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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ほのぼの(?)イルフェナ編

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小話集35

小話其の一『カエル様と子猫に関わる人々』(カエル様視点)


 ある雨の日、小さな黒猫が保護された。

 まだまだ親の庇護が必要な頃だというのに、一匹だけでずぶ濡れになりながら歩いて来たという。

 おそらくだが……親に『育たない』と判断されたか、それともはぐれてしまったか。

 ああ、親や兄弟達が駆除されてしまったという可能性もあるね。もしくは生まれた子猫だけが捨てられたか。

 どちらにしろ、この子は一人では生きていけなかったに違いない。ここに辿り着いたことは幸運だったと言えるだろう。

 そもそも、保護された当初、この子の体は冷え切っていて……いくら騎士達が体を拭いてやったとしても、生き存えたかは判らない。


 この子猫が助かったのは、ここにミヅキが居たからだ。


『ちょ、この子、体が冷え切ってる! とりあえずお湯で体を温めてから魔法で乾かそう!』


 ……ミヅキの居た世界では、こういった猫の保護をしてくれている人達が居るらしい。

 ある程度の期間を世話し、人慣れをさせて、きちんと飼ってくれる人の下へと送り出すという。


『本当は保護した直後に洗ったりしないんだけど、ここまで濡れているなら、体を温めて体温を戻すようにした方がいいよ。まあ、魔法があるからすぐに乾かせるし、温めることも可能だから大丈夫でしょう』


『ミルクをそのまま飲ませるとお腹を壊すこともあるから、とりあえず薄めて温めたものを少しずつ飲ませて様子見だね』


 そう言いながらも、ミヅキは手際よく動いてくれた。対して、騎士達は小さな子猫の扱いなんて知らなかったらしく、ミヅキの指示に従うばかり。

 ……。


 大丈夫かな、この子猫。


 騎士達は優しいし、そこそこ面倒見も良いだろう。ただ、問題は『猫を飼った経験がある者が居ない』ということだった。

 私とて子猫を育てた経験なんてないが、少なくとも、騎士達が業務の片手間に子猫の面倒を見るよりはマシな気がする。

 と、言うか。

 ミヅキの話を聞く限り、人が猫を飼う場合は意外と気を付けなければならないことが多いようだ。

 特に食べ物に関しては徹底している。いくら食べたがっても、玉ねぎが入っているものは厳禁だとか。


『ミヅキ、君が知っている猫の飼い方……特に食事なんかのことを書き記しておいてくれないかな? この世界ではそこまで猫に気を使わないから、そういったものがある方が良いと思う』

「いいよー♪ お猫様用のご飯のレシピも幾つか書いておくね!」

『え゛』

「大丈夫、大丈夫! 基本的に調味料無し・食べちゃいけない食材無しっていう感じだから」


 まさかそんなものまであるとは思わず、呆気に取られるも……ミヅキの様子に、それが事実なのだと知る。

 ……どうやら、ミヅキの世界の生き物達は大事にされているらしい。

 勿論、全ての子達がそういった扱いを受けられるなんて思っていない。一握りの、運が良い子達だとは思う。

 けれど、大切に慈しんでくれる人達が居るということは事実。それが喜ばしい。

 その後、ミヅキは本当に色々と書いてくれたため、『猫の飼い方』とタイトルがついたそれは結構な量になった。

 ……が。

 それを見た時、私はとても不安になった。


 ここの騎士達は善良だし、子猫を可愛がってくれている。

 しかし、これらを実行する余裕があるのか……?


 彼らの本分は王族達を守ることだろう。そして、敵とも言える者達――情けないことに、この国の貴族達だ――はまだまだ抗う気満々だ。

 ……。

 ……。

 仕方ない、私がこの子を守ろう。賢そうな子だし、禁止事項を教え込めば、うっかり人間側がポカをやらかしたとしても、自衛くらいできるだろう。

 ああ、どうせならば王女達も巻き込もうか。特に、勉強を始めたばかりのリリアンには癒しが必要だ。ティルシアや国王だって忙しいと聞くし。

 それに。

 ミヅキの渾名は『魔王殿下の黒猫』……そう、『黒猫』だ。

 いっそのこと、子猫をミヅキの使い魔と誤解させてはどうだろうか。きちんと教え込めば、諜報活動くらいできそうだ。

 もっとも、そのための魔道具はミヅキ頼みになってしまうけど……ミヅキも子猫を可愛がっているし、国王一家に味方ができるのは喜ばしいだろう。

 そう考えた私は早速、たまたま地下牢に来ていたティルシアに提案した。


「あら、面白そうね」

『そうだろう? あの子猫だって役に立……』

「子猫を愛でるリリアン! いいじゃない、とても愛らしいわ……!」

『え゛』


 ……どうやら、ティルシアは別のことがお気に召したらしい。

 ま、まあ、王女達の癒しにもなれそうだし、問題はないだろう。

 そう、たとえ目の前のティルシアが自分の妄想にうっとりしていようと!

