小話集7
時間的に其々が主人公と接触した直後くらい。
食事会以前に動いている人達が居ました。
最後の魔王&グレンのみ食事会の日。
小話其の一 『姫騎士達は笑う』(シャルリーヌ視点)
香りの良い紅茶に摘んできたばかりの薔薇の花。
テーブルにはティーセットにミヅキ製作の『たると』というお菓子。
午後の一時を優雅に過ごす令嬢達はシャルリーヌの親しい友人達だ。
「ねえ、シャルリーヌ様。アルジェント様はお元気かしら?」
一人の令嬢が悪戯っぽく問う。他の令嬢達も意味ありげに笑った。
弟の事を聞きつつも本当の目的は違う。切っ掛けを掴めず話の糸口を弟に定めただけだ。
そして周囲の『よくやった! さあ話せ』と言わんばかりの期待の篭った眼差しに苦笑する。
『あの子』について聞きたいならば普通に聞けばいいのに。
……そう思いかけて内心首を振る。
無理だ。『あの子』の立場はかなり特殊な上、事情を理解できないお馬鹿な令嬢達から僻まれている。
私だとて気に入っているのだ、妙な探りを入れられれば当然警戒するだろう。尤も、そんな真似をしないと判っているから私と彼女達は友人なのだろうけど。
「ふふ、相変らずよ。楽しそうで何よりだわ」
「あらあら、噂の方のお陰かしら?」
「溺愛されていると一部では評判ですものね。 あのアルジェント様が!」
くすくすと楽しげに笑う彼女達は純粋に会話を楽しんでいるようだ。『素敵な騎士様』と言われている弟も幼い頃から知っている彼女達に掛かれば形無しか。
彼女達に『あの子』に対する負の感情が一切見られないことに安堵しつつ、茶会への参加を断られてしまったことを残念に思った。
ああ、次は確実に誘わなければ。その為にはエルシュオン殿下に頼んで弟を引き剥がしておく方がいいだろう。
貴族令嬢に良い感情を持っていない弟は『あの子』が関わる事を嫌がるだろうから。
全く、何て心の狭い……それに我が弟ながらあの過保護っぷりもどうかと思う。
そんな事をしなくても彼女ならば相手を黙らせる事くらい楽勝だろう。寧ろ弟は邪魔な気がする。
「実はね……さっきまでアルとミヅキ様が来ていたのよ。この『たると』もミヅキ様が作ってくださったの」
「まあ! お会いしたかったわ!」
「シャルリーヌ様のことですから、お誘いするかと思いましたのに」
「それが断られてしまったの。ミヅキ様は物事を広く見る事のできる方だから『私達にとって良い事にはならないだろう』って。アルも断る事を反対しなかったし」
ふう、とわざとらしく溜息を吐けば言葉の意味を悟った令嬢達は思案顔になる。
確かにミヅキの言い分は正しい。正しいのだが。
私の態度から読み取るものがそれだけである筈は無くて。
「ずるいですわ!」
「そうよね、アルジェント様達だけ特別なんて!」
「アルジェント様、わざとですわね!? 見せたくないのですね!?」
「やはり、そう思うわよね……」
深々と溜息を吐き遠い目になる。やはり友人達もそう思うのか。
実のところ、ミヅキと弟の言い分にはか〜な〜り差があるのだ。
いや、はっきり言おう。弟は単に必要以上に関わらせたくないだけなのだ。
守護役でしかない『婚約者』と女友達ならばどちらを選ぶか? ……当然、後者だ。自分の知らない間に親しくなるのが不安らしい。
まあ、その気持ちも判らなくは無い。
翼の名を持つ騎士である以上、ミヅキを利用しなければならない事もあるだろう。しかも仕事が最優先、令嬢達の僻みとて弟達の所為である。ついでに言えば性癖が特殊過ぎる。
嫌われる要素満載である。誰が恋人に選ぶというのだ、そんな生き物。
嫁いでくれる可能性は低い。……尤も弟から簡単に逃げられるとも思っていないが。
