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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
イルフェナ編
63/700

夜は更けゆく

VS親族。

給仕はしっかり見てました。

そして主人公も試されていた1人。

 グランキン子爵達が出て行った後の室内は非常に居心地の悪い空気に包まれていた。

 と、言っても私達は除いてだ。

 まだやる事がありますからねー、あれで終わりじゃありませんよ?


「ところで、親族の皆様?」


 私が徐に攻撃対象を変えると彼等はびくり、と肩を竦ませた。


「貴方達はグランキン子爵の味方でしょうか? 私達の味方ではないことは確信しましたが」

「そんなことはっ!」

「そ、そうだ! 私達は何も知らなかったんだ!」

「知らなかったことは関係ありませんけど?」

「「え……?」」


 『自分達は無関係だ!』とばかりに主張していた彼等は、虚をつかれたかのように呆けた表情になる。


「私達という『部外者』が居る以上はグランキン子爵を諌めるのが当然では? 一族の恥ですし、貴方達はクリスティーナの誕生祝に訪れていたのでしょう?」


 本当に祝う気持ちがあるなら不快を示したり諌めるのが当然だ。

 だが、彼等は何もしないどころか面白がるような素振りさえ見せていた。


「何の為に私が給仕としてこの場に居たと思うんですか? グランキン子爵だけではなく、貴方達の態度を観察することも目的なのは当然でしょう?」

『なっ!?』


 心外だと怒りに顔を歪める者、動揺のあまり顔を引き攣らせる者など反応は様々だ。

 まあ、そういう反応するでしょうね。いきなり自分達に矛先が向けられたんだから。


「それに……お気付きですか? ディーボルト子爵は言葉を一切発してはいません。おかしいと思いません? 愛娘の誕生祝の席をこんな状態にされているというのに」

「まさ、か」

「ディーボルト子爵は我々の協力者ですよ」


 掠れた声に答えを返したのはアルだった。その言葉に親族達は顔面蒼白となる。

 翼の名を持つ騎士が『協力を依頼する』。それが個人的なことであろう筈は無い。


「ディーボルト子爵家の双子が妹の誕生祝を憂えていたのも、私に助力を請うたのも本当。そして私が魔王様から『命令』されたのも翼の名を持つ騎士達が『私に協力するよう命じられた』のも本当です」


 騎士達は協力すると言ってくれたが、その時点での私達の認識はあくまで個人レベルだった。

 ところがその直後に魔王様から『彼等の立場や人脈を利用することを許可されている』のだ、しかもそれは私の指示の下という条件で。


 言い換えれば翼の名を持つ騎士達の指揮権があるということだ。もっとはっきり言うなら『今回に限り騎士達に命令する権利が魔王様直々に与えられている』。

 あの人が個人的な理由でそんな事を許す筈が無い。そして騎士達も従うのはそれが魔王様からの『命令』だからだ。


「私とディーボルト子爵家の双子は個人的な事情で動いていますが、翼の名を持つ騎士達は命令で動いているということですよ。利害関係の一致、と言った方がいいでしょうか」

「おや、そう考えた理由をお聞きしても?」


 穏やかな笑みを浮かべたまま聞いてくるアルの目はいつか見たように少しも笑っていない。

 クラウスは無表情だがセイルは……明らかに面白がっているようだ。まるで『正解に辿りつけますか』と言わんばかりに。


「ただグランキン子爵だけを狙えば必ず巻き添えになるものが出るでしょう。特にディーボルト子爵家は血の繋がりがある上、接触も多いだろうから疑われる可能性も共犯に仕立て上げられる可能性もある」

「仲が悪いのでは?」

「接触が多いことが問題。表向き仲が悪い振りをしてた、なんて言い出すかもしれないでしょ? それを証明すべき親族達は我関せずで傍観している上に我が身可愛さで無言のまま切り捨てる可能性大」


