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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
キヴェラ編
87/699

一途な愛情・ただし時々黒い

 城の裏手で馬車を降り。

 現在私は後宮へと続く通路をセイルに運ばれてます。

 荷物扱いです、嫌がらせです、羨ましければ代わってやる。

 まあ、着くまでに確認しなきゃならんことがあるのだが。


「あ〜……セイル? これ、直接後宮に行くんだよね?」


 ちょいちょい、と髪を引っ張り尋ねるとセイルは頷く。


「そうですよ? 人目に触れない方が良いでしょう」

「タマちゃん達居るよね?」

「……あ」


 そういえば、と足を止めるセイルにセシル達も足を止め怪訝そうな顔になる。

 この二人、カエルは平気なんだろうか?

 一般的に王族貴族な御嬢様方は苦手だと言っていたような。


「セシル、エマ。唐突に聞くけどカエルって平気?」

「は? カエルってあの水辺の生物か?」

「そう、そのカエル」


 つぶらな瞳の賢い子達ですが魔物です。そして、でかい。

 いきなり飛び付いてくることはないだろうけど、悲鳴を上げられても大騒ぎになるだろう。

 そもそも後宮の池でカエルが暮らしている――飼われているなどと言ってはいけない――とは普通思わん。

 だがセシル達はあっさり「平気だ」と答えてくれた。エマも大丈夫そうだ。

 いやぁ、良かった、良かっ……


「淡白な味だが嫌いじゃないぞ? 野営の時に時々捌いたが」

「他の生き物より安全ですしね。食材として飼われているのですか?」

「「え゛」」


 後に続いた言葉に爆弾発言かました二人を除いて硬直する。

 食……材……? 

 ……。

 ……。

 ちょっと待てぇぇぇ!? 『平気』って肉としてか!?

 そっちの『大丈夫か』って意味じゃねーんだよ、お二人さんっ!

 違うから! 食料じゃないから、あの子達!


「ああ……まあ、そういう発想もありますね。コルベラは食糧事情もありますし」

「食べないでやってください、賢くて飼い主想いの優しい子達なんです……!」

「あ? すまない、その……愛玩動物って意味だったのか?」


 周囲の状況に冷や汗を流しながら聞いてくるセシルに私はしっかりと頷く。


「家族です。幼生の頃から可愛がってきた騎士達も私も泣くので池に居る子達は食料扱いしないでやってください」

「大変賢い子達ですので、下手にその言葉を聞かせると自ら貴女達の旅の糧になると意思表示しかねないのですよ」


 溜息を吐きながら告げるセイルと私に周囲は賛同し、セシル達は引き攣った顔になる。

 そうだよなー、そこまで知能が高いとは知らないもんな、普通。

 あれですよ、人が他種族に対し無意識にする『意思の疎通ができるか否か』という区別。

 食うか食われるかの動物と人間の差とも言う。人間は姿が違っても同じ言葉を話すなら食料扱いはすまい。

 もっと簡単に言うなら自分に懐いてる愛玩動物を家族意識から食い物扱いはしないということか。 


「そ、そこまで尽くすのか!?」

「やる。あの子達なら絶対にやる」

「我々の協力者になれるほどです。長個体は間違いなく人と同じくらい知能が高いでしょう」


 タマちゃんは長個体らしく他と比べるとあまり大きくはない。

 ただしその知能はぶっちぎりで一位。下手すると人間よりも賢い。

 少なくとも私の立てた策に自分達なりの改良――側室達の顔を狙えって指示は間違いなくタマちゃん発案だ――をする程度の頭は持っているだろう。

 しかも長の言う事には絶対服従というくらい群として統制が取れている。

 意味を正しく理解できるタマちゃんに食料になるなんて言ったら躊躇い無く自分を差し出しますよ、あの子達。


「……わかった。君達の家族として扱おう」

「忠義者ですのねぇ、意外ですわ」


 納得してくれたようで何よりだ。とりあえず悲鳴を上げなきゃいいからね?

