表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
イルフェナ編
62/699

生かさず殺さず

グランキン子爵VS愉快な仲間達。

トドメは刺さないけど何もしないわけじゃありません。

 ちら、とアンディに視線を向ける。……もう何も言い返す気力はないようだ。

 一番最初の暴言といい、彼の態度は客としてのものではない。はっきり言うなら彼は明らかにディーボルト子爵家を見下している。

 考えられる要因としてはディーボルト子爵より身分が上、というのが最有力だろう。

 尤も彼の実家が、ということであり本人は近衛騎士なんだろうけどね。


 目には目を。歯には歯を。


 身分を重要視するアンディ君には最も効果的な報復だったろう。自分で公爵子息に暴言吐いたんだから。

 『知らなかった』なんて言い分は通りませんよ? 公爵家の権力というものが想像つかないので、どうなるかは知らんがな。

 まあ、アメリア嬢よりは現実が理解できているようで何よりだ。

 あの子は相変らず私に敵意の視線を向けてるもんなぁ。 何でも自分の思い通りになると考えている御子様って性質が悪いわ。現実が見えてないもの。


 個人的な感想を言うならアル達が君を選んだらロリコンだからな?


 元の世界なら奴等は社会人の年齢、対してアメリア嬢は中学生。犯罪です。

 特殊な趣味でもない限り社会人が中学生を選ぶ状況はあまり無いと思う。選んだ場合、お姉さんは今とは別の意味で守護役どもにドン引きだ。

 悲嘆に暮れるどころか変態と離れられることを喜ぶあまり泣くかもしれん。私は自分の身が可愛い。


「もう確認は宜しいですか? グランキン子爵殿?」

「……ああ、十分だ」


 セイルの言葉に苦々しく頷くグランキン子爵。目には一層、殺意と敵意と怒りが宿っている。

 だが、罵倒する事は無い。逃げ道を知ってるようだ。

 

『この状況下での逃げ道』――それはグランキン子爵自身が暴言を吐いていない事。


 料理の愚痴は私個人に対するものだし、『個人の味覚の違い』で誤魔化そうと思えば誤魔化せる。

 赤毛は捨てるとして、アメリアは『子供の我侭』扱いして親が謝罪しつつ宥めてしまえば強く怒れない。実際にアメリアはデビュタントさえしていないのだから、そんな子供相手にむきになる方が大人気ないだろう。

 妻も同じく。叱って謝罪させてしまえば『よく知られていない異世界人のことだから』ということで片がつく。

 一言で言うなら未だグランキン子爵は決定的な失態を犯していないのだ。

 王族の不興はかうかもしれないが元々重要な役には就いていなさそうだし。


「我が妻と娘が御迷惑をお掛けしました。どうか許していただきたい」

「嫌です」

「……」

「嫌です♪」

『……』


 『空気読め!』と味方以外から無言の圧力が来ましたが気にしません。

 え、許す・許さないって被害者が自由に選択できるよね?

 許すわけ無いじゃありませんか、逃げるなんて!


「ミヅキ殿、貴女に言っているわけでは……」


 ないのですが、と顔を引き攣らせながら続けようとした言葉は守護役どもに阻まれた。


「この場の決定権は彼女にありますよ?」

「ミヅキが許すというなら仕方ないだろうな」

「我々だけでなくルドルフ様も宰相もミヅキには甘いですからね……」


 『重要なのは彼女です』と暗に言い切る彼等にグランキン子爵は歯軋りせんばかりだ。

 嘘は言っていないが事実でも無い。元から共犯者の上、魔王様の命令なので許すという選択肢は無いのだ。

 それに。

 この場は私がグランキン子爵に敵認定されることが目的なのです、ちくちくちくちく甚振ってやろう。

 つーか、グランキン子爵よ……自国の王子様の性格くらい把握しとけ?

 守護役達は御丁寧にも魔王様だけ省いたじゃないか、今。


 つまり私が許しても国からのお仕置きはなくならないよ、ということ。今この場で私が許しても魔王様の決定には逆らえませんから!


