白騎士達がやってきた
「それで貴方達にも一度城へ来て頂きたいのですが……」
淡い金髪に緑の瞳のとっても美形なお兄さんは先生と私にそう告げました。
空気を読む子としては断れる雰囲気じゃなく、恋愛フラグを立てたいお嬢様なら心の中でガッツポーズをとるような場面ですが。
「嫌です♪」
フラグを折りたい私としては自分に正直であろうと思います。
笑顔で言っちゃうぞ♪
……誰がそんな場所に行くか、面倒な。
※※※※※
ジェノアの村で起きた襲撃事件に私と先生は結局数日の滞在を余儀なくされた。
先生の御友人経由で城に状況を報告したはいいが、辺境の村に転移の門などあるはずもなく。
向こうからの手紙に
『迎えをやるからそれまで監視御願いね! 頑張れ♪』(意訳)
などと書いてあったが為に暫く留まる事になったのだ。
確かに村で連中を預かれというのは酷だろう。
……反対に私の滞在確定で連中は泣いてますけど。頑張れって何を??
ついでに転移の門の説明。
門は転移法陣を維持する為の魔力が必要とかで作れる個数が限られているんだそうな。はっきり言えば動力源の魔石がかなり貴重なのが理由。
必要な時に『エラー・御指定の転移法陣は作動していません』なんて言われても困るしね。
当然、悪用されない為に警備や管理する人が必要なので全ての管理は国が行っている。当たり前だが一般開放なんてされていない。
利用できるのは国が許可を出した者(貴族が大半)、もしくは城お抱えの商人くらいらしい。それでも手続きが面倒だというから防衛面も徹底されてるんだろう。
あ、手紙は一辺が三十センチくらいの正方形をした紙? に描かれていた簡易版転移法陣(先生所有)を使って送ったみたい。
簡易版とつくだけあって必要な時だけ魔力を込めるもので『対応する転移法陣へしか送れない』『容量制限あり』という互いに手紙のやり取りをするだけのもの。
それさえ結構高価だと言ってたけど、村医者の先生が何故持っている。
え? 気にしませんよ、ええ。絶対に。
フラグは敵です、うっかり興味を示しちゃ駄目なんです!
そんなわけで冒頭の状態です。
お迎えに来たのは白い騎士服のお兄さん達でした。
あれ、青い制服って下っ端か見習いだった??
「ゴードン医師、お久しぶりです」
「やはり、お前さんが来たか」
「ええ、殿下直々に命じられまして」
そう言うと笑みを一層深めて優雅に会釈した。
わあ、外見含め理想的な騎士がいますよ、お嬢様方!
これで顔しか取り得がなかったら大笑いですが、連中を引き取りに来たので『助けてくれ!』はないでしょう。
おお、村の女性陣が頬を染めてガン見してますよ!
どこかで恋愛フラグが立ったら見物させておくれ。
「ところで、そちらが魔導師殿ですか?」
「うむ。ミヅキ、彼はアルジェントと言ってな……その、私の知り合いであり今回の責任者だ」
こちらに向けられた笑みに軽く会釈する。
魔導師殿って何だ、一体。やっぱり色々報告されてましたか……。
それに。
……先生のこの人の紹介、色々すっ飛ばした感ありありです。
貴族じゃね? 特殊な立場なんじゃね? 警戒してもいいかな?
普通じゃない村医者の知り合いが普通の騎士とか思えないんですが。
「アルジェントと申します。アル、とお呼びください。ゴードン殿には見習い時代から大変御世話になったのですよ」
「見習い時代? 世話になった??」
「ゴードン殿は城に勤めておられたのです。国一番の名医と名高かったのですよ」
「……へぇ」
ああ、やっぱり宮廷医師でしたか。お約束な展開ですね!
そうなってくると当然……
「今回の事、大変ご迷惑をおかけしました。それで貴方達にも一度城へ来て頂きたいのですが……」
でもね、お兄さん。
「嫌です♪」
私が貴方に名乗りもせず、宜しくとも言わない理由を察してくれまいか?
美形に釣られてフラグの巣窟に飛び込む自殺行為はしませんよ?
で。
「諦めてください」
「い・や・で・す」
「待遇は良いですよ?」
「村の生活で満足してます、平和が一番です」
「何でしたら気に入った貴族や騎士を傍に……私でもいいですよ?」
「さり気に生贄モドキ献上しないでください、何その捨て身の勧誘」
只今攻防真っ最中にございます。
お互い笑顔ですよ? 表面上はにこやかにお茶してるようにしか見えません。
うふふ……うふふふふふ……!
