表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ほのぼの(?)イルフェナ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

603/704

罪人の末路 其の三

 ――牢のある一角? にて(クソガキ様視点)


 薄く靄がかかった通路を慎重に進む。先ほど見掛けた影? のようなものに出くわしても嫌だし、見張りの騎士に見つかっても拙い。

 ただ……僕は少しだけ焦り始めていた。恐怖を覚え始めた、と言ってもいいかもしれない。


 ここは本当に城にある一角なのか?


 確か、牢や取り調べを行なう部屋は城の地下にあったはず。

 そう思うも、この状況になる直前の記憶が非常に曖昧で……『僕は本当に、王城に連れて来られたのだろうか?』という疑問が湧くのを止められなかった。

 残念ながら、僕は王城の構造に詳しくはない。けれど、地下牢はそれほど広くはないような気がするのだ。

 先ほどの取調室? を出てから、僕は結構歩いたと思う。それなのに、この通路の終わりが一向に見えてこない。気のせいではなく、絶対におかしい。


 そもそも、室内にこのような靄が発生するのだろうか?


 地下と言っても、室内であることに変わりはないはず。外でもあるまいし、実に不自然だった。

 それに。

 騎士でもない僕が言うのもなんだけど、相変わらず人の気配が全く感じられないのだ。

 少なくとも、今は牢内にグラント家で拘束された者達が居るはずである。

 貴族階級である自分や家族は貴族牢に入れられたとしても、私兵達までそういった扱いを受けることはあるまい。

 それでなくとも、場所柄、監視を担う者達だけは常駐しているはずじゃないか!


 それなのに、誰も居ない。囚われた者どころか、監視役の騎士さえも。


 本当にここは……王城内にある場所、なのか……?


 過ぎる時間の中、不安だけが増していく。何一つ情報がないまま、薄暗い通路を歩くことは……その、思っていたよりも……怖い。

 暗闇でなければ平気だと思っていた。だけど、それは大きな間違いであったと思い知らされる。

 本当に怖いのは『見えないこと』よりも『何が居るか予想がつかないこと』だったのだ。だって、ここは僕の持つ『当たり前のこと』が通用しない。

 ……それでも来た道を戻ることも怖かったから、先へと進むしかないのだけれど。


「部屋に居た方が……良かったのかな」


 つい声に出してしまうのは、僕自身が不安に耐えきれなくなってきたからか。

 音のない世界、薄闇に包まれた静寂の通路――敵と呼べる者の姿すら見えないそれが、こんなに怖いなんて思いもしなかった!


「……ん?」


 人影が見えたような気がして、一瞬、足を止める。

 注意深くそちらを窺い、そろそろと足を進めると、それが壁に備え付けられた大きな鏡だと気が付いた。


「な、なんだ。鏡か……」


 通路はそこから左に折れており、この真っ直ぐな道が永遠に続くものではなかったことに安堵する。

 先ほど見えた人影は僕の姿が鏡に映ったものだったのだろう。靄に遮られていたからはっきりとせず、黒い人影のように見えてしまったようだ。

 そうなると、最初に見た足音がしない人影とて、僕自身が鏡に映っていただけなのかもしれない。それならば、足音がしないことも納得だ。


「ふ、ふん! どうせこんなことだろうと思った」


 現金なもので、怯えていた対象の正体が判った途端、恐怖が薄れていく。

 鏡の前で少しだけ身だしなみを整え、先に進むべく左に折れた通路を曲がり……僕はギクリと足を止めた。そして、強張った顔のまま、ゆっくりと通り過ぎた鏡を振り返る。


 鏡は通路の突き当たりにあった。


 そして、通路は一本道で左に折れている。


 僕はその道を進み、すでに鏡に映ることはない場所まで歩いていた。


 ……だったら。


 だったら、未だに鏡に映り、こちらを向いているように映っているのは『誰』なんだ!?


「う……うわぁぁぁぁぁっ!」


 凍り付いたのは一瞬だった。そう認識するや、僕は叫び声をあげながら全力で走り出していた。

 あれが『誰か』なんて判らない。ただ、鏡に映っていたのが僕自身でないことは確実だった。

 その上、『あれ』は僕が通り過ぎた後の鏡に映っていたのだ。


 つまり、『あれ』は僕の背後に居た。


 叫び声をあげたのはそこに気付いてしまったせいだ。怖いとか、誰かに気付かれるかなんて問題じゃない。

 得体の知れない存在が僕の後ろに居た以上、僕は少しでも『あれ』と距離を置きたかった。あんなのが背後に居るなんて、冗談じゃない!


「はぁっ……っ……な、何なんだよ!」


 息を整えながら、ふと周囲を見回す。真っ直ぐに走って来たし、ずっと一本道だったから、ここは王城内の地下……のはず。

 だけど、周囲はいつの間にか地下ではなくなっていた。いや、実際には地下のままなのかもしれないけれど、冷たい石の壁や床ではなくなり、明るい壁紙が張られた通路になっていたのだ。

