざ入れる時間あるか!」


「時間がないなら作りなさいよ! この能無しサディスト野郎!」


「てめぇ。マジ一回表出ろ!」


「望むところよ! あんたなんて、ボッコボコにしてやるわ! 風紀委員なめんじゃないわよ!」


 生徒会長かなり口悪かったんだな。というか柚木先輩喧嘩の強さに風紀委員は関係ないだろう。しかし、凪ちゃんと水瀬が一方的な冷戦とするなら、この2人のは本当に喧嘩らしい喧嘩だよな。若いからこそ出来る言い争いかぁ。私には、そんな気力無いな。

 ちなみに立ち上がって喧嘩をしている2人に対する周りの反応はあかね先輩と水瀬が苦笑で見守り、凪ちゃんは非常に冷めた眼差しを2人に向けている、龍崎りゅうざきは震えたちばなを抱き込み、その橘は面白そうに見学中、大熊先輩は「どうしようか」とオロオロしている。何これカオス。

 カタンっと小さな音がした方を向くと俯いたまま深尋先輩が立ち上がっていた。やれやれ、やっと、このくだらない従兄弟同士の子供の喧嘩は終わるらしい。


みどりちゃんもけい君も、いい加減にしようね? じゃないと私…………本気で怒るよ?」


「「はい」」


 深尋先輩は普段温厚だが、キレるとヤバい。何がヤバいって実力行使に出る点だ。深尋先輩の家は古くから続く道場で武道一家である。深尋先輩も例に漏れず、かなり鍛えているため大人しい性格や優しい外見に反して滅茶苦茶喧嘩が強い。そこらの不良なんて目じゃないし、金持ちに有りがちなSPすら不要なレベルらしい。

 幼なじみである生徒会長と柚木先輩は当然それを知っているためキレた深尋先輩には条件反射で逆らえない、というより絶対服従状態になるようだ。まぁ。今はまだキレかかっている状態のようだが。実際キレたらどうなるのか少しだけ興味がある。


「それじゃあ、話を再開しましょうか。とりあえず、保健委員は救護用テントで午前午後に分かれて待機で問題ないかしら? 深尋ちゃんはずっと救護用テントに居続けるみたいだけれど、構わないの?」


「えっと。うん。大丈夫だよ。今までの保健委員長も皆そうだったみたいだし」


 茜先輩は何事もなかったかのように会議を再開させた。慣れているからこそ出来ることなんだろうな。深尋先輩も普通に答えてるし。生徒会長と柚木先輩はバツが悪いのか拗ねたように座っている。本当にこういうところは似た者同士というか。いや、元々この2人は同族嫌悪って感じだったから似ていて当然だな。

 オロオロしていた大熊先輩も茜先輩と深尋先輩のやり取りにホッとしたような表情を浮かべている。だから龍崎。お前もいい加減橘を離してやれ。橘自身は気にしていないようだが、男同士でひっついているのは見てるこっちが暑苦しい。


「体育委員は競技の補助や審判。風紀委員は牡丹組、薔薇組に分かれて見回り。僕達生徒会役員は基本的にそれぞれのチームを統率しつつ臨機応変に対応ということでいいんですよね?」


 水瀬が大熊先輩、柚木先輩、生徒会長を順々に見て確認するように声をかけると大熊先輩はしっかり頷き柚木先輩と生徒会長は半ば投げやりに頷いていた。餓鬼かお前ら。


* * * * * *


 一応役割分担も決まり競技順も決まり気づけば4月の中旬になっていた。実力テストも無事終わって結果も出た。相変わらず私は学年一位をキープしていたが、どうやら桃園姫花の転校時期が4月下旬になったのは実力テストとずらすためだったらしい。

 まぁ。編入試験を受けて転校して来たのに直ぐに実力テストとか面倒くさいにもほどがあるか。しかし、編入試験で受かるくらいには頭の出来はいいらしいな。ただ、要さんから成績が凄くよかったというような話を聞かないあたり、そこそこといったところか。

 だが、恐ろしいのは主人公補正というものだ。ラノベにしても何にしても割とこの主人公補正というモノがある。今までは発揮されなくても舞台――今回は石蕗つわぶき学園――に立った途端発揮されることがあるのだ。それに対しては気をつける必要があるだろう。

 何も私はこの世界が完全に石蕗学園物語というゲームの中だとは思ってはいない。なんせイレギュラーがそれなりにあるからだ。だが、類似点も多すぎるため全く違うとも言えないのだ。“女主人公”の人となりを見極めて行動を考えなければならない。全ては私と凪ちゃんのために。他の人間の幸せはこの際捨てさせてもらう。それが私の選んだ道なのだから。



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