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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
キヴェラ編
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逃げるだけで済む筈は無い

 うふふ……うふふふふふふ……!

 ありがとう、神様!

 この世界は国毎に祀ってる神が違うし扱いに差が有るからあまり信じていないけど。

 とりあえずイルフェナの海の女神に感謝しておこう。

 慈悲深く優しい女神様らしいので『そんなことしてない!』と焦るやもしれませんが、手遅れです!

 結果的にイルフェナにとっても良い事ですよ、諦めてください。


 まあ、さっさと話を進めましょうか。

 大変良い笑顔でレックバリ侯爵の片手を両手で包み込み再度告げる。


「その話、引き受けますよ。姫達を必ず祖国へと送り届けて見せます」

「う……うむ。何やら凄まじく頼もしく感じるのじゃが」

「その代わり条件を呑んでいただきます」


 ぴ、と人差し指を立て。


「まず、策は私に一任させていただきます。あくまでも『偶然姫達と知り合って逃亡に同行』という形で行きますから報告も常にというわけにはいきません」

「国の手助けは不要ということかね?」

「下手に動けばイルフェナに迷惑が掛かりますよ。作戦内の行動以外は控えるべきかと」


 基本的に魔王様が動かせるのはアル達だ。目立つ。超目立つ。

 顔が知れてる可能性もあるので囮以外に使えないだろう。

 黒騎士には事前に働いてもらう事になるだろうし、白騎士はその分、通常業務頑張ってくれ。

 何より私の不在を誤魔化せるだけ誤魔化してもらわねばならんのだ……日頃あれだけ過保護なのです、彼等がイルフェナで普通に姿を見せていれば異世界人だけが居ないとは思うまい。


「事前に黒騎士に魔道具を作ってもらう事になるので費用はレックバリ侯爵持ちで宜しく」

「それくらいは構わんが、一体何をするつもりだね?」

「姫達のお手伝いですよ? 任務完了後に私の復讐が始まりますが」

「いやいやいや! 気持ちは判るが復讐はそれほど簡単ではないと思うぞ?」

「今回の事を利用すれば可能です! 人は困難に挑戦するものですよ!」


 握り拳を作って断言する私に魔王様達は頭を抱え、レックバリ侯爵と執事さんは拍手した。

 うむ、ありがとう!

