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魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ほのぼの(?)イルフェナ編

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七不思議の後日談 おまけ

 ――エルシュオンの執務室にて(エルシュオン視点)


 キャッキャと楽しそうにはしゃいでいるのは『二匹』の子猫。

 数分前の遣り取りを思い出して、ついつい溜息が漏れてしまう。視線を向けた先では、黒い子猫達がじゃれ合っていた。

 元から子猫(偽)は本物と見紛うほどそっくりに作られているため、黒い子猫とじゃれ合う様はまるで兄弟(姉妹)のよう。

 ……が。

 その性格はしっかりミヅキを模している上、体の状況に影響されるのか、ミヅキよりも幼い印象を受ける。

 そう『幼い』。

 言動も勿論だが、その思考回路は無邪気ゆえの残酷さも搭載されていたのである……!


 はっきり言って、状況によってはミヅキよりも悪質だ。


 それを楽しそうにやらかすものだから、被害に遭わない面々――主に騎士寮面子や我々に好意的な者達――からすれば、微笑ましい出来事でしかない。

 ……そうは言っても、猫親子(偽)が呪物であることは事実。

 おかしな詮索をされないためにも、余計な行動は控えるべきなのだ。ただ、それに不満を唱えたのが子猫(偽)だった。


『え~! いっぱい情報収集とかしてるのにー!』


 ……何をやっているんだ、私が知らぬ間に。

 思わず、頭痛を覚えたとしても不思議はないだろう。そんなところまでミヅキに似なくて宜しい。

 そもそも、この子達が自我を持ち、勝手に動くと知ったのはごく最近のこと。

 元から『城内で時折、黒い子猫を見掛ける』という噂があったこともあり、呪物であることを疑われていたのだ。

 これはミヅキや黒騎士達が色々とやらかすことが原因である。つまり、『こいつらなら、やりかねん』と思われたわけだ。

 私としても否定のしようがなく、納得してしまえるのだから、笑えない。確かに、彼らとミヅキならば、やりかねない。

 なお、この噂はわざわざ探りを入れに来た者に対し、『ぬいぐるみをプレゼントしてくれたのは、近衛のクラレンスさんなんですが』とミヅキが馬鹿正直に答えたことで、一応は終息した。

