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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
イルフェナ編
69/699

悪役VS被害者代表(仮)

どちらかと言えばレックバリ侯爵VS囮コンビ。

職人は地味にお手伝い。

「そう、そんなことがあったのね」


 なるほど、と頷いたシャル姉様とお友達の皆様。

 グランキン子爵と親族達によって食事会の一件は噂として広まっているのです、どうせなら当事者としてバラしておきます。

 いや、流石に私達の仕事に関しては話せませんよ?

 だけどアメリア嬢の相手をしてもらうなら話しておいた方がいい。

 他にも噂に興味を持った人達が探りを入れてくるだろうしね、事実を話しておきますよ。


「随分とグランキン子爵家の言い分と違うわねえ……ミヅキ様が暴れたみたいに言っていたようだけど」

「嫌ですね、私が暴れたらその程度じゃ済みませんよ」

「そうよね。アル達が守護役だという意味を判ってないのよね」


 守護役とは私を守るという意味だけではない。何を仕出かすか判らない異世界人から世界を守るという意味もある。

 そもそも元になったのが二百年前の大戦の元凶といわれる出来事ですよ?

 見張り役に異世界人を押さえ込めるだけの能力がないと困るだろうが。

 ちなみに私の場合はアル・クラウス・セイルという豪華面子なのでかなり凶暴認定されていると推測。

 と言っても一対一なら勝てても二人がかりになったら確実に負ける。魔力を消費すると疲れるので、持久力の面から言っても白黒騎士クラスに集団で襲いかかられたら負けるだろう。

 魔法に関して規格外だろうと『最強』ではないのだよ、現実的に考えると。


「グランキン子爵の言い分を信じている人っています?」

「いいえ? 他の参加者達が否定していたし、皆面白がってるだけだと思うわ」

「期待に応えてウケ狙いすべきでしょうか?」

「楽しそうだけどそこまでの人達かしら?」


 和気藹々と話す私達に対し騎士sは腰が引けている。


「……何であんな会話が平然とできるんだ?」

「アルジェント殿の姉上だからなぁ」

「姉上は殿下寄りの思考の人ですから」

「「ああ、納得」」


 情けない男どもを放置しシャル姉様に『最重要事項』を御願いしておく。

 ええ、とっても重要ですよ。

 私はクリスティーナと一緒にいられませんからね! 是非御願いしておかねば。


「アメリア嬢もそうですけど……エスコートしている赤毛を〆ておいてくれませんか?」

「赤毛? ああ、クリスティーナ様に酷い事をした出来損ないの騎士ね」

「ええ、『今は』近衛らしいです。後で私も〆ますがこの会場で巻き込まれた被害者を装いつつ近づいてくる可能性が高いので」


 そう言うとシャル姉様がすうっと瞳を眇めた。

 私の意図する事が判ったらしい。


「クリスティーナ様に謝罪して貴方達が手を出さないように仕向けるからね?」

「可能性としては高いでしょう? 『被害者』であるクリスティーナが許してしまえば『その事に怒っている人達』は手が出せませんから」


 クリスティーナは優しい子だ。謝られれば許してしまうし、私達にも「謝罪したのだから許してやって欲しい」と言いかねない。

 おそらく赤毛はそれを狙ってくるだろう。アル達を怒らせた自覚があるのだから。

 

「個人的な感情で、という部分もあります。ですが、彼女の今後を考えると『騙しても容易く許す』という印象を植え付ける事態は回避したいです」

「そうね、一度そう思われると嘗められる可能性もあるもの」


 自分でそういった輩をあしらえるならば問題は無いが、今のクリスティーナには無理だろう。

 彼女は悪意を捉えなさ過ぎる。善良な部分が弱点になるだろう。

 シャル姉様達もそれを十分理解しているからこそ今回傍に付いてくれていると思われる。


「わかったわ。もしも来たら可愛がってあげましょう」

「わあ……素敵な御姉様達に相手をしてもらえるなんて幸せですね」

「ふふ、ミヅキ様ったら棒読みよ?」

「羨ましさのあまりつい感情を忘れまして」


 端から見れば美女達に囲まれているのだ、さぞ羨ましがられることだろう。

 ……本人は泣きたいだろうけど。

 喜べ、赤毛。近衛の躾や私の報復の他に美女達から遊んでもらえるみたいだぞ?

