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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ほのぼの(?)イルフェナ編

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救いか、地獄か 其の二

「謝罪する意思があるのは認める。だけどね……『行動が遅過ぎる』のよ」

「……」


 項垂れ、沈黙してしまった『彼』の姿は哀れであり、同情を誘うものだろう。

 ……が。

 襲撃なんて誰が聞いても犯罪だし、知っていて止めなかったのだから、共犯説を否定する要素がない。トカゲの尻尾切りで、当主を見捨てた――と見る人も居るだろう。

 その前提がある以上、先ほども言ったように『処罰は家単位』なのだ。直接関わっていなかったとしても、沈黙は罪であろう。

 そもそも、『彼』がそういった態度を取った理由があったとしても、ブレイカーズ男爵家を利用しようとしたことに変わりはない。


「……貴方にとって、父親の愚行は都合が良かった。『愚かなことを仕出かした当主に、妻と息子が責任を取らせる』。こんなシナリオかな?」

「……っ」


 予想を口にすれば、『彼』の肩が小さく跳ねた。


「誰だって、それくらいの予想はつくでしょう?」

「愚かだな」


 否定の言葉を紡げない『彼』に畳み掛ければ、ヴァイスがバッサリと一言で切り捨てた。

 途端に、部屋の空気が凍り付く。予想外の冷たい言葉に、私も表情を変えないまま固まった。

 ……。


 う、うん、間違っちゃいないんだけど。

 個人的にはもうちょっとマイルドな言葉で甚振りたいかなー?



 ま あ 、 私 も そ う 思 っ て い る け ど ね 。



 どう取り繕おうとも、ヴァイスの言葉が全てなのよね。『彼』は圧倒的に、考えが足りないのだから。

 発想としては間違っていない。『愚かなのは当主だけであって、妻や次期当主たる息子は良しとしませんでした!』というアピールになるから。

 しかし、それには『当主が愚かなことを仕出かす対象』が必須であり、今回はそれがブレイカーズ男爵家。


 つまり、ブレイカーズ男爵家=『彼』の家が再生するための生贄。


 襲撃は父親の指示でも、『彼』は当主追い落とし計画の主犯格だろう。賢い後妻さんが信用しないわけですね!

 と、言うか。

 誰だってそんな裏事情に思い至るのだから当然、『何故、お前は当主が行動する前に止めなかった?』という疑問を抱く人は一定数居るだろう。

 この策を実行するならば、その理由まで考えなければならないはず。それをしなかった場合、疑われるのは当たり前なのですよ。

 疑われたくないならば、私が最初に『こんなシナリオでしょ?』と言った段階で、即座に何らかの言い訳をすべきなのだ。

 ヴァイスの『愚かだな』という言葉は、『そんなくだらないことをしなければ、父親を追い落とせないのか』という意味だけではない。

『追及された時の言い訳すら考えていなかったのか』という意味も含まれていると推測。

 ヴァイスとて高位貴族、そして『あの』サロヴァーラで生きてきた人なのだ……綺麗事だけではやっていけないと知っている。

 私があれこれやっても止めないので、裏工作にもある程度の理解はあるだろう。

 ただ、ヴァイス自身は非常に真面目な性格をしているので、あくまでも『ある程度の理解』だが。


 そんなヴァイスですら『愚か者』認定。

 裏工作上等! な私からすると、『彼』は非常にチョロい存在です。


 内心、勝利を確信している私に、『彼』はそれでも顔を上げた。そこから覗く必死さに、僅かながら好感度が上がる。

 ここで引けば後がない、と感じたのか。

 それとも、私達を味方にしたいとでも思ったか。

 どちらにせよ、私達との対話は必須。それは理解できたらしく、今度は俯くことはしなかった。


「その通りです……父は他にも色々とやらかしている。ブレイカーズ男爵家の味方をしている貴方達ならば、そのくらいの調べはついているのでしょう?」

「……」


 何も答えず、私はただ笑みを深めた。ヴァイスは厳しい表情で沈黙したまま。

『彼』はそれを答えと受け取ったのか、やや諦めの滲んだ苦笑を浮かべた。

 ……が。

 実のところ、ヴァイスはともかく、私は全く別のことを考えていた。


 いやいや、全く知らねぇっす。

 だって、君の家のことなんて興味ないもん!


 魔王様達に頼んだのは『ブレイカーズ男爵家関連のことオンリー』なのですよ。

 それ以外のことは無関係なので、『私が知る必要のない情報』なのです。あくまでも『関係者となっていることだけ』ですよ?

 魔王様達はそういった線引きができているので、貰った情報は『モーリス君に紐付けされるあれこれ(意訳)』のみ。

 ゆえに、以前、ガニアで私が勝手に国王派のように扱われた際、お怒りになったのだ……『そんなことを許してはいない』と!


「……否定しないのですね。それとも、隠された情報とすら思っていないのでしょうか?」


 いえいえ、興味がないから黙っているだけです。


「呆れたでしょう? それで満足せず、父は野心を抱き続けているのですよ」


 お馬鹿さんだとは思っていますが、課題扱いされている以上は必要だと理解してますので、ご安心を。


「これでも一応、父を諫めようとしたことは何度もあったんです。ですが、あの人にとって私は息子という『格下』。聞き入れられることはありませんでした」


 馬鹿は自分が馬鹿だと気付いていないから、強気なんですよ。付き合うだけ無駄です。


「祖父や母も危機感を感じたのか、早くから私に当主教育を始めました」


 ……何故、その過程でテストと称し、父親を追い落とさなかったんだい? 君の成人まで、御祖父さんに当主に返り咲いてもらえば良かったのでは。


「その結果が、今回の事態です。もっと早く行動していれば……!」


 シリアスに語ってますが、誰も貴方の家の事情なんざ興味ないと思います。


「教官、教官、気持ちは判るが、真面目に聞いてやれよ」


 私が『だからどうした?』な心境で聞き流していることを察したのか、カルドがこそっと背中を突いた。

 相変わらず、良い奴である。こんなに意味のない内輪話――そうとしか言いようがない――を、真面目に聞いてやれだなんて!

