表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
キヴェラ編
98/699

仕掛け人は笑う

裏方の人々と怪奇現象(笑)の解説。

「さあ、どれだけ頑張ってくれるかな」


 呟いて他の映像に目を向ける。そこに映し出されていたのは必死に逃げるあまり砦中に散らばったキヴェラ騎士達だ。

 こういった場合は纏まって動いた方が安全なのだが、彼等には逃げることしか頭になかったのだろう。


 最初の一歩は大成功。


 楽しかった。


 物凄く楽しかった……!


 仕掛け人冥利に尽きる反応じゃないか、あの慌て振り!


 思わず独り言を呟くくらいに期待してるぞ、君達! 元の世界じゃ絶対ここまで驚かん。

 と言うか、元の世界だと目に異常があったら即座に洗うしね。コンタクトレンズ着用者なら目薬とか持ってるだろうし。

 イベント名『おいでませ、オカルトの世界に! 〜始まりは赤い霧〜』。ギャラリーの皆様にも楽しんでいただけて何よりです。

 尤もこれは敵を混乱させる意味合いが強いだけなので、最初の部屋に逃げ込めば自然に治る。恐怖を植え付ける演出ですよ、え・ん・しゅ・つ!

 この世界にホラーというジャンルが存在するか不明だったので『貴方の知らない世界』への入門イベントを用意したのだ。気の所為とかで片付けられても切ないしな。


 オカルトの本領発揮はこれからですよ?

 ちなみに一部を御紹介。



 怪談・定番どころ


 ・『段数が増えたり減ったりする階段』

 ※階段に幻覚系の魔道具を仕掛けるだけ。気付かない可能性もあるが、気付くと地味に不気味。


 ・『過去を繰り返す幽霊』

 ※当時を装った役者さん達の透けてる姿が砦の各所に現れる。なお、役者さん達には暗い表情で『死にたくない云々』などと呟いてもらったので絶望的な状況を共感できるかもしれません。



 怪談・七不思議系


 ・『血の涙を流す肖像画』

 ※提供してもらった古い肖像画を更にボロくし、手を加えて視線の向きを変えたり血の涙を流させたりした状態を記録後映像を編集。扉を開けると『視線が動く』『血の涙を流す』の二つのパターンがランダムで発動。どちらでも最後は肖像画ごと消える。絵画の幽霊が居てもいいじゃないか。


 ・『飾られた鎧が動く』

 ※古い甲冑内部に魔道具を仕掛け、周囲の動くものに反応し動くようにする。動きは鈍いがその分リアル。壊されても中は空っぽ。暗いし小さいので魔道具は多分見付からない。元ネタは動く人体模型とかの『夜中に動くシリーズ』。



 怪談・ゲームや映画系


 ・『ポルターガイスト』

 ※食堂・厨房にて発動。入ってきた人に向かって色んな物が飛びます。実は飛んでくる古い食器各種が安物の魔石を付けた即席魔道具で『目印装着者に向かって飛ぶ』という単発命令の使い捨て。目印は騎士が気絶している間に装着済み。イメージとしては磁石、悪戯以外に使い道は無い一品。


 ・『壁から飛び出す無数の手』

 ※ゾンビ系にはお約束のトラップ。ただし今回は幽霊なので透けている。魔道具を仕掛けた範囲に人が入ると壁から無数の白い手が突如湧く。なお、数箇所に仕掛けられており他には床や天井から出て来る場合もある。



 その他


 ・『浮かび上がる文字や手形』

 ※部屋に入ると手形や『逃げ場など無い』といった文字が壁に浮かび上がり、それは徐々に部屋一面に増えてゆく。勿論、映像編集で繋げてあるだけ。掃除も含めて一番手間が掛かった仕掛けかもしれない。



