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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
キヴェラ編
81/699

今は耐えろ、ひたすらに

「……それでね、王太子様もエレーナ様もとっても素敵だったの!」

「憧れるわねー!」

「あんなに一途に想ってくれる恋人って中々居ないわよね!」

「まあ、そんなに素敵な方々なのですね」


 現在、後宮の侍女さん達とお喋りしてます。

 話題は勿論『憧れる恋人達』こと王太子様と寵姫さんですよ。

 数日前から後宮に侍女の振りして潜入中。勿論、エマに侍女服を借りて、だ。

 念の為に魔道具装備して『はっきりと記憶に残らない』状態だけどね。

 色々やらかしている大元は王太子でも細々とした事は侍女に聞くのが一番です。

 新人の振りして仕事を手伝い、その流れで色々聞いてます。



 で。



 現在、顔には出さずとも内心盛大に呆れております。

 侍女さん達の頭の中って本っ当〜にお花畑ですな!

 おいおい、恋愛小説の展開が現実でも同じ評価されると思っているのかよ!?

 それに恋に生きる王族って現実に居たらか~な~り性質悪いぞ?


 普通に考えて王太子妃を蔑ろにするとかマズイだろ?


 そもそも寵姫は王太子が庇うだろうが侍女は庇わないと思うぞ?


 セシル達の話を聞く限り寵姫本人より侍女達の行動が問題じゃないのか?


 侍女如きが王族に不敬を働いたら首切られても文句言えないって常識だよね!?


 マジで頭が痛い状況です、セシル達は放置されて良かったかもしれん。

 まあ、状況証拠として貴女達とのお喋りは記録させて貰ってますから。

 私は話題を誘導するだけで不敬に当たる言葉なんて言ってませんよ? 聞き役です。

 証拠集めの為とはいえ、イルフェナが基準――イルフェナでは個人的に思う所があっても御仕事はきっちりこなす人しか城勤めなんてできません。叩き出されます――の私にとって不快極まりない環境ですな。

 後で笑い者にしてやるから覚悟しとけ。それ以前に罪人だが。


「ですが、王太子妃様もお気の毒ですね。かなり強引に連れて来られたと聞いていますが」


 では、セシルに対する不敬の決定打を話してもらいましょうか。


「それは……そうだけど」

「でもエレーナ様がお気の毒だと思わない? あんなに想い合っている方に妻ができるなんて!」

「そうそう、つい『味方』しちゃうのよね! どうせ王太子妃様は何もできないんだし」


 ……ほう? 早くも自白ですか?

 平然と口にするとは罪悪感の欠片も無いんですね?

 ああ、頷いてる二人も同罪だからな?

