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石蕗学園物語  作者: 透華
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体育祭問題 ある妖精の回想

 生徒会補佐が雪城瑠璃ゆきしろ るりちゃんだったと嬉しそうに、けれど、どこか不満げに教えてくれたのは私達特別委員会のトップ風紀委員長の柚木翠ゆずき みどりちゃんだった。

 私と翠ちゃんは同じ幼稚舎からの持ち上がり組で所謂内部生。本来なら学年も違う奨学生の瑠璃ちゃんとは会うことなんて、まず無い。それでも、私が瑠璃ちゃんと出会えたのは翠ちゃんに紹介してもらえたからなのよね。

 翠ちゃんは友達である私に紹介するくらい瑠璃ちゃんを気に入っているから、委員会じゃなくて生徒会に入ったのが気に入らないみたい。翠ちゃんと生徒会長の紫堂しどう君は従兄弟だけど仲が悪いから、その従兄弟に気に入っている後輩をとられたような気分だったのかしら。

 実際は紫堂君の引き抜きなんかじゃなくて瑠璃ちゃんが実力で奪い取った地位だとも分かっているから強く言えなくなっちゃったみたいね。

 まぁ。そんな翠ちゃんをキッカケに私は瑠璃ちゃんと交流を開始したの。交流とは言っても学園でたまに会った時に相談にのってもらうくらいだけれどね。

 そう。私が瑠璃ちゃんにしか相談できないのは私の最愛の人である大熊鉄おおぐま てつ君のこと! 鉄君は普通の家柄の子でスポーツ特進科の生徒要するに外部生なのよね。私はずっと同じような価値観を持った内部生の子達と交流をしていたから鉄君と何を話せばいいか分からなくて困っていたの。

 だから、鉄君と似た価値観を持つ瑠璃ちゃんと出会えたことは私にとって、かなりのメリットがあったわ。瑠璃ちゃんにもメリットがあったみたいだし利害の一致で手を組んだ感じかしら。

 あっ。鉄君を好きになった理由?瑠璃ちゃんには「一目惚れ」って言ったけれど実は違うの。どうして「一目惚れ」って言ったかって? そっちの方が何だかロマンチックでしょう?

 鉄君を一目見た時の感想は名前通りの男の子って感じだったわ大きくて熊みたいで。私は女生徒の中でも小柄だったから余計に大きく感じたのかもしれないけれどね。外部生と内部生だから一年の時は違うクラスで二年の時に同じクラスになったのよ。

 同じクラスになって鉄君に対して思ったことは「損をしそうなタイプ」だったわ。外部生内部生関係なく重い荷物とかを持っていたら助けてあげて、困っていそうな人のところには駆けつけてた。正直に言って親切すぎる彼が苦手だったの。私はそういう人間ではなかったから。

 そんな、ある日のことだったわ。私はいつも通り告白場所に行ったの。あぁ。男子に告白されるのなんて日常茶飯事だったのよ。皆私の容姿と家柄に惹かれるのよね。普段は一度振ると諦めてくれるのだけれど、その日の相手は振った途端に私を壁際に押しやって、体を触ろうとしてきたのよ。本当に気持ち悪かったわ!

 それを助けてくれたのが、偶々通りかかった鉄君だったの。私に触ろうとする男子を引き剥がして後ろに庇ってくれたわ。そして、男子に説教したの。「いくら好きだからって自分より弱い人間に乱暴なことをするな。それは、相手のためにも自分のためにもならない」って懇々と男子に説いたわ。

 そうしたら、どうなったかって? その男子は鉄君に心酔しちゃったのよ。今まであんなに丁寧に説教されたことなかったのね。私にも土下座せんばかりの勢いで頭を下げて、1人満足げに帰って行ったわ。残された私と鉄君は少し驚いてしまったけれどね。

 その後、鉄君は私に言ったの。「もしかしたら、また、今日みたいなことが起きるかもしれない。そうしたら、大変だから告白の時なんかは友人についてきてもらった方がいい」ですって。真っ直ぐな真摯な目で見つめられたわ。見下ろされているのに不思議と威圧感はなくて、熊さんみたいな愛嬌があったの。

 私はその時に鉄君に恋をしたの。恋をしたのは初めてだったわ。初恋が高二だなんて笑わないでね。とりあえず、私は次の日には、助けてもらったお礼としてカルティエの腕時計を贈ったわ。そうしたら鉄君たら吃驚しちゃって「こんな高そうなモノ貰えない。そんなつもりで助けたんじゃない」って受け取ってくれなかったの。とても悲しかったわ。きっと喜んでくれると思っていたのに。

