恐怖の一夜の終わりには
――さあ、キヴェラからの追っ手どもよ……
楽 し い 時 間 の 始 ま り だ よ ……!
ラスボスは動かず最後に控えているのが『お約束』?
悪戯しかしてない? やる事がせこい? 悪質?
問題ありません、私による私の為の一時ですから!
実際、盛大な仕掛けの一発を食らわすよりも小さな悪戯をちまちまやらかした方が精神的なダメージがでかいのだ。『じわじわ怖い』『不安を煽る演出』『決定的な打撃は最後』。これを目指してます。
日本のホラー映画って基本的に派手な演出が無く、じわじわと恐怖が蓄積されていく物が多い。そして後味が悪いというか救いが無い。
しかも日本のホラーは本当に対抗手段が無いのだ。登場人物が足掻くけど元凶があまりにも強過ぎ、辛うじて逃げ延びたとかのラストで問題の解決になっていない事が多数。凄ぇな、日本の怨霊様。
海外産のホラーはどちらかと言うと派手な演出がされているので物によっては『主要な人物以外の台詞って叫び声が一番多くね?』という状態なのだ。しかも人外だろうと闘えてるし。故に演出を滑ると怖いどころか突っ込み所満載。
今回の場合、全員が怖がってくれないと困るので海外ホラー路線は却下。怪談に見せかけた悪戯の方が手数が多いし、どれか一つは怖がるだろうと期待しての試みです。
オカルト慣れしていないことも相まって怖がらずに警戒止まりの可能性がある事を考慮してのセレクト。派手な演出だと一歩間違えば見世物ですな。
ま、今回は『足掻いても無駄と認識させ、心身ともに疲労させて絶望に追い込んであげよう!』というコンセプトで計画しているのですよ。
『アルベルダが疑われない』という条件を満たす為には『明らかに他国の仕業と見せかける』か『説明不可能な事態を引き起こす』の二点しか方法が無い。自然災害だとアルベルダが責任を取らされる上に関与を疑われるので却下。
今回の騒動では他国と連携を取りたいので必然的に『説明不可能な事態を引き起こす』という一択です。そして私が適任なのも当然こちら。得体の知れない技術を持った魔導師ですからねー、私。
疑われても『それが魔法で可能か・若しくは使えるのか』という証明が出来なければ私の否定を覆す事が出来ず確実に逃げられる。
楽しめるから、などという理由だけではない。一応あるぞ、他の理由。
グレンはそこんとこ理解するように!
『ミヅキ、追い掛けるといっても奴等に付いて行けるのか?』
「ん? 移動は超低空飛行で体を浮かせるから問題無し。ローブも長いから足元隠せてまさに滑るように移動するね」
『それならば心配ないな』
「それに時々消えては逃げた先の部屋から現れたりする演出もするし」
常に浮遊していれば床がある場所以外からも登場可能。……逃げ切れたと一息吐いた直後にひっそり上からとか。恐怖を煽る演出としても楽しくね?
