お説教とお仕置きは必要です
前回の続きです。
「だからね、騎士だったらみっともない行動は慎むべきでしょ?」
にこにこと笑いながら正座する騎士sにお説教をする。
周囲の村人達は興味深そうに遠巻きにしながらも、同意するように頷く者もいた。
現在地・ジェノアの村。
そこでは実に奇妙な光景が一時間ほど前から展開されていた。
※※※※※
あの後。
黒尽くめ戦隊を簀巻きにして馬車に放り込み無事に目的地に到着。
騎士sは腕を拘束したまま馬車に繋いで走らせた。
荷物がかなり増えたことに加え速度を落としたので問題なし。
先生も何事もなかったかのように振舞っていたので扱いには納得していたと思われる。
だって荷物が増えたのに馬が可哀相じゃないですか。
荷物は勿論、簀巻き五個。物です、あれは。
……騎士sよ、お前らの価値は労働する馬より低い。
人権など期待するな、大した距離じゃないから走れ肉体労働者。
そして村に到着してみれば騎士sと襲撃者はここでも迷惑をかけていたことが判明。
「騎士様達は泊まっていた宿屋でも始終文句を言ってらして」
こんな辺境の村に何を期待していた、お前ら。
「そいつらが襲い掛かってきた時も俺達が皆を守ったんだ」
お疲れ様です。騎士sはさっさと逃げたんですね?
「何処に逃げたか言えと脅されて…何も知らないのに……」
怪我人が増えたのはその所為ですね。無言で手当てをしている先生が怖いです。
……騎士s&黒尽くめ戦隊よ、覚悟はいいか?
「私も盾にされたんです。お説教くらい構いませんよね?」
少し騒がしくなるかもしれませんけど、と笑顔で告げた私は周囲の賛同の元まずは騎士sに言った。
「まず膝を折って座ってくださいね。これは正座といって伝統ある座り方です。次に両手を前に着けて頭を下げなさい」
所謂土下座というものです。謝罪をするならこれでしょう。
「俺達は騎士だぞ! そんな真似が……!」
「できますよね?」
「貴族である我々ができるわけっっ」
「やれと言ってるだろ」
「「……」」
「……。謝罪できない体になりたいなら期待に応えても……」
びくっ!
いいんですよ? ……と言い終わらないうちに騎士sは互いの顔を見合わせて。
「「申し訳ありませんでしたっっ!!」」
勢いよく土下座すると謝罪の言葉を口にした。
人間素直が一番ですよ。騎士全体の印象を悪くしたくないなら今ここで謝っておかなきゃならんのです。
騎士sよ、君達本っ当にわかりやすいね。
力関係の認識は間違いなく
私>>>>>(超えられない壁)>黒尽くめ戦隊>自分達
だろう。体に覚えさせるまでもなく納得していただけて何より。
え? 身分とかは気にしないのかって?
騎士が民間人より階級が上だと思ってますが何か?
騎士sが貴族らしいことも気付いてますが何か?
全部知っててこの扱いですよ、異世界トリップ経験者の私にとって権力や不敬罪など恐るるに足りません!
知力・体力・時の運に魔法を加えて迎え撃たせていただきますとも。
この世界の階級制度がどうなってるかよく判らんので個人の感情優先です。無知はある意味最強。
そもそも二人が騎士として相応しい行動をしていれば説教なんて必要ない。咎められたらそこを突付こう。
「さて、それではお説教しましょうか♪」
「「え゛」」
「え、だって今のは謝罪でしょう?」
やだなぁ、これからが本番ですよ?
同じ間違いを犯さないようしっかり理解させてあげますからね。
そんなことを話していると一人の村人が遠慮がちに声をかけてきた。
「おい、あいつらはどうするんだ?」
「あいつら?」
「黒い連中」
ああ、すっかり忘れてました。居たね、そんなの。
でも、騎士sの任務内容聞くわけにもいかないから捕縛しておくくらいしかできないんだよね。
どうしようか、と考えを巡らせてると解体作業中の熊が視界を掠めた。
喜んでくれて何よりですよー、さくっと食料にしちゃってくださいな。
……。
熊……血塗れ……。
うん、一個思いついた。
「熊の血を塗って一晩森に吊るそう」
ぽん、と手を叩きながら言った私に皆は首を傾げる。
ああ、私だけ納得してても意味ないか。
「襲撃者に結界・捕縛・治癒の魔法をかけて簀巻きにして血の匂いを付けてから木に吊るして一晩放置」
「お前は鬼畜か!」
「魔法が掛かってれば死なないし大型肉食獣に突付かれる程度でしょ」
声を上げたのは騎士その一。やだなあ、安全ですよ? 怖いだけで。
ガラスの中に血の匂いをさせた奴等を入れておくようなものなのだ。
ただ、匂いは遮らないから獣――間違いなく肉食獣――は寄ってくる。
逃亡防止の捕縛魔法で動けないけどね。現状維持の魔法も追加で縄は切れないし。
じゃれ付かれて結界ごと叩き付けられる可能性もあるから常時治癒魔法発動。
ほら、どこが鬼畜さ?
そう説明すると騎士その一は微妙な顔をして黙り込んだ。
「いや、しかし……」
「もふもふな毛並の生物と戯れるなんて滅多にない経験でしょ」
「戯れる程度じゃないだろ……」
「厳しさの中にささやかな楽しみを交える私の優しさが解らないと?」
「いやいや、普通は大型肉食獣に襲われたら死ぬから! 楽しくないから!!」
「私に狩りを教えてくれたおばさんは食料扱いしてたけど?」
「どんな村だ、そんな猛者がいるなんて!?」
ああ、先生もおばさんが特殊とか言ってたっけ。でも今もそこで解体されてるじゃん。
って言うか、あの熊を狩ったのは私だよ? 軟弱者め。
それに、と言葉を続ける。
「死人が出ていた可能性だってあるんだよ?」
「そうだな、怪我だけで済んだのは幸いだ。口封じの可能性もあった」
先生の言葉に皆は口を噤む。
先生が来なかったら。私が居なかったら。
その可能性は誰もが考えたくないに違いない。
「まあ、その場合こそ鬼畜プラン発動ですが」
「鬼畜プラン? お前、これ以上酷いことを考えていたのか!?」
煩い、騎士その二。魔導師は頭脳労働なんだよ。
「基本は一緒。ただ吊るす縄に切れ目を入れて生と死の狭間を体験できるドキドキの展開。状態維持は簀巻きにした縄のみ! 結界があっても丸呑みされたら意味無いよね」
「……最悪だ、良心無しだ、この女」
「命の尊さを知る素敵な体験じゃないか、生還率五割だけど」
「お前、手加減という言葉を知らないのか……?」
青ざめた騎士sが口々に呟き怯える中で先生だけが深々と溜息を吐いた。
「ミヅキのやり方は過激だが、本来その役目をするべき連中が役立たずだからな……」
もっと言ってやって下さい、先生。騎士sはマジで役立たずです。
……腹立ち紛れに正座で痺れてるだろう足を踏んでおきます。
省きましたが、村到着までに二人のこんな会話もありました。
「ところでな、ミヅキ。『センタイ』とは何かね?」
「5人一組で戦う人達の事です、先生」
「ある意味正しいようだが、何か違う気が…」
「キメポーズとったり必殺技を披露してくれたら好感度あがりましたよ。見世物として、ですが」
「……。そうか」