ブラッドさんが仲間になった!
私がルーカスに叩かれたことで、あの話題は一応、終了となった。
そして、今。目の前で近況報告をしながらじゃれ合う(?)男性陣を、私は何とはなしに見つめる。
ブラッドさんは暫くルーカスの傍から姿を消していたようだけど、目の前の三人からはそんな距離を感じない。
何だかんだ言っても、仲が良さそうだ。これならば、即座にルーカスの側近として復帰できるだろう。
ルーカスが表舞台に立つならば、ブレイン的な存在が欲しいと思っていたので、ブラッドさんの復帰は実にありがたい。
そんなことを考えていると、ブラッドさんが満面の笑みで私に向き直った。
……思わず、一歩引いてしまったのは仕方ないと思って頂きたい。警戒せずにはいられないのよね、この人。
「それで、魔導師殿はルーカス様にどんな用があったのかな?」
「「「あ」」」
私、ルーカス、ヴァージル君の声が綺麗にハモる。
唯一、声を上げなかったサイラス君はしっかり覚えていたらしく、生暖かい目を私に向けていた。
ちょ、忘れていたのはルーカス達も一緒でしょ!?
なんで、私だけアホの子を見る目を向けられているのさ!?
「平和ボケしないでくださいよ。アンタ、何のためにキヴェラに来たんですか」
「え~……馬鹿が馬鹿なことをしてるから、仕留めに来た?」
「何故、疑問形」
「え、だって、ブラッドさんがルーちゃんの傍に戻って来たなら、もう対策とかやってそう」
そう言いつつブラッドさんに視線を向けると、サイラス君達も揃ってブラッドさんへと視線を向け。
「あ~……確かに、この様子だと対処してそうですね」
私の言い分に納得した。
ですよねー! これまでの会話を聞いてると、絶対に何らかの手を打ってそう。
……が。
私達の予想と違い、ブラッドさんは困ったように微笑んだ。……おやぁ?
「ええと、その、情報収集はそれなりにできてるんだけど、極最近の実家の様子までは知らないかな」
「……ちょっと聞きますけど。リーリエ嬢がやらかしたことは知ってるんですよね?」
「うん。陛下や魔導師殿が動いてくれたことも知っているよ。アルベルダやイルフェナにも迷惑をかけたね」
愚妹と両親がすまなかったね――と、ブラッドさんは私に謝罪する。
う、うん、なるほど? どうやら、事が露見した案件は全て網羅していると言って良いみたい。
ただ、今回の『馬鹿夫婦がこっそり縁談を目論んでいる』(意訳)という一件は、本当に内々のものと言うか、バラクシンのブレソール伯爵を調べないと出て来ない情報なので、さすがのブラッドさんも知らなかった模様。
……。
そだな、今回はマジで偶然の発覚だもんね。
騎士寮面子だって『聖人様推薦・程よく死に掛けの貴族』(意訳)を調べなければ、知らなかった情報だもん。
そりゃ、ブラッドさんにとって実家のことだろうとも、知らないだろう。家も出ているし。
そもそも、まだブレソール伯爵から持ち掛けたと言うか、お手紙を送った程度。
縁談どころか、『こんなお話があるんですけど? 如何です?』程度の『お誘い』だ。
あの家には監視要員も居るだろうし、もう少し本格的に話が動いていたならば、キヴェラ王やブラッドさんも情報を掴んでいたのかもしれない。
私は無言で、ルーカスへと視線を向ける。サイラス君もルーカスに判断を委ねることにしたのか、私同様にルーカスへと視線を向けた。
ブラッドさんを仲間に引き入れるならば情報の開示はできるけど、現時点で責任者というか、キヴェラ側の協力者として私が紹介されたのはルーカスとヴァージル君、そしてサイラス君。
この三人に私を加えた面子が、『アロガンシア公爵夫妻を潰し隊』(※たった今、発足)の実行担当である。
いや、本当に再起不能にするのは拙いんだけどさ?
『少しは大人しくしてろ☆』と言わんばかりに現実を突きつけ、最悪の場合は『お説教』(物理)を行なう予定なので、間違ってはいない。
前回の一件もあり、アロガンシア公爵夫妻とリーリエ嬢は社交の場から遠ざかっている。今回はそれ以上の『お説教』なのだ。
ただ、サイラス君によると、『あいつらなら、そのうち出てきますよ』とのことなので、現状も一時的な反省らしいけど。学習能力皆無ですな!