『お前が転移魔法を使えないという事の方が驚きだな。できそうな気がするが』
続いたグレンの言葉に微妙な表情になる。うん、浮遊を使えるならそう思っても無理は無い。イメージ重視で魔法を使っていると知っているからグレンの言葉は尤もだ。
……確かに転移もできるよ、一応ね。元の世界にテレポートという御手本があったから。使えたら便利だと思って物で練習したからね。インクだって移せたし。
ただし『何処に移動させる』という明確なイメージが必要なので、『親しい人の所に転移(明確なイメージが浮かぶほど親しい人限定。場所ではなく人を目印にする方法)』、若しくは『目で見て位置が判る範囲(部屋の中程度の至近距離)』の二種類しかできない。魔王様の執務室とか物凄く限定された場所なら転移可能かもしれないが。
確実なのは『お家に帰る(自分の部屋)』程度です。後は人が目印だから何処に出るか判らないという大迷惑仕様なのでその人の上に落ちる可能性もあり。もう一つは『魔力使わず自分の足で移動しろ』と突っ込まれる事請け合い。逃げようとした所を捕まえると言う意味では使い道があるかもしれないが。
「色々と残念な状態なんだよ、それ。今度話す」
『う……うむ? 何だが大変そうだな?』
「気にしないで」
突っ込まないでおくれ、赤猫。現時点ではイマイチ使い道が無いだけで、今後は重宝するかもしれないから。
まあ、転移自体が基本的に転移法陣使用なんだよね。浮遊やら飛行が上級魔法と言われている事からも小物程度ならまだしも人を一人移動させるには相当の魔力が必要なんだろう。何らかの補助無く単独での使用は厳しいと見た。今度クラウスに相談してみよう。
『ミヅキ! 来るぞ!』
グレンの声に前方に注意を向けると確かに足音が聞こえてきた。今まで残っているだけあってそれなりに慎重なようだ、周囲を窺いながら進みつつ何時でも剣を抜けるようにしているのだろう。
でなきゃ、ポルターガイストで撃沈してますよ。結構勢いあるんだもん、あれ。
……などと考えつつ前方から来る獲物、もとい敵の為に大鎌を構えたのだった。フライパン同様に個人認証済みのマイ武器、私限定で羽の様に軽い仕様の大鎌は全体に細かな装飾が施され刃がぼんやりと深紅に光っている。
禍々しさ抜群です、これが賢者専用の武器って一体何の冗談だ。
誰からも『呪われてるだろ、絶対』と言われていたシロモノですが、今回も重要なのは見た目。武器などリアルでは扱えないからゲーム内で使っていた頃の動きっぽく振り回すだけだけですよ。
威力が判らないから気を付けてねー、キヴェラの皆さん!
うっかりスパっといっても責任持たないからね?
※※※※※※※※※
――廃墟・通路にて――(ある騎士視点)
コツ、コツ、と足音が妙にはっきりと響く。暗闇の中に響く足音は不安を煽って仕方ないが、これまでの経験から慎重に行かねばならないと理解できていた。
……此処は一体『何処』なのだろうか。
何度も頭を過ぎる疑問に答えなど出る筈も無い。位置的な問題ではなく、空間そのものが異様とでも言うべきだろうか。『何処』ではなく『何』かと例えた方が正しい気がする。
しいて言うなら『恐怖そのもの』だ。それはじわじわと自分達を飲み込もうとしているに違いない。
それは宙を舞いながら襲ってくる食器であったり。
歩けど歩けど終わらない通路であったり。
部屋の壁一面に現れた不気味な文字であったり。
恐怖のままに剣で切りつけた不気味な鎧の中はただの空洞だった。それまでゆっくりと動いていたにも関わらず、だ!
頭がおかしくなりそうだと喚いたのは誰だったのだろう。恐怖に耐え切れず、意味も無く走り出していった者達が無事だとは到底思えなかった。それならば自分達はとっくに脱出できている筈なのだから。
「階段を降りても一階に辿り着けず、おまけに段数も毎回違う。……空間が歪んでいるとでも言えばいいのか? くそっ! 俺達は魔術師じゃないってのに」
「窓から外に出ようとしても『弾かれる』しな」
「弾かれなくても近寄りたくはない。俺はあの瞬間に浮かんだ顔と目が合った……」
ぶるり、と体を震わせ顔を手で覆う同僚に同情的な目を向けるが言葉が出てこない。自分も、見たのだ。窓どころか壁一面に浮かび上がる巨大な顔が視線を動かす様を。
あれと目が合ったのならば恐怖はどれだけのものだったことか。叫び声を上げへたり込もうとも軟弱などとは笑えまい。
「とにかく慎重に行動すべきだ。朝になれば状況も変わるだろう」
「……朝になるのか?」
「……。今はそう信じるしかない」
溜息を吐き同僚達を見回す。自分をいれても六人しか居らず他は何処へ逃げたか見当もつかなかった。