 できれば可愛がってあげておくれ、おたまと愉快な仲間達を。



※※※※※※※※※


 で。

 とりあえず後宮到着。


「お前、またかよ! 今度は何やらかしたんだ!」

「うっさい、ルドルフ! 飼い主らしく番犬には首輪と鎖を着けておけ!」

「無理」

「即答かい」

「命は惜しい。あと精神的に疲れたくない」


 セイルに抱き上げられたままの私を見るなり爆笑するルドルフ。

 宰相様、溜息を吐くくらいなら貴方の従兄弟をどうにかしてください。


「セイル? お前は客人を迎えに行った筈だな?」

「ええ。御二人を無事におつれしました」


 ……おやぁ? 私が省かれてます。

 二人を見極めようとした事を口に出さないのは納得ですがね、『王族を試しました』なんて絶対言えん。

 僅かに首を傾げた私に宰相様は『何も言うな』と目で告げる。


「ミヅキも御苦労だった。滞在していたお前を護衛に駆り出した事、申し訳なく思う」

「……いいえ? 御気になさらず」

「そうか」


 ほほう、そういうことか。

 首を傾げるセシル達に『後で説明するから』と小声で言ってルドルフに向き直る。


「二人の荷物を置きたいから部屋に行ってもいい?」

「ああ。エリザがお前の部屋で待っているぞ。話したい事があるそうだ」

「わかった、後でね」


 事情説明はエリザがしてくれるらしい。ならばさっさと行った方が良さそうだ。

 ところでさ?


「いいかげん降ろせや、腹黒将軍」

「お断りします。愛しい婚約者に会えて喜んでいる私、にっ!?」

「へ?」

「え゛」


 視界を掠めた一つの影。

 妙なところで途切れた声を訝しく思う間もなく『びたんっ』という音がしてセイルの手が緩む。

 すかさず離れた私の目に映ったのは呆然としている周囲と。


 くーぇっ


 得意げに鳴くカエルを顔に貼り付けた将軍様。

 タマちゃん……こっそり近づいた挙句、腕組みしていたルドルフを踏み台にして飛びついたな。

 それでこそ私が育てた子だ! でかした!

 セイルは両手が塞がっていたから対処できずにああなったわけですか。


「タマちゃん、ナイス!」

「〜っ! ルドルフ様! 何、おたまに協力してるんですっ!」

「え、俺も悪いのか!? 腕を踏み台にされただけだぞ!?」


 顔というか張り付いたカエルに手を当てながらもセイルの怒りはルドルフに向いたらしい。

 さすがにカエルに怒りを向けようとは思っていないのか……いや、人間でもルドルフってセイルの主じゃないのか?

 いいの? という気持ちを込め宰相様を見るも深く溜息を吐いて首を横に振る。


「剣を振り回さなければいい。本気でルドルフ様に危害を加えるような事はしな……」

「ちょ、セイル! 俺を狙う前にそれを外せ! な?」

「何をやってるんだ、セイルぅ!」


 慌てて視線を向けた宰相様の怒鳴り声も何のその。将軍様、ルドルフを捕まえて何をする気だ。

 いや、楽しそうで何よりですよ? ふざけ合うほど余裕が出来たってことじゃないですか。


 以前の殺伐とした状況に比べればマシです。平穏ッテ素晴ラシイネ。


 そしてタマちゃんはセイルの狙いがルドルフに定まると自主的に離れた。

 そのまま私の足元に来て見上げるので「おいで」と腕を広げると飛び付いて嬉しそうに鳴く。


 くーぇっ! くぇっ


「セシル、エマ。この子が長個体のタマちゃん。正しくは『おたま』」


 二人に紹介すると私に抱っこされたまま、ぺこりとお辞儀。

 相変らず空気の読めるカエルですね……!


「た、確かにこれならミヅキ達の言っている事も頷ける」

「カエルがこんなに賢いなんて思いませんでしたわ……」


 まあ、それはそうだろう。タマちゃん達は人に育てられた影響も多分にあると思う。

 ほのぼのとする私達を他所に将軍様はお怒りのようだが気にしない!

