魔導師、お友達の所に遊びに行く 其の五
さて、私兵の皆さんの末路(笑)が決定した。彼らの未来を想うと、涙で前が見えませんね……! 笑い過ぎて涙が出てくるだけ、だけど。
勿論、サロヴァーラ王達の許可は取るけれど……これって『謀反に加担した罪人扱いされないどころか、命を失う危険もない処罰』なのよね。
だから、ティルシアだけに処罰内容を詳しく説明すれば、特に問題ないとされるだろう。
サロヴァーラ王とリリアンは善良である。
ただし、その善良さが奴らに吉と出るかは判らない。
『無罪放免ではないけれど、本人達がとっても嫌がること(意訳)をしますよ』ってだけだからね、これ。
『命の危険はない』ってことは事実なので嘘は言っていないし、酷い怪我を負うとか、重罰を背負わされるというわけでもない。
ただ只管に、本人達が精神的に大ダメージを負うだけである。
肉体的にはほぼ無傷なので、リリアン達も文句を言うまい。なに、真実は女狐様だけが知っていればいいのだよ。
『仕事としてグラント侯爵に雇われただけ』――グラント侯爵の私兵連中は間違いなくそう主張してくるだろう。
騎士団としても、こう言われると罪の取り扱いが難しいため、ろくなことができずに終わると推測。
そこで『それでもグラント侯爵に加担した』と言おうものなら、傭兵が請け負う全ての仕事に制限を設けなければならなくなり。
かと言って野放しにすれば、『雇われただけなら、犯罪行為も罪に問われない』と明言することになる。
私兵連中が妙~に落ち着いていると言うか、物分かりが良い対応をしたのって、多分、これが理由でしょ。
王家への反逆に該当する行動を起こしていない以上、騎士達も罪に問えないと知っていたからだろう。
……が、しかし。
今回は私がとても! 素敵(意訳)な! 人脈を得ていたことが災いした。
……ええ、罪に問うわけじゃないし、流血沙汰にもなりませんとも。第一、私にはそういった権限なんてないしね!
そう、権限『は』ないの。ただ、女狐様ととても仲良しであり、女狐様も私の遣ることを広い心で見逃してくれるだけでな。
ああ、事実を知った時の私兵どもの絶望した姿が目に浮かぶよう。多分、それらもしっかり資料として提供され、後に作者様達のお役に立つだろうけど。
勿論、作者様達が『他の表情も見たい♡』とか言い出そうものなら、全力で協力する所存です。
そして、私兵達が餌食になった……じゃない、極一部の人々の心を満たす本ができた暁には、一人一冊ずつプレゼントしてやろう。
読み進めるうちにどんな反応をするか見るのも楽し……いやいや、興味深いじゃないか。
そんなことを考えていると、屋敷の中が騒がしくなった。
騒がしくなったと言うか……騒いでいる奴が居ると言った方が正しい。しかも、声からして子供だろうな。
「おい! 放せよ!」
グラント侯爵家の人間が騎士達に拘束された中、一際騒いでいるのは十歳くらいの男の子。
家令を含めた使用人も含めた大人達はさすがに状況が理解できているらしく、顔面蒼白で騒ぐ元気もないようだ。
ちらちらと心配そうに男の子へと視線を向けているのは、この子の母親だろうか。
さすがにこの年でグラント侯爵の悪事(?)に関わっていたとは思えないから、その視線も『口を滑らせたら困るから』という理由ではあるまい。
と、なると。
こいつは本当~に空気が読めないお子様なのだろう。甘やかされて育てられたから、拘束されるという事実に苛立っているのかもしれない。
「僕はグラント侯爵家の人間だぞ! お前達騎士なんて、すぐに痛い目を見せてやる!」
……。
口が悪い、というよりただのクソガキかい。それも、選民意識をバッチリ植え付けられていると見た。
騎士達も抑え込むのは問題ないけど、子供相手だからこそ力加減をせねばならず、扱いに困っているらしい。
……そうは言っても、この屋敷に残していくという選択肢はないのだが。
大人達……と言うか、ここで暮らしていた人間はもれなく取り調べのため王城へとドナドナされるし、屋敷もこれから徹底的に家宅捜査されるだろうからね。
「おい! 聞いているのか! 騎士如きが……っ!」
……。
……。
ク ソ ガ キ に は 躾 が 必 要 だ よ ね ?
私は徐に、クソガキ様の前に転移する。はは、ご立派な御身分らしいし、『様』をつけてやろうじゃないか。感謝したまえ。
「煩いわね」
「な……お前、どこから……っ」
「頭の足りないクソガキは黙ってなさいよ。馬鹿さ加減がバレるだけでしょ」
「な!?」
私の呆れた表情と言葉に、クソガキ様は絶句した。おや。静かになったじゃないか。できるなら、最初からやらんかい。
「誰がクソガキだ!」
「あんた以外の誰が居る」
「そ、それも、馬鹿さ加減って……!」
「状況が理解できていない・場の空気に沿った言動ができない・偉くもないのに、偉そうな態度を取る道化……ね? どこをどう取っても『クソガキ』で十分じゃない」
――でも、そこまで言うなら、『様』くらい付けてあげるわ。泣いて喜べ。
そこまで言うと、さすがに黙っていられなくなったのだろう。元から沸点の低いクソガキ様ではあったが、私を完全に敵認定したらしかった。
「煩い……煩い! 煩い!」
「お前が一番煩い。喋るなら、もっと意味がある言葉を話せ」
「喧しい! 魔術師なんて、所詮は研究しか頭にない連中じゃないか。研究資金欲しさに貴族に雇われ、使われる存在だろ!」
「その魔術師に縋ってくるのがあんた達みたいな貴族」
「……っ、だ、だけど、雇い主の方が偉いに決まってる!」
幼さゆえなのか、それとも親達がそういったことを教えたのかは判らないが、クソガキ様はかなり傲慢にできている模様。
ただ、自分で考えたことというより、人に教えられたことを反論に使っている印象だ。だから、今回みたいに即座に突っ込まれると、反論が難しいのかもしれない。
……。
こ の ク ソ ガ キ 様 、 使 え る な 。
私は内心、ほくそ笑む。サロヴァーラ王家を甘く見ていたグラント侯爵はやらかしてくれたが、今回のことは他の貴族達への良い見せしめになるだろう。
それも……『とんでもなく効果のある見せしめ』に!
