城へ行こう、飼い主に会いに
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翌日、麗しの白騎士様はにこやかに戯言をほざきやがりました。
相変わらず無駄に美形です、白い騎士服がお似合いですね!
背景も合わせるべく、さっさと城にお帰りくださいな。
「結婚を前提にお付き合いしてくださいませんか」
「……は?」
不信感を露にしながら聞き返した私に非はない筈。
えーと、誰か説明ぷりーず?
でも、とりあえず。
「お断りします♪」
意思表示ははっきりしておきましょう。
……だから手を離せ、見つめるな鬱陶しい。
そんなわけで絶賛現実逃避中です。
いやいや、おかしいだろう?
貴方との関わりなんて昨日の一件だけですよ、フラグを無視しちゃいけません。
任務ですか? 大変ですね。
ついに己の人生差し出してきたよ、この人。
そんな私に先生が――アルさんに説明を求めるのは諦めました――気の毒そうに事情説明してくれた。
箇条書きにするとこんな感じ。
・アルジェント達は『自分より強い者に苦痛を与えられることに悦びを感じる』という性癖の持ち主である。
・昨日の実力行使で彼等は理想の女性(=生贄)と確信した。
・自分達を一撃で沈める強さに拍手喝采、大興奮。嫁においで♪
・生贄確定ご愁傷様です。
……。
……。
嘘だろ?
ちょ、そんなので恋愛フラグが立っちゃう!? 立っちゃうの!?
地道な好感度上昇イベントとか何処行った!?
自分達の性癖ストライクなイベント経過で一気に好感度MAXですか!?
斬新過ぎる展開だな、おい。
嗚呼……乙女ゲームの常識ってあてにならないのですね……!
さすが生身の人間、想定外の事態です。
こんな特殊設定の美形が存在するとも思わなかったけど。
複数形ってことは白騎士は全員同類ですか、顔は良いのに残念な奴らだな!
ふふ……逃げよう。
そうだ、そうしよう。大丈夫、今なら何処だって生きていける気がする。
さあ、家に戻って少ない荷物を纏めなきゃ!
「逃がしませんよ?」
「人の心を読まないで下さい」
「想われた事はあっても自分が想ったことは初めてなのです。絶対に諦めません」
そりゃー、そうだろう。萌え所が顔や性格や地位なんてものじゃなく、凶暴さオンリーなんて。
言ってる事は一見まともな上に天が二物も三物も与えてるみたいですから、さぞモテたでしょうよ。
でも残念な部分で総合的にマイナスなんて世の中上手く出来てますね。
変態の妻なんてEDは絶対嫌です、私も諦めません。
「おい……ちょっと来い」
あら、騎士sが手招きしてる。って言うか居たんだね、君達。
とことこと傍に寄って行くと何やら真剣な顔をしている。
そういや君達も整った顔立ちしてたんだねぇ、しかもよく似てる。
そう口にすると顔を顰めながらも答えてくれた。
「俺達は双子なんだよ。二卵性だからそっくりじゃないけどな」
「生まれる前から一括り……」
「一括りって言うな! 苛めて楽しいか!?」
「現時点ではその普通の反応にとっても安らぐ」
「「……。ああ、そういうこと」」
良かった、騎士sは普通の人だ。
騎士が全員あんなのだったらマジで泣いちゃうぞ。
で、本題に入りましょ?
「あいつは公爵家の三男だ、各地に影響力がある上にコネ狙いで協力者になろうという連中だって沢山いる。逃げられないと思った方がいい」
「何でさ? 身分も権力も障害にならないよ? 何なら国外逃亡でも……」
「旅券はどーするんだよ。国境越えられないだろ? ……発行も絶望的だと思うが」
パスポートが貰えないのは異世界人だからではなく、上からの圧力なのですね……!
ふっ、敵になるなら容赦しませんよ? 死ななきゃいいんです、死ななければ。
何もしないと権力で私のジョブが『公爵家の三男の婚約者』になってそうだもの。
魔導師です、私。地位や名声興味無しの特性バリバリですよ!
「……一つだけ穏便に済ます方法があるかもしれん」
「え! 先生、それ早く言ってください」
「そちらも十分困難なのだよ。エルシュオン殿下に直接諭してもらう」
ずざざざぁぁっっ!
騎士s一気に後退り。え、何その反応。そんなに怖いの?
「無理! 絶対無理! やめとけ、逃げた方がいい!」
「一度本性に触れたらアウトだ。危険な賭けはするな!」
「あ〜……やはりあのまま成長されたか」
涙目の騎士sに事情を察したらしい先生。
おーい、仲間外れはずるいですよー。
「大変賢く愛国心に満ちた方なのだが……その、賢い故に時として非情になるというか容赦が無いというか」
言い難そうに言葉を選ぶ先生。オブラートに包んでもそれなのですか。
「白騎士の主であるから報酬代わりに動いてくれる可能性はある」
「報酬?」
「あの方は実力至上主義でな、価値があると認める者にとっては良き後見なのだよ」
なるほど。その殿下の保護下になれるなら身の安全は保障されるってことですね。
しかも騎士sの怯え方からして滅多なことでは敵対しようとする人はいないのだろう。
何をやったか気になる……力技じゃないだろうし。
「アルジェントとは幼馴染だが個人的感情で贔屓する方ではない。一度口にされた約束は必ず守ってくださるだろう」
なんだか厳しい条件を言い渡されそうな気がしますが、逃げるより確実そうです。
ここは一度お会いしておいた方が今後の為にもいいかもね。
「わかりました。今回はその方に頼ることにします」
「そうか、私からも言ってお「決心してくださったんですね! 感激です!」」
先生の言葉に割り込む弾んだ声、背後から回される腕。
こうなると条件反射で勿論……
「近寄るなっつってんだろっ!!」
ドスっ! と音がする勢いで腹部に一発。正当防衛です、私は悪くない!
……が。
苦しむどころか妙に嬉しそうなその表情に己の間違いを悟る。
しまった! こいつは喜ぶだけだった!
しかも条件反射で何もせず魔法使っちゃったよ、報告されたらマズくね!?
「っ……つ……やはり……良いですね……!」
『何がだ、何が』
皆の心の声は間違いなくハモった。正常な反応です。
……おやぁ? 詠唱どころか指さえ鳴らさず魔法使ったことはバレてないみたい。
良かった♪ そのまま気付かないでいてくれ!
……じゃなくって。
いーやぁぁぁっっ!!! 好感度上昇した!?
こいつを喜ばせてどうする、自分! 頭脳職のくせに私は馬鹿か!
私の学習能力よ、条件反射に勝っておくれ!!
そ……そうだ、ライバル娘はどこいった。昨日はこれに見惚れてた娘一杯いたじゃない!?
カモン、村娘! 今がチャンスだ! 傷に塩でも擦り込んでやれば好感度上がるかもしれないぞーっ!
あ、傷も自分で付けなきゃ無理か。ちっ!
「あ〜……とりあえず城に行く準備をするか」
ぽん、と肩に置きながら先生がそう言った。
ソウデスネー、今ハソレガ重要デス。転ガッテル生物ハ無視シマス。
騎士sよ、生温い視線向けるの、やめい。