 ……こんな感じ。この他にもあることは言うまでも無い。

 娯楽の少ない世界なので単純なものでも意外と怖がってくれるみたい。特に幽霊系は完成後に役者さん達に見てもらったところ大受けした。

 腕だけ突き出させたり、不気味な動きをしたりと撮影中本人達は意味不明だったらしい。映像編集後に見ると意味が判って『実に手の込んだ悪戯だ!』と拍手喝采。昔は悪戯っ子だったんだそうな。

 『今回の件が終わったら是非一度体験したい』と言われたので、使用した魔道具を破棄する前に一度皆で楽しむ予定。

 ホラーハウスは恐怖の館ではなく悪戯の館として認識された模様。娯楽ですからね、楽しむのは良い事だ。


 ちら、と目を向けた先にある映像では騎士達が叫び声を上げながら逃げ惑っている。彼等は必死に恐怖と戦っているのだろうけど、重要なことに気付いてないらしい。



 動き回らなきゃ発動しないんだけどな、殆どの仕掛け。



 自分達が行動した後に怪異が起きるとは思わないらしい。慎重に行動していれば気付く筈なので、精神的にもガンガンダメージがいっていると推測。少しは落ち着け。

 追い込む為に私が徘徊予定なんだけど、この分だと勝手に全部引っ掛かってくれるっぽいなあ?

 一応用意しているのだが。……ハロウィンのノリで。

 

 

『おい、ミヅキ』


 どうすっかなー、と考えていたらグレンからお呼び出しが来た。

 そういえば向こうの反応はどんな感じなんだろ?


「何、グレン」

『これ、お前が出て行く必要あるのか』


 無いっぽいですね、グレンさん。正直がっかりです、私。


「あまりにホラーゲームの世界を再現すると意味不明かと思って割と定番を選んでみたんだけど」

『儂らにとってはな。既に何人か気絶者が出ているようだが』

「情けないねぇ、騎士の癖に」

『得体の知れんものだからな、これが魔物ならばまた話は違っただろう』


 この世界には魔物が存在する。それを踏まえて『幽霊』に拘ったのだ。ホラーゲームのボスキャラ系化物なんて出そうものなら恐怖よりも闘志が勝っただろう。


 彼等は一応騎士なのだ、闘う術があるのだよ。


 何処に出しても恥ずかしい騎士の面汚し・思い上がった常識知らずの御馬鹿さんだが闘えてしまうのである。幾ら何でも家柄だけの無能に近衛だの親衛隊だのは務まらないだろう。


 では何故そんな彼等がここまで恐怖しているのか?


 答えは簡単、『この世界の常識には存在しない未知の生物だから』だ。人が闇を怖がるのは何が居るか判らないから、というやつと同じです。

 特に映像が大半なので武器を振り回しても効果無し。最初からゴーストを出すと所詮ただの映像だとバレる可能性があったので、実害ありの赤い霧を最初に使ったのだ。

 あれで騎士達は出現する者達に対し『無害ではない』と認識したからこそ、気絶者が出ているのだろう。逃げ場など無いと思い込んで。


「ん〜、それだとあそこまで怖がってくれないし」

『お前も怖がらんだろうしな』

「私? 食えるかどうかしか考えないわね」

『……。何だ、そのサバイバルな発想は』

「辺境の村ではリアルに弱肉強食、食うか食われるかが日常です。充実した食生活は狩りの腕にかかってます」

『そ、そうか。店など無いだろうしな』

「おう。徹底的に仕込まれましたとも」


 グレンも当初はそれに近い生活をしていたと思うのだが。まあ、年月が経っているから忘れていたんだろう。若しくは狩りの経験が殆ど無いか。

 私の場合は魔法が使えたから狩りが可能なのであって、魔法が使えないグレンだと厳しいだろう。仲間内で作業を分担していたなら頭脳労働担当でしょうな、赤猫は。

 ……私の発想に恐れ慄いたとかではないと思っておこう。


「グレン。まともな精神状態にありそうなのは何人ぐらい残ってる?」

『六名ほど、か。他は少々興奮状態に陥っているようだな』


 頭を抱えて蹲っている奴や喚き散らした挙句に部屋に篭った奴は除外か。一時間ほど経っているから精神的にも体力的にもギリギリなのが居てもおかしくはない。

 鍛えてると言ってもパニックを起こしつつ走り回る訓練なんぞしてないだろうね、普通。


「んじゃ、そろそろ私が行きますか」


 バサリ、と服の上から黒いローブを羽織る。

 フード付きの黒いローブはすっぽりと足元まで私の体を隠す。そして手にはゲーム内で所持していた武器のレプリカ。幻影を纏って彼等と対峙するので現実味を持たせる意味でも武器必須。