 もっと決定的な言葉が欲しいから更に掘り下げてみましょうか。


「味方? お労しく思うだけではないのですか?」


 首を傾げて問えば侍女達は得意げな顔になり。


「鈍いわね、所謂『嫌がらせ』というやつよ!」

「ふふ、王太子妃様は一人しか侍女を国から連れて来られなかったもの。私達がいなければ何もできないわ」

「王太子様に訴えようにも肝心の王太子様がお会いにならないもの。会えたとしても聞き届ける筈はないわね」

「寧ろ私達を褒めてくださるかもしれないわ。『良くやった』って!」


 つまりこいつらの独断なのですね。上級侍女は貴族の娘なので親からの指示の可能性もあるか。

 ふむ、王太子本人が命じてない限り冷遇の証拠としては弱いな。

 侍女が勝手にやっただけ、とか言われてこいつら処罰して終わりの可能性もあるし。

 少しで良いから『王太子もこの状況を知っていて放置』的な事を言ってくれないかな。


「ですが、エレーナ様はどうお思いなのでしょう。素晴らしい方なのでしょう? そんな行いをお喜びになるかどうか……」


 俯きながら言えば流石に侍女達も一瞬黙り込んだ。

 ここでのポイントは『エレーナ様を労わる言い方をすること』にございます。

 寵姫様を素晴らしい人だと想定した上で『そんな卑劣な真似を許す方なのか』と言えば文句は出まい。

 ただ『そんな真似していいの!?』な発言をすれば王太子妃寄りの侍女と見なされ裏切り者扱いですよ。

 仲間と言った覚えも貴方達に共感した覚えもありません。全体的に見て私の発言は貴方達の行動に疑問を抱いています。

 そんな事に気付きもせずに得意げに不敬を話すとは。

 マジで終わってるんじゃないかな、キヴェラ。


「で……でも! 私達はエレーナ様の為にやってるんだもの! 王太子様だって判って下さるわ!」

「そうよね、王太子妃様の現状を王太子様や騎士達が知らない筈はないでしょうし」

「そうよ! こうしてエレーナ様を御守りしているんだもの、お二人はきっと評価してくださるわ」


 言い訳の様に言い合いながら侍女達は自分に自信を取り戻していく。

 ちっ! 直接何か言われた事はないのか。追い詰めれば免罪符の様に話す筈なので、どちらからも命令はされていないっぽい。

 でも『王太子妃様の現状を王太子様や騎士達が知らない筈はない』ねぇ。確かにそのとおり。

 通常なら警備の騎士とか侍女が居る筈なのだ、『知らなかった』=『放置の証明』ですな。

 寧ろそんな状態が問題なので『報告されてない!』と言って来たら即座に『何故そんな状況にしておいた!』と追及される事請け合いです。

 王太子もここまで酷いとは知らなくても、それなりに聞いている筈だ。それを放置しているんだから共犯扱いで良いよね?


 警備の騎士・侍女共にゼロなんて王太子の指示があったとしか思わんぞ、誰だって。

 世話をする侍女はともかく、警備状況って報告されますよね?


 侍女達もそう思っているから自分達の行動が認められていると信じているんだろう。

 否定するならキヴェラの騎士や侍女の質が疑われるだけです。国全体の問題ですね!

 王族の姫を見下しているからこそのこの状況、強国でもお前ら侍女が王族より偉いなんてことはねえぞ?

 これだけでも十分証拠になるけど……どちらかといえばキヴェラが無能だという証拠のような?

 ついでに言うなら侍女達が『エレーナ様の為』って声高に言っているから寵姫様の評価が下がっていくんだが。

 侍女を使って嫌がらせをする女がまともな奴にどう思われるかなんて判り切ったことでしょ?

 ……まあ、王太子は評価するかもしれんが。

 さて、そろそろ話を切り上げて次に行きますか。

 

「ああ、いけない。つい長話を。色々教えてくださり、ありがとうございました」

「え……ああ! 私も言われていた事をやらなくちゃ! じゃあね!」

「あら、結構話し込んじゃったわね」

「私達も仕事しましょ。エレーナ様に気に入っていただけなくなるわ」


 私の言葉を切っ掛けに其々が仕事に戻っていく。

 その姿を眺めながら私は笑みを浮かべた。


「本当に『色々と』ありがとうございました」


 嫌がらせは侍女達の独断でも『王太子妃に対し不当な扱い』をしていた事は事実ですから。

 しかも侍女達に正しいと思わせるような言動を王太子がしているわけだ。

 これで王太子が問題発言でもしてくれれば完璧です。

 ここの責任者って王太子じゃん? 王太子本人が嫌がらせを認識しているにも関わらず放置しているなら責任逃れなんてできません。

 一番問題だったのはキヴェラ王が冷遇の責任を寵姫と侍女に押し付けて排除することですからね!

 侍女達の言葉を聞く限り冷遇に荷担していたのは王太子のようですし、今後の狙いは王太子といきましょう。


 ……逃がしゃしねぇぞ? 王太子様?


