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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ほのぼの(?)イルフェナ編

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妹さんの帰宅 其の一

「マリアベルと申します。歓迎致しますわ」


 そう言って微笑んだ彼女の意識がシュアンゼ殿下――ではなく、彼の後ろに控えたヴァイスに向いているのを確認し。

 ……私はひっそりと溜息を吐いた。同時に、こう思う。


『お馬鹿、決定!』と!



 ――時は前日に遡る。


 モーリス君から『妹が明日、ここに帰って来るんです』と聞いた私達は早速、彼女への対処をどうするか話し合った。

 卒業するモーリス君と違い、彼女はきっちり授業を受けていたため、帰省するタイミングがずれていたのだけど……私達にとってはそれが良い方向に働いた。

 ぶっちゃけると、『モーリス君の覚悟がすでに決まっている』。

 これ、重要。モーリス君は何だかんだと妹さんを気に掛けているため、『最悪の場合は妹を切り捨てて家を選ぶ』という選択をしない可能性があったから。

 彼は両親を亡くしているし、兄として妹を守らなければいけないという気持ちは立派だ。それ自体を否定する気はない。

 ……が。

 妹さんがお馬鹿だった場合、『今のモーリス君』には対処するだけの力がないんだよねぇ。

 そもそも、当のモーリス君自身、新たな当主として親族から家を守り抜く力がない。

 若いということもあるけれど、その覚悟と自覚を持ったのがここ一年ほどなので、圧倒的に準備不足なのだ。

 後妻さんが時間稼ぎをしてくれていたとしても、行動しなければならなかったのが当主になる予定のモーリス君自身なので、こればかりはどうにもなるまい。

 まあ、モーリス君自身もそれを恥じているようだし、後妻さんにもきちんと詫びたらしいので、それを今更突く気はないんだけど。


 だって、どうにもならないし。(現実)


 時間を戻すことはできないのです。『~していたら』なんて希望的観測よりも、『今何ができるか』に力を注いでもらいたいものですな。

 後悔する暇があったら動け、ということですよ。当主になって終わり! ではなく、モーリス君にとってはそこからが本番なのだから。

 漸くスタート地点に立った、というだけだからね? そこで終わりにして良いのは私達だけですぞ。


 で。


 そこらへんのこともしっかりと言い聞かせ、家令さん以下使用人の皆さんの意識改革も無事に終了、そして後妻さんにも『要らん欲を出すなよ☆』と脅は……いやいや、忠告し。

 一通りのことが終わった直後、妹さんが帰って来るというお知らせが来たわけだ。


 その知らせを聞いた私は思った……『帰って来るのが【今】で良かった』と!


 正直なところ、私達のお仕事は八割がた終わっている。寧ろ、後は軽くお邪魔虫(意訳)を振り払う程度。

 元からブレイカーズ男爵家の皆様がやらなければならないことなので、襲撃犯という証人を押さえ、モーリス君達の意識改革も済んだ以上、できることは少ないのだよ。

 しいて言うなら、襲撃第二弾を警戒するくらいだろうか? もしくは、『優しい親族』(笑)が接触してきた際に同席するとか。

 襲撃はともかく、親族への牽制はシュアンゼ殿下の存在&『ファクル公爵から頼まれました』という言い分で十分なので、マジで私達がでしゃばる必要はないだろう。


 ……しかし、最後に一番の問題点が残っていたわけでして。


 それが『後妻さんに反発する妹さん』という存在だ。後妻さんは『反発されても仕方がない』と言っていたけど、正直、それで済ませるには無理があると思う。

 妹さんが幼い子ならば、まだ判る。家の状況とか、そういった『自分以外のこと』に思い至らなくても仕方ないから。

 だけど、妹さんは学園に通えるような年齢であって。

 それなりに情報を得る機会はあるし、友人の家と比較することも可能だ。第一、自分の縁談といった『己の人生に関わること』はそれなりに考えなければ駄目だろう。そういう年頃だ。

