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石蕗学園物語  作者: 透華
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体育祭問題 3

 生徒会長が昨日出た案を体育委員達に伝えると、私やなぎちゃんと同じく外部生が多かった体育委員達は馴染みのある種目にワッと盛り上がった。どうやら、彼らもリレー競技だけがやたらと多い、この学園の体育祭に刺激を求めていたらしい。

 大玉転がしはチーム制なのでクラスメイトとの仲を縮めるキッカケにもなり、大玉は操作しやすい大きさの物を手配すればいいという話になり種目として追加されることが早々に決まった。皆乗り気すぎだろう。

 その上、3人一組のチームとしチームワークを強めるために3人全員の手が大玉に触れていなければならないというルールまで付け加えられたのだ。綱引きは恐らく手袋をしても女生徒は嫌がるだろうから却下された。障害物競争については、たった今議論の真っ最中である。


「平均台くらいなら大丈夫じゃないか?」


「でも、急ぐあまり落ちて怪我されたら困るだろ」


「ギリギリ両足で歩けない広さと落ちても怪我しない高さの平均台使えばいいんじゃね?」


「「「「「それだ!」」」」」


 生徒会役員そっちのけで繰り広げられる体育委員達の話し合いをぼんやりと眺める。いやはや、これは楽でいいな。このまま勝手に進めて勝手に決めてくれたらいいんだが。流石にそこまでは望んじゃだめかな?

 体育委員達から目をそらし少し気になっていたあかね先輩をチラリと見ると赤いペンやら黄色いペンやら六色のペンを並べあみだくじを辿っていた。それぞれ六クラスずつあるから六色使っているんだろう。顔は真剣そのものだが、見ているのが重要な書類ではなく、あみだくじというのが何ともいえず笑えてくる。

 いや、言い出したのは私だけど、まさか、こんなことになるとは思っていなかった。茜先輩には明日にでも生徒会長に貢がれた高級洋菓子をあげることにしよう。いや、手作りで何か持って来た方がいいか? 人からもらったもの――しかも、その人の親友に渡すのは流石に失礼だろうし。


「しかし、障害物競争の割に障害物が平均台だけってのはつまらないよな」


「確かにな……」


「お前のところ何があったよ?」


「うちは網くぐり」


「うちトンネル」


「うち飴食い」


「うちは飴じゃなくてパンだった」


「うち麻袋」


「うちキャタピラ」


「キャタピラ!?」


 うん。盛り上がっているようで何よりだ。様々な意見の交換なんて、会議らしくていいな。しかし、聞いてみると結構色々あるものだ。そういえばうちもまだ出てないやつが幾つかあったな。


「うちはテニスラケットにボール乗っけて走るのがありましたよ。あと、ぐるぐるバットとか縄跳びとかタイヤとか。あっ。それに跳び箱とかハードルとか三輪車とかも有名ですよね。変わり種なら、飲み物の一気飲みとか?」


 そう言うやいなや議論していた連中の視線が一気に私に集中したが、まぁ。いいだろう。多分生徒会役員で彼らの言っている内容を正しく理解してるのは公立校に通っていた経験を持つ外部生である私と凪ちゃんだけだし。


「今までの発言をお聞きしますと、トンネルは大丈夫だと思いますよ。ただ、飴食いとパン食いは下品だとか言われそうですよね。網くぐりと麻袋とキャタピラは危険って言われそうですし」


「確かに!」


 大熊おおぐま先輩が納得したように頷くと周りもうんうん頷きだした。何というか生徒会長達の取り巻きとは違う意味で暑苦しい取り巻きだな。


「だが、雪城ゆきしろ。お前が今あげたヤツなら幾つか出来るんじゃないか?」


「そうね。瑠璃るりちゃん。ラケットリレーとか縄跳びとかならいけるんじゃない?」


 大熊先輩と凪ちゃんにはそう言われても、口出ししておいてなんだが私は判断できる立ち位置にいないと思うんだけど。というか、あくまで私は生徒会の補佐でしかないんだから、勝手に判断したら間違いなく問題があるだろう。意見を求めるように生徒会長に視線を向けると彼は即座に立ち上がった。


「とりあえず、お前達の意見をまとめることにする。凪。ホワイトボードに書いていけ……あぁ。あと、各競技の簡単な説明も載せておけよ」


 生徒会長はやっぱり話の内容が全く分かっていなかったらしい。それじゃ判断のしようもないか。まぁ。当然かもしれないな。どれも金持ち学園には無縁の競技だろうし。ちなみに凪ちゃんは普段は書記として最初からホワイトボードのところにいるのだが、今日は最初から体育委員達の中で話し合いが加速していたので私の隣でメモをとっていた。

 ホワイトボードに凪ちゃんの綺麗な字で流れるように次々と競技名とその競技の簡単な説明と体育祭で実現可能か不可能か、ということだけでなく懸念事項も書かれていく。何とも読みやすくて分かりやすい。流石凪ちゃん書記の鏡だ。


「なるほどな。確かに平均台、トンネル、ラケットリレー、縄跳びは出来そうだ。あとは跳び箱と一気飲みも可能なんじゃないか? これなら安全面でも文句を言われることはないだろう」


 会長は満足げに頷きながらホワイトボードを見つめている。「謎が解けた」とでもいいたげな清々しい表情だが、隣で必死になって、あみだくじ辿ってる茜先輩にも目を向けろよ。他の生徒会役員(茜先輩以外)も満足そうだ。本当に話についてこれていなかったらしい。馴染みがないと大変だな。だが、私達外部生は皆同じような感覚を味わってきたんだから、たまには内部生の生徒会役員が同じ気分を味わうのもいいだろう。