 安堵させておいてデビュタント後に一気にくるわけですね? えげつないですよ、魔王様。

 逃げ道の先は檻の中。追い立ててるのは私ですが。


「呼ばれもしないのに嫌がらせする為に押しかけた挙句、全ての物に嫌味全開な人を野放しになんてできる筈ありませんよ」

「私達はクリスティーナの誕生祝に」

「招待されていなかったのに無理矢理ねじ込んだんですよね? あと、祝いの言葉なんて一言も口にしてないじゃないですか」

「ぐ……そんなことは」

「言ってませんよね、門からずっと張り付いていたのに耳にしませんでしたから! ああ、それからアメリア嬢がパートナー略奪を楽しみにしていた事も聞いていました。本当に最低!」


 『最低!』のところは良い笑顔で言うのがポイントです。ほれ、何とか言え! 

 

「貴女も相当性格が悪いようですな……!」

「あら、性根の腐った生き物に好意的な態度で接する必要があるかしら?」

「どんな事情があろうとも、もう少し可愛げがあった方がよいでしょうな!」

「世界を違えてさえ揺るがぬ鬼畜評価の私に一体何を期待してるんだ、お前は」

「は……? 鬼畜……?」

 

 いかん、つい本音が。


「ミヅキは変わる必要なんてありませんよ。そもそも何故貴方に合わせなければいけないのでしょう?」


 腹黒鬼畜な将軍様が無害そうな笑みを浮かべて言うとグランキン子爵はあっさり黙った。

 将軍というだけでなくクレストの者という認識が勝った模様。権力に弱いようです。

 セイルには堂々と『鬼畜のままでいてくださいね』と言われたように聞こえるけどな。


 それにしても。

 ……この程度でアル達が動けなかっただと? どうも腑に落ちない。

 小賢しさはあっても権力行使すればあっさり撃沈するだろう。だとすると考えられる可能性は一つ。

 ――こいつの背後に誰か居る。公爵『子息』では強行できない立場の人が。


 まあ、今は気にしても仕方ない。怒らせるだけ怒らせておくか。

 私にはデビュタント時の余興として生贄を献上する役目があるのです、ここで潰す事は出来ません。

 だから手っ取り早く泣いてもらってこの場から去って貰おうと思います! 

 赤毛の謎も気になるし。……いや、気になるんだよ。実力者の国だから特に。

 

「そうそう、貴方がディーボルト子爵家を異様に敵視する理由がありましたよねぇ? 元伯爵令嬢にしてディーボルト子爵夫人のアリエル様。彼女が原因だそうじゃないですか」

「な……何を……」


 明らかに顔色が変わったグランキン子爵は夫人を気にしているようだ。夫人も怪訝そうに夫を見ている。

 おや? 夫人や娘は知らなかったのかな?

 そうか、そうか、じゃあ是非とも暴露してあげよう! 素敵な愛の物語だぞ?


「引く手数多のアリエル様はディーボルト子爵を選んで恋愛結婚したとか。貴方は全く相手にされないどころか嫌われていたそうですね。……負け犬どころか選考外なんて無様ですね」


 ざくっ! という音が聞こえたような気がしたけど気の所為です。


「御存知でしたか? アリエル様はとても人気のある方だけあって『下心のある人』には絶対近づかなかったそうですよ。そりゃあ、伯爵家の後ろ盾狙いの顔も頭も性格も悪い男なんて選びませんよね!」


 ……さらに『ざくざく』聞こえたような? 幻聴ですよね、幻聴(棒読み) 

 グランキン子爵、人の口に戸は立てられぬものなのです。奥方どころか奥方の実家にも伝わると思った方がいいですよ?