 それからも私のアプローチは悉く失敗したわ。何かある度に高価なモノを贈ると鉄君は困った顔で拒絶したの。高いものほどもらうと嬉しいものじゃないのって鉄君の気持ちが全く分からなかったわ。上目遣いで見上げたら顔を真っ赤にして逃げてしまうし。この容姿も役に立たないなんて初めてだった。

 そんな時に私は見てしまったの外部生ながら生徒会役員をしていた水瀬みずせさんと穏やかに会話してる鉄君を。確かに水瀬さんはモデルみたいにスラッとした私とは違うタイプの美少女だった。もしかして鉄君のタイプはモデル系なの? だから私に振り向いてくれないの? って悲しくなったわ。しかも、鉄君は穏やかな顔なのに、水瀬さんはお人形みたいな顔をしたままだった。凄く腹が立って悔しかった。

 そんな時に翠ちゃんから水瀬さんの親友である瑠璃ちゃんを紹介されたのよ。最初は瑠璃ちゃんに相談するのを躊躇ったわ。だって水瀬さんの親友だもの。私から見たら一番のライバルである子の親友に相談するなんて、考えられなかった。けれど、瑠璃ちゃんに相談したら、とんとん拍子に話が進んだのよ!

 瑠璃ちゃんは「大熊先輩はなぎちゃんが好きなわけじゃないですよ。凪ちゃんは単純に同じ外部生で気にかかったから声かけられたみたいって言ってましたし」って話してくれたけれど同じ外部生ってだけでお話をしてもらえるの! って驚いたわ。そして、やっぱり、お人形みたいな水瀬さんに腹が立った。

 けれど、そんな水瀬さんは瑠璃ちゃんに対してだけは笑っていたわ。まるで普通の女の子みたいに。その時に思ったの。水瀬さんはお人形なんかじゃなくて、ただ区別してるだけなんだって。鉄君はそれを知っていたから水瀬さんを気にかけていたんだって気づいたの。私は鉄君にかまってもらえる水瀬さんを勝手に悪者にしていただけだったみたい。そう分かった時、本当に恥ずかしかったわ。

 瑠璃ちゃんにはプレゼントのことも相談してみたの。そうしたら目から鱗のような回答が返ってきたのよ! 瑠璃ちゃんは「一般庶民に近い大熊先輩ならカルティエとか貰っても扱いに困りますよ。それに、どうせだったら実用的なスポーツタオルとかハンカチとかあげたらどうですか。あっ。値段は高くて三千円くらいですかね。あと、試合を応援に行くとかしたら渡しやすいんじゃないですか?」って教えてくれたわ。

 三千円なんかの安物のプレゼントで満足するのかしら? って正直に言って半信半疑だったけれど、その通りにしたら初めて鉄君がプレゼントを貰ってくれたの! その上「試合応援に来てくれて、ありがとう」とも言ってもらえたわ。

 それから私は一般庶民の感覚を勉強して鉄君にあわせるようにしたの。手作りのお弁当を作ってみたり、少女マンガを参考にして蜂蜜レモンとかを差し入れしたり。そして見事鉄君の彼女という位置を射止めたわ!

 私の頑張りを知っている翠ちゃんや深尋みひろちゃん、それから瑠璃ちゃんは祝福してくれたし、両親も若干男性不信気味だった私に恋人が出来たことを喜んでくれたわ。鉄君の人柄や次男で家を継ぐ必要もないってところも高得点だったみたい。

 だから、今私はとても幸せなのよ。きっと、これからも幸せでいられるわ。両親も説得済みだから上手くいったら、四年後には鉄君のお嫁さんになれるんだもの! けれど、私は瑠璃ちゃんが祝福に混ぜてポツリと言った言葉が忘れられないのよ。


――本当によかったです。胡桃くるみ先輩が嫉妬に狂って凪ちゃんに何もしなくて


 その時の瑠璃ちゃんはいつも通りの愛想笑いだったけれど、目は笑っていなかった。瑠璃ちゃんの表情は基本的に無表情か愛想笑い。そして、水瀬さんにだけ本当の笑顔を見せる。

 私はその時理解したわ。この子は私達の幸せを願って私の恋を後押ししたわけじゃなかったって。ただ、水瀬さんの邪魔になるかもしれない人間を消しておきたかっただけだったと。

 その後、瑠璃ちゃんが「石蕗つわぶきの魔女」と呼ばれる理由になった事件でそれが正しかったと思い知ったの。どうして、瑠璃ちゃんがそこまで水瀬さんにこだわるのか私には分からないけれどね。

 兎に角、私は自分と鉄君のためにも絶対に瑠璃ちゃんを敵に回すような真似だけはしないと心に誓ったわ。一度でも敵に回れば、きっと彼女は情け容赦なく私達を排除するもの。


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