 それを見た騎士達が生温かい視線を向けるどころか、『確かに、姫様達にも癒しが必要だよな』と微笑ましく見守りつつ納得していようとも!

 問題はない。多分……そう、問題はないのだ。異様に思うのが敵連中だけだから、何の問題もない。ミヅキだってスルーするに違いないし!


 ――その後、私の計画はめでたく実行され、子猫は王城で飼われることとなった。


『いいかい、君はミヅキの使い魔のように振る舞うんだよ』

『はぁい』


 素直で賢い子なので、あっという間に『子猫は魔導師の使い魔ではないか?』という噂が流れるようになった。

 その噂が流れるよう画策したのはティルシアだけど、子猫の現状を見る限り、大差ないだろう。

 なお、その『使い魔説』の信憑性に一役買ったのが私だったりする。

 ……。

 うん、まあ、確かに、あの子猫の躾その他は私が担当していたっけね……。


※※※※※※※※


小話其の二『灰色猫からの招待』(ミヅキ視点)


 ――サロヴァーラ王城・ミヅキの部屋にて


「はぁ? シュアンゼ殿下から手紙が来た?」

「そうなの。はい、これよ」


 ティルシアから手渡されたそれを受け取りつつ、私は訝しげに見つめた。

 対して、ティルシアは楽しそうにしている。何か面白そうなことがあるとでも言わんばかりだ。

 本日、私は貰った部屋にてティルシアとお茶を飲んでいた。護衛としてヴァイスがいるけれど、正直、この部屋では必要ないと思う。


 だって、ここは王族達が逃げ込めるようにしてある場所だもの。


 私はこの国の貴族達は全く! これっぽっちも! 信用していないため、実力行使するアホが出ても仕方がないと思っている。

 普通に考えたら、そんな意味のないことはしない。その後が続かないからだ。

 なにせ、サロヴァーラは数か国に監視されているような状況。しかも、介入した国々は『現王家を支持する』と表明している。

 これで下克上なんて遣らかそうものなら、速攻で鎮圧&処刑というコースが待っているだろう。約束されし破滅への道なのだ。

 ……が。

 この国は貴族が王族を嘗めていた時間が長かったため、現状に不満を抱く連中が数多くいる。

 その状況こそがおかしいのだと気付ける者達はともかく、生まれてからずっとそういった認識が当たり前だった者達からすれば、『おかしいのは現状』なのだ。


 これを聞いた時、私は思った……『破滅コースを用意しておいて良かった♪』と!


 私の策は長期的とはいえ、貴族の力と財力をゴリゴリ削ぐものであるため、時間が経てば経つほどこちらに有利になる仕様だ。

 しかも、各国の間者が間違いなく各所に放たれているため、迂闊に行動しようとした矢先に潰される可能性・大。

 そういったことに気が付く聡い者は少しでも家が存える道を探しているだろうし、表立って王家に仕掛けようとは思うまい。

 しかし、そんなことも理解できないお馬鹿さんは元気いっぱいに王家と対立してくれるので、こちらも『おっけー♡ 君達、要らないね!』となるわけだ。


 自ら王家の敵だと主張してどうする、お馬鹿。

 他国でも味方に付けない限り、お前らに勝ちはないんだってば!


 なお、奴らの味方をする国がないことも付け加えておこう。理由は簡単、介入国の存在と私による報復が怖いからだ。

 勿論、いきなりではない。事前に各国へと『サロヴァーラ王家の味方するね! 女狐様とは超仲良しだから! って言うか、クソ貴族ども嫌い。奴らに味方したら、覚えておけ』(意訳)と通達済み。

 サロヴァーラで何があったか知っている人達はとても納得してくれましたとも……『そういや、まだ報復してなかったね』って。


 売られた喧嘩は、相手が遣り返す気力をなくすまで!