 ……。


 多分、クラレンスに聞きに行く根性がなかったんだろうな。


 本人に聞きに行かれても、ミヅキが言ったことは事実であるため、何の問題もない。

 何らかの術が掛かっていたとしても、こちらに渡してきたのは近衛騎士達なのだ……仕掛けるとするなら彼らの方であるため、追及が難しかったのだろう。

 ただ、前述したように子猫(偽)は大人しくする気がないようだった。親猫(偽)としても子猫(偽)の行動が役立っていることも事実であるため、強くは言えないらしい。

 その時、話を聞いていたクラウスがこう言った。


「子猫が一匹でなければいいんじゃないか?」


 意味が判らず尋ねると、クラウスは『野良の子猫が城内で遊んでいることにしてしまえばいい』と返してくる。


「一匹だけだから、こいつが動いていると疑われるんだ。だから、どこかで野良猫が子を産み、その子猫達が目撃されていることにすればいい」

「まあ、城の周囲は安全だろうけど。でも、もう一匹はどうするんだい? ただの子猫じゃ無理だと思うよ?」

「居るだろう、もう一匹の子猫が」

「は?」


 クラウスはどこか楽しげに、にやりと笑った。その時、タイミングよく響くノックの音。


「魔王様ー、お茶しましょー」


 言うまでもなく、ミヅキである。後ろに控えているのは、アルジェント。どうやら、今日は彼が送って来たらしい。

 一日一度は顔を見せろと言ってある――後見人としての義務だ――ので、基本的に午後のお茶の時間はここにやって来る。

 ……が。

 本日はそのまま休憩、とはならなかった。


「ミヅキ、ちょっとこちらに来い」

「へ? まあ、いいけど」


 警戒心ゼロのまま、とことことやって来るアホ猫。察してしまった私は微妙に後ろめたい気持ちになりつつも、そっと視線を逸らした。

 と、言うか。

 天はクラウスに味方したのだろう。本日、珍しくも双子が同行していないのだから。

 ――そして。


『み゛!?』

「おやおや……随分と可愛らしい姿に」


 微妙に距離を置いたアルの笑いを含んだ声の中、黒い子猫がクラウスの前に、ちょこんと座り込んでいる事態になったのであった。


「ええと……クラウス? 君は一体、何をやっているんだい?」


 呆れて問えば、クラウスは茫然としている黒い子猫――ミヅキを抱き上げた。


「よく聞け、ミヅキ。今現在、ぬいぐるみ達に呪物疑惑……それも『勝手に動いている』という噂があることは知っているな?」

「なぅ」

「俺達としても、暫くは呪物であることを隠しておきたい。そこで、お前の出番だ」


 クラウスは子猫(偽)も抱き上げ、ミヅキに向かい合わせるようにする。


「一匹だから、呪物が動いていると思われるんだ。ならば、複数の子猫が目撃されれば、どこからか入り込んだ野良猫が産んだ子猫とでも思われるだろう」

「……なぅ」

「今からお前達は一緒に城の中を駆け回って来い。そして、多くの人に『黒い子猫は複数居た』と印象付けるんだ。この部屋には俺が幻術で子猫(偽)が居るように見せかけておく」


 どうやら、クラウスは黒猫にしたミヅキと共に子猫(偽)を目撃させ、『噂は呪物ではなく、本当に子猫達が入り込んでいただけ』ということにしたいらしい。

 ……。

 確かに、今のミヅキと子猫(偽)はそっくりだ。と言うか、じっくり見ない限り、黒猫の見分けなんて、つかないだろう。

 そして、ミヅキと子猫(偽)はとても仲が良い。そう、まるで……本物の猫の兄弟……いや、姉妹達のように!


