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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
キヴェラ編
93/699

魔導師が齎すもの

興味本位で出てきた人は主人公にとって獲物でした。

 人生なんて予想外の連続だ。

 異世界トリップ経験者ならば必ず一度は思う事だろう。

 勿論良い意味ではなく、多大なる諦めと割り切りを込めてだが。


 で。


 扉を開けると見知らぬ男性二人が御出迎えしてくれました。

 服装からして絶対に使用人じゃありません。しかも片方は騎士じゃないか?

 あれー? 此処ってエドワードさん所有の家ですよね!?

 しかもアリサが固まってるんだけどさ!?


「お帰り、アリサ。お邪魔しているよ」


 にこやかに笑う男性とアリサは顔見知りらしい。

 ……。

 あの、エドワードさん?

 貴方は何故、その人の後ろで溜息を吐いているのですか……?


「ラ……ライっ」

「おお! 後ろのお嬢さん達が君の友人なのだね。初めまして。私はエドワードの友人でライズという。こっちはリカードだ」


 なるほど、友人でその服装ってことは貴族か。異世界人にも普通に接してくれる人みたいですね、少なくとも敵意は無い。

 で。

 あからさまにアリサの言葉遮りませんでしたかねー、今。

 とは言え、今話を合わせなければアリサ達が気の毒な事になりそうだ。ここは話に乗っておきますか。


「初めまして、ライズさん。イルフェナに保護されている異世界人でミヅキといいます。彼女達はセシルとエマ。私の同行者で友人ですよ」

「おや、君も異世界人か」

「ええ。アリサとは世界が違いますけどね」


 とりあえず自己申告して注意を私に惹き付けておく。

 『異世界人』ってこの世界における珍獣だからね、セシル達に注意を向けない為にも公言しておいた方がいいだろう。

 セシルは王族だけど小国の継承権を持たない末子ということもあって、あまり顔を知られていないらしい。

 ならばキヴェラの騒動を知っている者は『それらしい人物』に当たりをつけて接触してくるだろう。

 会話で情報を引き出される・言動で身分がバレるという可能性が一番高い。

 だから基本的に私が会話を行なうということでセシル達と話がついていた。あくまでも二人は私の同行者という立場を貫くことだろう。


「ほう……」

「何か?」

「いや? 女性ばかりで大丈夫なのかと思ってね」


 嘘吐けぇぇっっ! 

 その探るような目は絶対にそんな事を思ってないだろうが!

 なんて思っても面に出すなんて真似ができる筈もなく。


「ふふ、御心配ありがとうございます。ですが、セシルもエマも十分頼りになりますし何より私が凶暴です」

「凶暴……」

「ええ! よく魔王様に叱られるのですよ」

「おやおや、随分と勇まし……」

「『手緩い』と」

「「「え゛!?」」」


 男性陣、一気に私の顔をガン見。

 嘘は言っていません。だって私は『やられたら殺り返せ』と言われてるし。

 ちなみに『手緩い』と言われているのはあくまで私の報復が言葉の暴力に留まっているからだ。


 直接関わりがない所為かこれまでの嫌味は異世界人ということに限定されている。ゼブレストにしろイルフェナにしろ『特別扱い』されれば疎ましく思われるのは仕方ないだろう。

 例を挙げるなら側室連中やグランキン子爵、その娘のアメリアだろうか。

 身分に拘る貴族は『異端者』に対し見下しがちだし、うっかり遭遇すればアル達に憧れる御嬢様方の嫉妬の視線がビシバシ来ます。

 日頃は隔離状態にあっても仕事でどうしても関わらなければならない時があるのだ、魔王様にも最初から『下っ端貴族は煩いかも』と言われているしね。

 先日の騒動が起こるまで私の評価は『実績も無いのに有力な者達が構う民間人』。私の情報が制限されている事もあって未だ正しい評価をしていない貴族も多い、とはレックバリ侯爵・談。ま、煩い奴が出て当然だ。

 それに対しデビュタントの時みたく力技でやり返す事は少ない。


 だって守護役って国の決定だもの。普通、異議を唱えられる筈ないでしょ?

 それに構って来る人達に私が自分から近付いた事は無い。身分的に受身です。


 それを踏まえて魔王様は『やっちゃっていいよ』と言っているのだ。実力者の国に馬鹿は要らん、と。

 私がやるより国が出てきた方が納得できるだろうと思うのでそのまま放置してますが。面倒だもん。

 でも当然ながら騎士達によって魔王様に報告が成されています。その後はどうなったか知らん。

 魔王様は私自身が手を下さない事を言っているのだ、『君は(自分が面倒だからって)手緩い(手段を取ってこちらの手を煩わせるんじゃない)』という意味です。

 報復を推奨してるんだから保護者に丸投げすんな、ということですね!