 私と守護役達は同時に親族達へと冷めた視線を向ける。言い返すなんて真似は出来まい、今回もずっと『傍観していた』のだから。

 以前アルが言っていた『貴族同士の繋がりは厄介』という言葉。それは必ずしも味方としての繋がりを指しているわけではない。

 下らない噂とて馬鹿に出来ないのだ、事実では無い醜聞に潰される事だって十分ある。

 実際、ゼブレストでは『個人的趣向の下世話な噂』で約二名が大変な事になっているのだから。……発案・実行した私は反省など欠片もしていないが。

 仲が悪いからこそ最後の足掻きとして共倒れをしかねませんからね、グランキン子爵。


「だから今回の事は実に都合が良かった。私が関わる以上報告の義務があるし、『命令で動いている』アルやクラウスも同様。身内だけの集まりなんて証言が役に立たないもの、だけど私達が介入すれば別」

「だろうな。グランキン子爵を監視するという名目であちこちに魔道具が仕掛けられている。証拠としても十分だ」

「私もいますしね。クレストの名を持つ者として証言させていただきます」


 クラウスとセイルの追い討ちで親族連中は如何に自分達の行動がマズかったか悟ったようだ。青褪める者、肩を落とし俯く者、申し訳無さそうにディーボルト子爵に視線を向ける者。

 ……見苦しく言い訳しないだけマシだろうか。これなら仕事を任せてもいいかもしれない。


「全てはディーボルト子爵家の協力が必須となる。王族直々に協力を求められ、愛娘の祝いの席をこちらの目的の為に差し出す者を疑う人はいるかしら? 魔王様が特別扱いをした、と侮辱したいなら別だけど」

「あの方がそんな事をしないのは周知の事実ですよ。貴女さえ駒の一つとして扱われているのに」

「その駒が『信頼できる者』という意味なら悪くは無いわね。まあ、何にせよ今回の事でディーボルト子爵はこちらの味方だと証明されたから」

「信頼していますとも。ディーボルト子爵家を失う気は無いからこそ、今回の茶番です」


 アルの言葉が決定打。クラウスもセイルも満足そうにしている所を見ると間違ってはいなかったようだ。

 若干顔を強張らせてはいるものの、ディーボルト子爵家一家は誰一人取り乱したりはしない。


 ごめんよー、ディーボルト子爵家の皆様。こんな判り難いやり方する上司で。


 今後グランキン子爵が駆除されても巻き添えを防ぐには確たる証拠が必要だったみたい。親族連中には何の手も打っていないことから察するに惜しくは無いのだろう。

 一応、愛国精神溢れる王子様なので許してやってくれ。国の為というのは本当だ。

 そしてそれ以上に諦めておくれ、外見天使で中身が魔王だが正真正銘この国の王子様なのだよ。

 私にとって足場固めという意味もあるので『実力を示せ』ってことなんだろうけど、正解に辿り着けなかったらどうするつもりだったんだか。

 つーかね、セイル。お前、全部知ってただろ!? でなきゃ、魔王様があっさり許可する筈も無いし。

 先日ゼブレストに居なかったのは、私と入れ替わりでイルフェナにでも行ってたんじゃないか!?