顔や家柄で全てを許せる人ならばともかく、ミヅキはそのどちらにも興味が無さそうだ。あの守護役達を見ても顔色一つ変えず媚びる事も無い。
冗談でも『好きな人が出来ました』とか言おうものなら笑顔で祝福し何の未練も無く守護役を解任するだろう。
故に『姉様』呼びを願ったのだ。弟に過剰な期待は出来ないと悟った以上は保険があるに越した事は無い。
それに、接点が無ければ作り出せばよいのだ。幸い、情報の幾つかは手にしている。
「ねえ、皆様? 半月後に夜会がありますでしょ? 私ね、ミヅキ様のお役に立ちたいと思いますの」
その言葉に令嬢達は沈黙し一斉にこちらを見た。
全員が『どういうことだ』とばかりに訝しそうにしている。
「ディーボルト子爵家のクリスティーナ様がデビュタントなさるそうなの。……ミヅキ様の『御願い』でアルがエスコートをすることになるかもしれないのよ」
「あら……」
「まあ、それは……」
口には出さずとも『何らかの事情』を察したらしい友人達は無言で話の続きを促した。
そもそもアルは滅多に夜会に参加しない。しかもエスコートがミヅキの依頼ということは。
「彼女はブロンデル公爵夫人のご友人の愛娘だそうよ。デビュタントまでブロンデル公爵家で過ごすのですって」
「……ふふ、下らない事をする方でもいたのかしら?」
「確か……とても可愛らしい方だったわね。纏う空気が柔らかくて、さすがディーボルト子爵の御嬢様と思ったわ」
「ミヅキ様も参加する御予定とのことよ。……だけど『用事』があるらしいの」
その言葉に友人達の目がキラリと光った。
それに気がつかない振りをしつつ、にこやかに提案する。
「私ね、一度騎士になってみたかったの。清楚で可憐な蕾のような姫を守る騎士に」
にっこりと笑って告げると一瞬の間を置いて歓声が上がった。
「素敵! その方を守って差し上げるのね?」
「ええ、私達は『先輩として』色々と教えて差し上げるべきだと思うの」
「そうね、私も初めはとても不安だったわ。アルジェント様がエスコートをなさる以上、不快な思いをするやもしれませんし」
「あら、そんな御馬鹿さんには少しお説教してあげなければ」
「あらあら苛めて泣かせるの間違いじゃなくって?」
「初々しい姫君を御守りする姫騎士としては正しい行動じゃないかしら」
「シャルリーヌ様、少し手加減して差し上げなくては姫に怯えられてしまいますわよ?」
楽しげに笑い合う彼女達は社交界を微笑みと話術で乗り切ってきた猛者なのだ。貴族社会は綺麗なだけでやっていけるほど甘くは無い。出会いの場であると同時に潰し合いの場でもあるのだから。
直接ミヅキの手助けをする事は出来ないが、彼女が気にかける子を守ってやる事はできるだろう。
寧ろ自分達こそ初々しい姫君の騎士としては適任なのだ……女同士の嫉妬は後々まで響く。アルが付いているのはデビュタントの一回のみということは次からが危ない。
自分たちが知り合いなのだとアピールし、関わらない方がいい人物も教えておけば危険はかなり回避できるはずだ。
そのうち初々しい姫君も女だけの戦い方と守りを身に付けていくだろう。
「ブロンデル公爵夫人にお願いをしてみましょう。きっと事前に会えるよう手配してくださるわ」
「そうね、ブロンデル公爵夫人も私達の味方でしょうし」
「楽しみですわね! ふふ、まるで物語のようですわ」
ミヅキが関わっているのは間違いなくエルシュオン殿下関連だろう。自分とてこの国の貴族なのだ……『姉様』を少しは頼ってほしいものである。
鎧の代わりにドレスを纏って、剣の代わりに毒を含んだ言葉を使って。
決意を微笑みで隠し、可憐な姫君をあらゆる悪意から御守りしてみせましょう?