 手を止めているのは、王家に実績をもたらしたいからさ。


 ……そんなわけで。

 現在、国王一家&王家派は頑張っているわけですよ。それでもまだまだ敵の数が多いことは事実なので、ティルシアが作ってくれた私の部屋が安全地帯となっていた。

 ……正直、入り込んだ方が地獄を見ると思うんだ。

 限られた人以外は入れないようにしてあるけれど、魔法の解除をされれば侵入できてしまう。

 しかし、次に待つのは黒騎士製魔道具&私によるトラップ各種。しかも完全にランダムなので、侵入者がどんな目に遭うかは判らない。

 余談だが、今は私が居るため、限定的にエ〇リアンの世界を楽しめる夢が見られる仕様にしていたり。

 元の世界では大人気のクリーチャーなので、頑張って侵入したご褒美とばかりに楽しんでもらえると確信している。

 なに、この世界だって巨大化した魔物が出ることもあるじゃないか。似たようなものでしょ、多分。


「わざわざ王家の紋章付き封筒……」

「仕方ないんじゃないかしら? ミヅキがこちらに居ることは聞いても、直通で手紙を送れる転移法陣なんて用意してないでしょう?」

「あ~……そうなると王家経由が確実なのか」


 なるほど、確かに仕方がないことではあるらしい。

 しかし、灰色猫よ。……これ、私が『ガニアの王家と繋がりがある』という証明のために、こうしたんじゃなかろうか。多分、ヴァイスも込みで。

 少なくとも、これでサロヴァーラには『ガニア王家から魔導師にお手紙が来た』という事実が出来上がる。ティルシア達とて、私達がシュアンゼ殿下の友人だと認識するだろう。


「さてさて、何が書いてあるのやら……」


 そう言いながら手紙を開けば。


『狡い』


 まず飛び込んできたのはそんな言葉。


『うちにだって玩具は沢山居るのに、サロヴァーラだけで遊ぶことはないじゃないか』


『ヴァイスも当然、そちらに居るだろうし、私だけ仲間外れは寂しいよ?』


『だから、私も君達を招待するね。ああ、ヴァイスの分の手紙はエヴィエニス公爵家に送っておいたから』


『待ってるね!』


 ……。

 ……。

 あの、何をしてやがるんですか、灰色猫……?


「……。シュアンゼ殿下から『うちにおいで♪』っていう招待だった」

「あら……」

「ちなみにヴァイスも。ヴァイスの実家にお手紙が届いてるらしいよ? 多分、私同様にガニア王家の紋章付き」

「は!?」


 ぎょっとするヴァイスに、私は頷くことで肯定を。

 そうなんですよー、シュアンゼ殿下は大人しそうな見た目に反して、こういうことを平気でやらかす人なんですよー。


「あら、ヴァイスもシュアンゼ殿下と親しかったの?」

「は……。先日のイルフェナの一件では話す機会に恵まれまして」

「折角だから友人になって助け合おうぜー! という方向で纏まりました。勿論、私も込みで。まあ、王家派のヴァイスに他国の王族の友人が居るっていうのは良いことなんじゃない?」


 軽く説明すると、ティルシアはそれで理解してくれたらしい。


「なるほど……あくまでもヴァイス個人の友人、というわけね?」

「そう」


 ティルシアは一つ頷くと、ヴァイスに向かって笑顔で告げた。


「これまでずっと休みなしだったでしょう? 折角だから、遊びに行ってらっしゃいな」

「宜しいので?」

「だって、グラント侯爵家に続いて二つの家に調査の手が入ったのよ? 暫くは事情を聞くという名目で貴族牢に入ってもらうし……彼らも素直になるための時間が必要じゃないかしら」


 素直になるための時間=魔導師プロデュースの恐怖タイム。


 つまり、罪人達は怖い思いをしろってことですね!

 何をやったか知らないが、どうやら女狐様の怒りを買っている奴らが捕まった模様。多分、素直に吐いても恐怖タイムはなくなるまい。


「じゃあ、何かあったらここに逃げてきて。転移法陣も用意してあるから、手紙を送るも良し、自分達が逃げても良しだ! 速攻で助けに来るわ」

「判ったわ。リリアンやお父様にも伝えておくわね。……ありがとう」


 そんなわけで、サロヴァーラからガニアに移動することが決定。お供はヴァイスです。

 って言うかね、灰色猫……あんたの手紙に灰色の肉球スタンプが押してあったんですが?

 もしかしなくても、公爵家に届いているらしいヴァイスの方の手紙にも押されてたりするの……?

カエル様が子猫の保護者になるに至った理由。

しかも、共犯者はティルシアでした。可愛いは正義です。

そして主人公&ヴァイスはガニアへ。

灰色猫はお友達を招待したくてたまらなかった模様。

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― 新着の感想 ―
[一言] 肉球スタンプで草 灰色猫と女狐様を引き合わせてみたい
[良い点] は い い ろ ね こw 次回より、灰色猫と友人達のお遊戯開始!正座待機! [気になる点] ヴァイス君のご実家の皆様も、ヴァイス君みたいな人たちなのでしょうか。肝は座ってそう。
[一言] これは呪物の方の黒猫と会わせてやらないといけないやつ……
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