七不思議の後日談 其の七
――『一人かくれんぼ』が行なわれている館にて
「~♪」
暗い中、私は上機嫌で今後、必要になるであろうアイテムを回収していった。
勿論、お供は子猫(偽)。すでにオカルト発生中なので、この子が動いていようと、言葉が頭に響こうと、驚いたりしませんよ。
『ミヅキ、ご機嫌~』
「今後が楽しみだもの」
『だよねー!』
私とそっくりな性格をしているらしき子猫(偽)も、ご機嫌で周囲の状況を確認している。
そもそも、この子は遊びたくてここに来たのだ。そのため、最初から『怪異? 何それ、楽しそう……!』という発想なのです。
そりゃ、不審な音が響いていようと、館内が異様な雰囲気だろうと、ぬいぐるみのウサちゃんが歩いていようと、気にしないだろう。
寧ろ、初めて目にするオカルトに目を輝かせ、『楽しむための要素』という感じ方をしているに違いない。
自分だって呪物だもの、恐怖なんて感じないよね?
『怪異』という現象に、好奇心を刺激されまくりなのですね?
獲物を前に、狩猟種族としての本能が全開なんだよね……?
めっちゃ、その気持ち判るわ。私だって同じだもの……!
嗚呼、誰かは知らんが、ぬいぐるみに憑依してくれた奴に感謝だ。『一人かくれんぼ』に参加してくれて、ありがとう!
いくら魔法世界だろうとも、実行者がオカルト的遊び全敗の私なので、正直、期待はしていなかった。
それが! まさかの! 第一回目で召還成功なんて……!
一説には『こういった降霊術に来るのは、良くないものばかり』なんて言われているけど、私にとっては問・題・なし☆
だって、『一人かくれんぼ』って、かなり攻撃的な要素多いじゃん?
依代となるぬいぐるみに対し、水に沈めるわ、刃物で刺すわ、最後にはお焚き上げ――使った物は燃やして浄化です――ですぞ?
さすがに中身が善良な人とか子供だった場合、それなりに心が痛む。……『中止する』という選択はないけれど。
が、しかし。
ここで悪霊じみた奴が来てくれたなら、『ドキドキ☆ ワクワク☆ お互い様のデスゲーム開催♡』にしかならないじゃないか。
私自身が楽しむことも踏まえると、殺る気のある奴が来てくれることは大・歓・迎♡
……そして。
先ほどの初エンカウントを思い出す限り、ウサちゃんの中身は見事、これに当て嵌まっているとみた。
ようこそ、怪異様♪
おいでませ、怪異様♪
貴 方 は と っ て も 理 想 的 … … !
これからを想うと、楽しみでなりません。魔王様の声を模造するから、ついうっかり初手で吹っ飛ばしてしまったけど……どうせなら対峙でもしてみれば良かったと反省。
某ホラー映画のように、ナイフを片手にゆっくりと近づいてくるウサちゃんが拝めたかもしれないじゃないか。
水分をたっぷりと吸った慣れない体のまま歩き、無様にすっ転ぶ姿が拝めたかもしれないじゃないか。
そして……それを笑った挙句、頭を踏みつけて馬鹿にすれば、怒り狂って激しい動き(意訳)をしてくれるかもしれないじゃない……!
最期は塩水を掛けて勝ちを宣言、その後は炎で『ジュッ』な運命なのです。
そこまでいく過程で、楽しんだっていいじゃない!
魔王様に言えば、激怒必至の今後の予定。心配してくれる親猫様には悪いが、私はこの貴重な機会をたっぷりと楽しもうと思います♪
そんなことを考えつつも、私はしっかりと手を動かしている。
やはり決戦の場は先ほどエンカウントした玄関ホールが良いと判断し、各所から回収した玩具(意訳)を設置したり、予備の塩水を至る所に置いたりと、中々に忙しいのだ。
……ウサちゃん、気が付いたら、どこかに行っちゃってたのよね。
こちらも子猫(偽)が突然出てきたり、喋ったりしたから、意識がそちらに向いちゃってたんだよねぇ……。
で、気が付いたら、ウサちゃんは影も形もなくなっていた。
多分、正攻法での攻撃――『ぬいぐるみが武器を持って襲い掛かる』という恐怖を利用したもの――が無理だと判り、一時撤退をしたのだと推測。
……。
やるじゃねーか、やっぱり馬鹿じゃなかったか!
