表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導師は平凡を望む  作者: 広瀬煉
ほのぼの(?)イルフェナ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

574/705

七不思議の後日談 其の五

 ――『一人かくれんぼ』が行なわれている館にて


 ――時は暫し、遡る。


「……」


 クローゼットの中、私は只管、ウサギさんを待っていた。

『一人かくれんぼ』の成功を、私は確信している。時折、響いてくる奇妙な音と、どことなく重苦しい空気がその証拠!


 これを『成功』と呼ばずして、何を成功と言うのだ。


 これまでの連敗経験から、私はそう思っていた。ついつい、口元に笑みが零れる。

 素晴らしきかな、魔法世界……! 世界は私に味方した!

『魔法があるなら、オカルト的な儀式だってワンチャンスあり?』とか思ってみるものですね……!

 と言っても、私はまだ隠れ中。ウサギさんの姿は影も形も見えないため、本当に『何かが乗り移ったウサギのぬいぐるみ』になったかどうかは確認できていない。

 噂と言うか、私が知っている『一人かくれんぼ』ならば、怪奇現象の発生&ぬいぐるみが襲い掛かってくる……という展開になるはず。

 怪奇現象は一応、さっきから聞こえている不審な音が該当するとして。

 大本命のウサギさんを確認して初めて、本当に『成功した』と言えると思うんだ。

 これは私一人の願いではない。別の場所から魔道具を使ってこちらの様子を探っているだろう、騎士寮面子の願いでもある。

 少なくとも、この不審な音は確認できているだろうし、騎士達は期待一杯に映像を見ているはず。

 ……が。

 私は少しだけ退屈していたり。うん、仕方がないことだってのは判っているんだ。隠れて待つから、『かくれんぼ』なんだもの。

 でもね……相手は『あの』ウサギさんなのですよ……。

 ……。


 ウ サ ち ゃ ん 、 遅 ぇ よ … … !


 やっぱり、足が短過ぎたのだろうか? どう考えても、ぽてぽてと歩く姿しか想像できん。

 ああ、もっと機動力がありそうな依代を選んでおけば、今頃は探しに来てくれたのかもしれない。

 それとも、名前が悪かったとか? 頭がお花畑な奴の名前から取ったから、どこかで迷っていたり、挟まって身動きが取れなくなっていても不思議じゃないのだが。

 暇なので、どんどんくだらないことを考えていく私。そんな中、『音』ではなく、『誰かの声』が聞こえてきた。

 ただし。

 それは『この場に居るはずのない人の声』だったりするのだが。


『ミヅキ……お前、どこに居るんだ』


 クラウスの『声』が遠くで聞こえる。


『ここは暗いですよ。さあ、もっと広くて明るい場所にいきましょう?』


 出てくることを促すのはアルの『声』。


『おい、迎えに来たんだから、さっさと出て来いよ』

『そうそう、早く帰ろうぜ』


 いつもと変わらぬ口調で話し掛けて来るのは、双子の騎士達……の『声』。


『声』だけならば、間違いなく彼らのもの。口調だって、いつもと同じ。

 だけど……『複数の声が聞こえるのに、足音は全く聞こえない』のはどういうことだ?

 そもそも、彼らと私は通信の魔道具で繋がっている。何かしらのトラブルがあったとしても、わざわざ『出て来い』と言う必要はない。

 ……まあ、魔道具で確認を取ろうにも、今は不可能みたいなんだけど。

『何故か』いくら連絡を取ろうとしても、全く反応なしなんだよねぇ……これも怪奇現象の一つだろうか?

 そんなことを考えているうちに、『声』はどんどん私が隠れているクローゼットに近づいて来ていた。

 私は再び、隙間からそっと外の様子を窺う。……相変わらずの暗闇だ。ただ、事前に貰った魔道具の効果と暗闇に目が慣れていることから、物の位置ははっきりと判る。


『ミヅキぃ、折角遊びに来たのに、どこに居るんだよ? 迎えに来たんだ、遊ぼうぜ』


 今度はルドルフの『声』。……かなり近い。漸く、私の所に『声の主』がやって来てくれた模様。

 そう確信すると、私は緊張のあまり、自然と手に力が入っていった。

 嗚呼……ついに来たぜ、エンカウントの瞬間が!


 ようこそ、怪異様♪ おいでませ、怪異様♪


 私は首を長くして、この瞬間を待っておりましたよ……!


