七不思議の後日談 其の十
磔にされたウサちゃんは未だ、敵意を向け続けている。
私はあまり標的にされなかったけれど、どうやら、随分と好戦的な奴が依代に宿っていたようだ。
「へぇ……? まだ殺る気なんだ?」
『……っ!』
「残念ながら、私には何を言っているか判らないんだけど」
『……! ……!』
挑発的な表情を浮かべれば、即座に牙を剥き出さんばかりに威嚇してくるウサちゃん。ただし、相変わらず磔の姿。
磔にされて、身動きが取れない惨めな姿に、ついつい笑いが込み上げる。
『やっぱり、お馬鹿ー』
「……!」
『ウザいぞ、草食動物』
子猫(偽)にすら馬鹿にされ、ウサちゃんは尚もヒートアップしている模様。
そんな姿を見せることこそ、子猫(偽)の玩具にされる原因だというのに、ウサちゃんは全く気付いていないっぽい。
……。
やっぱり、アホなのかな? ウサちゃん。
殺る気は十分でも、煽り耐性が低過ぎです。所詮は私にも呼べる程度の存在か。
こんな風に馬鹿にされた経験がないのか、ウサちゃんはすぐに挑発に乗るんだよねぇ……。
特に、子猫(偽)に対して。互いに呪物(予想)だし。
そこまで考えて、ふと、元の世界の『殺人鬼の魂が宿った人形による殺人』なホラー映画を思い出す。
やっぱり、依代の意識に引き摺られているのか、縄張り意識的なものがあるのかもしれない。よって、殺意を向ける優先順位は子猫(偽)の方が上……とか?
ってことはあれか、次はきちんと人型をした人形で試せば、リアル殺人鬼でも来てくれるんだろうか?
今後の課題に思いを馳せている間も、ウサちゃんは子猫(偽)にからかわれ続けている。
薄汚れたウサギのぬいぐるみが暴れようとする姿は、いかにも敗者っぽくて惨めなのだが、いかんせん姿は短足なウサギ。
……。
怒ったところで、全く怖くねぇな。
次は是非とも、依代のヴィジュアルに凝って欲しい!
黒騎士達への要望を再確認しつつ、そろそろ終わらせるかとウサちゃんに視線を戻す。
すると、『何だよ』と言わんばかりに睨みつけられた。……相変わらず、可愛くない性格な模様。
「さて、そろそろ『一人かくれんぼ』はお終いです」
『……!』
「黙れ。何言ってるか判らないんだってば!」
『……!』
「聞いてほしけりゃ、人の言葉を話せ。ウサ公」
仲間外れのようで微妙に悔しいので、わざと魔力を込めた威圧でウサちゃんを黙らせる。
ウサ公呼ばわりに私の怒りを感じ取ったのか、ウサちゃんがちょっとビクッとなったが、気にしない!
そんな姿に、私は一つの可能性が思い浮かぶのを止められなかった。
これ、霊感とか持っていたら、言葉が聞けた……とか言わないよね? そんなことないよね!?
ちょ、めちゃくちゃ悔しいんですけど!
……まあ、今は『一人かくれんぼ』を終わらせるのが先だろう。次回の検証に向け、こういったことも黒騎士達に愚痴っておくか。
当たり前だが、今回は所謂『お試し』的なもの。ぶっちゃけ、『とりあえず、やってみよー♪』という感じだったりする。
今回の結果を踏まえて、本番が行なわれる予定なのだ。だからこそ、今回は『一人かくれんぼ』を知っている私が抜擢されただけ。
つまり。
第二回、第三回があるのですよ! 今回のことを踏まえると、今後に超期待ですね!