 元凶タマちゃんが居なくなったことで矛先はルドルフオンリー。宰相様も早く行けと手で合図。

 セシル達もこの騒動を目の当たりにした所為か呆然としながらも私達の言った事を理解した模様。

 じゃあ、今のうちに部屋に行くか。エリザも待ってるし。


「おたま! セイルを俺に押し付ける気かー!」


 くぇっ


「ルドルフ様? あの子は人の言葉を話せませんので、その分の言い訳を聞かせていただけますね?」

「ミヅキ! 助けろ!」

「無理」

「即答か!」


 その後どう収まったかは知らない。



※※※※※※※※※



「お久しぶりですわ、ミヅキ様」


 優雅に出迎えてくれた有能な侍女エリザは――


「ほほほほほほっ! 愉快ですわ!」


 放置してきたセイル達の現状を告げるなり高笑いする美女と化した。

 そういえば仲悪かったっけね、セイルと。


「よくやりました。それでこそミヅキ様のカエルですわ」


 くぇっ


 タマちゃんもエリザに撫でられ誇らしげに胸? を張る。

 タマちゃん、やっぱり顔張り付きは確信犯だったか。

 セシル達は驚愕のあまり言葉も無いようだ。そりゃ、今までカエルに対する認識が食料だったのだから当然か。


「エリザ。楽しそうなところを悪いけどゼブレスト側の状況説明御願い」

「はっ! 私としたことが。申し訳ありません、すぐに始めさせていただきます」

「いや、楽しそうで何より」

「ええ、とっても楽しゅうございました!」


 素直だな、エリザ。

 まあ、後は勝手にセイルと毒舌合戦でも何でもやってくれ。


「まず、ミヅキ様の扱いについて。イルフェナよりコルベラの姫君の逃亡を手助けすると連絡があった時点で偽装工作に動いております。キヴェラで過ごされた半月ほどはイルフェナとゼブレストに滞在していた、ということになっていますわ」

「いつもみたいに後宮に泊まってたってこと?」

「はい。カエル達もこの部屋に毎日花を運ぶという行動をとっており、ゼブレストではミヅキ様がこちらに数日前から滞在していたと認識されていると思ってくださいませ」


 キヴェラに居た魔術師とイルフェナの異世界人は別人だという証拠作りをしてくれたのか。

 後宮に私個人の部屋があることは知られているから『血塗れ姫来襲! 注意せよ!』とでも告げておけば顔見知り以外は近寄らないだろうな。

 前回の事から貴族に対して良い印象を持っていないと認識されているし、『魔術の研究をしている』とでも言っておけば邪魔した場合の報復を恐れて近寄る馬鹿は居まい。

 カエル達の行動も私が居るのだと認識させる要因になった事だろう。私が来たら甘えるというのは周知の事実だ。

 しかしカエル達よ……花を咥えて部屋に通ったのか。大変だったろうに。


「同行していた者達は砦に待機していた影三人と共に町の宿屋で偽装工作をしております。その後はイルフェナへ向かいますので疑われる心配はないかと」

「それでさっきの宰相様の言葉になるわけね? 『ゼブレストに滞在していた私は国外からの客を迎える為の護衛として同行した。客人は二人』……こんな感じ?」

「ええ、そのとおりです。コルベラの御二人には大変申し訳ないのですが、我等が優先すべき方はミヅキ様ですわ」


 ゼブレストとしても『王太子妃が逃げてきました! 滞在してました!』な事実はマズイのだろう。

 客人二人に該当する人物も既に話がついていると推測。徹底的に逃亡者ではない証拠を仕立て上げたか。

 事実、私達は『只の旅人』でいなければならないのだ、どんな国においても。でなければ関わった全ての人が逃亡を手助けしたと言われてしまう。


 最悪の場合、王太子妃誘拐事件に仕立て上げられる。

 今のキヴェラからすれば大変都合がいい展開です。嬉々として罪を押し付けるだろう。


 だからレックバリ侯爵は私に拘った。『逃げてきた姫達を何も知らない異世界人が助ける』という設定が使えるから。異世界人ならば彼女達の正体を知る筈もないし、協力する利点も無い。

 協力した事を追及されても『これまで会った事もないし、何も教えてないのにそんな事情知る筈ないだろ!』で誤魔化せる。実際、コルベラとの接触は皆無だ。

 そもそも『異世界人は会う事を望まれない限り王族の顔なんて知らないのが当たり前』だからね。魔王様の家族の顔も知らんぞ、私。

 まあ、それが初期設定。私がお手伝いだけだった頃の話です。

 今は私個人の目的もあるので表向きはイルフェナ幼馴染三人娘で旅という事になっている。バレない限りそれで通す予定。

 ルドルフ達はキヴェラから捜索依頼が来た場合『逃亡者達なんぞ知らん』と言い張って誤魔化す気なのだろう。そんな連中うちには来なかった、と。

 犯罪者扱いで捜索依頼が来る可能性もあるのです。現に砦の兵士達は『王太子妃の逃亡』は知らなかったみたいだし?