 内心セイルへの疑いありまくりな私の視界に放置されたままのワゴンが映る。

 肉料理の直前にアメリア嬢達がやらかしてくれたので、そのままになっていたんだよね。まあ、この状況としては非常に有効活用できるものなんだが。

 ……使うか。本来は対グランキン子爵脅迫料理だったけど。


「……そうですね、皆様がグランキン子爵の味方ではないと証明する術は残されていますよ」

「何!」

「お……教えてくれ!」

「私達はあの人の味方じゃないわ!」


 私の言葉に一斉に騒ぎ出す親族一同。事態を理解した今となっては必死になるのも当然か。


「貴方達はこの場に『居た』んです。言わば証人。グランキン子爵は今夜の事を被害者ぶって言いふらすでしょうね? それを止め、事実を広める事が皆様の仕事では?」

「おや、彼等にとってはこちらが加害者かもしれませんよ?」


 アルも意地が悪い。証拠が揃っている以上こちらに不利になる事は無いのに敢えて『親族はこちらを加害者と認識しているかもしれません』と言っているのだ。

 良識を思いっきり疑ってます、公爵子息。信頼されてないねー、君ら。


「そんな真似できるかしら?」


 にこりと笑ってワゴンの上にあったものをトレイごとテーブルに置く。白っぽい塊は謎の物体と思われているらしく、誰もが興味半分不信感半分に見ている。

 うん、そうですね。これ、知らないと元の世界でも訝しがられます。料理ですが。


「ミヅキ……それは一体?」


 セイルが皆の気持ちを代表するように疑問を口にする。他の人達も視線で問い掛けてくるのが良く判る。


「塩釜焼き」

「シオガマヤキ? 料理なのですか?」

「うん。下味を付けた肉の塊と香草を泡立てた卵白と塩を混ぜた物で覆ってから焼いたの」

「……これは卵と塩でできているのですか」

「うん。硬いけどね」


 指で軽く叩いたくらいじゃ凹みません。勿論これは食べられない。

 セイルは軽く指で叩いて「確かに硬いですね」と不思議そうにしている。

 インパクトは十分なこの塩釜焼きは味付けもこの世界の人にとって違和感無く食べられるシンプルなものだ。

 そしてその程度で『脅迫用』なんて物になる筈はなく。


 上に布巾を乗せて念の為に手袋着用。

 腕には強化魔法付きのブレスレット。

 よし、準備完了!


「先程の話に戻りますね。……私は貴族ではありませんし、グランキン子爵が言うように権力など持たない小娘です。ですが一つだけ有するものがありまして」

「ふむ……知識かね? 異世界より齎される知識は素晴らしいものだと聞くが」

「私が伝えられる事など料理のレシピくらいですよ! 異世界人だからではなく『私個人』という意味です」


 一番まともそうな御爺さんが首を傾げながら告げる言葉に否定を返しておく。

 うん、これは本人の性格が物を言うと思うんだ。グレンやアリサは絶対にやらないだろう。


「ふふ、私は凶暴なのです。敵には容赦いたしません。そう、こんな風に……」


 べきっ


『……え?』


 皆の心の声が一つになる中、笑顔のまま拳を振り下ろし塩釜にめり込ませる。中身は肉の塊です、加減はしてるし少しくらい凹んでも問題無し!

 なお、正しい食べ方は金槌で破壊するのが一般的です。拳ではまず無理。


「……ミヅキ? それはそうやるものなのですか?」

「いいえ? 一般的には金槌を使う」

「何故、拳で」

「気分的な問題?」


 きっぱり言い切って拳を退けると見事に皹が入っている。魔法って凄いね、全然痛くないよ!

 あら、事前に将軍が『硬い』と言った謎の物体への興味よりも拳で破壊した私への恐れが現れてますね。良い傾向です。

 

「このように私は暴力で意思表示をする事が多々あるのです。もしも敵となった場合には……」

「……場合、には?」

「死、あるのみ! 殺るか殺られるかの状況しか経験していないのです。御覚悟を」


 魔王様の真似をして笑顔で威圧を加えてみたら笑えるほど親族連中の顔色が変わった。まさに音を立てて顔から血の気が引く状態。倒れるのは家に帰ってからにしてくれ、迷惑だから。

 普通に考えれば、殺したりできないことくらい判りそうなものなんだけどな。そこまで考える余裕が無いのか。


 ゼブレストでも思ったけど、貴族って守られるのが当然であって武闘派は少ない。だから言葉だけじゃなく実行して見せれば効果的かなと思っていたわけですが。


 想像以上の効果です。怯えられています。


 ああ、どうせなら赤毛をボコれば良かった! あいつだけ騎士だもの、女にやられたなんて絶対に口にしないだろうし。

 治癒魔法もあるからアル達も笑顔で『なかったこと』にしてくれるだろう。


「貴方達がすべきことは『今夜の事を正しく広めること』と『翼の名を持つ騎士達が動いている事を一切洩らさないこと』の二つです。グランキン子爵達は私の付き合いでアル達が来たと思っているでしょうからね」