※※※※※※※※※


 翌日。

 どうも朝から侍女達がうろついていると思ったら王太子が来るらしい。

 『凄く格好良いの! 護衛騎士のヴァージル様も人気があるんだから!』とのことなので美形二人組み=王太子&護衛の騎士ということでいいんだろうか。

 ……魔王様達を見慣れている私が『素敵』と認識できるか自信が無いのだが。

 よく考えれば高貴な方をじっくり見るなんて事ができる筈は無い。

 と、いうわけで。

 侍女服を着るだけでなく、神殿に侵入した時の魔道具フル装備で出陣です!

 掃除をする振りをしてあちこちに記録用の魔道具を仕掛けてきたけど、一番良いのは私自身が証人となることですよ。

 目的が寵姫な以上は短時間しか見張れ無さそうなので、廊下を歩いている時は張り付いていた方がいいかもしれない。

 尤も声を拾える程度の距離をとって、だが。

 美形二人の顔を一目見ようと侍女達は用も無く廊下をうろついたりするみたいなので、気配でバレる心配は無し。

 御自分の人気を理解しているそうですよ? ナルシストかい。

 そんなわけで侍女の皆さんに混ざってみようと思います。




「相変らず父上は頭が固い。伝統が全てではなかろうに」

「仕方ないですよ。歴史ある国とはそういうものです」

「だがな……」


 えー、現在尾行中。

 王太子&護衛騎士の会話に溜息を吐きたくなるのを堪えております。

 うん、『伝統が全てではない』ってのもある意味正しいとは思うんだ。

 でも貴方が王太子なのはその伝統があるからですよ? 正妃の第一王子様?

 隣の騎士も宥めるだけで王太子の気に障るような言い方はしていない。

 はっきり言ってやるのも優しさだぞ? さあ、勇気を出せ?

 『貴方が我侭言っても王太子でいられるのは王妃様の息子だからですよ』って。

 言ったら言ったで荒れそうだけどな!


 で、王太子の外見。

 金髪に青い切れ長の瞳、気が強そうと言うか俺様? な感じ。上から目線な態度。

 ある意味、物語に出てきそうな王子様。


 護衛騎士(仮・正しい立場が判らん)

 短めの赤毛に赤っぽい茶色の瞳。良く言えば陽気そう、悪く言えば女癖悪そう。


 二人とも顔立ちは整っているし、王太子の方は綺麗系の美形さんですね。

 黙って立ってるだけなら賢そうに見えるかもしれない。

 ……だって会話が馬鹿っぽいんだもの。顔と血筋だけの男かよ。

 そもそも私は魔王様とルドルフが王族の基準なのだ。二人なら伝統を残しつつ新しく何かを取り入れていく事を話し合うだろう。

 歴史ある国だからこそ古い物を認めつつも状況に合わせて国にとって最適な行動をとるんじゃないのか?

 過去ばかりに執着し現在を見れない王族は的確な政策など打ち出せまい。

 あと、御自慢の顔も守護役連中に劣るから。

 精々、宰相様クラスじゃね? 慣れてるから見惚れる程じゃないな。

 それにしても赤毛の騎士か〜……嫌な予感がするのは気の所為だろうか。

 そんな事を考えつつ二人に付いて行くと侍女達が仕事を装って廊下に姿を現す。

 一目見たいという乙女心ですね。でもその対象は貴女達の思惑に気付いて優越感に浸る生き物なようですよ?

 ……そんなことより私の気配に反応しろよ。もしやファンの一人とでも思われてる?