『ミヅキ、どうやって終わらせるの?』
子猫(偽)が好奇心を隠そうともせずに聞いてくる。その目は楽しげに輝いているが、前足はしっかりとウサちゃんの顔に押し付けられていた。
当然ながら、放せとばかりに藻掻くウサちゃん。……無駄なようだ。ま、まあ、手足が短いものね、君。しかも、今は磔にされてるし。
子猫(偽)のそんな姿と無邪気な言葉に、私は素直に首を傾げる。
「あれ? 知っていたんじゃないの?」
『執務室のゴミ箱にあった紙には、終わらせ方が書いてなかった』
「あ~……あれを読んで興味を持ったのかぁ……」
『昼間、話していた会話も聞いてたよー』
「いや、それ、ほぼ全てじゃん!」
『面白そうだったから、羨ましかったのー。そしたら、親猫様が【ミヅキ達を守りに行こうか】って』
「……」
親 猫 (偽) 、 子 猫 (偽) に 激 甘 か い 。
しかも、子猫(偽)の話を聞く限り、親猫(偽)の方も子猫(偽)と同じような状態なのだろう。つまり、『動いて、喋る』。
ここに居ないということは、親猫(偽)は魔王様達の所だろう。そちらの守護を担当する傍ら、こちらの様子を一緒に見ているだろうけど。
まあ、いいか。猫達の呪物疑惑は元からあったし、バレたところで今更だもの。
「ウサちゃん……依代に塩水を掛けて、『私の勝ち』って三回言うんだよ」
『へぇ! そんなに簡単でいいの?』
「一番の難易度が、依代になっている体を見付けることだからね。元の場所……浴槽にない場合、塩水を口に含んだ状態で探さなきゃならないから」
『でも、ミヅキは塩水を口に含んでなかったよ?』
「ああ、私はエンカウントしたかったからね。塩水を口に含んでいれば、見付からないんだってさ」
『そうなんだ~! ……。あれ? でも、ウサちゃんは自分から出てきたよ?』
「ああ、うん……ま、まあ、そういうこともあるってことで! 多分、自分で殺したかったんじゃないかな」
『……』
そこまで言うと、子猫(偽)は生温かい目をウサちゃんに向けた。
『ウサちゃん……やっぱり、お馬鹿』
ですよねー!
怪奇現象はともかく、まさか探す手間が省けるとは思わなかったもの。私じゃなくとも、塩水を用意しておけば勝てるぞ? ウサちゃんに。
さて、それでは終わらせますか!
……でも、その前に一個だけ試したいことがあるんだよねぇ。
「ウサちゃん、これで『一人かくれんぼ』は終わりです。今回はさよならです。だ・け・ど! ……最後に一個だけ検証したいから、付き合ってね?」
にこりと笑って、フライパンを構える。子猫(偽)は何かを察したのか、ささっとその場を退いてくれた。
『……?』
訝しげに、首を傾げるウサちゃん。そんなウサちゃんに対し、私は今日一番の笑顔を向けた。
「魔力が籠もった武器が有効か、検証したいの。ってことで! 死ねぇぇぇぇぇぇ!」
『!?』
ウサちゃんはぎょっとする――意外と表情豊かなんだよね、このウサギ――も、避けることもできず、フライパンはその顔にめり込む。
あ、フライパンはしっかり縁の部分が当たるよう、縦にしました。叩き潰したい時は底の方を使うと良いと思います♪
『……』
フライパンを退けると、がくりと項垂れるウサちゃん。その姿は脳震盪を起こしたようにも見え、一撃がダメージとして入ったことが窺えた。
よーし、よーし、魔力の籠もった武器は有効、と。気絶しているみたいだけれど、検証への協力(※問答無用の強制)、ありがとう!
達成感のまま、私は塩水をたっぷりとウサちゃんに掛ける。このまま終わらせてあげることが協力報酬です。残っていると、騎士寮面子の玩具確定だしな。
「私の勝ち! 私の勝ち! 私の勝ち!」
そう宣言すると、あっという間に異様な気配が薄れていく。肌で感じ取る終焉に、どことなく安堵した私はほっと息を吐いた。
『ミヅキ、ウサちゃんに塩水必要だった? フライパンの一撃で十分だった気が』
子猫(偽)よ、正しい手順で終わらせることも重要なのです!
……。
私もそう思ったけどね。
親猫「……。あのフライパンは怪異にも効くのかい」
白騎士「まあ、ミヅキですから」
黒騎士「今後の検証が必須だな」
親猫(偽)『……♪(さすが、うちの子達)』(どことなく誇らしげに見える)
※番外編やIFなどは今後、こちら。
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※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。