 枯れ果てるまで遊んでもらえ。アメリア嬢の横に居る気力だけ残っていれば十分だろ?


 そんな話を和やかにしていた私達にクラウスが呟く。


「ミヅキ。来たみたいだぞ」

「……逃げなかったのは褒めるべき?」

「逃げるという選択肢を思いつけなかったのではないでしょうか」


 アル、穏やかな笑みを浮かべているのに辛辣だね。

 でも同意だ。自分が負ける事を考えないから逃げ道を用意しないんだもの。

 それに悪役は最後にやられるという大事な仕事があるのだから逃げちゃいけない。

 私達にとってもレックバリ侯爵へ繋がる貴重な接点なのです、居なきゃ困る。


「クリスティーナ」

「はい、何でしょう?」

「そろそろ私達は傍を離れるけど、アルやシャル姉様達が居るから大丈夫だね?」

「……! はい、大丈夫です」


 可哀相だがグランキン子爵の悪企みは全て話してある。その大半が自分に向けられた事に怯えようとも、警戒心を高める意味でも教えておくしかない。

 思わず軽く頭を撫でるとやや表情が和らいだ。


「いい? お化粧は泣かない為にするものなの。泣くと酷い事になるから絶対に泣けない。そして今貴女が身に着けている物は全て貴女の為に作られた、貴女を想ってのもの。自分のすべき事はわかるね?」

「ええ。皆さんが守ってくださいますし、私がこの日を無事に過ごせるよう心を砕いてくださった方達も居ます。何があっても俯く事はしません」


 そう言って笑った彼女は食事会で傷付けられた時とは別人のようだった。

 これならば大丈夫だろう。


「それじゃ行って来ます!」

「アル、そちらを頼む」

「判りました」


 軽く手を振り見送ってくれる視線を感じつつ、グランキン子爵の元へ向かう。

 グランキン子爵もこちらを睨みつけているからしっかり気付いているのだろう。


 さあ、悪役様? 私は正義の味方じゃないけど決着をつける為に参りました。

 ……この半月、散々襲撃しまくったからには覚悟ができてるんだろうなぁ?


「楽しそうだな、ミヅキ」

「あら、クラウスにもそう見える?」

「ああ、獲物を見つけた魔獣のようだな。殺気は少し抑えろ」

「何で?」

「それだけで倒れるぞ、あいつらなら」


 殺気が駄々漏れだったようです。

 どうりで誰も近寄って来ない訳ですね! ギャラリーは歓迎ですよ!?



※※※※※※※※


「来たか、身の程知らずの小娘が」

「あら、泣いて逃げ出すと思っていましたのに」


 バチっ! と火花が散ったのは気の所為か。

 顔を合わせるなりこの台詞です、お互い殺る気な所は気が合いますね。

 

「それに招待がなければここに入れませんよ? 私達は理由があってここに居ます」


 興味深そうにこちらを窺っている人達もいることだし、ささやかなヒントをくれてやる。

 もし私達の『立場』を正しく認識していればグランキン子爵も何らかの反応を示す筈。


 が。


「ふん、婚約者としての顔見せか」


 顔を歪めて睨みつけると『それがどうした』とばかりに見下された。

 ……三流悪役だってことを忘れてました。マジでこの反応か。

 ちら、とクラウスを見ると溜息を吐いて僅かに首を振った。職人、相手がアホだからって会話を私任せにせんでおくれ。

 脱力感一杯の私達なのだが、グランキン子爵との嫌味合戦は既に開始されている。


「庶民らしい貧相なドレスだな!」

「魔力付加の布を使って術を込めた黒騎士製作のドレスが、ですか? 技術の素晴らしさも含めてかなりな額になると思うのですが」

「く……身に着けている者が下賎では意味が無かろう」

「貴方達も功績で爵位を賜わった元庶民ですよね? しかも貴方自身は何の功績も無い無能だからこそ爵位返上になる可能性が高いじゃないですか。私は結婚すれば公爵家の人間ですが」

「……別に婚姻せずとも個人の功績で爵位を狙えるだろう、お前は」

「責任が生じるから興味は無いわね」

「き……貴様等、言わせておけばっ」

「話題を振ったのはそちらです」


 もはや子供の喧嘩レベル。ただし私の言っている事は『爵位狙えるけど面倒だから欲しくない。貴族になっても無能過ぎて潰れる見本が目の前に居るじゃん。庶民に逆戻りカウントダウン?』というグランキン子爵にとっては非常に怒りを煽る台詞だ。

