とある女性達は歓喜する(某作家視点)
――私はとにかく恋愛小説が好きだった。
発端はそんなもの。多くの女性達が憧れる、夢の様なお話達。
主人公の女性は、時に不幸な境遇に健気に立ち向かい、時に毅然とした姿を見せ。
やがて、彼女達の運命に関わった素敵な男性と恋に落ち、幸せな結末を迎えていく。
恋愛要素を多分に含んだ多くの『物語』は、大抵が幸せな結末を迎えていった。まあ、読者が求めるものが『夢のような物語』である以上、そうなるのは仕方がないことなのだろう。
読者が求めるのは現実にあるような物語ではない。
だって、これは娯楽の一つなのだから。
現実的に考えれば、そうそう物語のような幸運が転がっているはずもなく、素敵な男性との出会いがあるわけでもない。
だからこそ、人は物語に憧れるのだろう。
……が。
私は似たような結末を迎える物語に早々に飽きてしまい、様々な系統の物語を読み漁るようになったのだ。
勿論、恋愛ものは好きだ。だが、悲恋で終わるような物語だって良いと思っている。
その結果、私は自分で様々な物語を生み出すことを生業とするようになったのだった。
似たようなことを考える人達は意外と多かったらしく、ありがたいことに私の本は順調に売り上げを伸ばし、作家買いをしてくれる読者さんもいる。
その大半が女性というあたり、やはり『女性作家の本は女性が買うもの』という固定観念が根付いているのだろう。
そのうち、思ったのだ……騎士同士の恋愛ものが書きたい、と。
切っ掛けは賊に襲われた際、助けてもらった時のこと。祭りが行われる町へと向かう馬車が、盗賊達に襲われたのだ。
当時は多くの人が祭りへの興味を示していたから、そこに向かう馬車は盗賊達にとって格好の獲物だったのだろう。
乗り合い馬車に乗っている人達は恐怖に体を固まらせ、自身の運のなさを呪っていたに違いない。
乗っていたのは女性が殆どで……とてもではないが、盗賊達に対抗できるような状況ではなかった。
馬車が止まり、乗っていた者達は馬車の外に引きずり出されてしまった。下卑た盗賊達の顔が、よりいっそうの恐怖を煽る。
――しかし、盗賊達の手が私達に触れることはなかった。
『捕獲しろ!』
そんな声と共に現れたのは、十名程度の騎士達だった。どうやら盗賊の被害を想定した陛下の采配により、街道の各所に控えていたらしい。
御者の姿が見えなかったのは、すぐ近くに居るであろう騎士達を呼びに行ってくれていたのか。
私達を守る結界は騎士の誰かが張ってくれたものなのだろう。目の前で繰り広げられる戦いは恐ろしいけれど、先ほどのような絶望感はない。
何より、私達にできることは大人しくしていることのみ。自然と、私の目は息の合った連携で盗賊を捕獲していく騎士達の姿に魅せられていく。
……そして。
『素敵……』
そのような状況にありながら私は……互いを庇い合いながら戦う騎士達の姿にときめいたのである……!
もっとも、私のときめきは『騎士様が素敵』とか『騎士様と恋仲になりたい』といったものではなかった。
男同士の友情……いいじゃない。
男性のみがなれる騎士という職業、その命がけの任務の中で生まれる尊い絆(意訳)……!
そこからは私の脳内はそれ一色に染まった。命の危機ではなく、騎士達の動向に否応なく私の胸は高まった。
しかも、その妄想をついつい口に出していたらしく、隣にいた女性が話しかけてきた時はどう誤魔化そうかと内心、焦ったものだ。
……が。
ここで予想外の事態が起きた。
『あ、あの、えっと……わ、私も同じことを考えていて……』
『え!?』
天 は 私 に 味 方 し た 。
聞けば、女性は本の挿絵なども手掛ける画家らしい。そして、この素晴らしい出来事――あくまでも私達にとって、だが――に、私と同じような興奮が止まらなかったとのこと。
元から恋愛は個人の自由と思っている彼女ではあったが、私が無自覚に垂れ流す妄想に、同志だと確信したのだという。
そこで、思い切って声を掛けてみた、と!
