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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
キヴェラ編
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自分に素直なのは良い事だ

 あれから。

 レックバリ侯爵がドン引きする程の勢いで話した計画は無事採用。

 魔王様達も半ば諦めから私の意思を尊重してくれた。

 いいじゃないですか、イルフェナの為でもあるんですよ?

 このまま放置して戦争になったら私もアル達に付き合って最前線に行くだろうし。

 そもそもこんな事になった事情を周辺諸国が知ればキヴェラへの不審と嫌悪は嫌でも高まる。放っておいても何時かはドンパチやらかしそうですね。

 しかも、今回は完璧にキヴェラが悪い。ならば圧倒的な支持を得られる今回こそ絶好の機会だと思うのです!

 姫様もコルベラも気の毒じゃないか。

 今後の犠牲を出さない為にも勇気ある行動は必要ですよ?

 まあ、私としては意味が少々異なるのだが。


 正義? 何それ美味しいの?


 建前って重要だよね!


 同じ敵を相手にする者同士仲良くしようじゃないか!


 姫達に同情するのも、国の今後を憂う気持ちも勿論ありますよ。

 でも一番は復讐。

 最優先事項は復讐。

 思い上がった国に怒りの鉄槌を! 

 駄目人間と言う無かれ。人として当たり前の感情なのです!

 知力と魔力を尽くして貶めてやるから首を洗って待っていたまえ。

 何せ元の世界にはこんな名言があるくらいだ。

 

 『最初の一撃で戦いの半分は終わる』


 判り易く言うなら先手必勝。素晴らしい言葉じゃないか。

 つまりキヴェラで後々まで響くような事を起こすべし、とな。

 ふふ、最初は派手にやってやろう。逃亡生活は地味だしな!


「なあ……ミヅキは一体何を書いてるんだ? えらく楽しそうだが」

「さあ? あいつのことだから完全犯罪の計画書だったりしてな!」

「ちょ、それ笑えないだろ!」


 ……そんな風に和やかに話していた騎士sが事情を知って止めに来るのは夕食後のこと。

 勿論、私が頷く筈も無く。


「何で逃亡の手伝いが国と一戦交える方向になるんだよ!?」

「必要だから。それから『一戦交える』んじゃなくて『貶める』が正しい」

「なお悪いわっ! それ絶対お前の個人的趣味だろ!?」

「趣味と周囲の期待と後々の事を踏まえた上での素晴らしい試みでしょうが!」


 などという遣り取りが展開されたのだった。

 これ姫の自由を確保する為の計画であって復讐部分はまた別にあることは話さない方がいいかなー?



※※※※※※※



「……というわけで記録用魔道具の製作を御願いします。数は三十個ほど」

「随分多いな?」

「ばら撒き用が大半です。目指せ、有利な展開」

「判った。お前なら有効活用するだろう」

「ありがとー!」


 さすが職人、話が早いです。

 寧ろ魔道具あってこその作戦なので私が関わる事以外は乗り気。

 そもそも逃亡中に護衛が付けられない……というか私が護衛扱いになるのでその辺の負担を心配していると思われる。

 でも多分大丈夫だぞ?

 普通のお姫様と侍女なら負担になるだろうが、向こうは野営も平気で脱走計画を立てる人達だ。

 それ以前に命の危機になりつつも一年生き延びてきたのです、そんな環境の中二人だけで生活できていた時点で何の心配も無い。

 私も短いとは言え後宮生活を送っていたのだよ。迂闊に手を出せない奴が相手なことよりも盗賊や魔物の方がよっぽど楽。

 しかも逃亡の先には自由が光り輝いている。私の前にはその先に復讐のスタートラインが。

 手に手を取って目指しますとも、コルベラを!

 ……いや、実際には追っ手を蹴散らしながらかもしれんが。


「ミヅキ……追っ手をあまり嘗めない方がいいぞ? 数で攻められれば明らかに不利だ」

「ふふ、大丈夫。対策は勿論考えてあります!」

「対策?」

「うん、今は秘密」


 ええ、ばっちり考えてありますよ。

 逃亡だけでなく私個人の事情的にも重要です。抜かりはありません。

 こちらの協力者は先生。先生もキヴェラには色々と思う所があるらしく復讐自体は賛成みたい。


 師弟初の共同作戦です。心が躍りますね……!


