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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ほのぼの(?)イルフェナ編

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とある長男の苦労 其の二 (騎士団長夫妻の長男視点)

『長男の思い出・婚約者との顔合わせ』


 ――時は暫し、遡る。


 婚約者となるはずの令嬢との顔合わせ。それは私にとって、とても気が重いものだった。

 何せ、我が家は私以外が騎士であり、両親達の立場ゆえか命を狙われることも度々起こるのだ。

 そんな物騒な場所に嫁いでくるだけでも気の毒なのに、義母となる人物は王妃様付きの騎士……正直、普通の母娘のように、ドレスや装飾品の話で盛り上がる可能性は低い。

 普通の令嬢ならば恐怖に慄き、これまでとはあまりにも違う環境ゆえに孤独感を募らせること請け合いである。

 いくら女性騎士だといっても、目の前の彼女は兄達に溺愛された末っ子と聞いている。この縁談とて、壮絶な反対にあっただろうことは予想に難くない。

 今とて、両親は急な仕事で呼び出されている始末である。私が最初に彼らと交わした言葉は、自己紹介と両親不在に対する謝罪だった。


「こう言っては何ですが、我が家に嫁がれることに不安はありませんか?」


 聞けば、彼女の両親は揃って肩を跳ねさせた。その反応に、私は内心、溜息を吐く。

 ああ、そうだろうな。そういった反応になるだろう。

 通常、年頃の令嬢ならば婚約者候補の容姿に一喜一憂するのだろうが、我が家の場合はそれでは済まない。

 騎士団長との縁を望もうとも、国の守りの要と言っても過言ではない人物なのだ。ゆえに、本人どころかその家族も一般的な貴族以上に狙われやすい。

 当然、息子の婚約者もその運命を背負わせることになる。はっきり言ってしまえば、危険なのである。

 それだけでなく、陛下の腹心たる父を疎む輩から嫌味を言われることもあった。溺愛する末娘が望もうとも、できれば縁談を阻止したいと思うのが親心であろう。

 ……が、私に告げられたのは全く予想外の言葉だった。


「私が至らないことは重々、承知しております。いくら私自身が努力してきたと思っても、そちらの家の皆様からすれば、お遊び程度に過ぎないでしょう。ですが、どうか認められる機会を与えてはいただけないでしょうか。私、皆様に認めていただけるよう頑張ってみせます!」

「……は?」


 予想外のことに、思わず間抜けな声を出す。視線を彼女の両親に向けると……何故か、お二人は死んだ目をして深々と溜息を吐いていた。


「私、以前にジャネット様に助けていただいたのです。その時のお姿があまりにも凛々しくてお綺麗で……! 王妃様の信頼を受ける女性騎士と伺い、とても納得してしまいましたの。以来、あの方は私の憧れの女性なのです」

「そ、そうですか……」


 あまりの勢いに飲まれつつも声を出せば、賛同してもらったとでも思ったのか、ご令嬢は力強く頷いた。


「それから私も騎士を目指しましたが、自分の考えがいかに甘いかを突き付けられました。両親や兄達は私が騎士となることを挙って反対していましたが、それも仕方がないと納得できてしまいます。……私は所詮、物語のように憧れただけ。騎士の現実など何も知らないというのに、華やかな面にだけ憧れる愚かな娘の語る理想など、何と薄っぺらいものだったことか」

「……」


 情けないです、と付け加えてご令嬢は俯いた。だが、私は『今の彼女』がそれほど愚かとは思えなかった。


「ご自分で気付かれたのでしょう。そのように考えてくださった方が居ただけでも、母を始めとする騎士達は報われます」


 本当にそう思う。実力で近衛になったとしても、騎士というだけで見下してくる貴族は多いからだ。

 そういった輩は所謂『長男に生まれたから家を継げただけ』という場合が多い。その八つ当たりもあるのだろう。

 下に優秀な者が生まれた場合は非常に肩身が狭く、場合によっては『本人が望んだこと』にされ、別の道を歩まされる場合もあった。

 荒れた時代は特に、こういったことが起こったと聞く。今とて、他国や爵位を得て歴史が浅い家では珍しくない。

 なお、イルフェナは実力至上主義なので、跡継ぎ問題で揉める高位貴族の家はあまりない。

 第一、無能な者が当主に成った日には没落待ったなしなので、その責任を取る根性と才覚、何より家を維持させる野心を持った奴でないと、それなりに厳しい人生を送ることになるのである。