「やれやれ……侍女達は仕事してるんですかね? 貴方が気になるようですよ、ルーカス様」

「お前の方が目当てかもしれないぞ? ヴァージル」


 ……。

 どっちも要らん。はよ問題発言しろ。この時間がとっても苦痛です。


「そういえばイルフェナに異世界人が来たそうですよ? エルシュオン王子が後見になっているとか」

「あの『魔王』が? 面倒を見るようには見えないが」

「異世界人は意外と喜んでるかもしれませんよ? 顔は極上だ」

「はっ、所詮は小国。珍獣の躾とは暇なことだな。イルフェナの魔王も大した事は無いんじゃないか?」

「どうでしょうね? 異世界人は目立った功績を出していないようですが」

「その異世界人もただの迷い人なんだろう。使えない駒は要らん」


 ……。

 もしもし、御二人さん? 私、珍獣こと異世界人のミヅキちゃん。

 ……今、貴方達のすぐ後ろに居るの。

 この後は都市伝説と同じく滅殺すべきでしょうか、この二人。 


「噂ではゼブレストの粛清に関わったそうですよ?」

「異世界人が? ありえないな。大体、『粛清王』などと言われていても貴族に嘗められているお坊ちゃんじゃないのか?」

「手厳しいですね」

「異世界人がいきなりこちらの世界の政に関わったなどと信じる方がおかしいだろう。それにゼブレスト王は今まで一切そういった話が流れてこなかったんだぞ? 実際に手を下したのは別人じゃないのか」


 まあ、そういう考えもありますね。ある意味一般的思考だ。

 でも事実なのです。魔王様の教育方針もルドルフも普通じゃない。

 ついでに言うとルドルフは機会を窺っていただけで牙を剥く時は最後の時だぞ?

 自分を基準にしか考えられないなんて、お馬鹿さんなんだからぁ♪

 ……後で覚えとけ。


「……?」

「どうした?」

「いえ……一瞬寒気がしたような」

「泣かせた女が恨んでるんじゃないのか?」

「酷いですね!」


 ヴァージルは一瞬振り返りながらも私に気付く事無くまた歩き出す。

 軽口を叩きながら進む二人の様子から察するに側近であり友人といった関係なのだろう。

 二人揃って気の所為で済ませるなんてどれだけ無能なんだよ。イルフェナではありえないぞ?


「ああ、女と言えば王太子妃様はお元気でしょうかね?」

「知らんな、あんな女」

「噂では美人だって話じゃないですか。一度お相手願いたいものですね」


 ……ちょっと待てや。扱いを知っていても王族ですよ、お・う・ぞ・く!

 お前如きが懸想するなんざ不敬の極み……


「別に構わんぞ? 欲しいなら命じてやろうか? どうせ誓約で逆らえないしな」


 クズが居たー! 自分の正妃を娼婦扱いですか!? 貸し出しちゃうの!?

 別の意味でビビる私を他所に二人は楽しげに会話を続けている。


「おや、それで俺は不敬罪ですか?」

「いいや? 向こうが誘ったということにすればいいだろう。身分的にお前は王太子妃に逆らえないしな」

「はは、それでめでたく離縁ですか!」

「父上もそんな女を認めることはしないさ。エレーナが認められるまで俺は諦めない」


 なるほど、その為に小国の王女どころかコルベラ王家の誇りを踏み躙ろうというわけですね?

 格好つけてもクズはクズだと知れ。

 貴様が恋愛小説の主人公になれない理由がよ〜く判った! 

 誓約をそんな風に使うなんてどんな国も吃驚でしょうよ。


 証拠は押さえた。もういいよね?

 と言っても逃亡準備があるのでセシル達にはもう暫く後宮に居てもらわなきゃならない。

 勿論、防衛面も話し合わなければならないだろう。

 実行されればセシルも気の毒だし、キヴェラ王が事を内々に治めてしまう可能性だってある。

 今夜からセシルの部屋に泊めてもらおう。危険、超危険。

 誓約なんざとっくに解除してるけど、男が部屋に入り込んだ時点で不貞を疑われるのは間違い無い。

 ここまでアホなのだ、実行しかねん。貴様等に信頼など欠片も無い。 


 相変らずの会話を続ける二人を追う事はもうしなかった。

 そんな必要などない。今の会話だけで十分だ。

 後はセシルが無事だという証人に私がなればいいだけで。



 その後。

 セシルの部屋に戻るなり酒盛りを提案し。突然の提案に首を傾げる二人に魔道具に記録した証拠を聞かせた後、酒盛りは快く受け入れられたのだった。同志よ!