 ……という事を説明したら私をガン見したまま沈黙された。何故。

 イルフェナでは当たり前みたいですよ? これ。魔王様が私だけにそう言っているとは思えないもの。


「そ……それは何とも」

「冗談抜きに命の危機とかありましたからね〜、大抵の事は切り抜ける自信ありますよ」


 へらっと笑って言う私にライズさんは言葉も無いようだ。まあ、私の教育方針はイルフェナでも吃驚なものだったみたいだから教育係がある意味突き抜けていたのだろう。

 私がそれに馴染んだ事も路線変更されない事に繋がったみたいだが。お陰で狸様とも遣り合える人脈と実力が付きましたよ、親猫様。

 だが、もう一人の男性はその状況に警戒心を強めたらしい。訝しげに私を窺って来る。


「君は元の世界でそういう状況にあった、若しくは職業に就いていたのか?」

「いいえ?」

「では、何故そんな状況に馴染めるんだ?」


 うん、それも当然の疑問だと思います。ゲームの世界で軍師やってたから、というのは理解できないだろうね。こういう時って説明に困るな。

 リカードさんは敵意こそ無いけれど、私の感情の動きを見逃さぬようじっと見つめている。

 ふむ。……この人はライズさん専属の護衛か近衛の可能性が高いな。警戒の仕方がアル達そっくりですよ、リカードさん。

 ならば下手に誤魔化すよりも事実を言ってしまった方がいいだろう。


「認識の違い、でしょうか」

「認識の違い?」


 僅かに首を傾げるリカードさんに構わず言葉を続ける。


「私はこの世界に来た時点で一つの選択をしました。『生き続ける』か『終わらせるか』。常識さえ違う世界で生きていくのは簡単ではない、だからこそ割り切る事が必要だと考えたんです」

「極論だがそれは正しい判断だったろうな」

「ええ、正しかったと思います。だから異世界人の扱いを知っている人達は私に多くの事を教えてくれました。知識も強さも『自分の生きたいように生きる為』には必要でしたから」