 何だがノリと勢いに巻き込まれただけな気もするけど。


「それでは地図を見せてくださいな? あ、ついでに国の名前を明かしてくださいよ」

「む? ふむ、もういいじゃろう。問題の国はキヴェラ、姫の母国はコルベラじゃ」


 執事さんが持ってきてくれた大き目の地図をテーブルに広げた。

 元の世界の物に比べてかなり大雑把だけど、大体の形と位置が判ればいいので問題無し。

 国について簡単な解説が書かれた紙に目を通しながら地図を見る。

 ……ああ、確かにキヴェラって国はでかいな。

 海沿いにあるイルフェナは左にゼブレスト、中央にキヴェラとアルベルダ、右にバラクシンが接しているのか。

 ただ、ゼブレストやバラクシンは海沿いに山があるから港は無いみたい。海からはイルフェナの港を経由して周辺の国へ、という感じなのだろう。

 ん〜……位置的な点から言ってもイルフェナとキヴェラって揉めた事あるっぽいな。


「キヴェラってイルフェナ狙った事ありません?」

「何故そう思うかね?」

「野心家なら領土拡大と海の玄関獲得を狙いませんかね?」

「……。ある、とだけ言っておく」


 よし、手加減はいらん。今回はやられる前に殺ろう。


「コルベラってキヴェラに接している小国の1つなんですね」

「……食料を別にしても逆らえん理由が判るじゃろう?」

「ええ、領土の広さが全然違いますし」


 そりゃ、逆らえんわな……戦力が圧倒的に劣るだろうし。無駄な争いをするくらいなら大人しく要求をのむか。

 キヴェラの大きさはゼブレストとイルフェナを足したくらい。ただ、大半が平地でしかも食料を確保できるというなら住んでいる人の数は全然違う。

 つまり兵も多いということだろう。国の維持にも必要だし。

 復讐が簡単ではない、と言う理由はこれだろうね。1人で乗り込んでどうにかなるものじゃないもの。


 が。


 今回みたいに侵入するなら人の多さはこちらに有利だ。

 ついでに言うなら私にとっても好条件ですよ。そんな国だからこそ負けを認めさせた時の屈辱は小さくない。

 ……楽しみですね、本当に。 


「ミヅキ、物騒な事を考えてるな?」

「いいじゃない、クラウス」

「どうせなら洗い浚い吐け。止めたくらいで素直に従うとは思えん」


 あら、流石に学習してますね。

 しかも今回は『魔道具製作を頼む』って言ったから興味も湧いたかな。

 魔王様もアルも諦めモードとは言え私の考えが気になるようだ。

 では、そろそろ私の考えを言っておきますか。


「まずキヴェラですべき事。婚姻の証明書の破棄と王太子妃冷遇の証拠の確保、この二つを成した上で姫と侍女を逃亡させる。……合ってますか?」

「うむ」

「次。ここからが多分レックバリ侯爵の考えと違うと思うんですが……直接コルベラには向かいません。向かうのはゼブレストです」

「ほう?」

「……理由をお聞きしても?」


 侯爵と執事さんが同時に聞いてくる。

 うん、そうですよね。遠回りになるもの。

 私は地図に目を向け話しながら指先を這わせる。


「キヴェラからコルベラに向かえば必ず追い付かれます。まして逃亡している私達には土地勘が無い。山などに逃げ込んでも数に物を言わせて山狩りされれば終わりです」


 追跡者の数が多いというのは実に面倒だ。下手をすればそいつ等を引き連れたままコルベラに到着してしまう。

 ……事態を知らないコルベラの民はどう思うだろうか?

 間違いなく必要以上の恐怖を抱き、事実を知ろうとするだろう。その結果、国が一丸となって姫を守ろうとしたら戦争突入です。

 しかもキヴェラの民は王太子妃の冷遇具合を知らない。

 下手をすれば王太子の罪を隠して王太子妃を悪人に仕立て上げるかもしれない。そして対外的にはそちらが『事実』となってしまう。

 戦争を望まないから嫁いだのに自分が切っ掛けで戦争になる、なんて事態は誰も望んでいない。

 そう告げると皆は黙り込んでしまった。

 そう、これが今回の一番の難点。何らかの策を練らない限りコルベラが犠牲になる。


「ですから。それも踏まえて私の復讐計画も発動です」

「何かあるのかい?」

「ええ、勿論。姫達が野営さえ平気だと判っているからこそ、ですよ」


 指先をキヴェラに合わせる。まずはここからスタート。


「逃亡がバレればまずコルベラ方面に捜索の手が伸びます。ですから敢えて逆のゼブレストを目指します。そしてゼブレストの転移方陣を使ってイルフェナへ。ここで旅の準備を整えます」

「直接イルフェナを目指さないのかい?」

「距離があり過ぎます。とりあえず『国外脱出』を最優先にしますよ」

 

 キヴェラは縦に長い形になっている。キヴェラを中心として反時計回りにゼブレスト、イルフェナ、バラクシン、アルベルダ、カルロッサ、コルベラと続く。


「このような順で遠回りをしてコルベラを目指します」


 キヴェラに隣接していないバラクシンも入れるのは一番手が回り難いからだ。

 キヴェラがバラクシンにまで追っ手を向けようとしてもイルフェナかアルベルダを通過しなければならない。

 事が事だけに転移方陣の使用は無いだろうし、私達にも状況確認の時間が必要だ。


「なるほど。ゼブレストなら君は自由にイルフェナと行き来できるし、バラクシンにはアリサが居る。……友人を訪ねるといういい訳にはなるんだね」

「アリサに一度遊びにきて欲しいと言われてるんですよね、実は。グレンにも一度向こうで会いたいですし」


 巻き込む、という心配は無い。キヴェラが事情説明するとは思えないし。

 しかもアリサが関われば王家が出てくる。説明できない以上は関わりたくなかろう。

 こちらを罪人扱い……という展開も予想されるけど、逆に私が異世界人で魔王様達と繋がりがあるから『別人です!』と言い切れるのだ。

 捕獲するなら証拠が必要です。当然、正当な理由の下に守護役達が出てくるので結果的にこちらの正当性を主張できる。

 このルートでは追いかけて来るしかないのだよ、キヴェラは。

 捕まっても連れて帰るまでに逃亡できるしね!


