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石蕗学園物語  作者: 透華
1/107

はじまり 1

 はじめての投稿ですので稚拙な部分が多々あると思いますがご了承下さい。

 いきなり何を言っているんだとか頭がおかしいんじゃないかとか言われるかもしれないが、ここは俗に言うゲームの世界というやつだ。

 ゲーム名はシンプル・イズ・ベストと言う感じで“石蕗つわぶき学園物語”という何とも面白味のない名前だが逆にその潔さに好感が持てるというか。

 まぁ。ゲーム名に対する印象は取りあえずおいておくとして、私は小説なんかで、たまにいる転生者というやつだ。バッチリ前世で死ぬまでの記憶を持っている。ただ、記憶を取り戻したのは、物心ついてからだったので、赤ん坊時代の恥ずかしい記憶なんて存在しない。その点については非常にありがたいと思っている。

 前世の“ワタシ”はゲームを実際にプレイしたことはないので、私もゲーム内容を把握してはいないが、“ワタシ”は前世の友人から、このゲームについて聞き少しだけ調べたことがあった。いや、調べるなんて大袈裟な言い方かもしれない。ぶっちゃけるとインターネット上のクチコミやネタバレを読んだだけだ。

 “石蕗学園物語”は簡単に言えば、恋愛シュミレーションゲームだが、男女主人公どちらを選ぶかで乙ゲーかギャルゲーかゲーム内容が変わるという一風変わったものだったので“ワタシ”は知らなかったがネット上では発売前から色々話題になっていたらしい。

 確か乙ゲーのキャッチコピーは“現代版シンデレラストーリー”でギャルゲーのキャッチコピーは“どれだけ人を好きになれるか?”だった気がするが、そこら辺は割と曖昧だ。キャッチコピーなんて一々覚える気もなかったし。間違っている気しかしない。

 そこまで、考えてから、いつもより早めに家を出なければならなかったことを思い出した。考えながらだったせいか遅くなっていた動きを速め赤と黒のストライプ模様のネクタイを締める。

 変なところはないか確認をするために鏡の前に移動した。鏡には第一ボタンまでしっかり留めた白いシャツに石蕗の花を模した金色を基調にした華美な校章がついた紺色のブレザーと膝丈の灰色のプリーツスカートに黒いハイソックスを履いた腰までの黒髪に黒目の平凡な少女が映っている。”ワタシ”と比べると可愛らしいが周囲の顔面偏差値が高すぎるので今では平凡にしか思えない。

 現在の私は“女主人公”――ではなく、サポートキャラになりがちな“女主人公”の友人でもない。そう私は“悪役令嬢”――の取り巻きというなんとも言えない役を与えられた“雪城瑠璃ゆきしろ るり”という高校二年の女生徒だ。役割に気付いた時は暫し呆然としたが、なってしまったからには仕方ない。

 皮肉なことに私の名前は前世と全く同じ名前だ。一文字の違いもない完全なる同姓同名だ。私をこの世界に転生させたヤツは喧嘩を売っているのかと同姓同名だと気がついた時に思ったものだ。いつか、会う機会があったら是非一発殴らせて欲しい。

 まぁ。同姓同名という共通点があったからこそ、前世の友人は“ワタシ”にこのゲームの話をしてくれたわけだし、“ワタシ”がネットで検索したのも同姓同名のキャラがどんなキャラなのか気になったからだったしな。

 だが、私はそんな同姓同名のゲームキャラに転生したにも関わらず、此処がゲームの世界だと直ぐには考えいたらなかった。“女主人公”の攻略キャラの1人と幼少期に出会ってさえいるのにだ。その時ですら、まだ此処がゲームの世界だなんて半信半疑だったのだ。

 その疑惑が確信に変わったのは“悪役令嬢”となる少女と小学校で出会ったことがキッカケだった。しかも“男主人公”とも浅からぬ接点があるときたら、もうゲームの世界と認めるしかない。