 セオリー通りなら、出会った瞬間から熱い戦い(意訳)の始まりですね☆ マイ武器を片手に、今か今かとお待ちしておりましたとも!

 なお、これは私が個人的に遊びたいと思っているばかりではなく、必要な手順なのであ~る。


 そもそも、『一人かくれんぼ』はきちんと終わらせる必要がある。


 あれですよ、手順通りに始めたら、きちんとお片付けをしましょうねってやつ。そのための塩水ですからね。

 しかし! その『お片付け』に必須なぬいぐるみが動き回っていたら、どうなるか?


 結論:身動きできないようにして、強制終了決行。


 これしかない。よって、最初から『ドキドキ☆ワクワクのバトルモード突入!』しかないわけです。

 ……。

 そういうことにしてくれ。少なくとも、私達はそれで魔王様を納得させたから。

 そのため、この館は最初から『多少、暴れても構わない』という状態になっているのだ。

 隠れ場所とか余計なものが多い一方で、邪魔になりそうな椅子などは撤去されている。暗くなければ、捕獲用の罠も仕掛けられていたと推測。

『一人かくれんぼ』を降霊術の一種と認識しているらしい黒騎士達からは『きちんと終わらせるように』と厳命されているので、VSウサギさんは必要なことなのです。


 ……だからこそ、さっき聞こえた『声』が嘘だと確信できるのだが。


『きちんと終わらせるように』なんて厳命する奴らが、途中でお迎えに来るはずないでしょ?

 黒騎士達の性格を知らなかったとはいえ、これは完全に怪異側のミスなのだ。

 ……。

 やっぱり、名前が悪かったのだろうか。微妙にアホっぽいんですが、降臨された怪異様。

 大変微妙な気持ちになり、ちょっと遠い目になったその直後――


『ミヅキ? ほら、検証なんてどうでもいいから帰ろう?』

「……あ゛?」

『もう仕事なんてさせないよ。ただ、私に甘やかされていればいいか……ら!?』

「魔王様がそんなことを言うわけねーだろ、クソウサギがっ!」


 バン! と勢いよく扉を開ければ、目の前にはウサギのぬいぐるみ。

 ただし、最初に見た時と違って、つぶらな黒い目は赤く濁った色になっており、愛らしいはずの姿もどことなく禍々しい空気を纏っている。

 ……しかし、今の私にとってはそんなことなど、どうでもいい。


「死ね」


 ウサギが動き出す直前に気合一閃、私が振りかぶったフライパンがその小さな姿を捉え。

 ――ウサギさんは物凄い勢いで回転しつつ、どこぞに激突していった。


「チッ」


 舌打ちして、ウサギさんの復帰を待つ。そんな私は、片手に持ったフライパンで肩を軽く叩いていたり。

 ご存じ、マイ武器フライパン。強化し過ぎて『世に出すな』とゴードン先生に言われて以来、愛用の一品です。

 私限定で軽く、その強度も私自身ですら判らないレベル――少なくとも、岩を砕いて無傷だった――という、世界にただ一つの代物だ。


 だけど、それはフライパン。

 調理も可能で、鈍器にもなる素晴らしい一品だけど、フライパン。


 今頃、騎士寮面子は呆気に取られていることだろう――『こいつ、何、フライパンで格好つけてるんだ?』と。

 でも、いいの。日頃から使い慣れている分、とっても手に馴染むし、ウサギさんの持つ武器対策もばっちりさ。

 何せ、フライパンは攻撃範囲が広い。ぶっちゃけ、ウサギさんが武器を構えて突撃してきたとしても、そのウサギさんごと叩き潰せてしまう。

 唯一の不安要素が『物理以外の攻撃』という点だったけれど、先ほどのウサギの姿を見る限り、問題はないだろう。


 だって、ウサギさん……片手にナイフを持っていたからね?