 そして、あまり言いたくはないが……我が国の才ある者達は変わり者(好意的に意訳)が多かったりする。

 そういった輩は基本的に自分至上主義に近い者が多いため、何らかの必要性がない限り、家を継ぎたがらないのだ。

 他国からすれば信じられない状況らしいが、単なる適材適所というだけであろう。

 例えを出すならば……魔術師。魔術師は研究職である部分が強い反面、興味のないことを疎かにする傾向にある。寝食を忘れて研究に没頭するのだから相当だ。

 それほど魔法に傾倒する奴が当主に成ったとしても、大人しく仕事をするわけがない。『賢い者』の代名詞だからと言っても、当主が向いているとは限らないのである。

 それよりも自分の得意分野を極めさせ、国にとって利となる魔法の一つや二つ生み出してもらった方がよっぽど価値があるに違いない。


 我が国の強さの理由は間違いなく、こういった面が多々、影響している。

 ぶっちゃけ、『個性と個人の才を国が後押しした結果、国益となって返って来た』だけ。


『実力者の国』と呼ばれるイルフェナだが、先行投資に成功した国でもあるのだ。『才能ある者が多く生まれる』のではなく、『才能ある者を育てることに特化した国』という方が正しいような気がする。

 いくら天才であろうとも、認められるまでは苦難が付き纏う。寧ろ、悪目立ちする分、生き難かろう。

 周囲の理解が得られなければ潰れるだけ。人が異端に優しくないのは、今も、昔も、変わるまい。

 ……。


 まあ、我が国には逆に批判してくる者を圧倒、潰しかねない天才どもも存在するが。

 極一部とはいえ、『関わるな、危険』という連中も確かに居る。


 幸いにも、そういった危険人物達は何~故~かエルシュオン殿下の下に集中しているため、殿下が押さえ役になってくれている間は大丈夫だろう。

 エルシュオン殿下に牙を剥いた者には報復するようだが、それは本人達の自業自得なので問題ない。

 痛い目を見る奴が出たとしても、大抵は他国の者なのだ……所詮は他人事。イルフェナが害を被ることはない。……自国の者? それこそ、自業自得だろう。

 そこまで回想し、私は改めて婚約者となる令嬢を見た。その表情はまさに『新人が上司へと決意を述べる時のもの』であり、やる気と不安が混ざり合ったものだった。

 ……。


 本当にいいのか、それで。


「我が家はイルフェナにおいても特殊です。それこそ、普通の令嬢達が望む幸せとは程遠い。私も参加していますが、家族や使用人達が鍛錬を行なうのが日常ですし、両親を疎む輩からの襲撃も有り得るでしょう。貴族令嬢としての幸せとは程遠いと思った方が良い」


 隠しても仕方がないので、事実を告げる。『襲撃』という単語に彼女の両親が息を飲むが、それが当たり前の反応なのだ。

 ……が。

 何故か、この令嬢は目をキラキラと輝かせ、期待一杯に私を見た。


「そ……それは、ジャネット様や皆様との手合わせや鍛錬が望める……ということでしょうか?」

「え? え、ええ、まあ、状況にもよりますが、それは毎日行なわれる日課ですね」

「ほ……本当に? そのような贅沢な日々が約束されている、と?」

「……どのような意味で贅沢と仰るのかは判りませんが……まあ、確実にそうなりますね」


 少々、引きながらも頷くと、令嬢は喜びを露わにして歓声を上げた。


「きゃぁぁぁ! そ、そのような日々が送れるのですか!? 憧れの皆様と家族になれるだけでなく、日常的に稽古をつけていただけると!? わ、私、頑張ります! そのような幸せな日々を送れるなんて、何て素晴らしいご縁なのでしょう……!」

「……。あれ?」


 何 故 だ 。

 純 粋 に 喜 ん で い る … … !