 正直に言って、この3人との関係については非常に驚いた。なんせ、ネットでみた“雪城瑠璃”は取り巻きとは言っても、あまり焦点のあたらないキャラだったし“男主人公”の場合は端役も端役だったはずなのだ。というか、登場していたのかすら疑わしいレベルだった気がする。ついでにいうと“女主人公”は、ゲームの設定上入学しているはずなのだが名簿にも名前が載っておらず目立つ容姿のはずなのに見たこともなければ噂を聞いたことも一度もないという不可解な状態だった。

 ちなみに“男主人公”が既に居るからといって“女主人公”が居なくなるということはない。どちらを選択しても“存在”していることはゲーム中で明言されているのだから、どこかに居るはずなのだ。

 私が転生者であるゆえに生じたイレギュラーがあるのかと考えても当たり前だが答えは出ず、結局物語の始まる高校二年の春までズルズルと来てしまった。

 ため息を吐きながら焦げ茶色のローファーを履き、電気を消して外に出る。マンションの廊下から見上げた空は私の気持ちとは逆に嫌みなくらい晴れ渡っていた。


* * * * * *


「瑠璃ちゃん。おはよう!」


「おはよう。凪ちゃん。ごめんね。待たせちゃったかな?」


「ううん。全然! 私もちょっと前に来たところだから! それより、瑠璃ちゃんどうかしたの?」


「心配してくれて、ありがとう。凪ちゃん。でも、何でもないから安心して。それより、早くクラス表見に行こう」


「それならいいけど……」


 凪ちゃんは心配そうに私を覗きこんできた。憂鬱な気分が顔に出ていたらしい。普段からポーカーフェイスを売りにしているというのに油断していたかもしれない。単に凪ちゃんの観察眼が鋭いのかもしれないが。

 栗色のウェーブがかった髪に同色の大きな円い瞳。その瞳を縁取る睫毛は非常に長く繊細で、唇はリップも塗っていないのに桜色に艶めいている。10人が10人美少女と認める女の子。町を歩けば老若男女問わず皆振り返るし、表現としては間違ってないはずだ。

 私と同じく高等部の制服の紺色のブレザーに白いシャツ。第一ボタンは開いているが赤と黒のストライプの入ったネクタイをしっかり締めている。灰色のプリーツスカートの下には紺色のハイソックスに黒のローファーを履いている。

 ちなみにスカートの下は色が黒、紺、白のどれかならタイツでも靴下でもいいし、ローファーも焦げ茶、黒、茶、紺のどれかならいいことになっている。

 私もほぼ同じ格好のはずだが、凪ちゃんが着ているとモデルさんの撮影用の服みたいに見えるから不思議だ。私との明確な違いは校章とは逆にある胸ポケットに金色に光る石蕗の花の形をしたバッチがついていることだろうか。

 彼女が本来ゲームキャラとしては“悪役令嬢”という役割の少女だと言って果たして、この学園にいる何人の人間が信じるだろう?

 そう今、私を心配そうに見つめている優しくて可憐な美少女こそ“悪役令嬢”こと水瀬凪みずせ なぎその人なのである。

 ここで一応、乙ゲーのあらすじを教えておこう。私立石蕗学園は金持ちの通う名門校。一般庶民の“主人公”は奨学生として石蕗学園高等部に通うことになる。奨学生として入学した“主人公”は二年進学と同時に一年間筆記試験で一位を取り続けた実績をかわれ生徒会補佐に任命され、攻略キャラの殆どが所属する生徒会と密接に関わっていくことになるのだ。金持ちの常識に染まらない考えで色々な意味で複雑(主に家庭環境)な攻略キャラに影響を与え恋に落ちる。

 故にキャッチコピーは“現代版シンデレラストーリー”なのだろう。なんせ、トゥルーエンドの殆どは攻略キャラとの結婚で終わるから。

 攻略キャラは先輩2人同輩1人後輩2人教師2人全員で7人+隠しキャラ(男主人公)の計8人とかなり多い。隠しキャラはダウンロード式だった気がする。

 しかも、エンディングはそれぞれのキャラでバッドエンド、ノーマルエンド、ハッピーエンド、トゥルーエンドが存在し、バッドエンドは攻略キャラとの仲を引き裂かれることは共通しているが、総じて悲惨なことになる。ノーマルエンドは友情エンドとも言われお友達として仲良くしましょうねという感じだ。ハッピーエンドは恋愛だが、結婚するかどうかは分からないところで終わる。