 それらのことを前提として、シュアンゼ殿下サイドで話し合いなのですよ。


「……これ、私達に会った直後の態度で、彼女がどの程度家のことを理解しているか判るんじゃないかな」

「だよねぇ」


 シュアンゼ殿下の発言に、私も深く頷いておく。他の皆も似たような反応だ。

 ……別に、『家に帰ったら王子様が居て驚いた!』という反応を批難する気はない。普通は驚くし、それくらいは見逃そう。

 シュアンゼ殿下が言っているのは、それらの驚きが過ぎた後のことだろう。


「即座に対応できるかは別として。……目の前に王子様が居るんだから、探りを入れてくるか、家のことを頼もうとするか……。まあ、どちらかの反応を見せたら、多少は状況を理解できていると思う」

「教官はその二つならば、妹さんも見込みがあると思うんですか?」

「うん。現状、家が拙いって判っている上、私達は『モーリス君のことを頼まれてここに居る』。だったら、それくらいの野心を見せてもいいと思う」


 ロイの疑問はもっともだけど、私としてはそれくらいの反応を見せて欲しいところ。

 そもそも、私達は『ファクル公爵からの課題』ということと『モーリス君のことを頼まれている』という二点から、『モーリス君が当主になれるよう力を貸す』になっているだけ。

 当然、重要なのは『ファクル公爵からの課題』の方なので、モーリス君が当主に就任してしまえばミッションクリアーなのですよ。


 そこに『妹さんの縁談』やら『後妻さんの今後』といったものは含まれていない。

 追加オプションなのです。どこまで手を貸すかは私達次第。


「魔導師殿としては、拙くとも、意欲的な姿勢を見せればいい……ということでしょうか」

「ヴァイスには甘いと思われるかもしれないけれど、当のモーリス君も一年前まではお馬鹿さんだったからね。あと、もしかしたら妹さんも自分なりに考えていることがあるかもしれないでしょ」

「ああ、ミヅキも謎の思考回路とか、考えが読めないって言われるものね」

「そう。だから、『一応』妹さんの考えを聞く必要はあると思う」


 シュアンゼ殿下の補足に、ヴァイスは納得したような表情になった。……自分も心当たりがあるのだろう。

 ええ、ええ、私は結果を出すことに定評があるけれど、『その過程が意味不明』とも言われてますからねっ!

 ルドルフや魔王様にさえ時々言われるので、大抵の人は『お前の頭の中はどうなっているんだ……?』という状態です。

 妹さんが私と同じとは思わないけれど、彼女は未成年……子供なのですよ。だから、『行動自体は拙くとも、何か考えがあるんじゃないかなー?』という可能性もあるわけで。

 い……一応、ね? お子様って突拍子もないことをするし、どんなトンデモ案だったとしても、『後妻さんへの反発のみで何も考えていない』というお馬鹿よりはマシじゃないか。

 少なくとも、『自分なりに家のことは考えていた』ということにはできる。これがある場合とない場合では、妹さんへの評価が大きく違うだろう。

 もしかしたら、後妻さんへの反発を嗜めようとしたモーリス君の言葉を跳ね退けるだけの根拠――あくまでも妹さんなりの根拠であり、説得力があるかは謎――があるかもしれないじゃない!

 ……。

 まあ、期待はしてないけどさ。ただ、会ったこともないのに、お馬鹿と決めつけるのは駄目な気がする。


「要は、その妹の心構え次第ってことを言いたいんだろ? 教官は」

「まあ、そんなところ」

「けどよ、その後はどうするつもりだ? あの兄貴にさえ反発する子なのに、大人しくこっちの言うことを聞くとは思えねぇぞ」


 イクスの心配、ごもっとも。しかし、彼は大きな勘違いをしているのだ。


「え? 別に説得する気はないよ?」

「「「は?」」」


 三人組の声が綺麗にハモる。残りの人達は……私の考えが読めているのか、どことなく苦笑しているようだ。


「だから、『何も考えていないお馬鹿』かどうかを見極められればいいんだってば。第一、見ず知らずの私達が何を言ったところで絶対に、聞かないでしょ」

「まあ、普通はそうだろうな?」

「だから、一応は意見を聞いてあげる。だけど、それだけ。妹さんにできることって『今は』何もないんだし、こちらの邪魔をしないように脅す。彼女の出番はモーリス君が当主になった後……所謂、政略結婚くらいじゃない? それ以外の未来を考えているなら、頑張って結果を出して見せればいいじゃない」


