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石蕗学園物語  作者: 透華
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密談 1

「そういえば、木賊とくさ先輩は以前、私が本来なら“女主人公”が居る位置に存在していると言ってましたよね?」


『そうだよ。本来なら生徒会補佐というのは“女主人公”の立ち位置だ』


 なぜ、木賊先輩と話をしているかは今後の方針を決めるためだ。朽葉くちは達のせいで私が今まで以上に目立つようになったため早めに話せることは話しておくことになった。妙な噂を避けるため電話での会話だが、表情を読まれる心配がないため気楽ではあるが、電話自体があまり好きではないので複雑だ。


「もしかして、なんですが、私って“女主人公”が本来得るべき好感度まで横取りしてませんよね?」


『ん? ああ。雪城ゆきしろさんは生徒会役員とか特別委員会とかの人間と仲がいいもんね。その点について言うなら、横取りとかのレベルじゃないよ。“女主人公”はどのルートを選んだとしても今の時期に君ほどの人脈は築けないからね。特に特別委員会の人間とは殆ど面識がない時期だ。“女主人公”の物語は本当に二年生の新学期から始まるからね。ゲーム開始前から何らかの関わりがあるとしたら教師陣くらいなものだよ』


「そうですか……。なんだか、皆さん異常に親切なんで、俗に言う“主人公補正”ってやつが私にかかってるのかと思いましたよ」


 割とマジで。だって異様に好意的だし。私だったら今の私みたいに危険人物と称される人間には極力近寄りたくないからな。


『ははっ。それはないから安心してよ。雪城さんの場合は水瀬みずせさんの為に行動した結果、今の状態に落ち着いているわけだからね。それは、主人公補正云々の話じゃないさ』


「そうなんですね。まぁ。“雪城瑠璃ゆきしろ るり”はゲームではただの“悪役令嬢”の取り巻きみたいですし、私みたいな行動はとらなかったでしょうね。あぁ。そうだ、それなら蒼依あおいの方はどう思います?」


『うん。確かに“雪城瑠璃”と君は随分と違う性格をしていると思うよ。ひいらぎの方も“主人公補正”はないだろうね。アレは天然の人誑しだ。もし、柊に“主人公補正”がついていたなら、もっと色々やらかしてないとおかしいよ』


 木賊先輩は蒼依のことを天然の人誑しだと思ってたのか。なんか意外な評価だな。まぁ。でも、後者には全面的に同意する。アイツに“主人公補正”なんてついていたら、色んな意味でヤバかっただろう。今ですら、大概だしな。


「はぁ。しかし、私と蒼依に妙な補正がないのは分かりましたが、問題は桃園ももぞのさんをどうするかですよね……。もう少ししたら夏休みですけど、桃園さんにゲームの知識とやらがあるなら生徒会役員の登校日に被せて学園まで来る可能性もありますし」


『そこらへんは安心していいと思うよ。彼女は補習を命じられることにはなるだろうけど、生徒会役員との接触は学園側が阻止するはずだからね。彼女の都合にあわせて日をかえることはないさ』


 学園側も必死だな。まぁ。被害に遭ってる人間を考えると当然の処置だけど。しかし、軽いと言えば軽い対処の仕方だな。偶然鉢合わせでもしたら保護者側から苦情がきてもおかしくないのに悠長というかなんというか。ただ、被害者の立場を除いて性格だけで考えると親に対処させるのを良しとしない人間だらけだから、あんまり圧力かけてないのかもな。


「学園内では問題なしということは、問題は学園外での遭遇ですか?」


『そっちも心配はないかな。蓬生ほうしょう家が至るところにアンテナを張って君たちとはち合わせないようにするはずだから』


「なんというか蓬生家も大変ですね……。そういう蓬生家との関係とかもゲームで出てきたんですか?」


『確かトゥルーエンドの結婚式で実は蓬生家と繋がりが……みたいな感じだったよ。まぁ。そのせいで『別にシンデレラストーリーじゃなくない?』って意見が結構でたみたいだけどね』