 エマに酒を頼み私は食材を買い込んでお料理です! 酒でも飲まなきゃ、やってられねぇよ。

 散々飲み食いし、酒も程よく回る頃には『本当に夜這いに来るかな?』『来たら別の意味で可愛がってあげよう』などという事も口にできるくらい私達の心は広くなっていた。

 実際に来なかったのが残念だ。さぞ素敵な思い出になっただろうに。

 そして楽しく飲み明かし友情も深まったところで私は魔王様達に連絡を入れるべく、宿に戻ったのだった。

 妙に商人さん達が怯えていたけど気にしない!

 大丈夫、まだ殺ってないから! 楽しみは後に取っておくから!



※※※※※※※※※



 『拝啓 魔王様


  報告が遅くなってしまい申し訳ありません。

  こちらは無事に姫と合流もでき、順調に下準備を進めております。

 

  そういえば、この話が出た直後レックバリ侯爵を交えて

  『次代がこれかよ、キヴェラも大概ヤバイよな。今のうちに手を切っておく?』

  などと冗談交じりに話した事を覚えておいででしょうか?

  個人的な感想を言いますと予想以上です。下には下があるものですね。

  予想の斜め下の展開に世界は広いものだと遠い目になる日々です。


  難関と思われた後宮への侵入も姫達が隠し通路を見つけてくれていた事に加え、

  部屋近辺の警備が笊を通り越して不在なのであっさり解決しました。

  部屋で食事どころか酒盛りしていても誰も気にしないなんて大らかですね。

  ああ、姫の与えられた部屋が隅の家具の殆ど無い場所だったからかもしれません。

  保護されている立場とは言え部外者の私が執務室にお邪魔する時は魔王様の傍に

  アルかクラウスのどちらかが必ず付いていますし、ルドルフにしてもセイルが

  控えているのが当然と思っていたのですが……違ったのでしょうか?

  王族はそういうものだと近衛騎士の皆さんに習ったように思うのですけれど。

  王太子妃はこの国の王族と認められていないとでも言いたいのでしょうか。

  改めてイルフェナとゼブレストの騎士の質の高さを痛感しております。

  王太子の後宮でクズ騎士を寄せ集めたなどということは考えられませんし。

  私はイルフェナとゼブレストしか知りませんが国によって常識が異なるのですね。

  ある程度は予想していましたが、救いようがありません。


  冷遇の実態は侍女が王太子妃を見下し、寵姫に気に入られるよう独自に動いた

  結果のようです。『愛し合う御二人の為』だそうですよ。

  必要最低限の職務すら個人的感情で放棄する侍女など誰が信頼するというのか。

  『馬鹿じゃねーの?』という言葉を飲み込み、しっかり記録しておきました。

  侍女が王族を見下すキヴェラの常識に頭痛を覚えましたが、そういった教育がされ

  ているのかもしれません。先行き不安な国ですよね、本当に。

  王太子も黙認していますし、警備の面から言っても『知らない』はありえません。

  ですが、悪質な嫌がらせをされず放置だったことは喜ぶべきなのかもしれないと

  思います。王太子を〆たくなっても困りますし。

  あ、姫には指1本触れていないそうです。顔も覚えていない可能性ありだとか。

  今後も触れる予定などありませんので御安心くださいとレックバリ侯爵に伝えて

  くださいね。うっかり私が殺ってしまう可能性の方が高そうです。


  それにしてもキヴェラの王太子様はとても優秀な方なのですね!