 嫌味を言うなら自分が突付かれない話題を選べよ、自分の首締めてどうする。

 話を長引かせて誘い出そうにも興味を引かせるような話題がないね。いや、グランキン子爵に『恥をかかせた小娘』程度の認識しかないから、この程度の話しかできないのか。

 これは『グランキン子爵側の人物』も見捨てて助けに来ないかなー? とか思った直後。


「ふむ、儂も仲間にいれてもらえんかの?」


 人の良さそうな外見と穏やかな声、ただし妙に警戒心を抱かせる人物が割り込んできたのだった。

 私達と向かい合うような――グランキン子爵を庇うような立ち位置だ。


『ミヅキ、レックバリ侯爵だ』

『うそ、あれで釣れた!?』

『自分が相手をしたくなったんじゃないか?』


 念話にて目当ての人物である事を教えて貰い、僅かに笑みを浮かべる。

 ほう……このおじいちゃんがレックバリ侯爵か。お会いできて嬉しいですよ、大物様?

 レックバリ侯爵は浮かんだ笑みに気付いたのか苦笑し、「若いの」などと呟いている。

 ええ、血気盛んなお年頃です。グランキン子爵が拘束された後にはこっそり血祭りに上げる気満々にございます!

 ビク! とグランキン子爵が一瞬肩を竦ませたのは気の所為ですよね、きっと。


「御嬢ちゃん、随分とグランキン子爵を苛めているの」

「あら、苛めているなんて。言い返しているだけですわ。黙っていると付け上がるんですもの」

「おやおや、勇ましいことじゃな。じゃがのう、甘く見ると痛い目を見るぞ?」

「御忠告感謝します。ですが、この程度に負けるようでは私は今この場におりません」 

「ゼブレストの血塗れ姫、だったかの」


 何気なく呟かれた言葉に周囲が僅かにざわめく。

 あらら、意外と伝わっていましたか。もしくはその情報を持っている実力者の皆様なのかね? この周囲は。

 そんな状況など全く気にした様子の無いレックバリ侯爵の真意は読めない。

 意図的に情報を洩らしたのか、それとも只の知識として口に出しただけなのか。

 うーん、やり難い人だな。敵意や悪意が全く無いから対策がし辛い。


「……そう呼ぶ方もいましたが、私は姫ではなく魔導師ですよ」

「ほほう、力を誇る者か」

「いいえ? 頭脳労働を得意とする個人主義者です」

「頭脳労働……何とも地味な言い方じゃの」

「知識を蓄え活かす者ですから。どういった方向を望むかは時と場合と個人の都合によりますね」


 実際地味だぞ、魔術師や魔導師の役割って。

 魔法創作は個人の趣味の域だし、戦力としても必ずしも最強ではないわけで。

 ……目立つんだよ、大きな力って。魔力探知で居場所も確実にバレるし。

 詠唱するのが本来の魔法というものなんだから、敵が万能結界付加の魔道具を装備して突撃してくれば倒されるだろう。接近戦向きじゃないしね、基本的に。

 なので城仕えの魔術師達の御仕事って防衛以外は基本的に知識を活かした頭脳労働。

 戦争が起きても自分を活かせる方法を考えないと役立たずです、間違いなく。


 ……という考えをつらつら述べたらレックバリ侯爵は感心半分呆れ半分の微妙な顔になった。

 夢を見ないで下さいよ、現実なんてそんなものですって。

 しかしグランキン子爵は自分が忘れられている事が許せないのか声を上げた。


「レックバリ侯爵、庶民の小娘など相手にするものではありませんぞ!」

「その小娘相手に喧嘩を売って手も足も出なかったグランキン子爵は貴族として出来損ないなのですね」

「何だと!」

「少しは頭を使ってください。とても退屈でしたわ?」


 わざとらしく溜息を吐いてやるとグランキン子爵は顔を赤くして怒りに震えた。

 そしてクラウスがそれを更に煽る。


「嫌がらせも全てミヅキに読まれていたじゃないか……本当に下らない奴だな」

「く……言葉が過ぎるのではないか? ブロンデル公爵『子息』殿?」

「あら、クラウスは仕事で私と共に居るのですけど」


 その言葉にレックバリ侯爵と周囲は軽く反応するがグランキン子爵は相変らず気付かない。

 ……自分をお貴族様だと誇るなら翼の名を持つ騎士だけでも覚えておけよ。

 ついでに言うならアンタの奥方はクラウスにずっと見惚れているんだが。

 歳を考えろ? いい加減、周囲の御嬢さん達からの生暖かい視線に気付け?