 この作品には逆ハーエンドはない。ゲーム中で逆ハーっぽくなることはあるが、そこまで行くと誰を選んでも最終的にはノーマルエンドにしか行き着かない仕様になっているらしい。

 友人は、良家の子息を何人もたぶらかしてノーマルエンドにいくだけマシ。寧ろバッドエンドにいかないだけ親切な設定だと言っていたが私もそう思う。そんな八方美人な尻軽女は親からしてみれば、邪魔なだけだろうし。

 だが、ギャルゲーにはハーレムエンドが存在すると聞いたときは愕然とした。そして、友人は言った“男主人公”と“女主人公”の性格の違いと家柄の違いによるんじゃないと。確かに“男主人公”は家柄がかなりいいので納得したが。

 さて、ここでリアルな話しに戻そう。“悪役令嬢”であるはずの凪ちゃんは、その言葉が全く似合わない女の子に成長している。ぶっちゃけ、コミュ障気味の私と親友で居続けてくれるレベルの優しい子が悪役令嬢なわけがない。

 私がこの学園に入った一番大きな理由は凪ちゃんと一緒にいるためだった。他にも進学に有利だとか色々理由はある。凪ちゃんの祖父に学園に入学してくれと頼まれたりもした。結果的にその願いを叶える形になりはしたが、それは、些細なことである。

 私の名誉のために言っておくと学力で奨学生になったのは事実だ。裏口入学ではないし、入学するよう頼んできた凪ちゃんの祖父に学費を全額払うと言われたが、それも断っている。

 なんせ私と凪ちゃんは親友だ。乙女ゲームの“悪役令嬢”は親友ではないが、今の私にとって凪ちゃんは大切な親友なのだ。もしも、水瀬家の人間に頼まれたから私が学園に入ったなんて知ったら凪ちゃんは必ず傷つく。ソレだけは嫌だったから実力で狭き門を通ったし、凪ちゃんの祖父の申し出も断ったのだ。


「瑠璃ちゃん! 私達同じクラスよ。って本当にどうしたの? 体調悪い? 保健室行く?」


「ご、ごめん。凪ちゃん。大丈夫だよ。ほ、ほら、私、今日はじめて生徒会の仕事手伝うから、ちょっと緊張しちゃって」


 苦笑をもらすと凪ちゃんは安心した表情をした後、柳眉を逆立てた。


「ほんっとう。迷惑な話よね! 瑠璃ちゃんは体あんまり強くないし、一人暮らしだし、勉強だって大変なのに生徒会の仕事まで手伝えなんて!」


「う、うん。でも、凪ちゃんのお手伝いが出来るのは嬉しいよ。一緒にいる時間も増えるし」


「瑠璃ちゃん! 私も瑠璃ちゃんと一緒にいられる時間が増えて嬉しい! 生徒会は、むさ苦しい男だらけなんだもん!」


 凪ちゃんは抱きつきながら喜びを表現してくれるが、やはりクラス表の前だけあって周囲の視線が痛い。早い時間のためあまり人が居ないのが唯一の救いといえるだろう。

 凪ちゃんは皆が認める美少女だが、私は暗い印象を与える長い黒髪に平均身長で凪ちゃんと比べると平凡な顔立ちだ。その上、凪ちゃんは水瀬のお嬢様で私は奨学生というアンバランス極まりない組合せだとも言える。まぁ。周りからの視線の理由がソレだけではないことは重々承知しているが、それは今はおいておきたい。


「凪ちゃん、そろそろ教室行こっか?」


「うん! 行きましょう」


 凪ちゃんに手を繋がれて歩き出す。昔は逆だったのになぁと、少しだけ感慨深くなった。


* * * * * *


 教室に入ると早速、攻略キャラに出くわした。“水瀬颯みずせ そう”は凪ちゃんの従兄弟で、どうやら今日からクラスメイトらしい。同じく紺色のブレザーに灰色のズボンだがネクタイは青と灰色のストライプ模様で凪ちゃん同様、石蕗の花の形をしたバッチを胸ポケットにつけていた。清潔感のある短い黒髪に水色の目の爽やかな雰囲気を持つ正統派イケメン。彼も生徒会役員で副会長の1人であり次期生徒会長と目されている。