……逃げていればいいのだが。死体を発見してはいないからと自分に言い訳するのもそろそろ限界だ。死体が残るような死に方をしているかも怪しいのだから。
そんなことを考えつつ角を曲がった先に――『それ』は居た。
「な……何だ、あれ、は……」
震える声だろうが出せただけマシだろう。それ程に視界の先に居た『モノ』は異様だった。
同僚達も目を見開き凝視している『それ』は……深紅に霞む大鎌を携えた黒衣の骸骨、だった。
「アンデッド!?」
「魔術師が居るのか!?」
少なくとも知らぬ相手ではない。ただし、自分達の知るものと同じであるならば。通路に佇む『それ』のようなものは見た事が無く、どことなく普通とは違うような気がした。異質なのだ、存在そのものが。
アンデッド……通常であれば魔力によって操られている骸である。その動きは素早いとは言い難く、即座に警戒しなければならない相手ではない。どちらかと言えば操っている相手の方が厄介なのだ。
この状況で出て来ると言うことは我々の動きは術者によって監視されていたということか。まずいことに今の自分達には魔術師に対抗する術は無い。少なくとも術者の姿を捉えられなければ打つ手が無いのだ、居場所が判れば結界を張ったまま特攻するという荒技も可能なのだが。
相変らず空洞の眼でこちらを見据え佇むばかりの骸骨にほんの少し気が緩んだ。
そして。
それはすぐに驚愕と更なる恐怖を齎すことになった。
「え……?」
呆けたような声を聞いたのは一瞬。ほぼ同時に響いた何かが叩き付けられる音に慌てて意識をそちらに向ける。
「おい、どうし……」
隣に居た同僚に声をかけようとし……最後まで言い終わることなく絶句する。
ほんの一瞬だ。
瞬きをする程度の間だった筈。
それが。
何故、目の前に迫った骸骨によって壁に跳ね飛ばされているんだ……?
「逃げろ!」
ちらりと壁に崩れ落ちた同僚に目をやるが気にしている暇は無い。気を失っている男一人を抱えて逃げられるような相手ではないのだ、叫ぶと同時に来た道を走り出す。
「一体、どうしたと言うんだ!」
「判らん! 動いたと思ったら、いきなり目の前に」
「あんなに速く動けるアンデッドなど聞いたことが無い!」
半ば恐慌状態に陥りつつも足を止める事は出来ない。
『恐怖』が確実に迫ってきているのだと、誰もが自覚していたのだから。
※※※※※※※※※
よっしゃぁぁぁっっ! とりあえず一人、撃・沈!
大鎌を振り回してはしゃぐ死神だけど気にすんな。近づいた勢いのままに横に飛ばしたら壁にぶち当たって気絶しただけです、治癒魔法をかけておいたので死なないよ。悪夢は見てもらうが。
いそいそと『ナイトメア』と命名した小型魔道具を忍ばせる。ゼブレストで側室にも使った悪夢を確実に見るやつですよ、更に小型化され仕掛け易くなっていたり。
映像提供は私ですが作ったのは黒騎士です。奴等は今までに無い玩具が大好きなのです、何時の間にか使い易いよう改良され、無駄な技術がこの世界に浸透中。楽しそうで何よりだ。なお、今回が人体実験紛いであることは言うまでも無い。
『ちゃんと発動する』『仕掛けた相手が気付かない』という重要項目を確認の上、レポート提出が義務付けられてます。今回の件を引き受けた直後にイルフェナに連絡を取って必要な物を送って貰ったのだ。
誘い文句は『人体実験のあてが出来たんだけど試したいのある?』。
黒騎士達は嬉々として色々送ってくれましたとも! 一応状況を伝えてあったので頼んだ物の他に『ナイトメア・試作』が送られてきたのだ。なお、魔王様からは編集後の映像を持ち帰るよう厳命された。見たいらしい。
まあ、頼んだ物が悪戯の要になっているから『成果を見たい』ってのも間違いじゃないんだけどさ。どうも面白そうだから、という意味な気がしなくもない。
「グレン、彼等は何処に向かってる?」
『このままだと会議室方面だな。待ち伏せでもするか?』
「そうだね、追いかけられてると思っているみたいだし逃げ込むならそこかな」
ナビゲート役のグレンの言葉に一度隠し部屋へ転移し、そこから更に会議室へと転移。基本的に転移できるのは立て篭もれそうな部屋にしてあるので、会議室も当然転移可能。
広さがあるから逃げ易いし一番頑丈そうだもの、あそこ。これまで罠があった部屋を除外するなら可能性があるのは会議室だろう。ただし、その頑丈そうな部屋は今まで中から鍵をかけてあったのだが。
鍵を外し、閉じたままだと警戒して足が止まるので僅かに扉を開けておく。これでそのまま駆け込めるからな、早く来い。
そんな事をしている間に近づいて来る足音が。どうやらあれからずっと走っていた模様。御苦労様です、こちらは既にスタンバイできてます。
バタンっ!