「ご安心くださいませ。私共もこれまであらゆる説得をしてきましたわ」


 どう言って良いか判らず、唖然とする私に話し掛けてきたのは令嬢の母親。


「それでも『全く』効果がなく、本人のやる気も増す一方。そのうち、悟ったのです……『憧れるだけで済まず、自分がそうなりたいと願う子である以上、無駄だ』と」

「そ、それは……」


 あれですか、『素敵な騎士様と添い遂げたい』と夢見るより、『素敵な騎士様になりたい!』と願ってしまうタイプだったわけですね!

 しかも、憧れを叶えてしまうような努力家でもあった、と。


「正直なところ、そのような子である以上、普通の家に嫁いだところで馴染めないと思うのです。ですから、私どもも良縁と思っているのですわ……」


 そこまで言うと、ご両親はがしっ! とばかりに私の手を握った。


「宜しくお願いします。この子が幸せになれそうな家は貴方の所以外にあり得ません!」

「どうか……どうか! これを逃したら、次なんて望めないと思うのです……!」

「お、おう……」


 あまりの必死さに、思わず顔が引き攣る。なるほど、娘のことを考えた結果、これが最高の縁談と判断したわけか。

 ……。

 まあ、我が家としてもそのような子に来てもらえるのはありがたい。両親がこの調子ならば、兄達もまた、似たような感じなのだろう。

 第一、何らかの事態が起こった際、扱いが悪いと怒鳴り込んでくることもあるまい。


「先ほども言いましたが、我が家は襲撃される可能性もあります。その際、私だけでなく使用人達も戦力として数えられるのです。貴女も嫁げば、同じ扱いになる」


 最終確認とばかりに尋ねる――手は未だに握られたままだ。『逃がさない!』という気迫を感じる――と、令嬢は力強く頷いた。


「勿論です! まだまだ力不足ではありますが、家人の一人として剣を振るいましょう!」


 やる気、十分である。と言うか、現役の騎士だけあって本人に守られる意識が皆無だ。

 襲撃を恐れるのではなく、恥じるべきは己の力不足……何と我が家の気質に合った令嬢か。

 これならば大丈夫だろう。良い子に巡り合えたものだ。


「それでは宜しくお願い致します。私こそ貴女に失望されないよう努力しましょう」

「……っ、はい! はい、宜しくお願い致します! 旦那様の剣となり、家を守ることを誓います!」

「……」


 良い子なんだけど……それは将来の妻の発言としてどうなんだろう?

 微妙に脳筋な気配がするのは、仕方ないことなのかな。

長男君、過去の思い出。

・団長さん家の長男君

日頃は文官として勤めつつ、当主補佐のようなことをしている。

嫌味を言ってくる輩を黙らせつつ、周囲の脳筋ぶりに嘆いている。

婚約者・婚約者の家との関係は良好。何故か、兄達にも好かれた。

・婚約者ちゃん

末っ子で唯一の女の子のため、溺愛された……のだが、何故か、騎士になった。

努力家で性格も良い子なのだが、思考が脳筋気味。

団長夫妻を義理の両親というより、憧れの先輩として見る傾向にあるため、

団長夫妻念願の『可愛い娘』から微妙に外れた。

ただし、団長夫妻にとっては努力家で可愛い後輩である。嫁いでも安泰。

・婚約者ちゃんのお兄ちゃんズ

長男君が騎士を侮辱する輩を黙らせる姿を度々目撃していたため、

『彼ならば妹を大事にしてくれそう』と確信。両親を説得したのは彼ら。

※多忙につき、来週の更新はお休みさせていただきます。

※アリアンローズコミックス5周年フェアが開催されている模様です。

※番外編やIFなどは今後、こちら。

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※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 脳筋気味な騎士団長一家の長男の嫁に、脳筋気味な貴族令嬢……。 まあ類は友を~なのでしょうねぇ、努力家で性格がいい子なのがまた朱が朱で染まりそうな、脳筋気味な団長一家の一員と申せましょう。 団…
[一言] 更新お疲れ様です。 つまり、才能のある者達を適材適所に配置し、かつ育成する事に特化している人物達が、国王陛下を含め国の上層部にいる訳ですねw それが代々受け継がれていて、そこから外れた者達…
[一言] どこぞの騎士モドキの令嬢とほぼ同じ思考なのに、努力ができるし努力してなお足りない事を理解できる、これができてればねぇジークの片隅くらいには記憶してもらえた可能性もワンチャン?
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