 立案・実行は私ですが事前準備は先生。互いの長所を活かして遣り遂げてみせますとも。

 なお、先生が魔王様達ほど心配していないのは村での一ヶ月を知っているからだ。

 ……馴染むのが早かったとはいえ、色々と苦労があったのだよ。当時に比べたら今の私は『何処へ出しても必ず無事で帰ってくる』程度には安心できるらしい。


『嫁ぐなら心配な事この上ないが、逃亡生活ごときで音を上げるような軟弱者には育てとらん!』


 という御言葉を戴いた。時々サバイバルな生活でしたからねー、あの村。

 普通は逆だ、とか言ってはいけませんよ。事実です。

 魔王様達の女性基準って戦う力の無い人だからねえ……どうしても過保護にはなるだろう。


「ゴードン殿が関わっているなら大丈夫だろうが無理はするなよ」

「わかった」


 ええ、無理はしませんよ。

 ただ、先生や私はクラウス達と危険の基準が大きくずれていることは黙っているけど。

 寧ろ『頑張って来い』な意見であることも黙っているけど。

 クラウスの信頼を壊すようで口に出来ませんでしたが。



 ……先生、レックバリ侯爵の甥でした。レックバリ侯爵のお姉さんが医師と恋愛結婚したんだと。その夫婦の子供が先生。

 あの狸の血筋ですよ? 真面目で誠実でも『それだけ』である筈ないじゃないか。

 どのみち一度はイルフェナに戻るのです、お説教はその時でいいよね?



※※※※※※※※



「これが旅券だよ。二人の分もあるから向こうで渡してくれ」

「了解です、魔王様」


 執務室に呼ばれるとアルと共に魔王様が待っていた。

 仕事の合間に旅券を整えてくれたらしい。偽造じゃないぞ、私の分に限っては。

 ざっと目を通すと私は先生の弟子ということになるらしい。嘘は言っていない。

 姫と侍女は元貴族という扱いだ。

 ……確かに宮廷医師の弟子と元貴族なら繋がりがあると言えるだろう。友人で通す予定だし。


「生まれや育ちは不意の言動に出たりするからね、功績で貴族になったけど続かずに爵位返上ということにすれば疑われないだろう」

「つまり『生まれた時は貴族だったけど成人するまでに平民に戻った』ということですね」

「そう。我が国の制度は知られているから問い合わせが来たとしても上手く偽造できる。爵位返上はそれなりに居るからね」


 実力者の国だからこそ認められる事も多い。だけどその後が続かない家もかなり居るって事か。

 一見偽造し放題だと思うけど、そのあたりの管理はしっかりされているのだろう。


「それからこれは髪と瞳の色を変える魔道具だ。……本当に君の分はいいのかい?」

「ええ、必要ありません。髪色だけで私が的になれば他の二人から注意を逸らせますし」


 姫は黒髪・緑の瞳だそうな。だから二人には印象を変えるよう金髪に青い瞳になってもらう。

 イルフェナはどちらかと言えば明るい色彩の人が多いので違和感は無い。

 黒髪も特に珍しい色ではないけど、元の色そのままは止めた方がいいだろう。

 食事会の時に使った『顔を正しく認識できなくなる』魔道具と併用で更に安全だ。


「ミヅキに注意を向けたとして、どうやって姫ではないと証明するんです?」

「そうだね、言い掛かりをつけてとりあえず捕らえる方向にする可能性もある」


 アルや魔王様の心配ご尤も。

 下っ端が来た場合、髪色だけで捕獲対象なんてこともありえるだろう。イルフェナに問い合わせしてもらうのも面倒だ。


「料理を作ってみせればいいじゃないですか」

「「は?」」

「いや、だからね? 普通、姫どころか貴族って料理しないでしょ?」

「ああ、そういうことか」


 今回、持って行く荷物の中に村に居た頃から使っているフライパンが入っている。

 持ち手の部分に私の魔血石が付いた専用の(ある意味)魔道具です!