さっさと退けや、優男。
人間、諦めが肝心なんだぞ?
部屋の中には私と敵の他に先生と騎士s、白騎士が居ますが……誰も止める気配無し。
白騎士よ、お前らの隊長が勝手に貴族や騎士を交渉の駒にしてるぞ、いいのか?
先生、諦めた表情で明後日の方向を向くのはやめてください。
騎士s……怯えた表情でこちらを見てる君達が一番まともに見えるのは何故だろうね?
いい加減鬱陶しいです、時間の無駄です。
口で言って解らないなら実力行使しかないよね。
やる? やっちゃう?
決めたなら即実行ですよ! 時間は有限なのだからっ!
「何と言われてもお断りします。……失礼しますね」
「……っ! 待て、ミヅキ……っ」
魔力の動きを察した先生が諌めようとするが無理である。
発動までの準備は既に整っているのだから。
先生の声が聞こえたような気がするけど気にしない♪
それに障害は実力で排除するものですよ、先生。 黒尽くめ戦隊を沈めたこの腕で……!
(対象・白騎士、空気圧縮による衝撃波……)
対象を確認し、パチンっ! と指を鳴らす。
「「ぐっ……」」
「な……!?」
「一体……何、が……」
いきなりの衝撃に悶える白騎士達。腹部を押さえつつも何処か呆然と痛む個所を眺めている。
おお、意識を失ってません。魔力はないみたいだけどエリートですか、彼等!
苦しむ表情も様になるって美形は得ですねー……原因、私ですけど。
優しく労わる気もないのでさっさと退場しますか。自業自得ですよ、騎士様達?
※※※※※※
ゴードンはミヅキの出て行った扉を眺めたまま深い溜息を吐いた。
実の所、ゴードンがミヅキを止めようとしたのは全く別の理由からなのだが。
ちら、と未だ蹲る騎士達に目を向ける。
気を失わなかったのは流石だが、彼等のダメージは大きいだろう。
暫くは立てまい。
だが。
「……これが彼女の実力……」
聞こえてきた呟きに思わず目を逸らす。
「素晴らしいです……理想的ですよ……!」
ほんのり頬を上気させて嬉しそうにするアルジェントと白騎士達。
状況を考えなければ恋する青年に十分見える。
状況を知っていればその発想に行き着くことはまずないだろうが。
実はこの青年、かなり特殊な性癖の持ち主なのである。
『自分より強い者に憧れる・戦いに喜びを感じる』ならば珍しくもないが、『自分より強い者と戦い痛めつけられる事に悦びを感じる』奴はそうそういまい。
むしろドン引きされることうけあいである。
このイルフェナという国は昔から王族・貴族に実力者(=変人)が生まれることが当たり前だった。
天才と何とかは紙一重という言葉を証明しまくってきたからこそ、小国ながら永らえてきたのである。
城勤めでもしていれば今更な事実だが、民間人に馴染みはない。
功績のみ伝えられているので、偉人どもが変人揃いだったなどとは一般的に知られていないのだ。
実力者である白騎士達も例外なくそれに該当し、察するに全員同類か。
他にも色々な奴等がいたな……などと遠い目になったゴードンは不意に手をとられ現実に戻る。
手を握り締めているのは復活したらしいアルジェント。キラキラとした目が何だか怖い。
「彼女とお付き合いさせてください、ゴードン殿!」
「……それは本人同士の問題だと思うぞ」
「ありがとうございます! これから努力することにします」
許可してない、許可してないぞ!?
そっとしておいてやってくれ……と言おうとして止めた。
エリートである彼等に勝利することが可能な女性など、どれほどいるというのか。
はっきり言って『不在』という答え一択だ。むしろ大勢居たら男は要らない。
魔導師だったとしても呪文詠唱の時間がある限り負けるだろう。
ミヅキは詠唱無しだからこそ接近戦でさえ強さを誇っているのだから。
そんな彼等が漸く見付けた理想の女性(=生贄)を諦めるだろうか?
……無理だろう、拒絶の実力行使でさえ彼らは喜ぶ。
(すまん……初めから伝えておくべきだったか……)
ゴードンはひっそりミヅキに詫びた。変人どもに気に入られるなど気の毒にも程がある。
しかも彼等がまともであったとしても彼女にとっては迷惑以外何物でもないのだ。
そんな中、騎士sは衝撃の事実に気絶したまま忘れ去られていたという。
騎士s、意外とまともな家庭(=凡人)に育っていたようである。