そう胸の内でひっそり誓うと『楽しい夜会』を思い口元に笑みを浮かべた。
※※※※※※※
小話其の二 『母親というもの』(ブロンデル公爵視点)
「……というわけでクリスティーナ様をお預かりすることにしたの。ふふ、楽しみだわ」
楽しそうに話す妻は大変若々しく、一見娘の成長を喜ぶ母親のようである。
数年前に亡くなった友人の娘という事もあり既に母の心境となっているようだ。
「アリエル嬢の娘さんか」
「ええ。昔の彼女に本当によく似ているのよ」
笑みの中に寂しさを滲ませるのは亡き友人を思い出しての事だろう。
妻にとっては大切な幼馴染であり親友だった女性である、彼女の分まで母親としての役割を果たしてやりたいと思うのは当然か。
アリエル嬢は恋愛結婚をし、短いながらも幸せな生涯を終えた人だ。貴族令嬢としてはある意味とても羨ましがられる人生だったろう。
ディーボルト子爵は誠実な人柄で家族の仲も良く、その子息達は揃って優秀だ。際立った才能は無くとも多くの貴族達に受け入れられているのである。
これは功績によって爵位を賜わった家にしては実に珍しい事だった。
民間人が貴族となれば思い上がっても不思議は無い。まして評価された本人はともかく、その子や孫は民間人として生まれたにも関わらず支配階級になるのだ。傲慢な者が多いのも事実だった。
『何の功績も無ければ三代で爵位返上』となっているのも、評価された本人の功績に無能な者達が縋る事が無いようにする為のものである。
生まれながらの貴族は家名を背負うが、功績による貴族は実績によって家を永らえさせるのだ。この差は意外と大きい。
ただ、逆に言えばディーボルト子爵家のように認められる者もいる。実力者を尊ぶ我が国ならではだが、一族が揃って優秀であれば『実力者の家系』として無視できない存在となるのだ。
ディーボルト子爵にもう少し野心があったならば伯爵位を賜わっていたかもしれない。善良な彼は望まないかもしれないが。
……いや、実力者というならこのブロンデル一族も同じなのだ。魔術に長けた一族を名乗る以上はそれなりの才を発揮せねばならない。
現に目の前で楽しげにしている妻も――
そんな考えに沈んでいた私に執事が来客を告げてきた。
「奥様、アーベル様が面会を希望しておりますが」
「アーベル? それは生地を扱う商人じゃなかったかな、コレット。確か我が家でも何度か仕立てさせた筈だが」
「ええ、ローラン。でももう二度と御世話になることはないわね」
ふふ、と可愛らしく笑う妻の言葉に刺を感じ僅かに片眉を上げる。執事に視線を向けると何やら思い当たる事があるらしく、軽く溜息を吐いた。
――長い付き合いの彼の昔からの癖である。そう、妻に共犯者にされた時の。
「コレット? 私は何も聞いていないよ?」
「ええ、言っていませんもの。言う価値も無いことですわ」
「奥さん、私だけ仲間外れは寂しいよ?」
わざと困ったような顔を作ると妻は一層笑みを深めた。
これは……怒っている。アーベルは一体何をやらかしたのやら?