「……」


 この世界に来た異世界人が最も恐怖すべきものは『無知であること』だと思う。

 必要な情報が無ければ自分の思いとは真逆の結果を招きかねない。『そんなつもりじゃなかった』『知らなかった』と言っても結果が出た後ではそれで済む筈は無い。

 逆に言うなら都合の良いように操りたければ情報を制限して飼い殺せば良いのだ。

 魔王様達の行動は私の為以外の何物でも無い。だから私は彼等の為に動く事を厭わないし躊躇わない。


「周りがどう思おうとも彼等の行動の意味を私自身が知っているのです。ですから」


 一度言葉を切り、笑みを向け。


「私が彼等を疑う事はありません。彼等は自分達が最優先にすべきものを隠しませんし、そうなった時を想定して私自身に教育を施していますから」

「……君が自分の意思で彼等に敵対する可能性も踏まえて教育していると?」

「そうですよ? 本当に『味方でいる』というのはそういう事じゃないでしょうか。相手の信念を一方的に否定するような真似はしません」


 自分の身は自分で守れ。例えそれが親しい者達と敵対する結果になったとしても。

 国として私を利用しなければならない状況になろうとも、彼等に従うか拒むかは私の自由。

 拒めるだけの実力と実績があれば無理矢理従わされる事にはなるまい。

 敵対したとしても魔王様やルドルフは私に強さを与え力を貸してきた事を決して後悔しないだろうし、私も彼等に協力した事を悔やむ事など無い。


 そう締め括るとリカードさんだけでなく全員が黙り込んでしまった。

 シリアス展開ですが異世界人の現実ですぞ、これ。どれほど親しくとも守護役がつく時点で『監視対象』なのだ、そうしなければならなかった過去がある。 


 魔王様の『自分で判断し責任を持てるようにする』という教育方針は私が無知のまま利用される可能性を潰し、自分の行動が齎す結果さえ想定して行動できるようにする為だ。


 魔道具を考案した異世界人にそれが出来ていれば二百年前の大戦は起きていない。監視する側としても味方としても罪を背負わせない為に自覚を促す必要があるのだ。

 その為の強さを得る事も必要だと考えているからこそ、私が魔導師である事を否定しない。

 実際、今回は十分行動できてしまっている。村に居た状態では間違いなく無理だったろう。

 それにこの世界に来た異世界人の婚姻が異様に少ないのもそれが原因だったんじゃないのかな。

 特に歴史に名を残すような人達は誰も結婚していない。……複数の守護役達が居なければ守りきれなかったという事じゃないのか、それは。

 何年も暮らしていれば一般常識は身に付く筈だし、普通に生きて行くだけなら何の問題も無いだろう。

 それだけでは平穏な生活が叶わない事情があったとは考えられないだろうか。


「教育方針以前に異世界人に対する認識が違った、ということかね?」

「そうでしょうね。バラクシンがどういった扱いをしているかは知りませんが、私は守られるだけの存在でいることを許されていません。イルフェナで私が関わった人達は一方的に利用する事をしないということでしょうか」


 暗に『バラクシンにはそういった連中がアリサの周囲に居ましたよね?』と言ってやればライズさんは溜息を吐いて目を伏せた。

 貴方と魔王様の違いをはっきりと自覚してくださいね? ライズさん。少なくとも魔王様はそういった連中を私に近寄らせませんでしたよ?

 仕事の協力者になることもあるけど、私にとっても得るものがある。単に利用しようとするだけならば私の行動全てに指示が出るだろう。

 何より異世界人として貴族と敵対させたのもゼブレスト以降なのだ。それならば私も対処できるし、傍には信頼できる騎士達がいた。

 必要ならば手を貸し結果を本人に出させる――それこそが彼等の『守る』ということ。

 ゼブレストは私にとっては最高の教育の場だったのだろう……何せ国と王の後見があったのだから。多少の粗があってもフォローしてもらえたし。

 利害関係の一致ともいえるだろうが、逆に言うならそれだけ個人を認めている事になる。それが私とアリサの決定的な差じゃないのか。

 囲って綺麗なものだけ見せていれば現実など理解しないし、個人として対等に扱われなければ互いを理解する事も無い。

 イルフェナと同じ事をしろとは言わないが、アリサの成長を促すような事をしなかった――その必要性を知らなければ重要だと気付く筈は無いのだ――バラクシンの上層部に彼女を批難する資格など無い。

 セシルやエマもアリサに寄り添い男性陣に厳しい目を向けている。それが保護者としての義務を怠った事に対する批難……なんてことはなく。


「ですから。今後アリサに何かあれば私達が黙っていません」

「ミヅキの言葉を聞いていた事、私達が証言しますわ。それでも変わらぬならばその意思がないということでしょう。期待する事を止めるまでです」



 物凄〜く個人的な感情です。女同士の繋がりの怖さを知れ。

 寧ろこっちの方が本命。国の事情なんざ知らねぇよ。



 私の事情などどうでもいいんです、今後のアリサの幸せの為にしっかり嫌味を言っておかねばな!

 私の言葉を抉る勢いで心に刻んでおいてください。これでアリサに何かが起きたら盛大に無能扱いした上で引き取らせていただこう。

 だから国の内情はどうでもいいよ。私達の敵になるかならないか、それだけだ!

 ちらり、と視線を向けるとセシルが頷いたのでイルフェナが駄目ならコルベラが受け入れてくれるだろう。

 民間に下ったとはいえ異世界人という事実はついて回る。保護者がしっかりしてくれなきゃ困るのだよ、アリサには抗う術がないのだし。


「ミ、ミヅキちゃん達はそこまで考えていたんだね。何かをしてもらうばかりだった私と違って当然だよ!」


 何やら涙目になって私に抱きついてくるアリサ。おお、役得! ……ではなくて。

 ……。

 ……あれ? いや、私達が心配してるのは君の方だからね!?

 

「いや、あくまでも最悪の場合であって基本的に保護されたままで敵対関係になる事はないからね?」

「でもでもっ! 私、異世界人がこの世界に馴染むのは凄く大変だって知ってるし」


 アリサよ、それには『個人差』というものがあってだな。

 人には向き不向きがあるように、私はイルフェナに合っていたのだから問題ない。


 そう言ってもいまいち納得できないのか、抱きつく腕の力が緩む事は無い。

 アリサ。さっきから男性陣――特にエドワードさんがダメージを受けているみたいだけど、気付いてる?