 妹さんが何らかの未来を見据えているなら、卒業前にモーリス君を説得するという方法がある。

 それがどこかの家との婚姻なのか、それとも何らかの職業に就くことなのかは判らないが、彼女自身の努力が窺えれば、モーリス君とて無下にはしないだろう。

 逆に、未来への展望が全くない場合は、政略結婚の駒として使えるかも怪しい。

 今回の私達との接触で妹さんの考えが判るだろうし、それによって朧気ながら彼女の今後が決まるだろう。


 其の一『何らかの未来を目指し、努力している場合』

→とりあえず卒業までは本人の好きにさせる。


 其の二『具体的な案はないが、家のための政略結婚をする気がある場合』

→目ぼしい家に当たりをつけ、卒業までに売り込めるだけの能力向上を目指す。


 其の三『後妻さんに反発するだけのお馬鹿』

→貴族籍から外れることも視野に入れつつ、極力、ブレイカーズ男爵家に関わらせない未来を探す。


 現時点ではこんな感じ。タイムリミットは卒業までだが、今回は『とりあえず、どうしたいのか』を聞いておければOK。

 冷たいようだが、親が縁談を見付けてくることができない――彼女の場合、それが新米当主のモーリス君なので多分、不可能――ので、ほぼこの三択になるだろう。

 妹さんに野心があるならば、是非とも『其の二』の案を狙って欲しいものだが、そのためには格上の家から望まれるような子になってもらわねばなるまい。


「じゃあ、とりあえずは様子見だね。私は勿論だけど、ミヅキにも席に着いてもらおうかな。まあ、皆も同じ部屋に居るから、彼女の見極めはできそうだ」

「ああ、同性の私の方が煽りやすそうだもんね」


 口を挟むと、その通りとばかりにシュアンゼ殿下は微笑んだ。


「頼んだ。私は……『足が悪く、影の薄い王子様』ということにしておこうかな」

「自己紹介以外は私が主体になって話せばいいのね。はいな、了解!」


 役割を決めて頷き合う。妹さんの性格次第で難易度がかなり変わってくるけど、できることならば笑ってさよならしたいものである。

 お馬鹿だったなら……現実を突きつけ、心を折るためにも、我が守護役の誰かに登場していただこう。

 ただ、トラウマになりかねないので、できるならば穏便に済ませたい。


 ……そう思っていたんだけど、ねぇ?

黒猫『捨てる前に一応、確認しとくか』

灰色猫『後の憂いになっても困るしねぇ』

三人組『(救済案は……?)』

※『魔導師は平凡を望む 33巻』が9月12日に発売予定です!

 購入特典詳細は活動報告をご覧ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] この話で真っ先に思ったこと 『あ、ヴァイスって見た目も良かったんだっけ』 男性陣の中でも特に不憫な空気を纏っているせいであまりその容姿を気にしたこと無かったけど、美男子の範疇なんだね。 …
[良い点] ヴァイス(この中では色んな意味で一番まとも)に目を付けるあたり、妹の男を見る目はある……かもしれない(笑) でもヴァイスもこんなお花畑に目を付けられるあたり本当不憫属性! [気になる点] …
[一言] まあ、そもそも『何故王子が男爵家にいるのか』『自分と同じで反発してた兄が窘めてくる側になった』などに疑問を抱かない時点で、『こいつはお花畑思考タイプ』に分類されますもんね(^o^;)
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