内心ひっそりアーベルを哀れんでいるとコレットは大層大袈裟に溜息を吐いた。
「だって酷いのよ? クリスティーナ様のデビュタント用のドレスに使う生地をギリギリになって『用意できない』と伝えるつもりだったなんて」
「……それは酷いね」
「でしょう!?」
言葉どおりならばアーベルも悪気が無いように聞こえるだろう。『ギリギリまで用意する努力をした』という意味ならば。
だが、妻が怒っているということは。
「商人としては失格ですわね? 客の情報を売るどころか嫌がらせに手を貸すなんて」
つまりディーボルト子爵家への嫌がらせに手を貸したわけだ。しかもギリギリになって『用意できない』など悪質にもほどがある。
恐らくは生地だけでなくレースやリボンといった物も押さえ込んであるのだろう。
これではディーボルト子爵が手を尽くしても無理かもしれない。男であるなら余計に気が回らないだろう。
「それで買った情報を元に娘のドレスを作らせる、という嫌がらせをするつもりだったということかな」
「ええ、恐らくは。相手が手に入らなかった物を自分が持っているという優越感に浸るつもりなのでしょうね」
「全く、グランキン子爵はどうしようもないな」
「あら、クズと言って差し上げれば宜しいのに」
妻の口から出る言葉には容赦が無い。だが、それを諌めようとも思わなかった。
敵視しているならば何故もっと堂々としたやり方で張り合わないのか。十五歳の少女を傷付けて喜ぶなど誇り高い貴族のすることではないだろう。間違いなく誰もが嫌悪を浮かべる。
それに同調している娘も育ちが知れるというものだ。母親は確か子爵家出身だった筈だがまともな教育はされなかったのだろうか。
「無理よ、あの方はアリエル様を敵視していた一人ですもの。素敵な殿方に相手にされないのは自分の器量の無さが原因なのに、人気のある方達の所為にして悪意を振りまいていた人よ?」
「おや、私の考えはそんなに判り易かったかな?」
「止める可能性のある人なんて生まれながらの貴族である夫人だけでしょう?」
そう言いつつも全く期待はしていなかったようだ。「変わらないわね」と呟くあたり知っているのだろうか。
……。
……。
そういえばコレットも昔は色々と言われていた気がする。
そうか、グランキン子爵夫人は当時ブロンデル家の跡取娘だったコレットにやたらと噛み付いてきた令嬢の一人か。
と言ってもコレットはにこやかにやり込め、逆に喧嘩を売ってきた令嬢達は自身の評価を下げまくって嫁ぎ先を探すのに苦労したと聞く。
本来ならば公爵令嬢に喧嘩を売るなどありえない。ありえないが実力至上主義という国の特性か身分差は他国に比べ寛容である。
しかもコレットは容姿と巨大な猫のお陰で嘗められる事が多かった。尤も、これは『家に頼らず己のみで返り討ちにせよ』という教育の一環だったらしいが。
認められて友人となるか、負けて公爵令嬢に喧嘩を売った愚か者となるか。
状況によって後の周囲の扱いが天と地ほど違うのだった。これは利用しようと近づく男にも言えることだったが。
社交界の華とはある意味毒花なのだ、ましてしっかり躾られた公爵家令嬢に敗北など許されている筈は無い。
当時散々泣かされたにも関わらず全く学習しないとは……ある意味あの両親を持った娘は不幸かもしれない。
親の失敗談を聞いて育つだけでも同じ轍は踏むまい。
「本当に困った人達ね。でも今回はミヅキ様達に譲らなくてはならない事も理解しているわ。だから小物は私が引き受けてさしあげようと思って」
可愛らしく微笑んではいるが目が笑っていない。唇の笑みが妙に毒々しく映る。
「アーベル商会に通達しましたの。『ディーボルト子爵家のクリスティーナ様は我が娘も同然、下らぬ事を仕出かす商人など信用ならない』って」
「おやおや、それは慌てただろうね」
公爵家に拒否されたのだ、間違いなく死活問題になってくるだろう。
しかも今回は一方的に向こうが悪い。事情を知れば他にも今後の付き合いを拒否されることは必至だ。
「ついでに『ブロンデル公爵家に牙を剥くならば覚悟せよ』とも付け加えましたけど」
「……コレット」
……死活問題どころか公爵家を敵に回してしまったようだ。商人として終わったな、アーベル。
その割にブロンデル公爵を名乗る自分は今初めて聞かされたのだが。
これか、先程の執事の態度の理由は!? 私の立場は!?