紫堂しどうが、そう言うなら安心だな。これで障害物競争の問題は解決か」


 ほくほくとした表情を浮かべる大熊先輩に少し癒されながら、時計を見る。コレは結構ヤバいんじゃないか? ここから見る限り、あみだくじは、まだ二枚目の途中のようだが時間はあと五分くらいしかない。ほぼ間違いなく会議終了に間に合わないだろう。


水瀬みずせ君」


 小声で凪ちゃんの席より一つ向こうに座っている水瀬に呼びかけると彼も顔を近づけてきた。凪ちゃんから水瀬に対して鋭い視線が送られている気がするが私が相手じゃないので気にしない。もしかして、ヤキモチかな? だったら少し嬉しいんだけど。


「茜先輩大丈夫だと思いますか?」


「えっ?」


「あみだくじ2枚目の途中みたいです」


 水瀬は私の言葉に茜先輩の方を見ると険しい表情を浮かべた。生徒会長が後ほど発表するとか言うからこう言うことになるんだ。明日とか言っとけばよかったのに。一度言ったことが出来なかったとなると生徒会の信用度にも関わる。大したことではないかもしれないが、些細なことの積み重ねが大切なのだ。今はまだ周りに信頼される生徒会でいてもらわなければ困る。


「分かった。僕が何とかするよ……すみません。少しいいですか。障害物競争の競技の順番はどうしましょうか?」


 水瀬は終わったと周りが思い始めていた障害物競争の話を蒸し返すことにしたらしい。確かに競技の順番は大切だし妥当な判断だ。しかし普段の水瀬なら私が気づかなくても茜先輩の様子に気づきそうだが、訳の分からない話を周りでされていたせいで気が散っていたのかもしれない。


「確かにな……競技順はどうするか……」


「ウォーミングアップもかねて最初は縄跳びかラケットリレーがいいかもな」


「それなら、縄跳びがいいんじゃないか? 走りやすいし」


「いや。ラケットリレーの方がウォーミングアップにはいいんじゃないか?」


「待て待て、ラケットリレーと縄跳びを最初と最後に配置するとして間はどうするよ?」


「間は平均台とトンネルか?」


「いや、それなら、平均台、縄跳び、トンネル、ラケットリレーとかにした方が見応えあるんじゃねぇか?」


「確かに見応えも大切だよな」


 再び体育委員達だけで盛り上がりだした。時計を見ると丁度予鈴がなるくらいの時間だ。思わずニヤリと笑う。予鈴がなると授業によってはギリギリになるので急いで会議室を出て行く。

 キンコンカンコーンと公立校と変わらないチャイムが鳴り響くと皆話をやめ生徒会長に視線を向けた。一応生徒会長の許可がないと会議室から出られないのだが、そわそわしている人もいるので恐らくチームの発表は明日になりだろう。


「本日の会議はこれで終わりとする。話の続きもチーム発表も明日だ。もう、教室に戻っていいぞ」


 その声に数人の体育委員がダッシュで会議室を出て行った。流石運動部素晴らしい瞬発力だな。チームが気になるのか名残惜しげにしている体育委員もいたが、茜先輩はあみだくじをいつの間にか隠し、そいつ等にニッコリと笑顔を向けて撃退していた。


* * * * * *


「へぇ。いい感じでバラけましたね」


「本当にね。生徒会役員全員同じチームとかだったら、どうしようかと思ったわよ」


「確かに、変な疑いもたれそうですしね。そもそも、僕達のクラスだけで既に3人集まってますし」


「僕は浅葱あさぎと同じチームがよかったなぁ」


「お、俺も萌黄もえぎと一緒がよかった」


「なんだ。萌黄? 俺と茜じゃ不満か?」


「浅葱も僕達が一緒じゃいやかな?」


「うぇ。けい先輩」


「そ、そ、そ、そ、そんなつもりじゃないっす」


「螢も颯君もからかうのはやめなさいな」



「私は瑠璃ちゃんと同じクラスで心底よかったと思ったわ。離れる心配ないし」


「私もだよ凪ちゃん」


「君達2人だけで世界作るのをやめてくれないかな? 一応僕もいるんだけど」


 嘆く水瀬に凪ちゃんと2人で冷めた視線を送る。結局茜先輩があみだくじを辿り終えたのは放課後の生徒会室でだった。クラスでやるわけにもいかなかったせいか、生徒会室でもあみだくじに10分近くかけていた。

 辿り終わったあみだくじを見せてもらうと六色のペンの色が混ざり合った部分がいくつもあり、いかに辿るのが面倒だったかが、よく分かる。やっぱり、何か差し入れを持ってこよう。いいだしっぺとして、それぐらいはしなければな。

 チームは、私、凪ちゃん、水瀬、龍崎りゅうざきが牡丹組。生徒会長、茜先輩、たちばなが薔薇組になった。いい感じで分かれてくれたと思う。これなら変な疑いをもたれることもないし、統率力においても、さして問題はないだろう。


* * * * * *


 かなめさんからその情報をもらったのはチーム決めの後に残り続けていた種目も粗方決まり、やっと一息つけた時のことだった。私の家で夕食を食べながら、彼は言った。

 ――そういえば、4月下旬という中途半端な時期に若竹わかたけのクラスに転校生がくるらしい――要さんが、その時告げた名前は桃園姫花ももぞの ひめか。そう私がおぼえている“女主人公”の名前そのものだった。

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