 今回は結界を魔道具頼みにして演出の為に魔法を使おうと思います! 


『ミヅキ、彼等が最初の部屋に戻るみたいだぞ?』

「好都合ね! 簡易の転移法陣仕掛けてあるからすぐ行きます♪」


 幽霊のお約束『気がつくと消えている』。今回はそれを実現すべく隠し部屋と何箇所かを繋いであるのだ。そして私自身も転移法陣が組み込まれた魔道具を持っているので発動させればこの部屋に送られます。

 一々この部屋に来なければならないのは面倒だけど、対応する転移法陣にしか移動できないのだから仕方ない。娯楽の為にここまでの性能を実現させた黒騎士達の職人根性に拍手喝采。普通の転移法陣と比べ移動できる範囲は狭いがこの悪戯には十分です。

 現在この部屋には転移法陣が複数置かれている。この部屋経由で数箇所に転移可能、幽霊役も意外と忙しい。

 

「じゃあ、行って来る! 最初の部屋付近に登場するよ!」

『おう、気をつけてな』


※※※※※※※※※


 ――グレンの館、ある一室―― (グレン視点)


 ミヅキからの通信を聞くなり全員の視線は該当する映像に集中した。いや、これまでも中継映像に大騒ぎしていたのだ。恐怖と賞賛が混じってはいたが。

 

「なあ、グレン。魔導師殿はどんな姿になってるんだ?」


 王が映像から目を離さずに問う。……そういえば聞いていなかった。

 ミヅキが所持していた武器を持つキャラクターというからには想像つくのだが。マジであれなのだろうか。


「恐らくは……『死神』だと思われます」

「は?」

「私達の世界で一般的な死神の姿は黒いローブに大鎌を持った骸骨なのですよ」


 ゲームのモンスターとしてもその姿は割と定番である。問題は何故賢者専用の武器が死神の大鎌だったのかということだ。

 あのゲーム、妙に現実的な割にファンタジーゲームにありがちの『神の武器』という物が存在したのである。ただし、運営がそんな物を素直に用意する筈はなかった。『神の力の片鱗を人間如きが簡単に扱える筈は無い』という言い分の下、大変扱い難いシロモノだったのだ。

 死神の大鎌は装備すれば攻撃力が冗談の様に上がり、前衛職ほどではないが戦力にはなる。ただし防御力は相変らず紙。ミヅキ曰く『敵より素早さが勝れば一発入る・劣れば死亡のデッド・オア・アライブな武器』。しかも持っていると目立つという嫌がらせにしか思えない仕様だった。まあ、本来魔法職が手にする筈も無い物理攻撃力を齎すのだから神の奇跡と言えば奇跡だ。

 他の武器も似たり寄ったりのデメリット満載なので完全にコレクターアイテム扱いである。実際、ほぼ戦力外を自覚するミヅキ以外に神の武器を使う奴は殆ど居なかった。

 ……鬼畜評価の人間がそんな物を持っていたので『賢者って人を捨てた悪魔とかの扱いじゃね?』という賢者人外説などというものが出たのは余談だ。


「で、何でそう思うんだ?」

「ミヅキの使用していた武器が大鎌なのです。尤も見た目重視で持っていたのですが」


 寧ろ目立って囮になるしか使い道が無かったとも言う。見た目だけは素晴らしいのだ、あれは。使い道が無いだけで。

 当時を思い出し遠い目になりかけたが、ざわめきに意識をそちらに向ける。映像に映し出されていたのは軽く鎌を振り回して待ち構える黒衣の死神。幻影効果でローブから出ている顔も腕も骨だ。