扉を勢い良く開けて駆け込んだ人々は。
目の前の光景に一瞬硬直し……絶望に表情を染め上げた。
比較的広い部屋にぽつんと置かれた古い椅子。私は扉の正面に置かれたそれに腰掛け、肘掛に腕を置きながら彼等に向かって首を傾げる。『ドウカシタノカ?』というように。
誰も何も言わない、動けない。
そんな中、私は軽く腕を振り更なる恐怖の演出を。椅子の両脇、その床がまるで水面の様に波紋を作る。
そこから現れたのは――
床に手を着き体をそこから引っ張り上げる赤い人型。
滴る朱を振り払いもせず、全身を現すと真っ直ぐに正面を見つめ。
……同じタイミングで走り出した、アルベルダの、兵士の亡霊達。
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
自分達に向かって走ってくる異形に男達は悲鳴を上げると慌しく部屋を後にした。
……骸骨が椅子の肘掛をバンバン叩きながら声を殺して爆笑していた事さえ気付かずに。
※※※※※※※※※
――グレンの館・ある一室―― (グレン視点)
「あ、これ俺っす! こういう使い方するのかあ」
部屋にいた青年の言葉に映像に注目していた一同はその視線を青年に向けた。
「おい、今のはどういう事だ?」
「えっとですね、魔導師様に『兵士の格好したままで池に浸かれ、完全に浸かった状態から這い上がって正面向いて走れ』って指示を受けたんすよ。色を変えるって言ってたけど赤く染まると亡霊っぽく見えるんすね」
役者こと使用人の言葉に皆が感心したような表情を浮かべた。つまり元はただのずぶ濡れ兵士だったわけだ。あの滴っていたのは血ではなく、池の水なのだろう。波紋もそのままか。
実写のホラーゲームでは人物に赤や青の色を掛けて使用する場合があったが、ミヅキはそれを映像に組み込んだのだろう。娯楽が豊富な世界ゆえの知識である。
「ん? じゃあ、正面に走ったのはどういう意味が?」
「あいつら最後まで見てないんすよ。だから走り出した直後程度なら自分に向かって来るように見えてるんだと思います」
不審がられるようなら直前に映像を消せばいい。中々に面白い使い方だと思わず感心する。
再び視線を向けた先では何があったのか三人ほど倒れていた。ミヅキは彼等の背を跳ねるように踏み付けると再び滑るように部屋を出て追跡を再開する。……ん? 何だか妙な音が聞こえたような。
おい、駄目骸骨。少し目を離した隙に一体何をやらかした?
「おや……この為でしたか」
宿屋の主人を演じていた男がなるほどと頷く。
「踏み付けることにも意味があるのか?」
「はい、グレン様。魔導師様が浮遊の魔術を使ってらっしゃるのは移動の為ばかりではございません。動物の骨を組み合わせて作った奇妙な足型を裏に貼り付けた靴を履いているのです」
「は?」
「さきほど微かに硬い物が触れ合うような音がしましたでしょう? 足型を木炭で汚してあるので背を踏まれた者達には足型が付いている筈です。勿論、この世界に居ないような異形の足型が」
『化物の痕跡か! つか、芸が細けぇな!?』
部屋に集った者達の心の声は間違いなくハモった。ただし当事者達とセシル殿エマ殿は感心、その他は芸の細かさに絶句。王は……しきりに頷き賞賛している。キラキラとした目で見るなよ、親父が。
「いやぁ、魔導師殿は期待以上だな! できれば今後も仲良くしたいものだ」
「ふむ、証拠を残されては奴等も夢にはできないだろう」
「まあ、ミヅキってば楽しそう」
……最後は聞かなかったことにしよう。どうもこの二人は現状を娯楽と捉えているような。
ミヅキか、ミヅキの影響か? おい、どうやってコルベラ王に言い訳するんだ!?