「なるほど。親族達に状況を説明したのは軽率な行動を慎ませる為だったのか」

「後者が情報として流れたら彼等がグランキン子爵側だってわかるでしょう? その場合は敵確定。連帯責任で全員ね」

「い……些か大雑把過ぎないかね!?」

「今この場で敵認定しても全然問題ありません。それに連帯責任が嫌なら互いに見張ればいいんですよ」


 グランキン子爵共々さくっと駆除されても何とも思わないが、妨害要素を減らしておくに越した事は無い。

 現状では『グランキン子爵の味方ではない』という自己申告しかないのです、脅迫と共に『敵認定もありえる』という可能性を突きつけておけば妙な行動はとるまい。見張り合っていれば動きがあった時に自己保身から密告してくれるだろう。

 首輪と鎖は着けておくべきですよね! そして『悪戯』をしたら叱る、これ常識。


「さあ、皆様? 明日にはグランキン子爵が悪評を流すかもしれませんよ? 震えている時間などありますかしら?」

(訳「あいつら野放しにしておくと君達の立場が悪くなるけどいいんだね?」)


 ある者は絶句し、ある者は考え込む素振りを見せ。大半の者達が青褪めて震える中、私の言葉は正しく彼等の頭の中に入ったらしく。


「失礼するっ!」

「我々もっ」

「ごめんなさい、非常事態なの!」

「おい、急げ!」


 などなど一言ディーボルト子爵に言葉をかけると実に素早い動作で帰宅していった。

 今まで傍観してたんだから今回くらい頑張れよ? 働けよ?


「で、彼等が駆除の巻き添えになった場合はどうするのですか?」

「捨てる」

「……働きを認めるつもりはないと?」

「自己保身からの行動でしょ、あれは」


 セイルの言葉に素直に返したら私達以外が固まった。即座に復活した騎士sは微妙な顔をしつつも擁護するつもりはないようだ。

 ……何か間違った事を言っただろうか。それに私にはどうこうする権限ないし。


「とりあえず片付けたら誕生祝のやり直しをしません?」

「え?」

「だってこの屋敷には純粋に貴女を祝いたい人達が沢山居るでしょ? クリスティーナ」


 ディーボルト子爵達も私が誰の事を指しているのか理解したようだ。笑みを浮かべて大きく頷く。


「そうだね。ああ、折角だからアリエルの絵がある部屋にしないかい? 家族用の食堂だから少し狭いがお祝いだからね」

「俺達は使用人達に声をかけてくるよ」

「そうだな、全員気になっているだろうし」


 騎士sがさっさと行動を開始する。やはりこの食事会には思う所が多々あったのだろう。

 あの雰囲気で『お祝い事』って何の嫌がらせかと思うもの。

 さあ、ここからは(多分)無礼講ですよー♪

 赤毛の謎とかグランキン子爵の嫌がらせとか色々話を聞けそうです。

 一番はクリスティーナのお祝いだけどね!


「クリスティーナ!」

「なあに? ミヅキ様」

「お誕生日おめでとう」

「はい! ありがとうございますっ」


 笑顔で返して来る彼女に安堵する。傷つけられた上に殺伐とした話が続いたけど、今は楽しそうだ。

 良かった良かった。今回とは別に復讐計画まで必要かと思いましたよ。


「俺達が連名で抗議すれば家から叩き出される程度にはなりそうだが」

「それではつまらなくないですか?」

「やるなら居場所がなくなるくらいやりたいですね」


 ……悪魔達の計画は聞こえなかった事にしますよ、ええ。どうせ今回の一件が終ってからのことだもの。

 そういえば魔王様が『どんなに優しくとも彼等は公爵家の人間』って言ってたっけね。 

根拠の無い噂だろうと馬鹿には出来ません。

ディーボルト子爵家、隔離成功。親族達は……。

小賢しい悪役は巻き添えを作るので性質悪し。

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