 どうやって手に着いているのかは判らないが、私が用意したナイフをしっかりと片手に持っていたのだ。

 なお、そのナイフと腹に詰められた米の重さのせいで、物凄い勢いで回転し、叩き付けられたのは言うまでもない。

 普通にぬいぐるみをすっ飛ばそうとも、元々の重さがないため、そのまま軽く叩き付けられて終わりなのだ。所詮は布と綿の塊なのである。

 ただし、そこに重心となるものが存在すると……まあ、それなりに勢いがつく。

 その結果が、先ほどの『びたーん!』と音がしそうな状態なのです。現に、ウサギさんは暫し、叩き付けられた場所に張り付くと、その後、力なく落ちて行ったし。

 ……が、私はその光景を確認するや、別の意味で冷や汗をかいていた。


 やっべぇ、叩き付けられた場所って魔道具のある場所だわ。


 弁償は構わないが、こちらの状況が騎士達に届かなくなるのは困る。

 この状況を楽しみたいのは皆同じ。折角、『一人かくれんぼ』が成功し、オカルトが発生している貴重な機会なのだ……次がいつあるか判らないもの。


「……ん?」


 足元に何かが触れた感じがして、視線を下に移す。


「え、何でここに……?」


 そこに居たのは、子猫(偽)。呪物疑惑がある猫のぬいぐるみ。

 拾い上げて確認するも、どう見ても魔王様の執務室で見慣れた姿である。


「……もしかして、一緒に遊びたくて来ちゃった?」

『来たのー♪』

「え゛」


 声が聞こえたような気がして、一瞬、固まる。しかし、ふと現状を思い返して納得した。

 そうだよ、今はウサギのぬいぐるみだって動いているじゃないか。

 元から呪物疑惑がある上、この子は私を模した存在。勝手に出てきて、狩りに交ざっても不思議はない。

 しかも、何だか楽しげな顔をしているじゃないか。先ほどの声といい、絶対に遊びたくて出てきたに違いない。


「じゃあ、一緒に遊ぼうか。ウサギ狩りだよ♪」

『わぁい♪』


 細かいことはいいんだよ。私は……私達はこのオカルトな展開を楽しめればいいんだもん。

 自分とよく似た性格らしい子猫(偽)の登場に、私は一気に気分が向上するのを感じた。


※※※※※※※※


 ――一方その頃、騎士達が待機している館にて


「な、何で、あっちに子猫(偽)が!?」

「クラウス、どなたかが持っていったんですか?」

「いや、知らん」


 映像の中に『どこかで見たことがあるぬいぐるみ』を確認し、騎士達が軽いパニックに陥っていた。

 しかし、その大半はどこか納得した表情である。


 元より、呪物疑惑があったぬいぐるみなのである。

 しかも、それは鬼畜外道と評判の魔導師を模した物。


 本体(?)が待ちに待った展開を大喜びしているならば、もう一匹の子猫が参戦しても不思議はない。

 しかし、そうなると……『もう一体のぬいぐるみ』が気になるのも当然であって。

 彼らの視線は自然と、『もう一体のぬいぐるみ』の元ネタ……エルシュオンへと向いていった。

 そして、彼らは再び驚愕することとなる。


「あ、あああの、殿下? 貴方の、横にある、ぬいぐるみって……」

「え゛」


 震える指先でアベルが指差したのは、こちらもどこかで見たことがある金色の猫のぬいぐるみ。

 いつの間にか、ちゃっかりと親猫(偽)が、エルシュオンの隣をキープしていたのである。


「ちょ、ま、さっきまではなかったのに!」

「こっちでもオカルト発生中なのか!?」


 慌てふためく双子をよそに、どこか達観した表情のエルシュオンは親猫(偽)を膝に抱き上げた。


「どうせ子猫達が気になったんだろう。君も一緒に見ようか」

『勿論だよ』

「……え」


子猫ーズ『キャッキャ♪』

双子「こっちにも怪奇現象がぁぁぁっ」

親猫達「「煩いよ」」

あちこちで怪奇現象発生中。

※来週はお休みさせていただきます。

 皆様、良いお年を!

※番外編やIFなどは今後、こちら。

 https://ncode.syosetu.com/n4359ff/

※Renta! 様や他電子書籍取り扱いサイト様にて、コミカライズが配信されています。

※『平和的ダンジョン生活。』も宜しければ、お付き合いくださいね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] オカルト検証中にオカルト(確定・別枠)が登場してしまったというある意味本末転倒な結果に……w
[一言] 中々にカオスなことになってきましたよね(笑) やっぱりウサギさんはミヅキによってホームランのボールのごとく飛んでいってたんですね( ´_ゝ`)
[一言] うさぎ狩り、 展開が楽しすぎる(笑) 今年も楽しく小説を読ませていただきました。 来年も楽しみにしております。 良いお年を!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