「おはよう凪。雪城さん」


「おはようございます。水瀬君」


「おはようも何も今朝会ったばかりじゃない」


 爽やかに朝の挨拶をする水瀬に対して凪ちゃんの態度は冷ややかだ。まぁ。同じ家に住んでて同じ車で学園まで来ているから当たり前かもしれないけど。


「それでも、今日学園で会うのは、はじめてだろう?」


「そうね……とりあえず、そこ退いてくれる?」


「分かったよ。あぁ、そうだ。雪城さん。今日からよろしくね」


「……よろしくお願いします」


「ははっ。別に敬語じゃなくていいよ。同じ年だし」


 爽やかに笑うのはかまわないが、凪ちゃんが不機嫌になってると気付けよ水瀬!と内心思いながらも顔には出さないし口にも出さない。

 考えておきますとだけ答えようかと思った瞬間、凪ちゃんが先にキレた。


「邪魔よ。あんた、瑠璃ちゃんに気安く話しかけないで、迷惑なのよ」


 凪ちゃんの瞳は相変わらず私には絶対向けないほど冷ややかなものだ。凪ちゃんは私をあまり攻略キャラに近づけたがらない。それは、私が下手に家柄のいい彼らと親しくなって嫌がらせなどを受けるのを防ぐためだ。凪ちゃんは、奨学生として立場の弱い私を守ろうとしてくれているのだ。本当に優しいいい子だ。

 それは、とても有り難いし、大切にされていると目に見えて分かるので嬉しいのだが正直に言って私に嫌がらせをしてくる度胸のある人は多分この学園には殆どいない。


「凪ちゃん。早く席決めよう? 私前の方がいいんだけど。いいかなぁ?」


 話題を変えるために、凪ちゃんの手をギュッと引いて問いかける。ついでに、首も傾げておいた(我ながら気味が悪い)。ただ、凪ちゃんは小動物的な可愛いらしさを感じるらしく、この仕草がいたくお気に召している。

 まぁ。私はモデル体型の凪ちゃんよりも10センチ近く背が低いからというのと、親友補正でよく見えるというのもあるだろうが。


「もちろん! 隣同士で良いわよね? お昼は机くっつけ食べられるし! ほら、退いてよ。」


 凪ちゃんは即座に上機嫌になると、水瀬を無理矢理退かして先に進んだ。私はとりあえず、水瀬に軽く会釈し続く。


「まだ、あんまり書き込まれてないわね。あっ! 瑠璃ちゃん一番前の真ん中ちゃんとあいてるわよ! 此処にしましょう!」


「うん!」


 2人で座席表を眺めると、あっさり決まった。この石蕗学園では一年の入学式以外は基本的に席は座席表に名前を書くことで決められる。私と凪ちゃんは2人とも普通なら皆が嫌がる一番前の真ん中の二席をとることにしているのだ。

 ざっと空欄の目立つ座席表を眺めると水瀬の名前は二列目の真ん中に書かれていた。間違いなく、凪ちゃんの近くを狙った席取りだ。水瀬は何だかんだで凪ちゃんと仲良くなりたいらしい。まぁ。従姉妹だし無理もないだろうが、あまり、しつこくすると凪ちゃんはますます依怙地になるだろうな。

 書かれている名前を見つめながら首を傾げる。何故ここに“彼”が居るんだろうか? 本来なら“彼”は此処に居ないはずなのに。そっと窓際の一番後ろの席にフルネームで書かれた名前をなぞる。

 そこには、私が学園に入る前から知っている1人である“柊蒼依ひいらぎ あおい”という“男主人公”の名前が確かにあった。





 此処までお読みくださりありがとうございます。見切り発車ですので私自身どうなるか分かりませんが、定期的に投稿出来るように頑張ります。

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