「少し静かにしておれ! 御嬢さん、あんたの狙いはグランキン子爵か」


 意外にも一喝しグランキン子爵を黙らせたのはレックバリ侯爵だった。

 その印象は先程までと違い『人の良いおじいちゃん』から『腹黒い狸』へと変わっている。

 貴方には意味が判ったようですね、レックバリ侯爵。

 ならばこちらも『御嬢さん』ではなく『彼等の協力者』として接しなければ。


「それと貴方です、レックバリ侯爵」

「ほう、何故かな? 儂は何もしとらんが」

「ええ、貴方はグランキン子爵の後見紛いになっていただけで全てはグランキン子爵が起こした事。ですが、貴方の存在があるからこそグランキン子爵が増長したのも事実でしょう?」

「それが罪というかね?」

「グランキン子爵が国に仇成す者ならば。彼は爵位維持の為に他国の貴族と婚姻関係を望んでいましたが、それはイルフェナの内部に足場を与える事にほかなりません」

「婚姻は普通ではないかね?」

「それは迎え入れた家が強い場合では? 庶民にさえ負けるグランキン子爵家に抑える事ができるとでも? 貴方が背後に控えていて監視するならば別ですが、貴方は『何もしていない』」


 レックバリ侯爵の笑みが変わる。逃げるのではなく、言葉遊びを楽しむ大物悪役といったところだろうか。

 グランキン子爵よ、悪役ならばこれくらい大物を目指さんかい! 素晴らしい御手本が居るのに何故三流のままなんだ、お前は。


「儂はグランキン子爵の味方ではないと言うつもりかね? これでも面倒を見ているつもりじゃが」

「では『味方』だと言い切るのですか?」

「ふむ、そう思ってくれて構わんよ」


 言ったな? 言質は取ったぞ?


「そうですか……覚えておいてくださいね。それが報告した際の証拠となりますから」

「ふむ……ところでな? 儂はこれでも侯爵という立場にある。お前さんの言葉は少しばかり不敬が過ぎんかの?」

「あら、御気に触りましたか」

「庶民如きに嘗められる謂れはないぞ?」


 不敬と言いつつ目は明らかに面白がっている。

 ……なるほど、今度は貴方が身分を盾にとっての攻撃ですか。

 勿論、受けて立ちますとも。


「では私なりの責任をとりましょう。……すみません、飲み物を戴けますか?」


 そう言って近くにいた給仕からグラスを受け取る。中身は白ワインなのか透明に近い液体だ。


「一体何をするつもりかね」

「少し離れてくださいね。……これで、いかがでしょうか?」


 そう言って受け取ったグラスの中身を頭から被る。

 いやー、化粧品を元の世界の物にしておいて良かった! 備えあれば憂い無し。

 謝罪を要求された場合、これと土下座しか思い浮かびませんでしたよ。


「年頃の娘が夜会で水を滴らせる。いかがです? 許して戴けますか?」

「では止めなかった俺も同罪だな」

 

 何時の間にグラスを手にしていたのかクラウスも同じくワインを被った。

 周囲から女性の声が密かに上がる。遠くではクリスティーナが驚いているようだがアル達が宥めているようだ。

 流石に予想外だったのかレックバリ侯爵も目を丸くしている。


「う、うむ。何ともまあ、思い切ったことを……」

「あら、私がどう思われようと今は重要ではありません」

「……何?」

「私達は仕事で来ています。『翼の名を持つ騎士』と『その協力者』として。先程の会話で『貴方がグランキン子爵の味方』である事が証明されました」

「それがどうしたというんじゃ」

「翼の名を持つ騎士が動く理由は一つだけです。貴族ならば誰もが知っている。そして貴方はグランキン子爵の味方……即ち私達の『敵』なのですよ。グランキン子爵がした事と無関係では済みませんよね?」

「随分と乱暴な言い分じゃの」


 ええ、言い掛かりに近いと思います。

 ですが誰も貴方自身が犯罪者だなんて言ってませんよ? 


