一話
「あ゛ー……」
なんだか夢見が悪かった気がする。女の子がファンタジーで……。
5月の早朝。まだ少しひんやりとする空気が目を覚まさせてくれる。
白石良は普通の、嫌になるくらい普通の高校二年生だ。
何もかもが普通で、何をやっても結果は普通。大抵の事はそれなりにこなせる器用貧乏。
特徴が無いのが特徴、を地で行くが如し。
そんな良でも趣味くらいはある。読書と麻雀。
両親の趣味である麻雀に影響されて、小学生からずっと続けている。これだけは普通ではないと思っているが、両親曰く「実力は普通」だそうだ。
制服に着替え一階に降りると、台所から話し声が聞こえてくる。
「おはよう、母さん、朱音」
「あら、あはよう」
「おはよう、良ちゃん」
姉だとか義妹だとか、そんなラノベ展開でもなく、只のお隣さん。
桜井朱音。同い年の幼馴染ってヤツだ。
幼馴染で同じクラス、両親同士が友人で麻雀仲間。俺たちが仲良くなるのは必然とも言える状況だった。
あ、十分ラノベ展開だったわ。
コーヒーを飲みながら何気なくテレビを見る。
『昨夜未明、第二埠頭の倉庫で爆発事故がありました。
関係者によりますと、倉庫内の荷物は搬出したばかりで何も無い状態だったとのことで、警察は悪質な悪戯と見て捜査を開始しているとのことです。
次は---』
「物騒よねぇ」
母さんから朝食を受け取り、食べ始める。
「只の愉快犯とか、そんなんじゃないの?俺たちには関係ないよ」
「でも最近物騒じゃない」
「ん……。そうそう出くわしはしねーよ」
心配そうな朱音を尻目に、朝食を平らげ、
「んじゃ、行ってきます」
「おばさん、行ってきます」
「車に気をつけるのよー?」
家を出ると、幾らか温かくなった空気に触れ、空を見上げる。
快晴だった。
今日もまた『普通』が始まる。学校へ行き、帰って、夕飯食べて、風呂入って寝る。
機械的に同じ事を繰り返す日々。何も無く、平和で良い事だが俺は思う。
『普通』はつまらない。でも、俺は『普通』で変えられない。
もどかしい。
今を、『普通』を変えられるなら、何でもする。
そう思いながら一歩を踏み出した。