「あら、きっぱり縁を切るならばこれくらい言わなければ」
「いや……そうなんだけどね」
「野放しにすることで次の被害が出たら私は自分が許せませんわよ、ローラン」
全く悪いと思っていない彼女を前にこれ以上の反論を諦め口を閉ざす。
自分とて同意してしまうのだ、怒りを抱く彼女を止める事は不可能だろう。
何せ彼女こそイルフェナにおいて最高峰の魔術師なのだ。口で勝てるとは思えない。
……そして優秀な魔術師だからこそ息子の才能の危険性に気付いた。純粋さは時に破滅を招くのだと。
クラウスの才能は完全に彼女譲りなのだ。
外見こそ父親似だが内面は魔術特化のブロンデルの血が非常に濃い。
師であり、母親である彼女ですら手を焼いた息子を手懐けるミヅキが『規格外』と言われても仕方あるまい。
しかも最近は息子が普通に見えてきた。ストッパーさえ居れば『魔術至上主義(ミヅキ談)』程度の認識で済むらしい。
婚姻せずともそのまま保護者でいてくれ、というのが家族の出した結論である。
そんな負い目もあり、ミヅキの手助けをする事に異論は無い。特にコレットは母親として感謝しているので容赦が無いのだろう。個人的な意味もあることだし。
「もう新しい商人に話はつけてあるの。後はクリスティーナ様が我が家に来てくださるだけよ」
「はいはい、判ったよ。ところで……アーベルを待たせたままじゃないのかい?」
「……。居ましたわね、そんな人」
「忘れていたんだね?」
「ええ。興味が無いものですから」
にっこりと笑うその顔が何故か無表情なクラウスと被る。
そういえばクラウスも興味の無い事には無関心だった。確かな血の繋がりを見た気がする。
「では、私も行こう。次は私の所に来るかもしれないからね」
「そうね! では参りましょう」
いそいそと歩き出す彼女の背にアーベルへの同情がない訳ではないけれど。
自業自得なのだから諦めてくれないか。……妻と過ごす貴重な時間を君の為に使ってあげるのだからね?
※※※※※※※※
小話 『一方その頃、王城某所では』
エルシュオンの執務室の隣に作られた客室ではエルシュオンとグレンが向かい合って食事をとっていた。
メニューがグレンにとって懐かしいものばかりなのは調理した人物が同じ世界の住人だからである。
懐かしくも美味い料理に舌鼓を打ち、一時の喜びに浸る。
……喜びに浸るのだが。
「ミヅキはどうしましたかな? 食事に来いと言われましたが」
「ああ、ディーボルト子爵の屋敷へ料理を作りに行ってるよ。娘さんの誕生日らしい」
「ほう……おや、ディーボルト?」
「ええ、貴方も会ったでしょう。双子の騎士達の実家です」
「ああ! あの二人でしたか」
グレンの脳裏にいつぞやの光景が思い出される。二人はミヅキにとって良い友人なのだろうと思われた。
この世界に放り込まれた友人が親しい友を得たというのは喜ばしい事である。何せ自分は住む国が違うので必ずしも力になってやることはできないのだから。
「あの二人とミヅキは仲が良いからね……妹もミヅキと友好的らしい」
「そういう存在が近くに居るというのはありがたいことですな」
「おや、そう思われますか?」
「ええ。私も異世界人ですから孤独の恐ろしさを知っているのです」
周囲に知っている人が居ないというレベルではなく、自分が世界においての『部外者』だという認識。
常識さえ違う未知の場所に放り込まれるというのは本当に怖かった。
「ふむ、ディーボルト子爵家は今後もミヅキと付き合いがありそうですな……これは何か贈り物をした方が良いでしょうか」
「ならば誕生日の娘に何か贈っては? 理由の無い贈り物は警戒されるだろうしね」
「確かに。幾つになられたのですか?」
「十五歳とか言っていたかな」
「なるほど、ではペンを贈りましょう。これから手紙を書く機会も増えるでしょうしね」
「それくらいなら受け取ってもらえそうだね」
食事をしながら交わされる会話は彼女の保護者と友人のもの。
のんびりと食事を楽しむグレンはディーボルト子爵家の状況が『娘の誕生日を祝う食事会』等と言う微笑ましいものではなく、罠満載の『馬鹿どもを弄ぶ会』と化している事など知る由もなかった。
事の詳細を彼が知るのは全てが終わってからである。
お姉様達のアルに対する評価は厳しいです。特に実姉。
きっとアメリア嬢VS姫騎士様達。
ブロンデル夫人は才女。気さくな人ですが『敵』になると怖い人。
口調が微妙に乱れるのはお怒り中だから。商人危うし。
公爵は優秀なだけでなく愛妻家。クラウスの顔はこの人そっくりなので、若い頃の夫人に敵が多かったのはこの人が原因。