 魔血石はその名のとおり血を特殊な方法で魔石と融合させたものだ。魔術師が自分専用の魔道具に埋め込んだりしている。

 要は使用する魔力を術者本人から得ている状態になるってこと。魔力持ちならば魔石の交換が不要になるのだ。

 私に『繋げている』状態とも言う。だから魔力切れの心配も無いし該当者以外は使えない。

 前にオレリアが魔道具で攻撃魔法使ってた状態と同じですね。彼女は魔力が無いみたいだったから魔道具に魔石も付いていたけど。

 重力軽減作用で軽いし加熱も思いのままの自慢の品。逆に言うと私以外にはそんな効果は無いただのフライパン。



 ちなみに。

 フライパンごときにこんな処置が施されているのは便利さだけではない理由がある。

 当時魔法をイメージの産物だと知った私が強度を徹底的に高めてしまったのだ。

 あまり実感が無かった私は適当に強化、岩を砕いて無傷という恐ろしげなフライパンとなった。

 先生には勿論怒られましたよ、『この世界に無い物を作り出すんじゃない!』と。

 元に戻すにしても初期状態を認識しておらず、『この世界には無い素材』となってしまった為に個人仕様のフライパンとなったのだ。

 こんな強化ができると知られれば壊れない武器とか作らされるかもしれないじゃないか。世界の為にも私の為にも沈黙します。

 そんな非常識な出来事と先生のお説教を繰り返して今の私がある訳だが。


「疑われたら獲物を狩るところから料理完成まで見せてやればいいんですよ。姫か侍女だと思っているなら絶対に無理だもの」

「確かに無理でしょうね……調理は出来ても獲物を捌くことができる人はあまり居ないと思いますし」

「アル、普通は無理だと思うよ。王族付きの侍女なら生まれは貴族だろう?」

「そうですね」


 二人とも頷き納得している。でしょうねー、血を見ると卒倒する人多数ですから。

 大物が出てくれれば一発で疑いは晴れるだろう。逞しさにドン引きされるかもしれないが。

 疑いが晴れて、気晴らしの料理もできて、美味しい物が食べられる!

 我ながら良い考えだ。騎士sには『少しは食い物から離れろ』と呆れられたけど。


「それにレックバリ侯爵の話だと姫達って野営も平気なんでしょ? 血を見たくらいじゃ気絶しないと思いますよ?」


 元貴族という設定があるから料理が苦手でも不思議は無い。

 悲鳴を上げたり気絶したりしなきゃいいのだ、レックバリ侯爵にも聞いたけど大丈夫っぽい。


「レックバリ侯爵情報だと二人はそこそこ強いみたいだし、侍女は治癒や解毒程度の魔法が使える。そこに魔術師として私が入って三人旅……と言ってもバランスはいいと思う」

「確かにそれなら女性ばかり三人の旅でも怪しまれないと思いますが……」


 アルは溜息を吐くと仕方ないという風に笑い、懐から小さな袋を取り出して逆さにした。

 袋から出てきたものはネックレスだろうか? 小さな宝石らしきものが十個くらい付いている。


「これを身に着けていてください。普段は見えないように服の下に」

「何これ? ネックレス?」

「ええ。路銀は用意してありますが予想外の事態という場合もあります。宝石は一つずつバラして売ればそこそこの金額で売れるでしょう」


 なるほど。資金の足しにでも賄賂にでも使えということか。

 確かに宝石と言ってもかなり小さいものだから莫大な金にはならず、しかも貴族ならば一つくらいは持っているから『貴族だった頃の名残』として所持していても不思議はない。

 いつもの軍服モドキにマントを羽織る格好で行くので服の下につければまずバレないだろう。


「大した価値があるものではありませんが、人の命が買えることもあるでしょう。遠慮なく使ってください」

「うん、ありがと!」


 これ以上心配させるのもどうかと思うので素直に受け取っておく。

 アルも安心したように微笑んだのでこれで良かったのだろう。心遣いに感謝だ。


「ミヅキ。ルドルフ殿達には逃亡の事だけを伝えておく、ということでいいんだね?」

「ええ、御願いします。アリサとグレンにも手紙を出しますし」

「君を案内するのは翼の名を持つ騎士達に属する商人達だ。何か必要な物ができたら彼等を頼りなさい」

「……はい」


 イルフェナの諜報部隊か何かなのだろう。商人として様々な国を回る彼らから得る情報も役立ちそうだ。

 表立って動かない分、出来る限りの事はしてくれたらしい。

 ならば私も結果を出さなければ。

 ゼブレストへの侵攻だけではなくイルフェナも迷惑を被った事があるのだ、ただで済ます気は無い。

 でもとりあえずは姫達をコルベラまで無事に送り届ける事が最優先だ。


 さて、支度を済ませてキヴェラへと行きますか!

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