 少なくとも白黒騎士達は知っています。噂をばら撒く手際も素晴らしいと思います。

 私に抜かりはありません。手加減も遠慮も無いです。


「そのとおりですが手厳しいですね、ミヅキは。我々も気をつけねば」

「あら、選ぶのは男性だけじゃないわよ? 女にだって選ぶ権利があるもの」

「そうだな、政略結婚でも無い限り拒絶はするだろう」

「そ、そんなこと、は……」


 アルとクラウスもグランキン子爵のダメージを労わることなく、更に突き落とす。グランキン子爵に対する評価も否定していないあたりが素敵。

 公爵子息が納得してる以上、きっぱり否定できないよね。ひたすら耐えろ。


「黒い噂が絶えず功績がなければ爵位剥奪の泥舟なんて乗りませんよね! だって……」


 ちら、と顔面蒼白のグランキン子爵に視線を向け。

 冷や汗をかいているグランキン子爵は顔色を変えつつも私の視線に気付き睨みつけてきた。

 はっは、随分と余裕が無いようで。今夜は夫婦喧嘩勃発ですか? 楽しそうですね。


「魅力的な縁談ならアリエル様が断った時点で名乗りを上げる人が絶対いるもの。いくら財力があっても御免ですよ」

「き……貴様は! どこまで私を馬鹿にすれば気が済む!?」

「え、そんなことないですよ? 奥方の愛は素晴らしいと賞賛してます。そんな人に嫁ぐなんて愛がなければできませんよね?」

「……!」


 ふふ、反論できまい? 

 さあ! 自分を選んで反論するか? それとも奥方を立てて頷くか?

 後の無い子爵にとって奥方の実家は簡単に蔑ろにはできなかろう。

 どちらにしても『グランキン子爵家』の評判は変わらないから気にすんな? 最低より下は存在しない!


「……そのお話は一体何処でお聞きになられたの?」


 顔色をなくした夫人が静かな声で尋ねてくる。おや、『異世界人の小娘』扱いだった筈なのに言葉遣いが変わっています。

 私に対する敵意を忘れている所を見ると彼女も色々と余裕が無いらしい。

 そっかー、確かに気になるよね。勿論、教えてあげますとも!


「ブロンデル公爵夫人ですよ。アリエル様の親友の」

「そ……そう」


 情報元は公爵夫人。嘘吐き呼ばわりできませんねー、これは。

 まあ、調べれば判ることだしね? 隠してる様子も無かったから知ってる人は多いんじゃないのかな?

 ……ということをついでに教えてみたら完全に沈黙なさいました。トドメになってしまったようです。


「夫婦喧嘩は壮絶かな♪」

「いいのか、あの程度で」

「逃げられても困るし、この騒動を面白おかしく話せばルドルフは許してくれると思うよ? 国に迷惑が掛からないようにしなきゃね?」


 国に対する報告というより限りなく娯楽方向で受け取られることだろう。

 宰相様あたりは私達の玩具と化した事を哀れむかもしれない。 




 ――その後。


「今夜はこれで失礼させてもらう」

 

 と悔しそうに言い放ち、グランキン子爵達は帰っていった。

 去り際に「覚えていろ小娘……!」と呟いていたのでめでたく敵認定されたみたい。

 捨て台詞まで『お約束』ですよ! どこまで悪役街道突っ走ってくれるか大変楽しみです。


 またねー! グランキン子爵。裏工作頑張ってねー、こっちもやるから。


 なお、アメリア嬢はまだ未練がましく守護役に視線を送り、それ以上に私を睨み付ける事も忘れなかったので彼女も仕掛けてくる可能性がありそうだ。

 構わないけど次は泣くどころじゃ済まないんだけどな?



 そんな感じで悪役御一行は退場していった。勿論、アンディもだ。

 ちらちらと未練がましく見てくるから


「貴方はそちら側の人でしょう?」


 と言い切ってやった。反論は認めん。

 寧ろ近衛騎士としても認めたくないので追い討ちとして馴染みの近衛騎士達に伝えておこうと思います。

 近衛騎士の在り方を憂う故の行動であって告げ口じゃありませんとも、ええ。 



きっとこの後、家族会議。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