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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ほのぼの(?)イルフェナ編

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聖人様とモーリス君 其の五 ~変化の兆し~

――教会・客室にて(モーリス視点)


 僕の唐突な暴露――ガニアのシュアンゼ殿下からの紹介、ということが大きいと思う――に、ブレソール伯爵は顔を青褪めさせた。

 ……そうなるのも当然かな。他国の王族からの紹介と口にした以上、報告は義務だと判っているだろうし。

 僕がただ教会を訪ねただけであったならば、間違いなく黙らされてしまっただろう。


 他国の貴族と言えども、その地位の差は歴然。

 彼が伯爵である以上、当主ですらない僕が逆らえるはずはない。


 正確には『逆らえない』と言うよりも、『あらゆる面で僕が不利である』ということだ。

 この出来事を口にしようとも、その相手となるのが僕は精々が学友や親族のみ。

 対して、ブレソール伯爵にはこれまで培った人脈があるだろうし、分家だって存在する可能性がある。

 親族ですら敵という状況である以上、どう頑張っても僕の敗北は確定なのだ。

 ……ただし。


『今回の【実践】に必要になるかもしれないからね』


 そんな言葉と共に、正式な紹介状を用意してくれたシュアンゼ殿下の存在がなければ、だが。

 実はこの紹介状、手渡された時に僕は困惑しきりだったのだ。

 教会、それはバラクシンでは無視できない施設であろうとも、彼らは聖職者……所謂『民間人』である。

 ミヅキさんの知り合いということもあるけれど、さすがにそこまでのもの(=王族直々の紹介状)が必要とは思えなかった。

 ……が。

 何故か、ミヅキさんとシュアンゼ殿下はいい笑顔で『そうだよね、そう思うよね』と頷くと、徐に僕の肩に手を置いて、こう言った。


『常識が通じない人も居るんだよ』

『と言うか、そんな常識人は君の【教材】にならないから』


 思わず、『教材!?』と聞き返してしまったけれど、ラフィークさん達は『誰も』その言葉を否定しなかった。

 ヴァイスさんに至っては、何かを思い出しているのか、どことなく苦い顔。

 唖然とする僕に、シュアンゼ殿下は言葉を続けた。


『いいかい、君には地位がない。逆に言えば、【どれほど正当な主張をしようとも、身分差ゆえに聞いてもらえない可能性が高い】んだ』


『他国の貴族であろうとも、それは同じ。君が当主ですらない令息、ということも大きいね。その人脈なんてたかが知れている』


『これが高位貴族ならば、多少は警戒されるだろうけど……あくまでもそれは王族や有力貴族への情報提供という意味だ。【本人が恐れられるわけじゃない】』


 そこで何故か、ちらりとミヅキさんへと視線を向け。


『まあ、例外は存在するんだけどね。で、君が今回、目指すのはミヅキの遣り方だ』


 それはそれは良い笑顔で、ミヅキさんを指差した。

 ……? 何故、民間人のミヅキさんがお手本になるのだろうか? 今までの話の流れでは、僕に用意された『教材』とやらは、男爵家よりも爵位が上の存在のはず。

 しかし、シュアンゼ殿下の話はここで終わらなかった。


『君も知っての通り、ミヅキは民間人なんだ。これは自己申告というだけじゃなく、事実だと私が証言しよう。ただし! ……その人脈は下手な貴族を遥かに上回る』


 思わず、ミヅキさんの方を向くと、『これまでのお仕事の成果~』と、ひらひらと片手を振られた。

 ……。


 あの、ミヅキさんのお仕事って、一体、何なんです……?


 そんな疑問が顔に出ていただろうに、ミヅキさんは微笑んだまま。

 ……『何も聞くな』ということでしょうか。それとも、表には出せない秘密のお仕事でもこなした……とか?

 混乱する僕を憐れに思った――面白そうな表情に見えたのは、気のせいだと思いたい――のか、シュアンゼ殿下が『犯罪になっていないから安心して』と口にする。

 ……。


 あの、不安が増したんです、が!?