 個人的には「ざまあっ!」と思っているけどな。今後の為にも現実を知るいい機会だ。


「大丈夫ですわよ、アリサさん。ミヅキはイルフェナで楽しく暮らしていますし、守護役の皆様から溺愛されていますもの」

「逆に言えばあの執着から逃れられるとは思えないな。彼等が敵対するような事態になることを黙認するとは考え難い」


 待て、コラ。何故それを知っているんだ、セシル?

 ……嫌な予想を真面目な顔して話してるんじゃねぇぇぇっっ!

 物凄くありえそうだ。しかも有能な若手獲得に燃える狸様も混じる気がする。

 アルか? セイルか? クラウスは……そういう話題に興味なさそうだから狸か、情報源は!?


「そういえば……あの騎士さん達はミヅキちゃんの事、凄く大事にしていたものね」

「そうそう、大丈夫ですよー」

「うん……わかった。でも何かあったら話してね?」

「了解ー」


 投げやりなのは許してください。納得させる為に否定できんのだから。

 ところでな。

 そろそろ家の中に移動しませんか? さっきから使用人さん達が物凄く困った顔をしてるんだが。

 アリサはエドワードさんを慰めてあげてください。落ち込み過ぎて浮上してきませんよ、あのままだと。

 ほら、行くぞ野郎ども。男が暗い顔して玄関に屯してても異様なだけだぞ? 鬱陶しいじゃないか。


 ……という事を馬鹿正直に口にしたら益々落ち込んだ。軟弱者め。



※※※※※※※※※


 気を取り直して客間に移動。

 男性陣の落ち込みっぷりに内心大笑いです。

 アリサは慰めるけど彼等は放置。こちらも事情があるので鋭い事を突っ込まれない状況は願っても無いことなのですよ。


「……で。そろそろ落ち着きましたか」

「ああ。アリサには改めて謝罪をする事にしよう」


 溜息を吐きながら疲れた顔でライズさんが言う。

 おいおい、貴族設定忘れてるぞ? その台詞はアリサの保護者の王族のものじゃないのか?

 まあ、生温い視線になりつつも今はスルーしてあげようじゃないか。次は無い。


「そういえば……先日キヴェラで起こった騒動をご存知ですか?」


 ぴく、と男性陣が反応するけど気付かない振りをする。世間話ですものね?


「偶々イルフェナの商人達が滞在していましてね、とても面白い夢を見たそうですよ。その記憶を魔道具に記録してくれたので見る事ができるのですが……」

「見せてくれ」


 見たいですか? というように相手を窺えばライズさんは即座に乗ってきた。

 興味が有る無しではなく『王族としては非常に重要な情報』ですからね、これ。

 報告はされていても映像までは無い。予めそんな魔道具を用意しているイルフェナが怪しい事この上ないが、今は追及するより情報が欲しいのだろう。


「いいですよ? 妙に現実味のある『夢』だったそうですよ。まあ、民の噂とその後の状況を聞く限り事実の可能性が高いとも言っていましたが」

「なるほど、あくまで『夢』であると」

「ええ。それに確認は自分達の手でするべきものでしょう?」


 私達が提供するのはあくまで夢で見た映像なのですよ。それを信じるか否かは相手次第。

 はっきり言うなら『諜報員を使って自分で確認御願いね。噂を伝えただけだからイルフェナの所為にしないでね』ということだ。

 反応を見る限りライズさんには言いたい事が伝わっているのだろう。他二人も大丈夫そうだ。


「それではどうぞ。そうそう、個人的なお勧めとしては登場人物以外のものにも注目です」

「ふむ、どういうことだ?」

「だって映像の場所が特定できるでしょう? 私は知る筈ありませんが、見る人によっては『場所』と『事実だと確信できるもの』が映っているかもしれませんし」


 キヴェラ王家の紋章とか風景とか。建築構造なんかでも判るかもしれないね。

 私は知りませんよ! ええ、イルフェナでさえ城には魔王様の執務室や訓練場くらいしか訪れませんからね!

 訪れる時は必ず護衛兼案内役の騎士が付いているのだ、迷子にもならん。


 ライズさんは面白そうに瞳を眇め、リカードさんは相変らず厳しい表情を向け。

 エドワードさんは……片手で顔を覆って天井を仰いでいる。何さ、その反応は。


「じゃあ、どうぞ。驚くかもしれませんよ」

「……? 驚く?」


 首を傾げるライズさんを無視し魔道具を操作すると、魔王様達を呆れさせた衝撃映像が始まった。

 セシル達は映ってないから大丈夫! さあ、存分に脱力するがいい!