――まさに運命の出会いである。
そこからは彼女と二人、こそこそと妄想を語り合った。なにせ、妄想の供給源が目の前に居るのだ。弾む会話は止まらない。
なお、端からは怯えて体を寄せ合っていたように見えたらしく、後で騎士達に心配されたりした。
そんな彼らの優しさに、そっと視線を逸らしつつ、心の底では多大なる感謝を述べたのは余談であろう。
その後、私と彼女は仲良く祭りを見て回り、夜は同じ宿の部屋で妄想を語り合い、帰る頃にはすっかり親友と化していた。
疲労と寝不足で疲れていたが、私達は最高の気分だった。今なら、あの時の盗賊に感謝すら言えるだろう。
意外と近くに住んでいたこともあり、一緒に本を出そうという話になったのも当然のことだった。ただ、さすがに反応が怖かったため、名前だけはこれまでと違うものにしたが。
その本が予想以上に売れたことに勇気を得、ありがたくもその一冊はシリーズ化が決定。素晴らしい相棒を得たものである。
なお、彼女は職業柄ちょっとした伝手があり、騎士達の鍛錬風景を描くことが許されていたらしい。
そこに私も同行させてもらい、職業を明かした上で、取材――嘘は言っていない――をさせてもらったりした。
女性向けの本をそれなりに出していたことが幸いし、特に問題ないと判断された模様。快く応じてくれた騎士達には感謝の念しかない。
――その後。
色々とあった果てに、異世界人の魔導師という吃驚な人脈が出来たりした。
私達を驚かせたのは、彼女の世界にある娯楽の豊富さ。特に、同性同士の恋愛ものが多く存在することを聞いた時は、二人とも本気で悔しがったりした。
ただ、彼女――ミヅキちゃんから『下手にモデルにすると不敬罪になるかも』と教えてもらったのは良いことだったと思う。
私達はあくまでも娯楽として楽しみたいのであって、犯罪者になる気はないからだ。
あと、『私の知り合い連中をモデルにするのは止めてね♪ 顔は良くても、ヤバイ奴か不敬罪確定なのが多数だから♡』と言われてしまったので、モデルにする場合は事前に聞くことにした。
ほんのり教えてもらった裏話から、私達には想像できないような部分があると、嫌でも察してしまったせいでもある。
――そんな彼女から、つい先日お手紙が。
『罰の一環として、実名掲載可のモデル達が居るんだけど、どう? 顔は添付した魔道具の映像を見て♪』
相棒と二人してその映像を見た後、私達は……現在、ミヅキちゃんが居る方向を拝んだ。
何という素晴らしい贈り物をしてくれたのだ。彼らは現在、構想を練っている新シリーズの登場人物達のイメージにぴったりではないか……!
しかも、取材など(意訳)をミヅキちゃんが手伝ってくれるという。その上、滞在費は無料。私達は処罰を受けさせるための協力者という扱いらしい。
至れり尽くせりである。あの子、女神じゃなかろうか。
ここまでしてくれた以上、その期待には応えなければ……!
私は即座に思い浮かんだ場面を書き出し、相棒は真新しいスケッチブックと筆記用具を準備。いつお誘いが来てもすぐに行けるよう、準備は万端である。
ああ、どこの誰だか知らないけれど、処罰を受けるようなことをしてくれてありがとう……!
※※※※※※※※
――一方、その頃、キヴェラ某所では。
「え……これ、マジ!?」
某魔導師に玩具扱いされる騎士――サイラスが送られてきた手紙に目を通し、喜びに目を輝かせていた。
差出人は魔導師ミヅキ。そこには幾つかの連絡事項が綴られていた。
『例の本の作家達を見付けたよ! 私の知り合い連中はモデルにしないと約束させました!』
『モデルにする人がいる場合は私が一度精査するから、確実です』
『近いうちに処罰の一環として生贄が献上される予定なので、キヴェラの騎士達は当分大丈夫じゃね?』
意訳するとこんな感じ。一言で言うと『サイラス君の憂いは(とりあえず)晴れたよ!』である。
内容が内容だけに大っぴらに動くことができず、また相談もできなかったサイラスとしては、十分過ぎる朗報であった。
生贄の存在? そんなことを気にしてはいけない。
人の不幸は蜜の味。見知らぬ他人よりも己と身内が優先、当たり前。
「ありがとう、魔導師殿! いつもろくでもないことばっかりしてるが、あんたは自分で言ったことは必ず遣り遂げるもんな! 今夜は美味い酒が飲めそうだ!」
命の危機といった様々な興奮を間違った方向に振り切った約二名。
その結果が、サイラスを怯えさせたBでLな本。
私兵達は命の危機に陥ることなく、がっつり罰を受けます。
そして、本が出た後はモデル料として一冊ずつ進呈。
間違いなく、普通に処罰された方がマシだった。
※読者様に素敵なお花とお菓子を頂いてしまいました……!
ここをご覧になっているか不明ですが、ありがとうございます!