  証拠集めの際、正気を疑うような言葉を耳にしました。


  『所詮、小国。イルフェナの魔王も大した事は無い』


  『粛清王などと言われても貴族に嘗められているお坊ちゃんじゃないのか』


  この言葉を聞き、王太子様を過小評価していた自分を恥ずかしく思います。

  それほど、自信が、おありなのです。

  これは知力を尽くして挑戦せよ、ということなのでしょう。

  魔王様にすら及ばぬ事は重々承知しておりますが、私とて魔導師を名乗る者。

  歴史に残る偉大な先輩方に恥じぬ結果を出したいと思います。

  何やら商人さん達が必死に宥めているので今回はこれで終わらせて戴きますね。

  ペン先を何本も折ったので心配させてしまったようです。


  最後にこれだけは書いておきたいと思います。  


  死にさらせぇぇぇぇっっ、アホ王太子がぁぁぁっっ!


  言葉が悪くなりまして申し訳ございません。

  庶民ゆえの戯言と思っていただきたいのですが、現在の心境です。

  では。


  追記


  私も乙女の端くれとして『おまじない』をやってみたくなりました。

  我が故郷伝統の『おまじない』は藁というイネ科植物の茎のみを乾燥させた物

  を人型にして対象の髪や爪を入れ、想いを込めて釘を打つと願いが叶うという

  ものなのです。

  何処かに藁がありませんかね?

  今なら殺れる……いえ、成功すると思うのですが。

  御存知でしたら情報をくださいね。                     



                                        ミヅキ         』




「……」

「……」

「……。何だか筆圧が異常に強いんだけど。王太子は何をやったのかな……?」

「う……うむ、姫に関しては安心したのじゃが」


 送られてきた手紙には安堵したが、別の不安は増したようだ。寧ろ色々と突っ込み所は満載だ。

 わざとらしく一部『王太子様』などと書いているあたり込められた感情は真逆のものだろう。

 今まではキヴェラという国が標的だった筈なのだが、これは間違いなく王太子を狙っている。

 後宮の現状も姫達と仲良くなったらしいミヅキには許し難いものだろう。 


 いや、確かに王太子の言動に問題があるよ?


 でも『酒盛り』って何? 姫共々何やってるんだい?


 目的を間違えてないよね? 目的は逃亡だからね!?


 しかも追記に書かれているのは本当に『おまじない』か?


 冷や汗を流しレックバリ侯爵共々、手元の手紙を見る。

 ……。

 何度見ても『死にさらせぇぇぇぇっっ、アホ王太子がぁぁぁっっ!』という文字は気の所為ではないらしい。

 アルやクラウスは『騎士の在り方を判ってますね!』『それでこそ俺達の婚約者だ』と絶賛しているが、ミヅキはただ批判するだけで済ます気などないに違いない。

 二人は騎士である事に加え『殺してでも帰って来い』という考えなのでミヅキの怒りは尤もだと理解を示し、頼もしく感じているみたいだが。

 確かにミヅキが殺る気になっている以上は中途半端に平和的解決をするより安心だ。ミヅキは敵に容赦しない。

 そういった意味では安心できるが、やる気になっているのはグレンに鬼畜賢者などと言われる人物だ。

 その賢さが物凄く嫌な方向に活かされる事はまず間違い無い。


 ……騎士と混ぜて教育したのは失敗だったのだろうか。

 忠誠心よりも自分の身の安全を優先して欲しいのだが。


「そういえば……ミヅキ様は最も苦労されている王と最も厳しいと評判の殿下の御二人しか王族を御存知ないのでは? 御二人が基準ですと王太子様は随分と厳しい評価をされそうですね」

「ああ、ルドルフ殿と私の事かい」

「ええ。自覚はあまりないようですが、基準がイルフェナでしょうし」


 今気が付いたとばかりに執事が口にすればレックバリ侯爵共々一層黙り込む。 

 そして同時に深々と溜息を吐いた。

メリーさんの電話状態な主人公。怒りは深し。

そんな子に付き合える姫と侍女も普通ではありません。

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