 自分の世界に入っているのか、自嘲気味に俯いた『彼』は私達の遣り取りに気付いていないようだった。そんな『彼』の姿に、内心、溜息が漏れる。


 あのね、必要なのは結果なの。

 君が最初にすべきことは『私達への謝罪』と『交渉』!


 心優しい人やモーリス君あたりならば、同情して優しくしてくれるのかもしれない。 しかし、私達は『シュアンゼ殿下の課題のためにここに居る』のであって、課題の皆様の事情ははっきり言ってどうでもいい。

 ……いや、良い働きをしてくれたら、こちらとしてもそれなりの扱いを約束するよ?

 だけど、今この場で語られたどうでもいい情報を前に、何を判断しろと言うのだ。


 必要なのは『私達と手を組むか、否か』という確認です。

 課題である以上、より良い結果を目指し、上手く使いたいじゃない!


「あのさ、一通り語ってくれたところで申し訳ないんだけど。……それ、私達にとってどうでもいい情報だから」

「え゛」


 予想外の言葉だったのか、『彼』が固まる。


「当たり前のことなんだけど、誠意を見せるならば、まずは謝罪。勿論、言い訳無し。『家単位の処罰』と言った以上、君も『仕掛けた家の人間』だよ?」

「それ、は……」

「それだけではない。君は言い訳できない立場のはずだ。だというのに、君は謝罪する前に何を口にした? 誠意がない、と思われても不思議はないと思うが」

「この状況で同情を誘うって、悪手よね」

「も、申し訳ありません!」


 私とヴァイスが口々に『同情を誘う前に誠意を見せんかい!(意訳)』と指摘すると、『彼』は顔を真っ青にして、勢いよく頭を下げる。

 ……とりあえず、謝罪する意思だけはあるようだ。ただし、これでは父親の追い落としに多大なる不安が残る。

 本当に、父親の追い落とし可能か? できるのか、こいつに。


「誠意だけはありそうですが……」

「ああ、うん、それだけは認めてもいいかも」


 こそこそとヴァイスと話すも、二人揃って『誠意【だけ】はあるみたい』という結論になった。

 ただし、さすがモーリス君の従兄弟というか、今後のことを考えると不安が残る。

 状況的に、多少はパニックを起こしていても仕方ないと思うけど、今は家の存亡がかかっていると言ってもいい状況。

 もう少ししっかりしてくれないと困ると言うか、今後を見据えた発言をして欲しい。


 感想:父親よりはマシ。微妙にモーリス君の類似品。


 それ以外に言いようがない。寧ろ、こちらに引き込んで指示通りに動いてもらった方が良いような。

 勿論、勘違いさせないように『君だけじゃ無理だと思ったから、手を貸してあげる。いいか、【認められたわけじゃない】からね!?』と釘を刺しておくことも忘れずに。

 なまじシュアンゼ殿下がこの国の王族なので、『王族に必要とされた!』と思い上がられても困るのだ。

 灰色猫、自分が過酷な状況を利用されずに生き抜いてきたせいか、割と実力至上主義っぽいんだもの。

 ぶっちゃけ、使えない駒を切り捨てることもあるだろう。それで『冷酷』とか言われるのもねぇ……。


「とりあえず、対話をしてみましょうか。こちらの身分をちらつかせつつ、私達と手を組むか聞かないと」

「そうですね。まだ、灰色猫殿のことは伏せた方が良いでしょう」


 私の提案に、ヴァイスも賛成のようだ。……『灰色猫殿』と言うあたり、ヴァイスの気遣いを感じる。

 やはり、ヴァイスも私と似たような判断をしたのだろう。『彼』への信頼は限りなくゼロである。


「まずは謝罪をしてもらいましょうか。ああ、その前に私の隣の人の身分を教えてあげる。……サロヴァーラの公爵子息だよ」

「エヴィエニス公爵家の四男だが、近衛騎士をしている。今回は休暇で友人を訪ねた際、巻き込まれた」

「こ……」


 公爵家という単語にビビったのか、国際問題に発展すると思ったのかは判らないが、私達の暴露に『彼』は絶句した。

 そんな反応に気を良くしながら、私は今後の予定を頭の中で組み立てる。

 新たな手駒獲得の予感に、私はひっそりと笑みを深めた。

黒猫『お前の事情はどうでもいい』

忠犬『その程度、自分達でどうにかしろ』

三人組『この人達相手だと、同情してもらうのは無理だ』

相手が悪いと言えばそれまでですが、主人公達の方が過酷な人生歩んでます。

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― 新着の感想 ―
他国の公爵子息ってだけでも男爵家には針の筵なのに、この後で自国の“おうぢさま”まで巻き込んだことを知ったら地獄だよねぇ(笑) 三跪九叩頭しても許されざるよ?
そ、だよねぇ。毎日が「生きるか死ぬかの綱渡り」「Dead or Alive」な日々を送ってきた方々にとっては「あっま〜い」坊ちゃん2号でしかなかったねぇ。 ホント何故にさっさと害悪でしかないバカ父を切…
まあ、そういう結論にはなりますよね。 『なんでそうなる前(現当主に見切りをつけて次期当主を育成始めた時)に追い落としておかなかった?』と。
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