 無関係を装っても国に捜索依頼が来たら動かないわけにいかない。だから先手を打ったのか。

 そしてキヴェラで騒動を起こす事も予測してあの二人を派遣したと思われる。

 さすがに王の親友だろうと個人的な事で国を危険に晒すわけにはいかない。友人として逃亡を手助けするというより国として『王個人の最強の駒』である私を失わない為に手を尽くしているとみるべきか。

 その一環としてイルフェナの異世界人の滞在期間を偽っている。情報漏洩を警戒して極一部以外事実は知るまい。

 ……こう言っては何だが、キヴェラに追及されても私だけは助かる方法だ。『姫達は只の旅人の振りをして入国し、更に逃亡。手引きした協力者は死亡』ということにして私は初めから無関係で通す。


「ミヅキ様のみを守り貴女達をキヴェラに突き出すことでゼブレストを守る、と言ったらどうなさいますか?」


 探るようなエリザの言葉に二人は一瞬呆けたような顔になり。

 すぐに安心したように笑った。何の打算も後悔も無い笑みで。


「そうか。ならば私達が捕らえられてもミヅキは助かるのだな」

「安心しましたわ。一方的に巻き込んでしまいましたもの」

「あら……ミヅキ様に縋る気はないと?」

「ここまでしてもらえば十分だ。実際、『ミヅキは事実を隠した私達に騙されて同行しているに過ぎない』のだからな」

「『旅券は身分を振り翳して取り上げました』もの。『被害者達』には申し訳ないことをしましたわ」


 セシル達の言葉を聞いていたエリザの目がすぅっと眇められる。まるで二人を見極めようとするように。

 エリザはセシル達に対し酷い事を言っている自覚があるのだろう。だが、セシル達もそれが当然だと考える人種だ。

 捕らえられた場合、二人は間違いなく私だけは助けようとするに違いない。それを教える為に捕まった時の言い訳を明かしている。

 逃亡した際に私と出会って利用する事を思いついた……ということにでもするつもりか。


 ゼブレストの言い分

 『キヴェラから来た三人はそのままイルフェナへ行った。イルフェナの異世界人は元々滞在していたし、客人二人も元からの予定通り。キヴェラから捜索の通達が来た場合? 協力するけど通達が来る以前までは責任持てないし知らん』


 セシル達の方針

 『基本的にはミヅキから提示された幼馴染三人娘の旅。ただし、捕獲されたら自分達が異世界人を騙して協力させたことにする。旅券の情報と違う? 身分を振り翳して奪い取ったとでも言えば問題無し。異世界人にも必要な事だと言い包めて納得させたとでも言っておけ』


 ……こんな感じだろうか。セシル達が目的の為には手段を選ばない権力者になってますが。

 多少怪しくともキヴェラはセシルが戻ればいいから深くは追及すまい。探られて困るのは向こうも同じ。

 うん、一度話し合った方が良いな。特にセシル達。『もしもの場合』を想定する事は重要でも自己犠牲は要らん。

 ってゆーか、捕まっても逃げればいいじゃん? 諦めるなんて選択肢は存在しません。

 最終的に私は復讐が目的なんだから逃走中に追っ手とドンパチやらかしても全然平気。

 他国がキヴェラに味方するかもしれないけど、通過するだけなら自国の被害も想定して全力で来ないだろう。

 キヴェラって随分強気できたらしいからねぇ……ささやかな報復として見逃す可能性・大。

 魔王様達にも『イルフェナに迷惑がかかるようなら切り捨てちゃってください』と言ってあるしなぁ?