「蓬生家は上流階級ですもんね」


 シンデレラストーリーをうたっているなら蓬生家の設定は完全に蛇足だよな。しかし、それなら、バッドエンドの理由はなんだ? “男主人公”や生徒会役員までは行かなくても蓬生家は上流階級なんだし、身分違いの恋だから悲惨な目にあうと言われるバッドエンドに行き着くのはおかしい気がするんだが。


『そうそう。……ああ。そうだ。蓬生と桃園さんの関係もイレギュラーに入るかもしれないね。彼はゲーム内では女誑しの三年として少し登場するくらいで、積極的に主人公達に関わることはないんだよ』


「それも、変な感じですね。……そういえば、今更ですけど“女主人公”って私と同じ奨学生なんですか?」


『そうだよ。君と同じく“女主人公”は奨学生として入学して君のように生徒会補佐になるんだ』


「あれ? ってことはゲームでは上流階級者である蓬生先輩の従姉妹が奨学生として通ってるってことになりません?」


 そうだ。前から感じてた違和感は、ここだったんだ。ゲームでも蓬生家と関係があるなら『奨学生』という設定には些か無理がある。上流階級者の従姉妹が『奨学生』として同じ学園に通っているなんて、そんな外聞の悪いことをはたしてするだろうか? それに、その親戚は女誑し先輩は、渾名の通り女性に甘い人間だ。関係はゲームでは違うかもしれないが、従姉妹が奨学生という周りに妬まれる立場になることを許容するのはおかしい。まぁ。製作中に生まれた矛盾とか、残してしまった没設定とか言われれば、それまでだが、此方としては、それではすまないのだ。


『……そう、だね。言われてみれば、おかしな話だ。確かに蓬生の従姉妹である“女主人公”が奨学生なのは違和感がある。上流階級の中では遠縁でも身内を奨学生として入学させるなんて外聞が悪いと忌避される行為なのに直系とも言える人間を奨学生として入れるなんて考えられない話だ。絶縁関係だったとかなら話が変わるけどね……もしかしたら、この世界は私達が生まれるより前から何かしらの改変があるのかもしれない』


「そこまで仰るということは、要するにゲームの中では“女主人公”の桃園家と蓬生家が絶縁してる可能性があって、この世界ではその点が改善されてるってことですよね?」


『話が早くて助かるよ。そうだね。ゲームでは絶縁関係なんて話は出てこなかったけど、恐らく絶縁に近い関係ではあったんだろう。そうじゃないと、もっと蓬生家が……というより蓬生が出てこないとおかしいからね』


 まぁ。今の2人の関係を考えるならゲームの中で、でしゃばって来てもおかしくないしな。というより、でしゃばらないとおかしいか。


「でも、絶縁していたとなると理由はなんですか? ゲームでは知りませんが、桃園さんの家って、ちょっと裕福な一般家庭ですよね?」


『桃園というのは母方の名字なんだよ。父方が蓬生だったはずだ。要するに桃園さんの父親は婿養子という形になる。絶縁の理由は大方結婚関連だろうね。蓬生家にしても何処の家にしても直系の息子を婿養子に出すのは嫌がる家が多いから』


「なるほど。私にはよく分かりませんが、妙なプライドが働くって感じなんですかね。しかし、ということは、桃園家か蓬生家――それも蓬生家の当主直系の方々に近い誰かがゲームとは違う何かをしたと考えた方がいいでしょうね。そうじゃなきゃ、結婚云々に関して考え方を変えさせるとか無理でしょうし」


 そうだとすると、その転生者は今の状況をどうみているんだろうな。自分が苦労して、改善させた関係を悪くされるような、クソ女の行動を考えると少なくともいい気分では、ないだろう。


『そう考えていいだろうね。こちらの線は私が調べてみるよ。隠すようなことでもないだろうし恐らく何かしら出て来るだろう』


「分かりました。お願いします」


 私が下手に探りを入れて感づかれると厄介だからな。ここは木賊先輩に任せるのが得策か。何か出てきてくれるといいんだがな。

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