 予想通りの姿に頭痛を覚えつつ一応本人の言い分を聞いてみることにした。


「ミヅキ。何故その姿なのだ?」

『恐怖の館のラスボスに死神は駄目ですか』

「発想としては悪くは無い。しかしその武器はな……」

『いいじゃん、インパクトあって。打ち合う事前提だからこのセレクトですよ?』

「なんだと?」


 どうやら意味があったらしい。興味深げに聞いている面々の期待に応えて続きを促すとミヅキはあっさりと口にする。


『向こうは剣を使うもの。相手が打ち合った事が無いような武器を使わなきゃ不自然さは誤魔化せないでしょ?』

「不自然さ?」

『うん。私はこれを振り回すけど攻撃は魔法で作り出した風刀でそれっぽく見せるつもり。実際には相手に刃は届かないだろうし、打ち合えば刃が触れ合うから力を殆ど込めてない事がバレると思う』


 確かに剣などの一般的な武器では相手に行動が読まれた挙句に素人だと判るだろう。しかも今の話を聞く限り実際に打ち合うのではなく『魔法で弾いて打ち合っているように思わせる』という状態か。今回の設定はオカルトなのだ、手ごたえの無さに一層不気味さは増す。

 他には不審な点を誤魔化す為に『彼等が相手をした事が無いような武器を選んだ』ということだろうな。大鎌を振り回す人物なぞ自分も聞いたことが無い。

 ミヅキも現実では武器を扱える筈はないから『振り回せばそれなりに見えて何となく凄そうな武器』にしたのだろう。恐らくは何らかの付属効果を付けていると思われる。


 が。


 果たして本っ当~にそれだけが理由だろうか。

 

 まともな事を言っているとは思うが、それなりに付き合いのある自分からすれば少々用意し過ぎな気がしなくもない。大鎌の無い死神というのも確かに威圧感に欠けるが。

 そもそも物理攻撃なんて無くてもいいんじゃないか? オカルト要素は魔法で十分出せるのだし。やらかしたところで獲物達がより命の危機を認識し怯える効果がある程度だろう。

 思わず視線を向けた先にはコルベラの姫と侍女。ミヅキとすっかり仲良くなったらしい彼女達によると今回の追っ手は後宮警備にあたっていた者達らしい。


 ……。

 嫌いか? 自らの手で一発かましたい程嫌いなのか、奴等が。

 それとも見せ場の為にわざわざあんな物を製作したのか? この短期間に!?

 一度そう思えばそれが正解のような気がしてくる。いや、絶対に正解だ。報復できる貴重な機会をミヅキが逃すとは思えない。


 こっそり何してやがる、この駄目魔導師! これが終わったら置物確定――戦時中でもなく、あんなデカイ武器を持ち歩く馬鹿はいないだろう――なんだから無駄な事をするでない! 資源は大事に使わんかい!


 ……などと思ったが口には出さない。沈黙は金だな、本当に。

 呆れる自分とは逆にミヅキは大変楽しそうだ。見ている連中も興味津々に映像に注目している。哀れな獲物は未だ来ないらしい。


「なるほど、イカサマだとバレない為に見慣れぬ武器にする必要があったのか」

『そういうことですー、あと死神には大鎌だと思いますー』


 ……。

 本音は後者ではなかろうか。映像の死神は大変楽しそうに見えるのだが。

 ああ、元気良く大鎌を振り回すんじゃない。死神ならもっと畏怖されるような態度をとれ、駄目骸骨。

※ゲームに関する突っ込みは無しで御願いします。

恐怖演出の為に努力は惜しみません。そもそも打ち合う必要は無いので単に自分の手で一発見舞いたいだけ。

妙に元気な死神(仮)は次話にて参戦。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