 その上、あれほど漂っていた白い靄が綺麗に消えている。そのことが僕をとても安心させた。


「……油断は禁物だ。誰か出てくるかもしれないじゃないか」


 自分に言い聞かせて、ゆっくりと足を進める。先ほどの場所よりも安心できると言っても、ここがどこか判らない以上、危険なことに変わりはないのだから。


「……ん? 絵が飾ってある」


 視界に飛びこんできたのは飾られた絵。その光景に、『そういえば、これまで何も飾られていなかったな』と思い出す。

 通り過ぎた幾つかの扉は開かなかったので、そのまま進んできた。だから、室内には何かあったのかもしれないけれど、こういった物は初めて見る。

 何とはなしに絵を眺めた。間隔を空けて飾られていたのは三枚の異なった絵だ。


 一枚目は貴婦人の絵。一輪の花を持ち、僅かに微笑んでいる。


 二枚目は料理が描かれていた。中央の皿には肉が盛られ、豪華な晩餐と言ったところ。


 三枚目はこちらに向かって祈りを捧げる修道女だろうか。降り注ぐ光が神々しい。


 何の脈略もない三枚の絵。特に珍しくもなく、有名な画家が描いた物でもないだろう。

 その三枚を見ながら足を進め――


「え……」


 全ての絵を確認した後、改めて一枚目の絵を見ながら通り過ぎようとした時、絵の中の貴婦人と『目が合った』。


「な……」


 驚く僕をよそに、絵は其々に姿を変えていった。

 まるで絵の具が流れて下にあった絵が出てきたかのように、先ほどとは違う不気味な絵が姿を現したのだ……!


 一枚目の貴婦人は所々に肉を残した骸骨となって、手にしていた花は枯れ。


 二枚目の晩餐は肉料理が人の首となり、他の皿にもおぞましい血肉が盛ってあり。


 三枚目の修道女は朽ちた廃墟の中、恐ろしい形相でこちらを睨み付け。


「う……うわぁぁぁぁぁぁっ!」


 修道女の視線を感じた途端、僕はその場から駆け出していた。

 本能で感じたのだ……『視線を合わせてはいけない』と。あれは呪われた絵なんだと!

 廊下が明るかろうが、恐ろしいものは恐ろしいのだ。何より、この明るささえ偽物かもしれないじゃないか……あの、一瞬で姿を変えた絵達のように。


「はぁっ……はぁ……」


 必死に走って、走って……やがて、僕は一つの扉が僅かに開いているのを目にした。

 しかも、そこには何人かが居るらしく、話し声のようなものまで聞こえてくる。


「た……助けて……っ!」


 必死にそれだけを口にしながら、室内に体を滑り込ませる。そこに居たのは、二十人ほどの男性貴族達で……突然現れた僕の方へと顔を向けていた。


「おや、どうしました? 私達は会議の途中なのですが……」


 優しげな雰囲気の若い男が、立ち上がったまま尋ねて来る。男は何かの書類を手にしているようだし、席に着いている者達の手にも何枚かの紙があった。

 本当に、何かの会議の途中……なのだろう。失礼なことに、僕はそんな場所へと駆け込んでしまったらしい。


「も、申し訳ありません。僕はグラント侯爵家の者なのですが……」


 そこまで言いかけ……ふと、違和感を覚えた。

 声を掛けてくれた若い男以外、誰も喋っていない。いや、それだけならばともかく、誰もが僕の顔を凝視している……ような。

 そして、不意に気付く。いや、気付いてしまったのだ……その違和感の正体に。


 女性ほどではないが、男性貴族の衣装にも流行がある。色や形といった程度だが、父や兄達を見ていた僕からすると……その、ここにいる人達の衣装はどうにも古臭いような?


「グラント侯爵家……」

「グラント侯爵家か」

「ああ、あの家ね」


 僕が違和感に気付いた途端、人々は僕の顔を凝視したまま話し出す。あまりの異様さに言葉を失っていると、最初に話し掛けてくれた男が無表情のまま、口元を歪めた。


「そう怖がらずに。これから我らの仲間に入るのですから」

「なか……ま?」

「ええ。罪に問われ、罰を受ける。そして、その先は……」

「先、は?」

「……。どうなるのでしょうね?」

「ひ……っ」


 男が僅かに首を傾げた途端、室内の状況が変わっていく。

 人々は骸骨となり、纏っていた服は朽ちてボロボロになって、人によっては黒い染みが浮き上がっていた。

 明るかった室内は暗くなり、朽ちた様を僕の前に晒す。そんな状況なのに、人々は先ほどと同じくその顔を僕に向けていた。


『サア、貴方モ……』

「うわぁぁぁぁぁっ!」


 骨だけの手が僕に差し出される。その手を、差し出した手の持ち主、その眼窩を見た時――僕の意識はぷっつりと途絶えたのだった。


主人公:『ハロウィンの玩具とか、イラストを参考にした』

悪気は全くない。温いお化け屋敷感覚だった。

次話の小話にて舞台裏。

※『平和的ダンジョン生活。』のコミカライズ3巻が発売されてます。

 宜しければ手に取ってみてくださいね♪


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 凪サイドからの平和的ダンジョン生活を見てみたいです。 「N-Star」名義のせいでこちら側で書けない制約があるのなら、凪を主人公にして糞女神(笑)の世界から脱出して地球にたどり着き聖に出会う…
[一言] 和製ホラーは『救いがない』とかよく言われますが、西洋ホラーも大概なところありますよね……(゜A゜;)
[一言] お子様基準……世界が変われば、基準も~ですね。 まあ、どこぞの騎士寮の黒いのや白いのとは基準自体がちょっと違い過ぎる(意訳)やもしれませんが、お仕置きです。お子様の! 実害は、お子様のちょっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