 顔を引き攣らせるも、シュアンゼ殿下はそれ以上、教えてはくれなかった。当然、ミヅキさんも語らない。

 ならばそれ以外の人は……と思って視線を向けるも、ラフィークさんとヴァイスさんは沈黙を保ち、護衛の三人は……何故か、揃って視線を逸らされた。


『重要なのは【結果】だってことだよ』


 ミヅキさんが楽しそうに話し出す。


『民間人に遣り込められる……なんて、普通は恥ずかしいでしょ。貴族、それも悪巧みをするような野心家なんて、それだけで頭に血が上る』


『その場合、かなりの確率で【痛い目に遭わせようとしてくる】のよ。魔法を使えても、所詮、相手は民間人だもの。自分も魔術師や暗殺者を雇えばいいと思うんでしょうね』


『でもね、それこそが私の【狙い】なのよ』


『私が【被害者】になる以上、【襲撃がなかったことにはならない】の。特に他国の人間、それも【身分がある人からの紹介でここに居た】とかならね』


『今回のモーリス君はまさにこれ。単純にシュアンゼ殿下の御威光に縋っても良し、自分で遣り込めても良しだ』


『どう使うかは君次第。それを考えることも君のお勉強だからね』


 ……そこまでを思い返し、僕は改めてブレソール伯爵を観察する。

 僕を侮る発言をした手前、どうやって誤魔化そうか考えているようだ。まあ、さすがに聖人殿への暴言を報告されるのは拙いと判っているのだろう。

 ちらりと視線を向けると、聖人殿は僅かに頷いた。……ミヅキさんとの間で、すでに話が通っているのだろう。

 さて、僕はどう動くのが『正解』か。

 ブレソール伯爵に注意を向けたまま、僕は必死に頭を働かせた。思い出すのは、あの時のミヅキさんの言葉。


『どう使うかは君次第。それを考えることも君のお勉強だからね』


 シュアンゼ殿下の存在を前面に出したまま会話を終わらせたとしても、間違いではないのだろう。

 未だに当主ではないことから、『事を荒立てず、目立つことを避けた』というのも、一つの選択なのだから。

 ただ、それだけでは今後に何一つ活かせるものがない。

 今回は特別に『シュアンゼ殿下の紹介状』という、『ガニア王族の存在を匂わせるもの』があったのであり、通常はそんなものなどない。

 言い換えれば、今回はそれで通しても、僕自身がこの状況を切り抜けたことにはならない。

 おそらくだけど……ミヅキさん達は『僕がどのような選択をするか』ということも含め、今回のことを見ているように思う。


 楽な選択をすれば、後が続かない。

 だけど、シュアンゼ殿下の庇護がある今回ならば、多少の無茶ができる。


 ……ならば、僕がとる行動は最初から決まっている。

 第一、シュアンゼ殿下も言っていたじゃないか……『君が今回、目指すのはミヅキの遣り方だ』と。

 失礼ながら、ミヅキさんが『自分以外の権力者』(予想)に縋る遣り方をしてきたとは思えない。

 彼女ならば、それを足掛かりにして遣り込めるくらいはするだろう。だって、『結果を出してきた』と言っていたじゃないか。


 多分、あの会話も僕のためのものだった。


 会話の中から必要な情報を拾えるか、そしてそれを自分に活かすことができるか。

 僕が『ガニア王族であるシュアンゼ殿下の威光に縋ること』以外の選択ができるのも、二人の助言があってこそ。

 ならば、本当に僕が望まれているのは……『彼らの教えを受ける僕がすべき選択』は。


「そんなに驚くことでしょうか?」

「……なに?」

「バラクシンの『変化』は他国にとっても無視できないもの。僕のように自由に動ける者が興味を示しても、不思議はありませんよね?」


 呆れを滲ませた表情、そして『そんなことすら思い至らないのか』と言わんばかりのあからさまな挑発に、ブレソール伯爵の顔が歪む。


「王城のような場所に赴くことはできません。しかし、教会は誰にでも開かれるもの。……教会で暮らす方達の話を聞くだけでも、意味があると思いませんか?」


 向けられる敵意をものともせず、できる限り、にこやかに告げる。

 そうだ、僕の言っていることは何一つ間違ってはいない。しいて言うなら、『教会がバラクシンの変化に大きく関わっている』ということを口にしないだけ。

 だが、その隠された言葉を察することができるならば、まるで僕がシュアンゼ殿下の手の者のように思えるだろう。

 ……実際には、ただ勉強のために聖人殿に会わせていただいただけなのだけど。


「貴様……」

「聖人殿には『色々と』伺いまして。ええ、本当にご苦労されたと思いますよ」


 微妙に強調した『色々』という言葉に、ブレソール伯爵が反応する。暈した言葉であっても、後ろめたいことがある彼は自分のことのように感じたのだろう。

 さあ、これからが今回の『僕のお勉強』。少しだけ自分を偽り、ブレソール伯爵を退けなければ。

 どことなく高揚する気分を感じ、僕はひっそりと笑った。

小父さんA『お嬢ちゃん、こいつに何を言った?』

黒猫『意訳すると、【相手に踏み込ませて、返り討ちにしろ】って感じ』

小父さんA『何故』

黒猫『身分差があるし、揉めても相手の有責狙い』

小父さんB『お前なぁ……』

黒猫『泣き寝入りしないのは、イルフェナ的に正しい教育だと思う』

小父さんA&B『それはそう』

見守っているのがイルフェナ産ばかりだと、何も疑問に思いません。

※公式HPに魔導師34巻の発売予告が載りました。

 特典SSについては暫し、お待ちくださいね。

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― 新着の感想 ―
最後に「それはそう」って同意しちゃった時点で何も言えないんすよ小父様方……
モーリス君が猫軍団に染まっていく……( ̄▽ ̄;)
がんばれ!モーリス君! 自分の今後のために!
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