「……ブラッド。お前は俺の側近に復帰するために、ここに来たのか?」
『俺』と言っているので、あくまでもルーカスという個人としての会話なのだろう。
ブラッドさんもそれを判っているのか、多少怪訝そうにしながらも、しっかりと頷いた。
「はい、勿論。今回は側近へと復帰すべく、ご挨拶に上がった次第です」
「……。そうか……」
ブ ラ ッ ド さ ん 、 運 が ね ぇ っ !
恐らく、この場に居るブラッドさん以外の全員がこう思ったはずだ。
う~わ~……ご主人様(=ルーカス)の傍に復帰するための自己アピールしに来た場で、両親の新たな愚行が発覚か。
ブラッドさんに罪はないし、有能さも、これまでのことも、十分な評価対象だ。
ただし!
ブラッドさん個人の心境を考えると……まあ、複雑だわな。いや、まだ本人に伝えてないけど!
「……? あの……?」
私達の何とも言えない表情に気が付いたのか、ブラッドさんは困惑しきり。
う、うん、貴方は悪くないんだ。ただ、こちらが勝手に居た堪れなくなっているだけで。
「ブラッド。お前はアロガンシア公爵家の人間である以上に、『私』の配下であることを選べるか?」
キヴェラ王に確認を取ることなく、ルーカスはブラッドさんに問い掛けた。今度は『私』と言っているので、王族としての確認だな。
この程度で済ませる以上、ルーカスだけでなく、キヴェラ王にもブラッドさんは信頼されているのだろう。
ゆえに、今ここで確認をしている。私に対し、『ブラッドは信頼できる』と見せ付ける意味もあるのだろう。
「はい、勿論です」
迷うことなく頷き、即答するブラッドさん。そんな彼の姿に、ルーカスは満足そうに頷いた。
そして。
ルーカスは私とサイラス君へと向き直る。
「聞いた通りだ。こいつについては、俺が責任を持つ。俺の側近として、今回の件にも拘わらせるぞ」
「了解しました。陛下にもそのようにお伝えします」
「はいな、了解! ……まあ、ある意味では強力な助っ人だよね」
一礼して了承するサイラス君に、軽く片手を上げて了承する私。
ブラッドさんのことはよく知らないけど、ルーカスが責任を持つと宣言するなら、今回のお仲間として不満はない。
では、仲間加入の通過儀礼(笑)でもしましょうか。
「ブラッドさん、まずはこちらをご覧ください」
「……? うん、判った」
そう言いつつ、徐に数枚の紙を渡す。
これはイルフェナが調べてくれたブレソール伯爵についての調査書だ。そして、そこにはアロガンシア公爵関連のことも書かれている。
「……」
読み始めた時は困惑気味だったブラッドさんだが、読み進めるにつれて、その表情が険しくなっていく。
他国の死に掛け貴族の報告書というだけなら意味が判らないだろうが、そこに付随する形で、アロガンシア公爵夫妻の愚行(未遂)も書かれているからねぇ。
全てに目を通したブラッドさんは笑みを深めた。ただし、目が全く笑っていない、所謂、『お怒りの笑顔』だが。
「……魔導師殿? これは事実なのかな?」
「マジでーす。いやぁ、調査してくれたイルフェナ面子も吃驚だったらしいですよ」
「そりゃ、そうだろう。だって、陛下から盛大に叱責されたばかりのはずだからねぇ」
「まあ、普通は信じ難いよな」
ブラッドさんに続き、深く頷いて同意するルーカス。良かった、これが一般的な反応のようだ。
キヴェラ王の叱責を軽く考えてるあの連中がおかしいだけであり、内部の者達からキヴェラ王が侮られているとかではないのだろう。
さすが、戦狂いを追い落とした猛者である。まだまだ、王としての権威は健在の模様。
「先ほどのルーカス様の言葉と、これを見せてくれたこと。……私も参加して良いってことだよね?」
「ブラッドさんに関する責任はルーちゃんが持ってくれるらしいので、私は構いませんよ」
「……そう。感謝するよ」
ブラッドさん、参戦決定。
ブラッドは仲間になりたいようだ。
ルーカスはブラッドを仲間にした!
黒猫は調査書をブラッドに差し出した!
ブラッドはとても怒っている……!
ブラッド氏、めでたくルーカスの側近に復帰&参戦決定。