「侯爵ならともかく、その息子ってだけの奴に何の価値もないでしょ。第一、グラント侯爵家には王家への反逆容疑が浮上している」
ここまでは本当。この子が何番目の子かは知らないが、甘やかされた末っ子のような印象は拭えない。
だからこそ、無条件に自分を偉いと思い込んでいるこの子なら……きっと、私の話に乗ってくるはずだ。
「そんなはずはない! 使用人達は僕の言うことを聞くし、下級貴族の奴らだって機嫌を取ってくるじゃないか!」
「それ、『侯爵家に対して』の態度。あんたに対して、じゃない。あと、使用人が雇い主の家族を粗末に扱うはずないでしょう? 首になっちゃうじゃない」
『馬鹿じゃねーの?』と言わんばかりに肩を竦めた私に、クソガキ様は怒りが頂点に達したらしく、私が待ち望んだことを口にした。
「僕達は王家なんかよりもずっと偉いんだ! あんなお飾りの連中なんかに、何の価値があるって言うんだよ!? ……っ!?」
「不敬罪ね」
言いつつ、表情を消してクソガキ様の胸倉を掴む。
「王家より偉い? はっ、馬鹿じゃないの。王家はどんな国でも特別なんだよ。その対象が幼い王女だろうとも、無礼は許されないの。価値がないのはお前の方」
「ひ……っ」
「お飾り? ……そうね、状況によっては王家も無視できないほど力のある貴族だっているでしょう。だけど……『お前如きに見下される謂れはない』」
――不敬罪さえ判らないクズが!
言いながら平手を見舞い、突然の痛みに目を白黒させたクソガキ様に足を引っかけて転ばせ、その体を磔にするかのように氷片を出現させる。
ひやりとした冷気と、鋭い氷片が髪の一部を散らしたことによって恐怖が沸き上がったのか、クソガキ様は先ほどまでの態度が嘘のように大人しくなり、震え始めた。
「あ……あ、あ……」
「まったく、グラント侯爵家ってのはろくでもない家ねぇ! こんな子供にさえ、反逆の英才教育を施すなんて! ……これまでは『罪人の子供』という扱いだったけど、今からは『お前自身が罪人』だ。覚悟しなさい」
「あ、貴女は子供に手加減をしないのですかっ!」
クソガキ様が真っ青な顔で黙ったと思ったら、今度は先ほどの母親らしい女性が騒ぎ出す。
勿論、しっかり反論して叩き潰してあげるとも。
「する必要がない。第一、この子を罪人にしたのは『周囲の大人達』でしょう? 何を正論かましている気でいるのよ、『あんた達がまともな教育を施していたら、こうはならなかった』のに」
「あ……そ、そんなつもりは……」
急に勢いがなくなる女性に、私は更に畳みかけた。
「責任逃れ? それともこの子に『お前達のせいで!』って言われたくない? でも、残念! これまでの遣り取りは騎士達だって聞いているし、私は魔道具に記録してもいる。これを聞いた他国の王達はきっと、こう思うでしょうね……『サロヴァーラの貴族達の更生は無理か』ってね!」
「あ……!」
漸くその可能性に思い至ったのか、女性は完全に言葉を失った。
「だいたい、サロヴァーラの改革に他国が関わったのは、ほんの少し前じゃない。それすら頭から綺麗に抜け落ち、子供に取り繕うことさえも教えないなんて……これ、『変わる気がない』ってことでしょ」
胸の内がどうであれ、グラント侯爵家は表面上、取り繕うべきだったのだ。勿論、そこにはクソガキ様への教育も含まれる。
ただ、後者はとても難しいだろう。これまで王家よりも自分達の方が優れていると思い込んでいた子供が、その考えを即座に変えたり、取り繕ったりするのは至難の業だ。
それでも徹底しなければならないことだった。それが出来なかったから……私にあっさり言質を取られたりするのだ。
だって、クソガキ様だって侯爵家の人間だもの。
子供がこうなら、他国の皆様だって更生を期待すまい。
「貴女達が口を滑らせなくても、先日の一件からの言動と『素直な子供』の言葉によって、更生する気があるか、否かは判断できる。……ねぇ、これで誰が『今後は変わる』なんて思うわけ?」
女性も、クソガキ様も、青褪めたまま言葉がない。二人は今、自分が仕出かしたことを漸く理解したのかもしれなかった。
「まあ、今後は他の貴族達を見る目はより厳しくなるでしょうね」
そういった意味では良い仕事をしました、クソガキ様。
王城で凍り付いている間に、グラント侯爵家は最悪の展開に。
勿論、主人公は子供だろうと容赦しません。
反省できるなら、年齢関係なく評価します。
※これまでの限定SS(一部)がファミマプリントにて購入可能です。
詳しくは活動報告をご覧ください。
また、10周年記念フェアが展開中です。