「何と言うか……よく短時間でそこまで考え付くの」

「悪企みなら自信あります! 逃げるなら追っ手を弄びたい!」

「……君ね、少しは悪い方向に考えないのかい?」

「ちなみにこれは基本プランなので今後私の個人的な目的を達成すべく罠が追加されますが」

「お前さん、エルシュオン殿下以上に容赦が無いのじゃな」


 何故呆れるのだ、狸よ。

 頼もしいと言ったじゃないか、素直に喜べ。


「……で? ここまで遠回りする理由は? ああ、お前の方の事情な」

「ミヅキ? まさか貴女が『逃げるだけ』なんてことはありませんよね?」


 あらあら、鋭い婚約者様達ですね。勿論、期待に応えちゃいますとも!

 にやり、と笑うと免疫の無いレックバリ侯爵と執事さんがビク! と肩を震わせた。

 

「罠と言う程の物じゃないわよ? キヴェラで入手した王太子達の非道の証拠って魔道具に宿した映像と音声でしょ」

「まあ、そうだな。それが確実だ」

「だから。できるだけ多くの決定的な場面を編集して大量生産、通行料代わりに其々の国へ置いて来ようと思って。勿論、キヴェラにもね?」

「他国を巻き込むのか」

「やだなぁ、心配してると言って!」


 くすくすと笑いながら言っても説得力は無いか。

 でも心配してるのは本当ですよ?

 それに『この世界の事』なのだから『この世界の人達』が足掻かなきゃ。


「隠し通そうとした事態が民にバレたら混乱するわよね? 他国だって明日は我が身と思えば自国の手の者を向かわせて情報収集をするでしょう。当然、コルベラにも。……誰が悪者になるかしら?」

「「「「「……」」」」」


 まあ、皆無言になっちゃって! でもこれが一番確実な方法ですよ?

 コルベラが他国を頼れなかったのは『自国に見返りを要求されても困るから』だ。

 では、見返り……と言うか他国にとって無視できない事態だったら?

 コルベラに着いた時点で王太子からは逃れられる、そして寵姫は王太子妃にしたくない。


 結論:次の犠牲者が他国から選ばれる。


 しかも王太子どころか国そのものが信頼できないと判っているから政略結婚の意味もない。

 一方的に王族の姫を取られて終わりですよ、誰が味方するんだ。


「自分達が迷惑を被りたくない国はコルベラに味方するでしょうね。唯一の被害者がいるもの、その『事実』を盾にしてキヴェラの要求を突っ撥ねるでしょうよ。思い上がった国を牽制する意味でも周辺の国は結束するんじゃない?」


 ちなみにこれはあくまでも姫の自由を確保する為の策なので私の復讐とは別物だ。

 だって、他国に頼るだけだと『私の復讐』にはならないしね?

 

「キヴェラも私達が逃げてる間に考えればいいんだよ、どうするのが最善なのか」

「それが君の優しさかい?」

「ある意味優しさで、ある意味惨酷さです」

「はあ……無事に戻ってくるんだよ」

「無事かは約束できませんが結果は出します」

「いや……そういうことじゃなくてね? 守護役達を誰が抑えるんだい」

「ミヅキ、生きて戻ってきてくださいね? あまりに長く留守にするようなら勝手に婚姻届を出しますから」

「それって違法……」

「一時的に法律を変えればいいんです!」

「ミヅキ。どのみちお前が死ねば守護役に就いている俺達もただでは済まん。同じ墓に入るくらいは許せ」

「えー……」

「儂が言うのも何じゃが、無事に帰って来てくれ。主に国の為に」



 お手並み拝見といきましょう? キヴェラの皆様?

 


姫の事が最優先なので保護者達に言って無い事も当然あります。

この世界の部外者らしく『利用できるものは利用する』ミヅキに侯爵はやや引き気味。

博愛主義者じゃないので敵認定の人達には優しくありません。

アリサとグレンも巻き込むと言うより情報を与える意味合いが強いです。

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