 その後。

 アリサは純粋に「何この王子様、最低!」と憤り。

 男性陣は大変微妙な表情のまま沈黙した。ああ、やっぱりその反応かい。


「ミヅキ? これは事実なのかね?」

「信じるなら事実なんじゃないですか? 私は確かめる術を持ちませんよ」


 ライズさんにそう返しつつもエドワードさんには疑惑の目で見られてます。

 ええ、そうですね。『私は見た! 後宮内で起こっている衝撃の真実!』とかタイトル入れそうなの私しか居ないでしょうし。

 リカードさんに至っては言葉も無いようだ。騎士が見るとダメージでかいみたいだからねー、あれ。

 騎士達にとってはキヴェラが脅威として映っているのだ……散々警戒してきたものが一部とは言えあの状況、様々な意味で頭を抱えるだろう。


「イルフェナでは映像がなければ信じなかったでしょうね。後宮内のみとはいえ普通ならありえない事態ですから」

「た、確かに。だが、キヴェラ王がこのような事を許すとは思えないが」

「ですから王太子の後宮内のみってことでしょう。場所柄、容易く踏み込めませんし」


 後宮という場所に男性が居るのは好ましくはない。王だろうと強行できないだろう。

 それがあの状況に繋がっているので、多少強引だろうと行動しておけよとは思うが。


「ああ、君の言いたい事も理解しているよ。しているのだがね……」

「感情がついていきませんか。これまでの認識とかけ離れ過ぎて」

「ミヅキ殿……」

「なんでしょう、エドワードさん」

「……いえ、何も」


 言いたい事は色々あるけどライズさんの手前言えないのですね?

 此処に居るのが私達だけなら『友人同士の会話で只の憶測』で済むけど、王族とその護衛が加われば『イルフェナの異世界人の危険性』を仄めかす事になる。

 アリサの事があるから悪い方向にはしたくない、ということだろうか。


 隠しても無駄だと思うよ? 今は混乱してるけどライズさんは気付くだろうから。


 落ち着いて考えれば怪しいのは誰かなんてすぐに判る。判らないのは動機が不明ってことくらいだろう。

 それにバラクシンに危険視されても何の問題もありません。

 寧ろそういう存在がアリサの味方に居ると知れた方が個人的には好都合。

 得体の知れない生き物がイルフェナに生息しているのだと恐怖してください。私とアリサに何かしてきたら報復に出るからな?


「すまないが我々はこれで失礼させてもらうよ。明日また来るとしよう」

「そうですね、その方がいいと思います。あ、これどうぞ」


 差し上げますよ、と映像を記録した魔道具を差し出せば怪訝そうな顔をされる。


「いいのかね?」

「ええ。まだ沢山ありますから」

「……沢山?」

「だって」


 にやり、と笑い。


「こんな面白映像、皆で楽しまなきゃ」


 その言葉と含むものがある笑みにライズさんとリカードさんはびくっ! と体を揺らした。

 やだなー、ただの御土産ですよ? 皆さんで楽しんで欲しいという気遣いです。


「私は翼の名を持つ騎士達に囲まれて生活しているので『こんなもの』でも何かの役に立つ事があるかもしれないと知っているのですよ」

(訳『変人どもでさえ吃驚の真実を提供してやるから後は自分達で情報収集頑張れ。今からだとキヴェラの上層部が動いているから情報規制や妨害があるかもしれないけど判断材料にはなるだろう。健闘を祈る』)


 情報が映像で得られるって重要だと思うのですよ。見た人達は自前の報告書も交えて楽しんでくれると思う!

 それにそろそろキヴェラを脱出した旅人達とか国に帰ってると思うんだよね。彼等からの話も聞くと一層信憑性を増すだろう。

 そして疲れた表情のまま、二人は帰っていった。恐らくはあのまま報告に向かうのだろう。


「ミヅキ殿、貴女は一体何を考えているんだい……」

「私達とアリサの穏やかな今後について?」

「ああ……そう……」

「あと個人的にキヴェラが嫌いですぅ!」

「ミヅキはエルシュオン殿下に懐いているものな」


 無駄に明るく言うと深々と溜息を吐きエドワードさんは沈黙した。

 ところでセシル。

 レックバリ侯爵の影響ですっかり親猫として定着してないかい? 魔王様。

主人公、アリサの今後の為に保護者達にお説教。

彼等は『個人的にエドを訪ねた友人』なので不敬罪に該当せず。

毒の無いアリサにとっては主人公の苦労話にしか聞こえてないので

保護者達に対する嫌味だと気付いてません。

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