『わぁい♪ ミヅキ、お揃いー』


 子猫(偽)は単純にミヅキが自分と同じ姿になったことが嬉しいらしく、ちょいちょいと前足でちょっかいを出している。

 対するミヅキも嫌ではないらしく、楽しそうに応戦していた。

 ……。


 本 当 に 猫 の 姉 妹 の よ う だ ね 、 君 達 。


 その後、暫く動きに慣れるためと称し、執務室で二匹はじゃれ合っていた。

 ただ、舞台裏を知っているということもあるけれど、どうしてもミヅキの方が動きが鈍い。

 これは人間の意識のまま、猫の姿になっているからだろう。……まあ、個体差と言ってしまえばそれまでだけど。


『魔王様ー!』

「にゃーん!」


 ふと気が付くと、二匹が執務机の上に並んで座っている。ミヅキはまだ飛び上がれないだろうから、クラウスに乗せてもらったのだろう。


『さあ、どちらがミヅキでしょー!』


 そう言って、私の目の前で煽るように動いて見せる二匹。動きもそっくりなので、確かに、これはぱっと見では判断が付くまい。

 ……が。

 これから行なうことは呪物疑惑を払拭するための行動であり、間違っても遊び目的ではないわけで。


「お馬鹿」

「『みっ!?』」


 両方にデコピンしておいた。

 ……鳴き方もよく似ているんだね、この子達。



 ――そして、二匹は城内に放たれていき。



「え……あれ、噂の子猫って二匹居たのか!?」

「なんだ、城に紛れ込んでいただけじゃないか。ぬいぐるみが動くとか言い出した奴、誰だよ」

「俺、さっきエルシュオン殿下の執務室に行ったけど、ぬいぐるみ達は揃って執務室に居たぞ?」

「じゃあ、やっぱりデマなんだな」


 仲良く駆けて行く姿を見た男性達は、『ぬいぐるみが動くなんて、嘘じゃないか』と噂のいい加減さに呆れ。


「あら、兄弟を連れて来たのね」

「姉妹かもよ? でも、そっくりね!」

「お母さんは何処かしら?」


 仲良くじゃれる姿に、女性達には微笑ましがられ。


「よ……っと! よし、捕まえた」

「うーん……生きた猫、だよなぁ? ぬいぐるみじゃないぞ」

「呪物だって噂は嘘だったか」

「まあ、呪物であろうとも、そうそう動いたりしないだろ」


 半信半疑ではあったが、呪物疑惑を警戒していた騎士達にミヅキが捕まる一幕もあったりした。

 まあ、動きが鈍いと言うか、どんくさい方が捕獲されたのだろう。クラウスはこれも見越して、ミヅキに慣れる時間をそれほど与えなかったようだ。

 曰く、『捕まった方が生きた猫だったら、もう一匹も同じだと思うさ。少なくとも、呪物と一緒に駆け回っているとは思うまい』。

 ……。

 確かに、普通の生き物は呪物の気配に怯えそうだ。仲良くするどころか、毛を逆立てて警戒心を露わにするだろう。

 そんなことは私自身が一番よく知っている。本能があるからこそ、異質な気配に生き物達は怯えるのだから。

 なお、ミヅキが捕まった時の子猫(偽)の行動もまた、この二匹が兄弟(姉妹)猫であることを裏付ける要素となったらしい。

 子猫(偽)は片割れを放せとばかりに、捕らえた騎士の腕に飛び掛かったのだ。

 勿論、所詮は子猫の行動なので、全くダメージにはなっていない。どうやったかは判らないが、一応、爪も出したようなのだけど。

 だが、端から見れば、騎士が子猫を虐めているようにも見えてしまうため、通りかかる人々の目は明らかな批難を含んでいて。


「あ~、判った、判ったから! 悪かったな」

「お前達もあまり城に入り込むんじゃないぞ」


 結果として、早々に解放されたのだった。

 なお、そこを偶然通りかかった……いや、クラウス達に向かわされた双子が『丁度外に行くから、放してくる』と言って回収したため、そのまま二匹は私の執務室に戻ってきた。

 ……二匹の行動を知っている理由? そんなもの、こっそり黒騎士達が監視していたからに決まっている。

 彼らは『きっと面白いと思う』という言い分の下、二匹の様子を嬉々として監視していたのだった。

 その結果、予想以上に二匹が良い働きをしたため、『これはこれで使える』と話していたのだが、今は二匹に話す必要はないだろう。


 ……そして。

 城内を駆け回ってきた二匹は疲れたのか、今は私の膝でお昼寝中。

 親猫(偽)は未だ、クラウスの幻術が解除されていないため、黙ってぬいぐるみの振りを継続中。

 事情を知らずに執務室に来た者達は、ぬいぐるみ達と私の膝で眠る子猫達を見て、改めて『ぬいぐるみが動いたのではなく、本物の子猫が目撃されただけだった』と思ったようだ。


「片方は呪物なんだけど……寝るんだ?」

「まあ、ミヅキに釣られたんだろ」


 呪物としても異質なんじゃないかな……この子達。

子猫ーズ『すやすや(※よく遊んでお昼寝中)』

魔王殿下「……」

黒騎士「生き物を飼う夢が叶って良かったな」

魔王殿下「!?」

※四月に『魔導士は平凡を望む 31』が発売されます。

※活動報告に『魔導士は平凡を望む 31』有償特典の詳細を載せました。

※番外編やIFなどは今後、こちら。

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※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

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― 新着の感想 ―
[一言] これアルわんこの時のやつでは···? まぁ解呪条件を「明日の朝が来たら」とかにしておけば良いんだろうけど、 あれ結構厄介な呪いだったような······ そしてやたらノリノリで猫化してたところ…
[良い点] 魔王様よかったですねー。元気な子猫が増えましたよー。猫臭くならないでー、粗相しない子猫ちゃんズですよー。両腕に子猫を抱えた笑顔のクラウスがー脳内にポップアップしてきましたー。 [気になる点…
[一言] 子猫姉妹…。 たわむれている姿を想像してしまいました。 ヤバい! めちゃくちゃかわいい!
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