これで何度も『えーい☆』とばかりに突っ込んでくるようなアホなら、興ざめとばかりに、速攻で塩水+終了の儀式だったのだが。
多少は知能があるようで安心した。やっぱり、名前が名前だったし、不安だったもの。
『ミヅキ、何してるの?』
「え? 罠を仕掛けてるんだよ。ほら、罠とかあった方が攻略に燃えるでしょ」
『苦労するほど遣り遂げたくなる、ってやつー?』
「そう」
『何となく判るー! 確かに、達成感はありそう!』
子猫(偽)よ、その『達成感』はウサちゃんが目的を達成することを指しているのか、それとも私の仕掛けた罠にウサちゃんが嵌ることを指しているのか、どっちだ……?
どちらのことを言っているのかは判らないが、子猫(偽)はとても楽しそうだった。なので、良しとする。
私としても、呪物疑惑が出ていたぬいぐるみとの共闘に、ワクワクが止まらない。だって、楽しそうじゃん……?
呪物とはいえ、ぬいぐるみ達は魔王様の守護者なのである。
ならば、呪物であろうと、私が向けるのは好意一択だ。でかした! と褒めてやる。
なお、騎士寮面子も私と同じように思っていると推測。だから、呪物疑惑が出た後も、ぬいぐるみ達は魔王様の執務室に置かれているのだと思う。
……その反面、仕掛けてきた奴がどんな目に遭っているかは知らんけど。
そういった輩を騎士寮面子が見逃しているとは思えないので、騎士寮面子が満足するくらいにはしっかりと『お仕事』(意訳)をしているのだろう。
愛らしい姿をしていようとも、さすがは呪物。頼もし……いやいや、恐ろしいことである。
で。
そんな感じに罠を仕掛け、玄関ホールで待ち構えていたのです、が!
『わーい! 凄ーい!』
「おお……マジか……!」
ウサちゃん、援軍を呼んだのか、ウサちゃん自身の力なのかは判らないけど、ポルターガイストを起こせるようになっていた……!
物 が 私 達 を 目 掛 け て 飛 ん で く る … … !
おお……マジで映画やゲームの世界じゃん! ちょっと、感動してしまいますよ……!
なお、感動していようとも、フライパンで弾き返したり、叩き落す手は止まらない。
子猫(偽)に至っては、宙に浮くブロックに飛び移るゲーム感覚なのか、楽しそうに飛び乗っていたり。
子猫(偽)が飛び乗ると不思議パワー(笑)が切れるのか、お友達(笑)が狩られるのかは判らないが、乗った途端、それはただの物と化し、下に落ちていく。
……しかし、私には愛らしい子猫が遊んでいるようにしか見えないので。
「あらあら、楽しそう」
私はフライパンを片手に、微笑ましく見守っていた。楽しそうで何よりですね!
と言うか、ポルターガイスト達に隠れるように、ウサちゃんが突撃をかましてくるのである。
……うん、突撃をかましては来るんだ。あの足の短さにしては、早い方だと言えるだろう。
しかし、それでも限度がある。あと、殺すことしか頭にないのか、突撃一択。当然、そこら中に私が仕掛けた罠があるわけで。
伸びるゴムに気付かなかったのか、ウサちゃんはそのまま突進し。
『!?』
あと少し、というところでゴムの伸びに限界が来たのか、動きを阻害されたウサちゃんが首を傾げた直後、物凄い勢いで後方に飛ばされていった。
すまんな、ウサちゃん。
それ、コケさせるために仕掛けた奴じゃないんだわ。
寧ろ、『パチンコ玉のように吹っ飛んだら面白いよね♪』とばかりに仕掛けた罠です。
普通に足を引っかけようとするかに見える紐はフェイクです、フェ・イ・ク!
真の悪意、いや、本命の罠がそのまま見える位置にあるはずなかろう。寧ろ、最初から見えている物は逃げることに集中していない限り、まず引っかからん。
そんな面白場面を目撃し、ポルターガイストで遊んでいた子猫(偽)が生温かい目を向ける。
『ウサちゃん……お馬鹿』
子猫(偽)にも言われとるぞ、ウサちゃんや。
親猫ーズ『……(生温かい目で見ている)』
白騎士『ミヅキ達は楽しそうですね』
黒騎士『ほう、あのような現象が起きるのか』
双子『危機感はどこに!?』
当事者達は大喜びし、見ている方も楽しそう。
多分、一番真面目にやらかしているのがウサちゃん。
※番外編やIFなどは今後、こちら。
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※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。
※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。