頭痛を覚え頭を抱えた隙に追跡は更なる展開を見せたようだった。上がった声に映像に目を向けると通路でミヅキが最後の一人を追い掛け回している。もう一人は逸れたか罠に掛かったか……どちらにしろ脱落したのだろう。
が。
「ちょ、待て!?」
突如、何を思ったか持っていた大鎌を獲物めがけてブン投げた。ドガァっと盛大な音と共に壁に亀裂が走り大鎌が突き刺さっている。
しかしその隙を逃す獲物ではない。間一髪、獲物は屋上への階段に滑り込み上を目指す。
「おい、ミヅキ! 殺さないんじゃなかったのか!」
『あ、今の見てたんだ? うん、殺さないよ?』
「当たったら死ぬだろ!?」
『当たらないよ、幻影だもん』
ほら、持ってるでしょ――と映像の中の死神は大鎌を振る。……確かに壁から引き抜いてはいなかった。ではあの亀裂はどういう事だ? 音がはっきり聞こえたが。
「今の、おかしかったな」
「そうですわね、先に亀裂が出来てから鎌が刺さりましたわ」
姫と侍女には見えたらしい。そういえばこの二人もそれなりに戦えるのだったか。
「……先に亀裂が出来たと言ってるぞ」
『そうだよー。風刀の衝撃波で壁に亀裂を入れて大鎌の幻影を合わせたの。私の位置からだとちょっと判り難いからズレるんだよねぇ』
姫達の言葉は正しかったらしい。
『屋上に行って貰わなきゃ困るから下への道を塞いだんだけどさ』
獲物よ、お前の行動も読まれてるみたいだぞ。しかも誘導ということは絶対に何かある。
『やっぱさー、ラストは夜明けを頼りに屋上へ出て絶望するってのが御約束だよね!』
……。
獲物さーん、逃ーげーてー! 駄目骸骨が鬼畜発言かましてんぞー!
ある意味予想通りの言い分にほんの少しの同情を以て映像の中の男を応援する。最後って見せ場を兼ねてるから辛いよな!
「というかな、もう夜明けだぞ? 魔導師殿。そろそろ遊びの時間はお終いか?」
『待機組に連絡御願いします。この人で最後なんで』
「そうか。いや、実に面白い見世物だった。最後も期待してるぞ」
『頑張りまーす』
何故かうちの王様すっかり馴染んでるんですが。え、もしかして今後は友好的なお付き合い決定?
さらに駄目な奴になる気か、この親父は! 少しは真面目な側近を労わりやがれ!
怒りに青筋を立てつつ視線を向けた先では獲物が端に追い詰められていた。ミヅキよ、お前は悪魔か。周囲に無差別に氷結魔法を廻らせたら逃げ場が無いだろ、どうする気だ。
そして皆が見守る中、最後の時が訪れる。
男は夜明けを目前にしながら。
迫り来る恐怖に耐え兼ねて空へと身を躍らせた。これで終わると安堵の表情を見せながら。
それこそ最後の演出に必要な行動だとは気付かずに。
ざわりっと空気が揺らぎ。
現れた無数の手が終わりに安堵した男の表情を再び恐怖に染め上げ。
恐怖に抱かれたまま、男はゆっくり下降していった。浮遊魔法と幻影を同時に使っているらしい。
絶対に使われたくない救助方法である。見ろ、奴は気を失っているじゃないか。
そんな呆れと共に眺めていた娯楽は明けてゆく夜と一礼して消えた死神を印象に残し終わりを告げたのだった。
予定ではこの後に回収部隊が奴等を保護する予定なのだが……まともな精神状態をしているのか疑問である。
『イベント終了ー! お疲れ様でしたー!』
妙に明るいミヅキの声に思わず口元に笑みが浮かんだのは……気の所為だと思っておこう。
イベント終了。後は後日談。
グレンは記憶と変わらぬ主人公に呆れ、脱力し。それでも懐かしさに嬉しくもあります。