 ……あ。セシル達に言って無いや、それ。

 だったらイルフェナが責任を問われる事を回避する意味も含め自己犠牲に走るか。


 まあ、個人的な意見を言うなら今はそこまで考えなくてもいい気がする。

 キヴェラは未だ混乱中。おかげで今後の方針が不明なので他国も動きようがない。

 混乱に拍車がかかったのは私が砦を落とした所為だが。ルドルフ達もこれは予想外に違いない。


「逃げるつもりも負けるつもりも無いわよ?」


 タマちゃんを撫でながらそう言うと部屋に居る全員の視線が向けられる。


「自分の言動には責任を持つべきだと思うの」

「ゼブレストとイルフェナでは捕らえられることは無いと思いますわ。ですが、その後は事態を察していようが何処まで味方してくれるか……」


 そう言ってエリザは目を伏せる。

 うん、そうでしょうね。優先すべきは自国です。思う所があっても捕らえて差し出さなきゃならない場合がある。

 基本的に周囲は敵・自分達だけで切り抜けるという形になるだろう。


「セシル達を利用するのは私も同じなの。その為に二人には無事にコルベラに着いてもらわなきゃならないのよ」

「利用、ですか? 何かありましたの? レックバリ侯爵からの依頼で動いているということでしたが」

「あの王太子が気に食わない。綺麗な顔に一発入れるどころか心身ともにズタボロにしたい、王も嫌い」

「は?」

「「ああ……」」


 首を傾げるエリザに納得した表情のセシル達。この際、飲み会に発展した経緯を暴露です。

 嗚呼、思い出す度に腹立たしさを通り越して殺意が……!


「『粛清王なんて呼ばれても所詮は貴族に嘗められたお坊ちゃん』なんですって、ルドルフは」

「……まあ」

「『魔王と言われようとも大した事無い』んですってよ、私の保護者様は」

「それはそれは。とても優れた方の発言なのでしょうね」


 うふふふふふふふ……!


 微笑み合う私達の表情は表面的には笑顔だ。たとえタマちゃんが空気を読んで貝になろうとも。

 なまじ美人なだけにエリザの笑みは凄みを帯びた。さすが侍女と言う名の側近。


「私も珍獣扱いでね? ……ああ、別に怒ってないから。珍獣相手に身分を振り翳すなんて愚かな真似はしないだろうし?」

「ミヅキ様もそのような扱いなのですか。さぞ、御自分の、責務を、ご立派に、果たされていらっしゃるのでしょうねぇ……?」

「え? 無能な上に最近冷遇しまくってた嫁に逃げられたけど?」


 ピシっ! と微かな音がしてエリザが手にしていたカップに皹が入った。

 お怒りですね、エリザさん……でも大丈夫。逃がす気はありません。


「だからね、負けるつもりは無いわ。アシュトン達だって許さなかった私が許すと思うの?」

「このエリザが間違っておりました。御存分におやりなさいませ! 微力ながらお手伝いさせていただきます!」

「ありがと。私の方は良いからゼブレストを御願いね」

「勿論です」


 私の手をがしっ! と握り締めるエリザに先程までの憂いは全く無かった。その瞳に宿るのは期待一色。

 セシル達もドン引きするどころか「そうなるよな」「あれは酷い侮辱でしたわ」などと言い合って私達に理解を示している。

 同志よ! 許せる筈ないよなぁ、『アレ』に馬鹿にされるなんざ。


「そのアシュトンとやらにはどんな手を使ったんだ?」


 面白い事になったんだろう? と期待一杯に尋ねてくるセシルにエリザ共々大変いい笑みを浮かべ。


「馬鹿二人に『幼女趣味』『熟女萌え』『同性愛者』といった三重疑惑を仕立て上げてみました」

「ふふ。アシュトン・ビリンガムとダニエル・オルブライトの事ですわね。私もお手伝いしたかったわ」

「ちなみに片方公爵子息。同性愛疑惑は情事の現場を仕立て上げたら有志の目撃者まで出た」 


 欠片ほどの罪悪感もなく告げる私達に二人は顔を見合わせて。


「それは何とも」

「楽しそうですわねぇ」


 心底楽しそうな反応が返ってきた。

 エリザ、この二人こんな性格してるから。逃亡も多分かなり楽しい状態になると思うよ?

カエルは賢く黒く成長中。

キヴェラがどんな形で追っ手を差し向けるか不明なので、其々が事態を想定して勝手に動いています。

故に微妙に噛み合ってなかったり。

※アシュトンとダニエルは『女が大人しいとは限りません』『噂は怖い、噂を利用する奴はもっと怖い』に出てきた犠牲者。


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