 『悪党の背後に居る人物』=犯罪の黒幕じゃないのです。

 騎士達の獲物はグランキン子爵と犯罪に携わった者達だけ。

 私は彼等を庇っている貴方を『抑え込む事』が目的であって『罪に問う事』が目的じゃない。


「ええ、乱暴です。ですがその一歩が無ければグランキン子爵に手が出せない。貴方と言う存在があるから。それを崩す事が私達の役目です。だって犯罪者の味方だと確信が持てれば貴方が庇おうとも所詮身内の発言じゃないですか」

「ほう……つまり儂が庇おうともその発言は切り捨てられるというわけじゃな?」

「貴方の言葉を無視できなかったのは『無関係な第三者』だったからですもの。グランキン子爵の味方と公言した以上は単なる身内贔屓でしょう? 元々悪事の証拠はあるんですから」


 確かにグランキン子爵の悪事に手を貸したわけではない。しかし、それこそが問題だった。

 はっきりグランキン子爵の味方だと判っていれば罪人の身内として庇う発言をしようが無視できる。

 だが、それがグランキン子爵とは無関係で長年国に尽くした忠臣の言葉であったならばどうだろう。

 当然、無視できない。彼を知る王や側近達からの抗議は必至だ。直接犯罪でもやらかしていれば別だが、国に尽くした実績がある以上はそれなりに発言力と信頼を得ているのだ。


『あの者が庇うのならば何か根拠があるのではないか』


 そんな発想に至るのが自然だ。レックバリ侯爵への評価が追及の手を遮る壁となる。

 同意の得られない一方的な追及では内部分裂を招きかねないのだ、魔王様とて強行すまい。

 そして翼の名を持つ騎士は国の所有する剣であることからも動く事は出来ない。

 だから私の協力が必要だった。異世界人はあらゆる柵が存在しないからこそ『誘き出す役』には最適なのだ。

 貴族ではないから警戒されない上、多少強引な事をやらかしても『異世界人だから知らなかった』で誤魔化せる。

 加えて白黒騎士達が協力者になることで彼等の得た情報を駒として使えるのだ。

 そういった意味では私自身が魔王様の所有する『あらゆる法則を無視できる最強の駒』なのだが。


「……ふむ、あの王子の差し金か」

「やり方は私に一任されています。ですから」


 すい、と瞳を眇め。クラウスは私を守るように腰に腕を回す。

 それは『姫と護衛の騎士』ではなく『同じ役割をもつ騎士と魔導師』だ。もはや私に嫉妬の視線は向けられていない。


「貴方を舞台の上に引きずり出す事ができれば十分です。先程の行為は謝罪の意味もありますが、注目を集める意味もあります。……これほど周囲の関心を集めて言い逃れは出来ませんよね?」

「……ふ、ははっ! やりおるな! じゃが、決定打が無いと思わんかね? このままでは儂は逃げ切るだけじゃぞ?」

「それに関してはこちらも手札がありますよ。……グランキン子爵もありますよね?」


 話を振れば顔を真っ青にしていたグランキン子爵も最後の悪足掻きとばかりに睨み付けて来る。

 グランキン子爵の手札は間違いなくクリスティーナへの襲撃だ。

 ディーボルト子爵家への脅迫材料であると同時に自身が犯罪者であることの暴露。周囲がどんな目を向けるかは想像に難くない。


「く……いいだろう! せめてあいつらだけでも道連れにしてやる!」

「あらあら、勝ったのは私ですよ?」

「生意気な女だな! 貴様にとってあいつらは所詮手駒か」

「どなたの事を言っているか判りませんが、手駒は私自身を含める全てですけど? それに」


 ぽたり、と透明な雫が髪から垂れる。軽く払い鮮やかに笑うと周囲が息を飲んだ。それは一つの舞台のクライマックスを見守る観衆のように見える。


「言ったじゃないですか? 『私が勝った』と」

グランキン子爵はやっぱり小物。

悪役の背後に居る人=犯罪の親玉ではありません。

粛清に待ったをかけていた侯爵が粛清対象の味方だと言った以上はグランキン子爵と一纏め。

次話あたりに目的が出る予定。

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